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”自分に厳しく、地球に優しく” 第11幕

第11幕  明日があるさ



秘密基地“ソム”に向かっている空飛ぶ車(ヴェス君)の車内で、僕はボケ~っと窓から見える景色を眺めていました。すでに陽は落ちていて、空は星と月の光に包まれていました。
「は…腹減ったぁ…」
お腹の虫が鳴っています。
「そういえば私も何も食べてないわ」
立花さんのお腹の虫も鳴っています。
「あれだけ運動すれば、お腹が減るのが普通だよ」
「えへへ」と照れながら立花さんは自分のお腹を摩りました。

「ねぇ、立花さん」
「なに?」
車の運転をしていた立花さんの手が少し緩みました。
「立花さんとエシナ達はいつもこういうことをしているの?」
僕の顔は真剣でした。それを察してか、立花さんも少し真面目に答えてくれます。
「私たちの仕事は環境を汚す人たちの排除、そしてリサイクル。簡単に言うと地球のゴミ掃除ね。誰かが地球を汚しているようなら、例え地球の裏側にだって私たちは飛んでいくわ!」
立花さんの目は、向こうの遠くの空を眺めていました。
「俺たちはずっと前からいろんなところを拠点にして、地球の掃除をしてきたんだ。ニューヨークやドイツ、北京にもいたことがあるんだぞ」
エシナも、どこか遠い目をしています。立花さん達は今までいろんなところで旅をして、そして…、戦ってきたんだなぁと、ちょっと、じんわりとこみ上げてくるものを感じました。

「じゃあ、日本にはいつまでいるの?」
ぴくりと立花さんの手が動きました。
「本当は長いこと日本には滞在しないはずだったんだけど、ちょっと他に大事な仕事ができたわ」
立花さんの顔が急に険しくなっていきました。
「え? 大事な仕事って…?」
「おい和也、今日はお疲れだったな! どれ、俺が防弾チョッキを脱がしてやるよ!」
エシナが僕の着ている防弾チョッキを無理やり剥ぎ取ろうとします!
「いいよ、いいよ! 自分で脱ぐから! って痛い! やめてぇ~! 痛いからぁ!」
結局、無理やり脱がされてしまいました。
「結局、和也は足を引っ張るだけだったな」
痛いところを突かれました。ものすごく痛いところを突かれました!
「何ッ!? 僕に一体何を求めているの? 僕も君たちみたいに人を殺さないといけなかったのッ!? それとも、立花さんの盾になるために銃弾の雨の中に飛び込んで行かないといけなかったのッ!? ねぇ、そうなのッ!?」
「当たり前よ」「当たり前だ」
二人は、やっぱりいじめっ子ですっ!
「次は頑張ってね、和也君♪」
ぐわぁ! 立花さんのものすごい裏がありそうな笑顔が僕を襲います!
「もう勘弁してください……」
普通に土下座する僕。

「大丈夫よ和也君。大体こんな感じでクラスメート2,3を作って、使い捨てにする予定だから。でも、和也君にはもうちょっと頑張ってもらわないと困っちゃうかな~」
使い捨て!? じゃあもしかしたら、僕の大好きな沢田さんをも巻き込んでしまうという可能性があるってことですか? そんなことは絶対にダメだぁぁぁッッッ~~~!!!

「僕が…」
僕は…、何を言い出すのでしょうか!? 止めろっ! 止めるんだッ!

――――――「僕が強くなれば…、他の人たちを巻き込まないと約束してくれますか?」

予想もしなかった返答をされた時にびっくりするような…、そんな顔を立花さん達はしました。
「ちょっと、冗談…」
「冗談じゃないよ!」
突然、会話を中断されて驚く立花さん。
「僕が頑張れば、僕が死ななければ…、他の人たちには迷惑はかからないよね? だからお願いします! 大事な仕事だと思うから! 僕が強くなって立花さんたちを助けるから…、だから! 他のクラスメートをこんなことに巻き込まないと約束してくれますかッ!?」
涙が出そうになります。ただ一人の女性を守るために、沢田さんを守るためだけに、僕は命を掛けて今、土下座してます。

「ホントに冗談なんだけど・・・」
立花さんの独り言は小さくて聞き取れませんでした。
「渚、和也の決意は固いぞ…」
エシナの目には微かに光るものが見えました。立花さんは大きくため息をついて、何か悩んだように目を閉じました。そして、
「わかったわ和也君。約束は守るわ。だから…、強くなってね」
「立花しゃんん~~~っっ!」
僕は泣いた。自分がどんなに平和な世界に守られていたか、自分がどれだけ無知だったか。そして、自分が何も守れないという現実。今日、それらを立花さんに教えられたような気がします。

「よし! 俺がビシ! バシ! っと鍛えてやるからな! 覚悟しとけよ和也!!」
後ろの席にいたエシナが、僕の座っている椅子の後ろをドカドカと殴ってきました。
「まったく…、浮かれちゃってエシナは…」
立花さんはやれやれといった感じで僕たちを見ていました。
「そろそロ~、着くヨ~」
ヴェス君の声。
窓の外を見てみました。下には見覚えのある町の光が所々にありました。
「あぁ、僕の町だぁ…、帰ってきたよぉ」
自分の町が在るということが、こんなに素晴らしいことだったとは! やっぱり人は一度ぐらい旅をしてみないと、自分の町の素晴らしさが分からないのでしょう!

「このまま和也の家に向かうわよ」
「え? 僕の家がどこにあるか分かるの?」
「当たり前よ。あの学校に入学する前に自分のクラスメートの顔と名前と住所ぐらい暗記しとかないとね」
立花さんの言うとおり、ヴェス君は僕の家に向かって飛んで行っています。
「へぇ、すごいな立花さんは」
「俺もそのくらい知っているぞ!」
エシナも負けじと食いついてきます。…僕の首を後ろから締めながら。
「はいはい…、エシナもすごいよぉ」
エシナは満足したようで、後ろの席にどっかりと座り直しました。
「お世辞はそのくらいにして…、和也君はその白衣を早く脱いで返してね。それ、私達の研究所の誰かのでしょう?」

そういえば…、この白衣は誰かから借りているんでした…、無断で。
「でも、これを脱いじゃうと、僕はシャツとトランクスしか身に纏ってない人になっちゃうんですけど」
「ここにある袋に包まれたものは、学校の制服じゃないのか?」
あっ、忘れていました。後部座席に、僕の制服があったことをすっかり忘れていました。
「でもこれ、血の臭いが染み付いていて着られないよ」
立花さんのお父さんである守さんのコレクションである鎧に入ったせいで、制服にものすごい血の臭いが染み付いてしまっているので、血の臭いが嫌いな僕には、もう着れません!

「今日、あれだけ血の臭いを嗅いだのだから、もう大丈夫だ! ほらよっ!!」
「グフッ!」
エシナが後ろから僕の顔に制服を押し付けてきました。
「血の臭いがぁ! あああぁぁぁッッ~、…あれっ?」
不思議です。ちっとも気持ち悪くなりません。むしろ、
「違うぅッッ~~~!! 僕はそんな人種ではないぃッッッ~~~!!!」
ダッシュボートを頭で、ガン! ガン!っと叩きつけました。血の臭いが良い匂いだなんて、そんなことあるわけがないです!

「分かったわ…、その白衣は今度ソムに来たときに返してね」
立花さんの優しさを少しだけ感じた気がしました。
「ううぅぅ~、ありがとうぅぅ~!」

――――――ドスンッ!

「うわっ」
「着いたわ」
家の前の路地に着地したようです。無事に生還しました!
「今日はお疲れ様」
僕の横のドアがひとりでに開きまいた。
「ほら和也、制服だ」
エシナから僕の制服が入った袋を受け取りました。
「ありがとうエシナ…、じゃあまた明日学校でね、立花さん」
ゆっくりと外に出ました。
「和也君」
「んっ、何? 立花さん」
立花さんは、何かをポケットから取り出しました。
「これ…、私の携帯の番号とメールアドレスよ」
僕の手に握られる小さな白い紙。
「じゃね」
そして、空中に浮かんでいく車。
「和也~、またネ~」
「和也! しっかりと鍛えてやるからなぁ~・・・」
暗闇の空に消えて行った立花さん達。
僕はしばらくの間、立花さん達が消えた先の夜空をポケ~ッと眺めていました…。
って、
「女の子の携帯の番号とメールアドレスを初めてもらってしまったぁぁッッ~~~!!」
気が付いたら叫んでいまいた。
そうなのです。僕は今までに一度も同年代の女の子から携帯の番号をもらったことがなかったのです。携帯のアドレス帳には家族と長谷川(一応友達)のアドレスしか入っていなかったのです。
しかしぃ! 遂に! この時がやってきましたぁ~~~!

「ふっ、ふっ、ふっ…、僕の部屋でゆっくりと登録してあげるからねぇ…」
不気味な言葉を発しながら、自分の家のドアに手をかける僕。しかし、
「でも、このまま白衣を着たまま家に帰ったら、とっても怪しまれるよね?」
という訳で、僕は周りに誰もいないことを確認して、血の臭いがする制服を嫌々着ました。
「うぅ…、ガマンガマン…」
そして、ドアを開けました。

――――――ガチャッ

「おかえりバカ兄貴ィッッ~~~!!!」
僕の耳を掠めたパンチ、そして襲い掛かる美鈴の連撃。
「今日の恨みぃぃッ~!」
美鈴が繰り出さす怒涛の連続攻撃。しかし、僕はそれらをことごとくかわしました。
「何で当たらないの!?」
自分の攻撃には絶対の自信があった美鈴は戸惑いを隠せず、少し後ずさりしました。
「邪魔しないでくれるかなぁ? 美鈴…」
立花さんの携帯の番号が書かれている白い紙を握り締めている今の僕は…、無敵だぁッ!
「くぅっ…、今日は分が悪そうね。でも諦めないわよ!」
そうして悪役は去っていきました。

「全く、美鈴は困った子だなぁ…」
お腹が減っていたのでリビングに向かいます。
「ただいまぁ」
リビングには、お父さんとお母さんが椅子に座ってテレビを見ていました。
「あぁ、お帰り」
「お帰りなさい。…あら? 血の臭いがするわね」
一瞬で顔の筋肉が硬直したのが分かりました。僕は自分の服の臭いを嗅ぐ振りをして、
「あぁ、これは友達の鼻血が付いただけだよ」
「そう…、ちょんと洗濯箱に入れておくのよ」
「はぁ~い」
何とかやり過ごしました。でも、ご飯を食べている時のお母さんの様子が変でした。僕の事をじっと見つめたまま、ユラリユラリと微妙に体を揺らしていました。

「和也」
「なに、お父さん?」
お父さんが僕の耳に顔を近づけて囁きました。
「早く食べて自分の部屋に行きなさい」
僕は黙って頷き、急いでご飯を口に含んでその場をあとにしました。
「モグモグモグ…、僕の家族って変な人ばっかだなぁ」
それともコレが普通なのかと思いながら、僕は自分の部屋に入りました。
「早く脱がないと!」
血の臭いがプンプン!する制服を急いで脱ぎ捨て、お気に入りの青色のパジャマを着ました。
「この制服を普通に洗濯機に入れることができても、さすがにこの白衣は怪しさMAXでダメだろうなぁ…、しょうがない、今から自分で洗濯するかっ」
僕は家族の誰にも見つからないように洗濯機まで移動し、血で汚れきった制服と土や血が付いた白衣を洗濯機の中に放り込みました。
「洗剤、洗剤…、うおぉりゃぁ~!」
普通に洗濯する時に入れる洗剤の量の約5倍の量の洗剤をぶち込みました。これくらい入れないと臭いが落ちないと思ったからです。
「これでよしっと」
洗濯開始のボタンを押し、僕が後ろを向いた時です。

「…お母さん…」
そこには、じっと僕を見つめる我が母がいました。
「洗濯したの?」
それは僕に向けられた言葉でしたが、僕はしばらく反応できませんでした。
「うん、明日までに乾かさないといけないから、早く洗濯したんだよ」
「そう…、私が洗濯したかったわ…」
そして、お母さんはリビングへと歩いていきました。

――――――ヒュンッ

「危ない、危ない…」
「えッ?」
いつの間にか、お父さんが僕の横にいました!
「見張っていたんだが…、和也がすぐに洗濯してくれて助かったぞ」
そして、お父さんは僕の肩をポンっと叩くと、お母さんがいるであろうリビングに歩いて行きました。
「僕の家族って…」
しばらくその場から動けませんでした。

「はっ、そうだ! 早く立花さんのメールアドレスをっ!」
大事な使命を思い出し、自分の部屋に誰にも見つからないようにこっそりと戻りました。
「さて、いよいよだな…(ゴクリッ)」
僕はポケットから白い紙を取り出し、ゆっくりとゆっくりと広げました
「おぉ、すばらしい…」
紙には綺麗な筆記で立花さんの携帯の番号とメールアドレスが書かれていました。僕は震える手でその文字を自分の携帯に登録しました
「これで完了っと」

さて…、ここからが重要デスよ皆さん!!
一番初めのメールで相手の性格、クセ、愛が分かるといっても過言ではないでしょうッ!
よって、ここで一つ問題が発生しました。それは、僕は一度も女の子にメールを送ったことがないということです!(ドーン)
「うが~ッ! どんなメールを送ればいいんだぁ~? 普通に僕の番号とアドレスを送るだけじゃダメだぁ!!」
こんな時、リラックスしてメールの内容を考えられる場所といえば、
「お風呂で考えようっ!」
僕はそう思い、お風呂に行きました。幸い誰も入っていなくて助かりました。
「はふぅぅぅ~~~」
極楽です。疲れきっていた僕の体と心が温かいお風呂で癒されていきます。今日はあり得ない事が起こることの連続で、もうクッタクタでしたからねぇ。

「う~ん」
さて、どんなメールを送ればいいでしょうか? さすがの僕も悩みます。
湯船に頭まで浸かり、30分ぐらい悩み、悶え苦しみました。
「よし、やっぱりシンプルに行こう。シンプル イズ ザ ベスト って言うもんね」
僕はフラフラになりながらもお風呂から出て、火照る体をタオルで拭き、新しいパンツを履いて、いざ出陣。
でもその前に…。
「あっ、洗濯物、洗濯物…」
洗濯機はもう動いていなかったので、中から制服と大きな白衣を取り出しました。僕は念のため、臭いが残っていないか嗅いでみましたが、
「…臭くない…よぉぉぉ…っしゃあぁぁ!」
よかったです! これで明日は制服を着て普通に学校に行けます! 白衣も明日ちゃんと立花さんに返すことが出来ます!

自分の部屋に戻ると、制服と白衣をハンガーに掛け、
「よし…」
携帯を手に取り、ベッドに飛び込みました。そして、仰向けになりながら、先ほど登録した立花さんのメルアドをメールの宛て先にし、そして本文には自分の携帯の番号とアドレスを書き込み、その文の後に今日の不満を爆発させた文章を書きたい衝動をグッと堪えながら、

今日はとっても疲れましたぁ! おやすみぃ!!

とだけ打ち込み、立花さんにメールを送りました。
「ふぅ、疲れたぁ…」
そして、今日の壮大な出来事を振り返ることもせずに、僕はそのまま深い眠りへと落ちていきました。



                             5月23日終了


”自分に厳しく、地球に優しく” 第10幕

第10幕  リサイクル



「う~ん、ここは…」
「やっと気が付いたか」
目覚めのファーストシーンがエシナの度アップな顔でした。
「ツブハァ!」
思わず噴出してしまいました。
「汚いぞボケがぁ! オラ!!」
「ハブゥッ~」
容赦なく殴るエシナ。でもおかげで目がパッチリ覚めました!

「立花さんは?」
キョロキョロと周りを見渡しました。
「うわぁ、瓦礫の山だ…」
さっきまで確かにそこに在った建物は、完全に瓦礫の山と化していました。
「廃棄場所を記した肝心のパソコンも、これじゃあな…」
がっくりとうな垂れるエシナ。

――――――シュイ~ン…

「カズヤ~」
「あ、ヴェス君ッ!大丈夫?」
ヴェス君の体はボロボロでした。こんなになってまで僕を助けてくれるなんて…、グスッ!
「だいじょうブ~、もう“フォト”を補充したからすぐに治るヨ~」
ヴェス君の体の傷跡から、虹色の光が微かににじみ出ているのがわかります。
「そっか、お疲れ様ヴェス君。えっと…、立花さんはどこかな?」
「こっチ~」
僕はヴェス君の後について行きました。ヴェス君が向かう先には丘があり、そこに立花さんはいました。

「夕日けが綺麗ね、ピスタ」
「そうでありますなぁ、渚殿」
赤い夕焼けをバックに僕の方に振り返る立花さん。その時僕は、まるで天使が僕に微笑んでいるような…、そんな不思議な感覚に包み込まれました。
「あっ、和也君…、やっと起きた」
トッタッ! トッタッ! と丘を駆け下りてくる立花さん。そして、そのままの勢いで僕にラリアット!
「ゴヒュゥッ!」
一瞬、首の骨が粉砕されたかと思ったほどのすごい衝撃。僕は宙に舞い、そのままの勢いで走り続ける立花さんに引きづられながら、瓦礫の方へと戻って行きます!
「さ~て、後始末よ~、和也君~~~!!」
「ゴフッ!…ねぇ、やっぱり怒っているよね? さっきのこと…」

急停止する立花さん。そして、慣性の法則に従っている僕は、そのままのエネルギーを保ったまま、瓦礫の山に大激突!
「エシナァ~! 後始末よ~~!!」
満身創痍の僕を無視して、立花さんはエシナを呼んでいます。
「おう! まずは腹ごしらえだ!」
そして、今日の昼に見た風景と同じようなことが、また僕の目の前で起こりました。
落ち葉や壊れたコンクリート…、それら壊れた物が瞬く間に消えていきます!

「エシナ、そういえば今日は珍しくエシリウス(エシナ砲)を使わなかったわね」
「それはだな…」
エシナは食事を中断して、立花さんの肩に飛び乗りました。
「今回は情報収集の任務も含んでいただろ? 大事な情報源を消し飛ばすのはさすがにまずいなと思ったからな。それに和也もいたから、むやみやたらに乱射すると和也が死ぬ可能性があった」
「へぇ、それが私に勝負で負けた言い訳?」
また口げんかが始まりそうです…。
「ほう。どうやら自分の力を過信しすぎているようだな渚はぁ! “ソム”に戻ったら一対一で勝負してやるぞ!」
「フフフ、望むところよ」
この二人って、仲が悪いのか良いのか全く分からないです。
「ヴェスはあそこに残っているおやつ(トラック)を食べてきなさい」
「わかっタ~」
ヴェス君に優しく命令する立花さん。ヴェス君には誰もが優しくなってしまう魔力があるようです。

「よし! 補充完了だぞ!」
フォトの補充を終えたエシナの体が虹色に輝き始めました。
「え? 今から何をするの?」
エシナはまた何かをするようです。一体何をッ!?
「“リサイクル”であります。和也殿!」
「リサイクル?」
ピスタさんのカッ開いた目が、僕を凝視しています。キモイです。
「そう…、人肉のリサイクルよ。和也君!」
ものすごい笑顔で僕に答えを教えてくれた立花さん。目がすごく輝いています!

「へぇ…、人肉ねぇ…、へぇぇぇえええええええッッッ!!!???」
驚いている僕の声が周りに響く中、エシナの体がさらに光りだしました。
「ゴミの存在を宿りし物たちよ! 蘇れ! 再生するバリティー“インピース”!!!」
エシナの口から虹色の光が放出され、その光の先で粒子が集って何かが形作られていきます。そして、何かの形が出来あがった時。それは地面に「ドスン」と落ちました。
「きゃ~、できたわ~」
立花さんが嬉しそうに、それに駆け寄って行きます。でも、コレって…。
「洗濯機?」
そうなんです。コレは、僕の家に置いてあるような普通の白い洗濯機ですよ。で、これでどうしろと?
「私が入力するね~、えっと…“じ・ん・に・く”っと」

――――――ピッ!

立花さんがおぞましい言葉を嬉しそうに入力した後、赤いボタンをこれまた嬉しそうに押しました。直後、その洗濯機はガタガタと動き出し、上のフタが開きました。そして、その穴に風がなだれ込み始めると、どんどんすさまじい風が僕達の周りに集まってきました。
「うわっ、すごい風だなぁ!…ん?」
僕たちのところに向かって、瓦礫の中から何かがいっぱい飛んできます。僕は目を細めてそれらをじっと見つめました。僕の目に映った赤い物たち。それは、人の頭とか腕とか足とか心臓とか胃とか腸とか肺とか腎臓とか肝臓とか十二指腸とか!…人体のパーツがすごい勢いでどんどん洗濯機に吸い込まれていきます!

「うぎゃぁぁ~~~!!!」
僕は夕焼けの空に向かって走り出しました。走っている時だけは、何もかも忘れ去ることが出来ました。
「エシナ!」
「任せろ! 惑わすバリティー“シシルチエ(木の葉牢獄)”!」
エシナの口から放出された木の葉が、僕の周りを囲みこみ、そして回りだしました!
「うわぁ~! 何も見えない~~~!!」
どこに向かって走っているのか分かりませんでしたが、とにかくがむしゃらに走りました。しばらく走っていましたが、僕は走り疲れて、とうとうその場に座り込んでしまいました。僕の周りで回っていた木の葉が消えると、目の前にはあの洗濯機がありました!

「今から、おも…、じゃなかった、感動的な場面が見られるわよ」
洗濯機は全ての肉片を集めたのか、フタが閉まっていました。代わりにガタンゴトンと激しく動いています。しばらくすると、プシュ~と煙が中から上がって、洗濯機の前の扉が開きました…。

――――――「生きてるって素晴らしい~」(?)

扉の中から男臭い声が聞こえ、そして超マッチョな男の人がパンツ一丁で扉の中から、のっそりと出てきました!!

――――――「自然って美しい~」(?)

またまた出てきました! しかも目がキラキラしてるよぉ!!

――――――「世界は僕が守る~」(?)

こんな感じでワラワラと超マッチョな男の人たちが、パンツ一丁で5人も僕たちの目の前で誕生しました。
「お前たちぃ!」
エシナが軍隊の上官みたいに手を後ろに組み、誕生したての人たちの前に立ち、激を飛ばしています。
「お前たちの目的は何だぁ!!」
「守る! 守る! 守る!」(5人一緒に)
「地球の未来はお前たちに懸かっているぞ!!」
「I LOVE MY EARTH! I LOVE MY EARTH!」(5人一緒に)
「さぁ、行け! そして己の成すべき事を果たして来い!!」
「進め! 進め! 進め!」(5人一緒に)
ザッ、ザッ!っと、行進を始めた5人組は、そのままどこかに消えてしまいました。立花さんとエシナは、超マッチョな人たちの姿が見えなくなるまで、ずっと敬礼していました。
「えっと、あの…、いろいろと突っこむところが多すぎて困っているんだけど…」
敬礼を終えたエシナが、僕の方に飛び乗って来ました。

「あいつらのことか?」
彼らの過ぎ去った跡をエシナは眺めています。そして、立ち上がりこう言いました。
「あいつらは…、生まれ変わったんだ!!!」
拳を握り締め、ガッツポーズを取るエシナ。
「日々、悪行を重ねる毎日! しかし、そんな呪縛から解き放たれた者達! それがあいつらだ!!」
「よく分かんないから」
何でちゃんと説明してくれないのでしょうか。
「簡単に説明するとね…」
珍しく丁寧な言葉で立花さんが僕に説明してくれるようです。
「私たちは今日、環境のソース(存在力)を宿した武器で戦っていました…」

――――――物語口調っ!?

「その武器で対象を消去すると、その対象に“ゴミ”のソースが植えつけられます」
ふみふむ。
「そして、“ゴミ”のソースを宿す物をリサイクルして、新しいものを生み出すバリティーが…」
「俺の“インピース”だ!!!」
最後の締めはエシナがとりました。少し顔が引きつる立花さん。
「だから私たちは、普通の銃とか爆弾は使えないの。敵に“ゴミ”のソースを植え付けないとリサイクルできないからよ。わかった?」
今日の一部始終をこの目で見てきましたけど、そんな深い意味があの戦闘には込められていたのだと、初めて知りました。僕はただ、立花さん達は殴り殺すのが好きなだけだと思っていました!
「うん! すごく分かったよ! ちょっとマジで感動みたいな感じがするようでもないよ…!」
少しだけ、僕の目に変な汗が流れました。

「そして、リサイクルされて新しく誕生した彼らは、地球上のゴミを片っ端から片付けていくのよ!」
「だからお前も敬礼しろッ!」
エシナに右腕を強引に上げられて、右手をおでこに引っ付けさせられました。人間二人とぬいぐるみ一匹が敬礼する夕焼けの空の下。こんな光景は誰も目にすることは、今後決して無いでしょう。

「さてと、帰るわよ~」
う~ん、と背伸びする立花さん。
「ピスタ、今日はお疲れ様」
立花さんはヘルメットを脱いで、ヘルメットに浮き出ただるまさんの顔(ピスタの顔)を摩りました。
「いえ! お役に立てて光栄でありました!」
ピスタさんの赤い顔がさらに真っ赤になりました。
「ピスタ、顔が赤いわよ?」
顔を傾げる立花さん。
「これはその…、夕焼けのせいであります! 間違いございません!」
「そう…?」
可愛いく微笑む立花さん。僕が思うに…、これはピスタさんを洗脳するための悩殺儀式だと考えられます。こうやって立花さんはピスタさんを自分の思うがままに操っているのでしょう。僕も気をつけなければいけません!

「ヴェス~、帰るわよ~」
おやつ(トラック)を食べ終えたヴェス君が、モーター音を響かせながら走ってきます。
「お腹いっぱイ~」
ヴェス君はエシナの肩に飛び乗りました。恐らく定位置なのでしょう。

「ちょっと任務失敗って感じだが、まぁ次、頑張るぞ!」
「お~!」(僕以外)
「よぉ~し! キメ台詞言うぞ~!」
「お~!」(僕以外)
「えっ、またキメ台詞~?」(僕)
「せ~のぉ!」


「ミッションコンプリート~~~!!!」(僕以外)
「えっとぉ…、今日のは全て夢オチってことにしてくれぇぇぇッッッ~~~!」(僕)




――――――ミッションコンプリート?            


”自分に厳しく、地球に優しく” 第9幕

第9幕  ミッション(陰謀、破壊、殺戮、消滅)



ズゴゴゴゴォォォォォッッッドゴォッガゴォッドガガガアアアァァアアドゴォッ~ン!!

まるで隕石が落下したかのような衝撃。
周りにいたやつらは急に騒ぎだした。
「何事だ!? 何が起きた!?」
薄汚いブタの喚く声。
「わかりません! 部下を使って調べさせます!!」
天井からホコリが落ちてくる…、汚い部屋だ。

「ちゃんとさっきの奴等は始末したのか?」(???)
原因はそれしか考えられないからな。
「えっ…、はい! 確かにミサイルで撃墜したはずです!!」
「…撃墜したはず? 何だそのいい加減な答えは? お前は俺をなめているのか?」
「いえ、滅相もございません! レーダーから反応が消えたのでもう死んだと…」
「お前はここの責任者だろ? 殺すぞ?」
「ヒィッ! 申し訳ございません!!」
地面にひれ伏す薄汚いブタ。
別に俺が手を下さなくても…、アイツが殺すか。
「後のことは任せるぞ。ここでの俺の仕事は終わった」
「えっ、そんな…!」
次は、どこで仕事するかな。後で考えるか…。
「“ファポ”! 時間を止めろ」
左手首がムズムズする。
「報酬は?」(???)
「パーペチュアルデイトジャスト 116234AR」
「よろし」
「ちょっと待ってください! 私たちを見捨てないでくだ…」

そして、突然やってくる静寂。
周りのやつらの助けを求める表情。

全て俺が好きなもの。

この建物に衝突していく様子は、僕にはスローモーションに見えました。人は死ぬ瞬間には走馬灯が見えるらしいですけど、僕は走馬灯を今日一回見ちゃったのでこの時は見ることができませんでした。そのかわり、極限まで高められた集中力で周りの風景がスローで見えました。砕かれていく建物の壁の小さな小さな粉。光り輝く甲殻に触れ、消えていくコンクリート。そして、突然の出来事に驚く人たちの表情。それらは全てスローでした。

ズゴゴゴゴォォォォォッッッドゴォッガゴォッドガガガアアアァァアアドゴォッ~ン!!

そんなものすごい音を出しながらも、無事に止まることができました。
急いで周囲を見渡しますが、周りは砂煙に包まれていてよく見えません。
「立花さん、これからどうするの?」
僕が立花さんの方を振り向いた瞬間でした。

「ふっふっふっ…、行っくわよぉ~エシナァ!!!」
「ああ! ひゃっひゃっひゃ!!!」
「防御はまかせてください渚殿!!!」
「ころセ! ころセ!!!」

そして、みんなは僕の視界から「ヒュンッ」と消えました。
「あれ? みんなどこに行ったの~?」
その刹那、
「ぐぎゃあああぁぁぁッッッ!」
「がはあああぁぁぁッッッ!」
「ぎゃあああぁぁぁッッッ!」
という悲鳴があちらこちらから聞こえてきました。

「エシナ!! 殺りやすいように、“グーグニグ(お掃除ホウキ)”を出して!!!」
「わかった!…ウオオオォォォリャアッッ! 受け取れ渚!!」
「ありがと! みんな死んじゃえぇっ~~~!!!」

――――――ダダダダダダンッ! パンッ! パンッ! パンッ! ヒュン! ヒュン! 

「そんな攻撃は効かないであります!」
「死ネ! 死ネ!」
…僕は一体何の音を聞いているのでしょうか? 
聞こえてくるのは人の悲鳴と銃声と立花さんたちの歓喜の雄たけびなのでしょうか?
僕には良くわかりません。僕はただ、頭を抱えて床で丸まっているだけです。

「何で僕がこんなひどい目に遭うんだよッ~! 夢なら早く覚めてくれ~!」
目をつぶってずっと祈りました。「早く終わってくれ」と。
すると突然、「スゥッ~」と音がしました。目を開けてみると、なんとそこには心の中の神様がいました!
僕は神様に問います。
「神様! なぜ僕にこんな試練を課すのですか? 僕の運命はあなたによって決められているのですか!?」
そして、神様はこう仰いました。
「I don’t like you、fuck you!」(中指を立てながら)
そして消えました。
…このときの僕は、この世の全てを憎みましたね。
「ファッキュッ~! ファッキュッ~~!! ファッキュッ~~~!!!」
僕の雄たけびは砂煙の中に消えていきました。そして、何だか虚しくなりました。しかし、そんな感傷に浸っている場合ではありませんでした。何故なら突然、目の前に銃を持った男の人が姿を現したからです!

「うっ、うわぁっ!」
男の人の血走った目が僕を睨みつけます。
「はぁ…! はぁ…! お前…、“堕天使”の仲間か!? ならば死んでもらう!!!」
僕の顔に向けられる銃口。僕は目を閉じました。
…終わった。僕の人生は終わった。僕の人生短かったなぁ。でも泣かないぞぉ!

僕の人生のろうそくの炎が消え去ろうとした時、僕は変な音を聞きました。

――――――パキュッ!

何の音でしょうか? 目を開けてみました。
「…えっ?」
目の前で吹き上がる赤い噴水は、僕が今まで見た噴水の中で一番きれいでした。しかし、その赤い噴水が出ている場所には問題がありました。なんとそこは、さっき僕に銃口を突きつけていた男の人の首だったからです!
「あれ? この人の頭はどこ?」
僕は当然の疑問にぶち当たって、周りをキョロキョロと見渡しました。しかし、見えたのは血の海だけでした。
「ちょっと! 和也君!? 戦闘中によそ見をしちゃダメじゃない! 死にたいの?」
男の人の体が「どさり」と僕の前に倒れ落ちました。その後ろには立花さんの姿が。
「次は助けないわよ、ほらっ! 私について来て」
立花さんは真っ赤な血を滴り落としているホウキを左手に持っていて、余った右手で僕の手を掴みました。
「ねえ立花さん、この人の頭はどこに行ったの?」
周りからは悲鳴や銃声が消えていました。
「うーん…、私が掃除して片付けておいたわ。それよりも早く立って!」
立花さんに右手を掴まれて、強引に立ち上がらされました。

「このフロアの敵は全員“掃除”したから、次に行くわよエシナ!」
ピチャ、ピチャと変な足音が近づいて来るなと思ったら、エシナが砂煙の中から姿を現しました。
「俺は6人殺したぞ」
エシナの手は血まみれでした。エシナの背中にはヴェスが引っ付いています。
「あら、私は8人よ、勝ったわ」
あれ? 僕の手を掴む立花さんの手がちょっと震えています。ふと、僕は立花さんの顔を見てみました。…そこには口元が不気味に笑っている立花さんの顔が…。ヒイィィッッ~!
「次は負けないからな!」
ビシッと指を立花さんに向けるエシナ。
「今日の私は調子がいいのよ。今日、エシナは私には勝てないわ」
自信満々の立花さん、エシナの顔の表情が変わりました。
「ほう、言うようになったな渚。だが、この俺を甘く見るなよ?」
二人の間に飛びかう火花。もう僕にはこの二人を止めることはできないようです。っていうか、この任務の目的を僕は知らないんですけど…。だから聞いてみることにします。
「ねぇ、あのさ…」
「早く上の階に行くぞ!」
エシナはそう言って立花さんの肩に飛び乗りました。
「えぇ、楽しみね」
僕の手を引っ張ってスタスタと歩いて行く立花さん。僕の言っていることなんて最早、耳に入っていないようです。

「たくさんのチ! たくさんのチ!」
ヴェスも興奮状態です。
「ヴェス、またいっぱい血の海を見せてあげるからね」
囁く立花さん。
「楽しミ! 楽しミ!」
モーターをおもいっきり回転させるヴェス君。どうやらこいつらは人の血を見るのが大好きな軍団みたいです。僕とは正反対です。
「和也は人の血を見ても大丈夫みたいだな」
「え!?」
突然のエシナの言葉に、頭の中が綺麗に洗い流されていくのが分かりました。そういえば…、僕は血が大嫌いで臭いだけでも吐きそうになるのに、何で今は平気なんでしょうか? 感覚が麻痺しているのでしょうか。

「よかった、和也君も私たちと同類で」
堕天使さんの輝かしい笑みが僕を襲います。…立花さん達と僕が同類?
「やめてくれ~! 僕は君たちとは違うんだぁぁぁ~~~!」
立花さんの手を強引に振り解いて、僕は一目散に逃げ出しました。

「うわあああぁぁぁ~~んッッ!!」
ありえない現実に困惑してしまいます。僕と立花さんたちが同類なわけがないです!
ただ、ありえないことが多すぎて感覚が麻痺しているだけなんです! 
普段の僕は、そりゃあ~もうびっくりするぐらいピュアな心を持った少年ですよ!
「待ちなさい和也君!…危ないわよ?」
「えっ…、うわっ!?」
足元に何かが当たって僕は転んでしまいました。
「いたたた…、一体何が」
振り返ってみたると、そこには微かに動いている人が。そして、僕に向けられる銃口。
「くそ…、死ね」

――――――バァンッッ!

響き渡る銃声。硬直する僕の体。飛び散る男の人の指。一瞬で移動して男の人の頭を吹き飛ばした立花さん。…あっという間の出来事でした。
「もう! 一人でここから脱出するなんて無茶よ、和也君!」
何が起こったのか全く理解できない僕を、引きずりながら歩き出す立花さん。
「なかなかやるな渚。“グーグニグ”の千本を投げる動作に無駄が無くなっていたぞ」
「うふふっ、ありがと。銃を貫くことなんて簡単よ。でもいいの? 私はこれで9人目よ?」
「いや、8人目だな。さっきのやつは渚が仕留め損ねたやつだろ? まだまだ甘いな」
「えっ? 違うわよ、エシナが仕留め損ねたんでしょ?」
「違う! 渚が仕留め損ねたんだ!!」
「いいえ! エシナが仕留め損ねたのよ!!」
二人が言い争いをしているうちに上の階に続いていそうな階段に着きました。

「まぁいいわ、この上のフロアで決着を着けるわよ!」
「望むところだ!」
二人は意気揚々と階段を登って行きます。でも僕には、もう階段を登る力さえ残っていません。僕はその場で力尽きて座り込んでしまいました。
「ねえ立花さん、僕はここまでみたいだ…。後のことは頼むよ…」
後ろを振り向き、僕を見下ろす立花さん。
「いいえ、和也君には私の盾になってもらう重要な仕事があるんだから、そんなところで休んでもらったら困るわよ」
僕のところまで戻ってきて、立花さんは僕の目をじっと見つめました。
「でも僕、もう限界みたいだよ」
立花さんのキラキラした目に耐えれなくなった僕は目を反らしてしまいました。
「もうすぐでピスタのフォトも切れそうなのよ。だからお願い…」
「え!?」
ウルウルの目で僕を見つめる立花さん。…なんだか胸が苦しくなってきました! だって、
こっ…こんな立花さんは本日初めてです! 何ですか、この僕の心をえぐるような目は!? なんだか僕が悪いみたいです! 
生気が失われかけていた僕の心に勇気が湧いてきました!!

「わかったよ立花さん! 君は僕が守る!!」
見る見る力がみなぎり、僕は力強く立ち上がりました。
「わぁ、和也君カッコイイ!」
ッ!? カッコイイ? そんなことを女の子に言われたのは…、生まれて初めてだ~ッ!
「うおおおおりゃああぁぁッッ~~!!! 突撃ぃぃッッ~~!!!」
ものすごい勢いで階段を駆け上がっていきました。…立花さんのためにぃ!
「なぁ、渚」
一生懸命に階段を駆け上がっていたときに下のほうでエシナの声が聞こえました。
「もし…、あいつが拒否していたらどうするつもりだったんだ?」
「え? それはもちろん…、殺していたわ」
「そうか。命拾いしたってことかあいつは」
よく聞こえませんでしたが、今はそんなことよりも立花さんを守るという使命のほうが大事なので気にしないことにしました。
「ちょっと待って和也君」
「ん? 何?」
「これ…」
立花さんが僕のところまで上がってきて、僕に何か尖ったものを渡しました。
「これは何?」
長さが20cmぐらいで両方の先端が尖っている太い針みたいなものです。
「これは“グーグニグ”の先端に付いてる千本のうちの一本よ。これがあれば、和也君も敵を殺せるから…」
「はいぃ~!? 一体僕に何をさせるつもりだよ!? いらないよそんな物騒なもの!」
いきなり何を言い出すんですかこの人は。

「じゃあ、和也君はどうやって敵を殺すの? 銃は使ったらダメだよ」
「僕は誰も殺さないの! だからこんなものも要らないし、銃もいらないの! これは返すよ!!」
僕は立花さんの前にこの千本を差し出しましたが、立花さんは黙ってしまいました。
「早く受け取ってよ!」
ようやく立花さんは、僕が差し出した千本を受け取ろうとゆっくり手を動かしました。しかし、その両手の行き先は千本ではなくて、立花さんの顔でした。

「ひっく、ひっく…! わ…私はただっ、和也君の事が…、心配だから! だから! 和也君のためを思って…、ただそれだけなのに、うっうぅっ…」
その時、僕の心臓は無数の千本に串刺しにされるような強い痛みを覚えました。
あぁっ、僕はなんてひどい男なのでしょうか。こんなに人を思いやる心を持った女の子の気持ちを裏切るなんて…、僕にはできません!
「やっと気づいたよ立花さん! 僕は君を守るために戦うよ!!」
「和也君…、私嬉しい」

立花さんの微妙に赤くなった目が僕を見つめます。もしや…、このシチュエーションは!? そんなまさか!? アレなんですかッ!?
「た…立花さ」
「じゃあ、私たちが先頭に行くから、和也君は私たちのあとに続いてね」
立花さんは僕の横をすぅっと通り過ぎていきました。何事も無かったかのように。
僕も何事も無かったかのように動こうとしましたが、体が変な悲しみに襲われて、なかなか動き出せませんでした。

「ほら早く!…あぁ、目が痒いわ」
立花さんに呼ばれて、やっと動くことができました。しかし、階段を上がる足取りは、さっきと比べて格段に落ちてしまいました。それに、この千本を僕はどうすればいいのでしょうか? どうしようもない時は使わないといけないと思うけど、こんなものでどうやって人を殺せるのかな?
「上の階に着いたわ。さぁ、ここから攻めるわよ」
立花さんたちは早くもドアの前で構えていました。
「しっかり後について来いよ和也。…まぁ無理だと思うけどな」
エシナは立花さんの肩から降りて、その場で軽くジャンプしています。
「さぁ戦闘であります! 楽しみですな!!」
「殺セ! 殺セ!」
みんなものすごいやる気です! また殺戮ショーが始まってしまいそうです。

「ピスタ、あとどのくらいフォトが残っているの?」
立花さんは自分が被っているピスタさん(ヘルメット)に話しかけました。
「恐らくこのフロアで無くなってしまうと思われます、渚殿!」
「そう…、じゃあここの所長を殺す時は、ピスタの“ガービスク”は期待できないわね…」
「申し訳ございません渚殿! しかし、ここに私のソースである“金属”があればフォトの補充ができます!」
なるほど、ピスタさんのソースは“金属”なのか。ここにある金属といえば…
「あまり期待しないほうがいいわね。見た感じなさそうだから」
確かに、周りには金属って感じのものは見当たりません。
「ううぅ…、ではせめてこのドアノブを…」
ピスタさんが立花さんの頭からぴょんと飛び降りて、ドアノブにかぶりつきました。

――――――ボリボリボリボリ…

「ふむ…、まったく足しになりません!」
足しにならないのかい!
「このアホピスタ! ドアノブなんて食うな! どうやってドア開けるんだ!?」
「はっ!? 申し訳ありませんエシナ殿!!」
ピスタさんの顔(ダルマさん)からものすごい汗が放出しています。
「しょうがないわね…、ピスタ! さっさと汗を引っ込めて私の頭に戻りなさい!!」
「はっ!」
ピスタさんは急いで汗を舌で拭いて、立花さんの頭に飛んで装着しました。
「ドアを蹴り破って入るわよ! エシナ…、さっきの勝負忘れてないわね?」
「ふっ、当たり前だろ! 行くぞ!!」
さぁ、また血の殺戮ショーが始まりそうです!

「せ~っの! はいぃ!」
立花さんがくるっと廻ってドアを蹴りで吹き飛ばしました。この技は回転廻し蹴りという空手の蹴り技の一つです。さて、吹き飛んだドアは壁にぶつかって大破しました。しかし、こんなに目立って大丈夫なのでしょうか? ってあれ?
「…誰もいないわね」
「…逃げたか?」
僕も恐る恐る前に進みました。銃を構えた人がいっぱいいるのかなっと予想していたのに、周りを見渡してみても誰もいません。周りにはパソコンや机が置いてあるだけでこれといって目立つ物はありません。
「あっ! あの穴は…」
向こうのほうに大きな穴が見えます。きっと、僕たちが衝突した時にできた大きな穴ですね。天井にも大きな穴ができていました。僕は床にできた大きな穴を覗いてみます。
「げぇふ!」
速攻で吐きました。下のフロアは血の海だったことをうっかりな僕は忘れていました。しかし、僕が吐いたという事は、それ即ち僕が正常の状態を取り戻したということなのでしょうか?
「どうしたの和也君! 大丈夫?」
僕の事を心配した立花さんが駆け寄ってきてくれました。
「大丈夫だよ、さぁ行こうか」
僕にとっては、ちょっとかっこいいセリフを言い放ち、そして起き上がろうとしたその時でした。

「ん?」
ふと、上の穴を見てみると何かがいました。穴の壁から変な物体が体を出していました。見た感じモグラみたいな姿をしています。でも、僕が知っているモグラのイメージよりもそいつはちょっとだけ大きい感じがします。それに、そのモグラはじっと赤色の目で僕の事を見ています。
「どうしたの和也君?」
エシナたちも僕のところまで駆け寄って来ました。
「アレは何かな?」
僕は立花さんの方を向いて、指を上の穴の方に向けました。
「…何もいないよ?」
「え!?」
僕が再び上の穴を見たときはもう何もいませんでした。
「あれ? でも確かに何かがいたんだよ!」
みんながヒソヒソとざわめき始めました。
「ついに和也が妄想を見始めたか…」
「和也君…」
「もうそウ! もうそウ!」
「残念であります和也殿」
みんなが哀れみの目で僕を凝視しています。
「何でそんな目で僕を見るんだよ!? 本当にあそこに何かがいたんだよっ!」
「うん、分かっているわ。大丈夫よ和也君、心配しないで」
「何だよ! その精神異常者に接するような態度は!? 僕の事が信じられないの!?」
「うん」
「なんで即答なんだよ!!」
「だって、和也君…、今日は色々と大変な目に遭っているでしょう? だから変な幻覚が見えてもおかしくないわ。これからだんだん慣れていけばいいのよっ!」
「誰のせいで大変な目に遭ってると思っているんだよ!」
その僕の言葉を聞いた立花さんは、少しだけ悲しい顔をした様な感じがしました。
「そんなヤツのことは放っておいて、早く先に進むぞ」
「そうね」
みんなは僕を置いて先に進んでいきました。
「え!? ついに無視ですか! 無視なんですか!? 何とか言ってよぉぉッッ~~!」

――――――ガツッ

「痛っ!」
何かが僕の頭に当たりました。コロコロと床に転がるそれは…、僕の記憶が間違っていなければ、
「手榴弾ッッ~~!? 死ぬぅぅぅ!!」
僕の叫びで立花さんたちがこっちに気が付きました。
「ピスタァ!」
「任せるであります! 拘束するバリティ! “ルクロック(漆黒の球体)”!!!」
ピスタから黒い光線が発射され、それが手榴弾に当たりました。すると、手榴弾は黒い球体に包まれました。その直後、

――――――ボフゥゥンッッ!

「うわぁっ!…え?」
手榴弾が爆発しましたが、僕は全くの無傷でした。どうやら助かったみたいです。
「和也殿~、大丈夫でありますか~~~?」
ピスタさんが向こうで叫んでいます。
「うん、大丈夫だよ~! ありがと、ピスタさん~~!」
また上の穴から手榴弾が落ちてきそうな感じがしたので、急いで立花さんたちのところまで走りました。
「ホンットにドジというか運が悪いな和也は」
エシナのこのムカツク声を聞いても、何故か今は清々しい気分です。だって、今はピスタさんへの感謝の気持ちで僕の心はいっぱいだからです。

「しかし、これで自分のフォトは空っぽになってしまったであります! 和也殿のせいで!」
ピスタさんの目が僕を睨みつけています。そして立花さんも、
「か~ず~や~く~ん~?」
ご立腹です。怒っています。この人たちは僕の命よりもフォトの方が大事だっていうことが良くわかりました。
「だが、上の階に敵がいるっていう事がわかったな。早く行くぞ」
「ええ、和也君も早く早く」
「え、うん」
その時です。

――――――ガチャッ

「ん?」
ドアが勝手に開きました。 

――――――パァンッ!

直後、銃声が響き渡りました。幸い誰にも当たりませんでしたが、僕は突然の出来事に
「うわああぁぁぁッッ~~! ヘルプ・ミィィッッッ~~~!!」
と、パニクってしまいました。しかし立花さんたちは僕とは逆に、
「エシナ! 勝負開始よ!!」
「あぁ、負けないぞ!!」

すぐにグロテスクな音が聞こえてきたので僕は耳を塞ぎました。しかし、それでも微かに音が聞こえてしまうので、僕はブツブツとお経を唱えることにしました。
「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏ぅ! 悪即斬!!」
「何やってるんだ?」
いつの間にかエシナが目の前にいました。
「いや、僕の事は気にしないでくれ。それより…、もう終わったの?」
「あぁ、だから早く上に行くぞ」
エシナが僕のズボンを強引に引っ張って、無理やり移動させました。僕は惨劇の光景を見ないように目をつぶって歩くことにしました。
「2人しか殺せなかったわ」
「ふっ、これで同点だな」
「調査結果道理だと、構成員はこれで全員片付けたわね」
「あぁ、残りはここの所長だけだな」
「逃げていなければいいけど」
「逃がさないさ」
「僕を逃がしてほしいよ」
「ダメよ」「ダメだ」
はぁ…、僕は一生こんな感じで生きていかなければならないのでしょうか?

「着いたわ」
階段を登った先には、木製の立派なドアがありました。
「エシナ、まずは情報を聞き出すことが先決だからね。殺したらダメよ」
「あぁ、分かっている。行くぞ!」
立花さんは右側のドアを蹴り飛ばし、エシナは左側のドアを突き飛ばしました。…何で普通にドアを開けないのでしょうか?

吹っ飛んだドアは、誰かが座っている机に激突しました。
「ヒイイィィィッッッ!!」
オヤジ狩りに遭ったおじさんの叫び声みたいな声が聞こえてきました。その声の主は、椅子から立ち上がり、信じられないものを見ているような表情で僕たちを見ています。
「バカな! あれほどいた私の部下が全滅だと!?」
そのおじさんはヨロヨロと後ずさりし、大きな窓ガラスに体をぶつけました。
「頼む! 殺さないでくれ! お金ならいくらでもやる! 頼む!」
僕は初めて“命乞い”というものを見ました。自分の命のためなら何でも投げ出す…、そういう心の叫びが、このおじさんからは聞こえてきそうです。

「お金なんて要らないわ、それよりも教えてほしいことがあるのよ」
冷静に、そして冷徹な立花さんの表情がそこにありました。
「私たちが知りたい情報は二つ。まず一つ目は、あなたたちが不正に捨てた“使用済み核燃料”の廃棄場所よ。…どこに捨てたの?」
ギラリと鋭い眼光がおじさんを貫きます。
「廃棄場所を示した情報ならこの下の階のパソコンの中に入っている!」
「パスワードは何だ?」
今度はエシナが問い詰めています。
「ちょっと待ってくれ! 今紙に書くから…」
おじさんは机の上にあった紙に何かを書き、覚束無い足取りでこっちに歩いてきました。
「待ちなさい! 銃は持ってないでしょうね?」
ホウキを構える立花さん。
「ああ! 持ってないよ! 信じてくれ!!」
そのまま歩いてきたおじさんは、紙を立花さんに手渡しで渡しました。
「…本当にパスワードはこれで合っているんでしょうね?」
「あぁ本当だ! 私だって死にたくないからな!!」
おじさんの顔は汗でびっしょりでした。

「じゃあ、最後の質問よ。…あなたたちに私たちの情報を流したのは誰?」
「えっ!?」
おじさんの表情が固まりました。
「私たちの中にスパイがいる可能性があるわ。…あなたに情報を漏らしたのは誰?」
立花さんの表情は、どこかつらく感じました。
「ぐぅ…、それは言えない!…言えないんだ!!」
突然、おじさんの態度が変わりました。
「バラしてしまうと私は…!」
直後、

「警告~♪ 警告~♪」(???)
「ヒイイィィィッ!!」
おじさんの顔が恐怖で凍りつき、おじさんはそのまま床に座り込んでしまいました。
「何ッ!?」           
僕も天井を見ました。
そして…、それを見ました。

「…モグラ?」
さっき僕が見た変な物体が、天井から上半身をニョロっと出して、逆さまでおじさんを赤い目でじっと見つめています。ニヤニヤしながら。
「ほら! さっきのは僕の見間違いじゃなかったじゃないか!」
自分がボケてない事がわかって一安心です。っていうか、今このモグラしゃべったんですけど…。

「待ってくれ! 俺はあの人のことは何もしゃべっちゃいないぞ!」
おじさんは、僕たちの事なんか見向きもしないで、モグラに必死で訴えかけています。
「で~も~♪ あ~な~た~は~♪」
モグラが歌い出しました。
「つ~か~ま~って~♪ い~つ~か~♪ は~な~し~ちゃ~う~♪」
か…かわいい! 僕はこんな動物が超大好きなんです!

でも、立花さんのは険しい表情が変わる様子はありません。むしろ、さらに険しくなっていき、戦闘モードMAXのオーラを解き放っています。僕は、そんな立花さんがとても恐ろしく感じました。
「エシナ…、油断したらダメよ」
「あぁ…、だがコイツは…」
エシナも超マジマジモードです。遊び感覚が一瞬でなくなったようです。
「だ~か~ら~♪」
モグラが目を閉じました。武器を構える立花さん。

「ぶっ殺してあげるよぉッ!! ヒヒィハハァァッッ!!!」
血のように赤い目が大きく開きました。そして、その目が一瞬僕を睨みました!
ものすごい鳥肌と悪寒がしました! 未知なる物に対する恐怖が僕を襲います!!
「た…助けてくれッッッ~~!!」
おじさんが窓に向かって走りました。

――――――トプンッ!

「え?」
「ヒヒィハハァァッ!」
モグラが天井から飛び出し、おじさんに向かって飛んでいきました。
「うわあああぁぁぁッ」

――――――トプンッ!

「ヒィッ!!」
おじさんは転んで壁に激突しました。
「今…、おじさんの体の中にモグラが入ったように見えたんだけど!?」
おじさんが床の上に倒れこみました。
「エシナ…、これってやっぱり」
「あぁ。信じられないが…」
二人は何かを悟ったようで、お互いを確認し合っています。
「嫌だ~! 死にたくないぃッッ~~!!!」
おじさんはさっきからずっと床をゴロゴロと転げまわっています。
「う~る~さ~い~な~♪」

――――――トプンッ!

まるで池から飛び出したかのように、モグラはおじさんの体から飛び出てきて机の上に着地しました。
「あ~と~♪ 2秒~♪」
「嫌だ~!!」
「やばいわ!」

――――――ヒュン!

「え?」

――――――バキュッ!!

立花さんが、まるでゴルフでボールを吹き飛ばすかのごとく、床で転がっていたおじさんの顔をグーグニグ(お掃除ホウキ)で吹き飛ばしました。
「え!? なんで殺したの!?」
「みんな隠れて!!!」
「和也! そっちだ!」
「え!? ゴフゥッ!」
エシナが僕の横腹を急に押したので、軽く吹き出してしまいました。そして、ソファーの後ろにそのままタッチダウン!
「渚!」
そうだ、立花さんは?
「ボン♪」

――――――ボゥンッッ!!! ビチャビチャァァァ!!!

「うわあぁぁぁッ! 何!? 何が起こったの!?」
周り一面に飛び散る赤い血肉。…おじさんの体が爆発したようです。
「渚! 大丈夫かぁ!?」
エシナが大きな声で叫びます。
「えぇ…、大丈夫よ~~」
机の後ろから姿を現した立花さん。無傷でよかったです。
「あのモグラは?」
そういえばさっきのモグラがどこにもいません。
「くそ! 逃げたか!?」
エシナが悔しがっています。

「に~げ~な~い~さ~♪」
まず初めに頭が、次に赤い目が、そして全身が机の中から出てきました。あのモグラです。
「華麗に~登場~♪」
なんと! モグラが立ち上がり、そして、机の上を2足歩行で優雅に踊り始めました!
「ダンスも~上手~♪」
「てぇぇい!」
立花さんがモグラに向かってホウキを振り下ろしました。

――――――ズバンッ!

真っ二つになった机…。しかし、モグラには当たりませんでした。
「な~に~す~る~ん~だ~よ~♪」
クルクルっと体を回転させて、床に着地するのかと思いきや、そのまま床に

――――――トプンッ!

と沈んでしまいました。
「しまった!」
「渚、気をつけろ! とりあえずこっちに来い!」
僕たちは部屋の中央に集まりました。
「どうするエシナ?」
「どうするっていわれてもな…、どうする和也?」
「え、僕? じゃあ、逃げるっていう案は?」
「却下だ」、「却下よ」
「やっぱり即却下かぁ…」
ものすごい緊張感が僕たちを包み込みます。

「あのモグラ…、やっぱり」
「何か知っているの? 立花さん」
立花さんは、やはり何かを知っているようです。
「確信は無いんだけど…」
「僕が~ど~う~か~し~た~?」
ズブズブと入り口付近の床からあのモグラが出てきました!
「出たわね~! さっさとかかって来なさいよ!」
「あいつの正体が気になる…。殺したらダメだぞ渚。」
にらみ合う僕たちとモグラ。

「ちょっと~待って~よ~♪」
緊張感が解かれそうな柔らかい声。
「僕は~君たちを~♪ 傷つける~つもりは~♪ ないんだ~よ~♪」
僕たちを傷つけるつもりは無い? それはよかったよかった。
「僕の~仕事は~♪ あと~1つ~♪」
クルクルと回転し始めたモグラの体。
「仕事? 何をする気だ!?」
回っていたモグラの体が止まりました。
「僕が~ご主人様に~命令されたのは~♪」
渇開くモグラの大きな赤い瞳。
「この施設の爆破だよぉ!!! ヒヒィハハァァッッッ!!!」
「なんですって!?」
「黙って見てな~♪」

モグラはおもいっきり息を吸い込み始めました。そして、どんどんモグラの体が大きくなっていきますぅ!?
「何をする気だ!?」
そして、
「おえぇぇぇ!」

――――――ドゴンッ!

自分の目を疑いました。モグラの口から直径が1メートルはあろうかと思われる手榴弾が出てきたからです!
「これが~僕の~“バリティー”~♪ その名も~♪ “エボアズム(気爆玉)”だぁ!
ヒヒィハハァァッッ!!!」
モグラの手が手榴弾のピンを掴みました。
「待て! お前に人工知能を植え付けたのは一体誰だ!? それにお前の体…、生命体に人工知能を植え付ける事は不可能なはずだぞ!!」
エシナがこんなに動揺しているのを僕は初めて見ました。

「君たちに~教える~つもりは~無い~♪ じゃあね~♪…環境クン♪」

――――――ピンッ!

モグラが手榴弾のピンを抜きました。
「あぁぁ! 抜いちゃったよ! 爆発するぅ~~!!」
僕は最高にあたふたしています。
「あと~5秒~♪ 僕は~地中に~♪」
モグラが床に沈もうとしたその時です。
「和也、それ貸せ!」
「え?」
エシナは僕が握り締めていた千本を強引に奪い取り、すかさずそれをモグラに向かって投げました!

――――――ガツッ!

でも、モグラのほうが速く逃げてしまいました。
「生きていたら~また会おうね~♪ 環境クン♪ ヒヒィハハァァッッ…!」
がーん! どうしようどうしようぅ!! 逃げないと~~!
「渚ぁ! 逃げるぞ!」
「でもどうやって!?」
さすがの二人も戸惑っています。
「僕ガ…」
ピョンとエシナの体から飛び降りるヴェス君、そして、急に光りだしたヴェス君の体…。

「変形するバリティー“チャラック”! モデル:ダンプカー!!」
ヴェス君がそう言った直後、僕たちの目の前に大きなコンテナを積んだダンプカーが出現しました!
「速く乗っテ!」
「でも、ヴェス君…、君は?」
「いいから早ク!」
「和也! 早く乗るんだ!」
僕たちはコンテナの中に急いで乗り込みました。そして、閉じられるコンテナの扉。
「行け~! ヴェス!」
「まかせロ~~~!!!」
急発進する車! 窓ガラスが割れる音! そして…、

――――――ドゴオオオオオォォォッッッ~~~~~ンンン!!

「うわああああぁぁぁッッッ! すごいGィ~~~~!!」
爆風に後ろから押されながら、このダンプカーが空を飛んでいるのがわかります。コンテナの中で僕たちは前のほうにすっ飛んで行き、壁に激突しました。もうメチャクチャ痛いです!
「ちゃくチ~」

――――――ドカァァァ! クルッ!

次の瞬間には逆向きに回転していました。コンテナの中の僕たちは壁にドカドカと激突しまくりです! 痛いです!! そんな僕達を無視ながら、ダンプカーはそのまま吹き飛び、

――――――ドゴゴゴオォォンンン……!

っと、やっと止まりました。でも逆向きに着地してしまったみたいです。
「いたたたたぁ…、もうちょっとうまく着地してよ~ヴェス君、…ん?」

――――――ムニュ

「この感触は一体…」

――――――ムニュ

真っ暗で何もわかりません。

――――――ガシッ!

首を掴まれる僕。
「え?」
開かれるコンテナの扉。光が差し込んできて見えた最初のものは、
「どこ触ってんのよ、あんたは!!!!!」
立花さんの鉄拳でした。…バタッ。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第8幕

第8幕  ミッション(落下)



立花さんが被っている黄色いヘルメットが突然、輝き始めました。そして、光が消えた後、変なヘルメットが姿を現しました。何故なら、ヘルメットの表面にダルマさんみたいな顔が浮かび上がっていたからです!
「やっと起きたわね“ピスタ”!」
立花さんが怒った口調で言いました。
「はっ! ご迷惑をおかけしたようですね! 申し訳ございませんでした!」
そのダルマさんがものすごい形相で謝っています…。

「“ピスタ”、任務の内容はメモリに入っているな?」
「はっ! エシナ殿、準備は怠っておりません!!」
「現在、プランBに計画を変更して実行中だ」
「はっ! 了解致しました! それでは早速…」

…ダルマさんの目と僕の目が合いました。

「誰でありますかッ? 自分はあなたを存じ上げませんが!…まさか!? 敵の偵察隊ですか、あなたはッ!?」
また、ひと悶着ありそうな雰囲気です。
「ピスタ、この人は…」
「はっ! わかっております渚殿! こやつは敵ですね!!」
ほらぁ~、また変なことになりそうですよ? やれやれです。
「ちょっとピスタ。人の話は最後まで…」
「自分が皆さんをお守りせねば! いきますよ! ウウウオオオォォォッッッ~~~~~!!! 守護するバリティー!! “ガービスク(金色の球体)”!!」
ピスタさん(立花さんが被っている黄色いヘルメット)が叫ぶと、ピスタさんから金色の光が放出され、それが立花さんたちの周りを覆いつくし、丸い金色の球体が出来上がりました。
「これでこの敵からも身を守ることができ、かつ、地面に衝突してもへっちゃらです!!死ぬのはこの敵だけです!!!」
…僕だけ死ぬ!? それは困っちゃいますね~。僕が地面に落ちてグチャグチャの肉塊に変わる前に、僕はピスタさんの説得を試みます。
「あの…、ピスタさん? 僕は敵ではないですよ? 立花さんのクラスメートで新谷 和也と言います。今後ともよろしくお願いします」
これで恐らくは大丈夫でしょう。
「そんなことを言っても自分は騙されません!! エシナ殿! エシリウス(エシナ砲)をこの敵に発射してください!!!」
「あぁ、任せろ」

――――――フォン…フォン……

光り輝くエシナの大きな口。
「ちょっと待ってよ! 何でだよ! そんなことをして一体何の意味があるっていうんだよ! エシナァァァッ~~~!!!」
僕の目からは涙が出始めます。その涙は僕の体よりも落下速度が遅いのでどんどん僕の上の方に飛んで行きます。僕は今、我が身を持って空気抵抗を体験しています。勉強になります。
「エシナもピスタも、そろそろ止めなさい」
そこに天使の助け声が! でも僕は、涙でその天使の顔が良く見えません!
「ピスタ。この人は和也君と言ってね、私の身代わりになってくれるクラスメートその1なの。だから敵じゃないのよ。わかった?」
「渚の言うとおりだ。メモリに記憶しとけよ、ピスタ」
光り輝く口を止めて、エシナもやっと正しい真実を話してくれました。…でも立花さんのセリフに何か恐ろしい言葉が含まれていたような気がします。…クラスメートその1ッ?

「はっ! そうでありましたか! 大変申し訳ございませんでした、和也殿!!」
「分かってくれたならいいんだよピスタさん。だから…、さっさと僕もその金色の球体の中に入れろぉぉぉッッッ~~~!!!」(キレ気味)
「はっ! 了解致しました!!」
ピスタさんが再び光り始めました。すると、金色の球体は「シュバッ」と大きくなり、僕の体もその光に飲み込まれました。
「これで大丈夫であります、和也殿!」
「ありがとうピスタさん」
突然のことにびっくりしましたが、この球体の中はとても心地よくてちょうどいい温度です。さっきまで冷えきっていた僕の体と心を暖めてくれます。

「よかったナ、おまエ」
どこかで聞いたことがある口調。この声は…。
「今の声はもしかして、エシナが持っているラジコンカー君ですか?」
「そうだヨ! そうだヨ!」
ラジコンカーの「ウィ~ン」というモーター音が聞こえました。
「僕の身を心配くれてありがとう、ラジコンカー君。君の名前って何だっけ?」
「ヴェスだヨ!」
「ヴェス君、これからよろしくね。僕の事は和也って呼んでくれ」
「かずヤ! かずヤ!」
なんだかヴェス君は嬉しそうです。僕まで嬉しくなってしまいました。

「これで自己紹介は終わったわね」
立花さんの満足げな笑顔。
「かなり時間がかかったけどね…」
僕の何かやるせない笑顔。
「誰のせいでこんなに時間がかかったと思っているんだ? おい」
立花さんの背中に乗っているエシナが僕を見下ろした感じで言いました。そのセリフの答えは…、お前だよ! エシナァッ!!
「和也君のせいって事は確実ね」
「やっぱりな」
この二人は間違いなくSです。絶対ぃ!

「あと15秒で目的地に衝突します!」
その声に反応して僕は地上を見てみます。目の前に広がる景色は山山山。
「山しかないね」
見渡す限り緑色の山ばっかりです!
「そろそろよ和也君。気合入れていくわよ~!! キャハハハハァァッ~~~!!!」
立花さんはノリノリです。
「ピスタ! 出力硬度最大だ!!」
「はっ! 了解致しました!! ウウウオオォォォッッッ~~~ッリャアァァァッッ~~!」
僕たちを包み込んでいる光の甲殻がさらに光り輝きました。
「みんなノリノリだなぁ~」
僕はなんとなく感心してしまいました。

「ころスッ~、ころスッ~!」
ものすごく可愛い声がものすごいことを言っています!
「ちょっとヴェス君? 物騒なことを言わないでよ!」
せっかくの可愛い声が台無しですよ。
「殺すッ~、殺すッ~!」(僕以外)
「え!? なんで? なんでみんなは殺したがるの? 相手はただミサイルを発射しただけじゃないか! 悪気は無かったんだよ!! 許してあげて!」
「殺すッ~、殺すッ~!」(僕以外)
僕の悲痛な叫びもこいつらには届きませんでした。
「みなさ~ん! 逃げて下さ~い! 今から殺人マシーンXがあなたたちを殺しに行きますよ~!!!」
「あと2秒~」
そして僕たちは、山の平坦な場所に建っている、工場らしき所にものすごい速さで墜落して行きました。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第7幕

第7幕  細かで正確な説明を要求します!!!



あぁ…、ここはどこだろう。
下には真っ白い雲が、まるで高級じゅうたんのように広がっています。あっ、ここは雲の上なんだ~。僕、初めて雲の上まで来ました。
「なあ、変なぬいぐるみ。雲の上ってすばらしいね~、ガハッ!」
僕の美しい横顔を変なぬいぐるみが殴りました!
「ッ!? 殴ったね? ぬいぐるみには今まで一度も殴られたことなんて無かったのにぃッ~!!」
「変なぬいぐるみって呼ぶな。俺のことは“エシナ”って呼べ!」
「わかったよ。“絵死名”」
「今…、変な漢字で俺の名前を呼んだだろ?」

絵死名の体があっという間に虹色の光に包まれました!!

「えっ、なんで!? なんで分かったの! はっ、しまった! ばらしちゃった!!」
「ふっ…、食らいなぁッ~!」
するとどうでしょう。変なぬいぐるみの口から、大量の木の葉が僕に向かって吐き出されました。(ダバーッと)
しかも、その木の葉は僕の体にまとわり付いてきます!
「ぎゃ~ッはッはッはッ~! やめて~! 死んじゃうよッ~! 木の葉が僕の…、白衣の中に入り込んで…! くすぐってる~!? ぎゃ~ッはッはッはッ~!」
まるで木の葉が生きているみたいに動いて、僕の汚れ無き体を弄んでいます!
「負けたくない~! 負けたくないよ~! ぎゃ~ッはッはッはッ~! やめてッ~!」
息ができないくらいに笑ってしまい、とてもとても苦しいです。死んじゃいます!

「俺の“バリティー”の1つ“シシルチエ(木の葉牢獄)”だ!…死ぬまで笑いな!!」(キメ台詞)
「ちょっとっ、エシナ! 車の中が汚れちゃうでしょ! 和也君のヨダレで!」
「えええぇぇッッ~! ひどいよ立花さん! ぎゃ~ッはッはッはッ~!」
「おお、そうか。すまんすまん!」
するとまるで、粉雪が儚く散るように「パァァァッ~」と、木の葉は虹色の光を放ちながら消えていきました。
「はぁッ~…、はぁッ~…、死ぬかと思った~。今のは一体なに?」
「さっきも言っただろ。頭の悪いやつだな」
「もうちょっと分かりやすく細かく正確に言ってくれると嬉しいんだよ!」
「エシナ、“フォト”のムダ使いはやめてね。悪いクセよ」
「そうか? それほど使ってないと思うけどな」
「今日の朝だって任務でもないのに“ソウェルス(偵察スズメ)”を3匹も作っていたでしょ?」
「あれは…、今後あの町を範囲として活動していくわけだから、あの町の周辺の環境を調べていただけだ。だから別に“フォト”のムダ使いではないと思うぞ」
「今日みたいに、急な任務に就かなければならなくなった時は困るでしょ? だからさっきまでエシナは急いで“フォト”を溜めていたじゃないの…」
「間に合ったからいいじゃないか」
「もう…、それもそうね」
「あははっ」
「うふふっ」

ここでツッコミが入る! まぁ、見ていてよ。

「僕を無視するなッッ~! 僕の話しを聞いてくれYOー! オー、イェイ~!!」
「うるさいぞ、渚‘s盾!」

…その時! 僕の脳天に深緑色の光を放つ魔方陣が描き出され、その輝く魔方陣からグレテヤレ悪魔が召喚されました。
その悪魔が僕の耳元でブツブツと呪文を唱え始めます。

グレテヤレ…! グレテヤレェッ~!! グレテヤレ…! グレテヤレェェッッ~~!!

すると、みるみるうちに僕はグレテヤルマンに変身してしまいました!

「いいんだ、いいんだ! 僕なんて誰からも必要とされていない人間なんだ! わかったよ! ヘイ! ヨォ~! オレはマジマジいらない人間!? エ? マジで!? チェケラッ!!」
僕の叫びは青空に消えて行きました…。

「なに? どうしたの?」
「壊れたんだな…」

二人がとても深い哀れみの眼差しで僕を見ています!
「なんだよ…、そんな目で僕を見るな! やめろ! やめろ! やめてくれぇぇッ~~!」
僕の体からグレテヤレ悪魔が消滅していくのが分かります。グレテヤレ悪魔の最後です。

グオオォォッッ~…、コッ…コンナ…バカナッ!…ナゼダ!! コンナハズデハ…! グギャアァッ~! グレテヤル~~~!!

そして、白い煙になって消えて逝きました。
「ありがとう二人とも。二人はエクソシストだったんだね。よくぞ僕を救ってくれた!」
RPGの中で助け出された王様みたいなセリフを僕は吐き捨てました。
「意味のわからないことを言ってんじゃね~よ! オラッ!!」
「えっ? ガハッ!」
また変なぬいぐるみに殴られました。僕の口から「キラキラ」と血しぶきが飛びました。目からは悔し涙もにじり出てきました。

「す…すんませんでした…、エシナ」
しょうがないので…、本当にしょうがないので!
僕はちゃんと“エシナ”って名前で呼んであげました。
恐る恐るエシナの顔を見てみます。
「おぉ、ちゃんと言えるじゃないか。最初っからちゃんと言え!」
「人生にユーモアという要素を取り入れなければ、僕は死ぬんだよっ!」
「知るかっ!」
僕とエシナはまたケンカを始めました。

「仲良くなれたわね」
立花さんが微笑みの女神のような眼差しで僕たちを見つめています。
「主人とその下僕って感じだけどね」
「おぉ、よく分かってるな」
「これからは、いろいろとよろしくね、和也君」
「頑張って、渚の立派な盾になるんだぞ!」
「うん! 僕…、頑張るよ!」

あれ? なんか僕…、納得してるぅッ!

「とりあえず今は色々と聞きたいことがあるでしょ?」
立花さんは慣れた感じで車を運転しています。
「そうだね…、今日の出来事はありえない事だらけで、このまま何も知らずに生きていくと、僕の精神構造は崩壊しそうになるから早く教えてください!」
「何から知りたいの?」
向こうの空にジャンボ飛行機が飛んでいるのが見えます。
「まず…、君は一体何者なんですか? 殺し屋Xなの?」
「殺し屋X? 分からないけど殺し屋じゃないわ。私は“環境保護執行人”なの」
また新たな単語が出現してしまいました。

「環境保護執行人? お願いだから分かりやすく説明してくださいぃ!!」
「“環境”を“保護”することを“執行”する“人”よ」
「そう意味じゃなくて、例えば…、どういうことをするのかなぁ~って」
「う~ん…」
立花さんはしばらく考えて、
「地球の環境を破壊、もしくは汚す人たちを抹消することが仕事かな」
「抹消!? ってことはつまり…、殺すってこと?」
「だってしょうがないでしょ?」
「なんだよそれ! 子供の言い訳みたいに言わないでよ」
「だって…、ウザイじゃん?」
「そんな理由で殺したらダメだよ! どんな教育を受けて来たんだよっ?」
「お父さんは“お前は誰もが怯える殺人マシーンになるんだよ”っていつも私に言ってたわ」
「まもるさんは何? 悪の黒幕ですか? そして、立花さんは殺戮堕天使ですか?」
「え? なんで私の通り名を知っているの?」
「うわ~ん! もう帰りたいッ~!!」
でも僕は帰れません。だってここは雲の上だから。

「もう聞きたいことは無いのか?」
エシナは、僕と立花さんの間のスペースに座っています。
「良くぞ聞いてくれたね、エシナ。それはね…、“エシナは何でこんな風に動けるんだ?”ってことだよ!!」
立花さんのことは大体分かったから、次はエシナのことが猛烈に知りたいねっ!
「なんだ…、俺のことが知りたいのか。何でも聞いてみろ! 遠慮すること無いぞ!」
エシナは自分の胸を「ドンッ」と腕で叩いて、構えています。
「じゃあ…、エシナって何なの? ちゃんと分かるように説明してくれよ」
「ふむ、説明すると長くなるがそれでも聞くか?」
「お願いします!」

そして…、エシナはその重い口を開けて語り始めました。
「俺は“環境”担当の人工知能Eが入っているモコモコしたぬいぐるみだ! 渚のパートナーをしている。渚とは、渚が生まれた時からの付き合いだ!」
立花さんは「うん、うん」とうなずきながら聞いています。
「俺の発明者は渚の父親である立花博士だ。普段はどうしようもなくだらしない立花博士は、俺を含めて26種類の“アート”を発明したんだ。“アート”っていうのは“俺みたいな人工知能が入っている何か”の名称だな。あの自動販売機のシパンも、今俺たちが乗っている車のヴェスも“アート”だ。今は寝ているが、渚が被っているこの黄色いヘルメットも“アート”で、名前はピスタだ」

エシナの口から出てきた言葉はとんでもない内容でした。まさか、
「あのまもるさんがエシナ達を作ったの!? 嘘でしょ!? 信じられないぃ!!」
「驚くところはそこじゃないでしょっ」
立花さんに軽くツッコまれましたぁ! 嬉しすぎて失神しそうです!!
「うーん…、信じがたいけど本当なんだね。夢じゃないんだね。はぁ~…」
信じられないけど、真実を受け止めようと思います。僕は偉いです。
「話を続けてもいいかな?」
エシナのこみかみには、なにやら筋の入った血管のようなものが浮かび上がっています!
「お…おねがいしますぅ…」
エシナは僕の顔に向けて構えていた拳を下ろしてくれました。

「続けるぞ…。俺たち“アート”は“フォト”をエネルギー源として動いている。“フォト”っていうのはだな…、この世のあらゆる物体を司っている“ソース(存在力)”を吸収し、それを俺たちの人工知能のフォト変換基盤に送り、使用できる純粋なエネルギーに変換されたものだ」
「ふむふむ」
「しかも、その“ソース”にはいろんな種類があるんだ。ちなみに俺の“ソース”は“ゴミの存在力”だ。さっき学校から“ソム”までの道のりまで“ゴミ”がなかったのを不思議に思わなかったか?」

僕の記憶がよみがえっていきます。
「そういえばゴミが無かった! なんで無かったの!?」
「俺がゴミを吸収して、フォトを補充していたからだ」
「どこから吸収したの!?」
「口から」
「ゴミだったら何でもいいの!?」
「そうだ。ゴミという概念が存在しているものなら、俺は何でもフォトに変換できる」
僕の情報保管庫に、どんどん信じられない情報が入力されていきます!
「エシナたちって本当にすごいんだね」
僕は感激して、パチパチと拍手をしてしまいました。
「やめてくれよ、恥ずかしい!」
エシナが、にやけながら頭を掻いています。そして、何故か立花さんも照れくさそうです。
「へぇ~、本当にすごいんだな~。…もう説明は終わり?」
その僕の問いに
「まだだぞ和也! 聞いてもっと驚け!!」

エシナは僕の前にあるダッシュボードの上に移動して、気合い満々で話し始めました。
「次の説明は“バリティー”についてだ! そうだなぁ…、まぁ、簡単に言うと“それぞれのアートの特殊能力”ってやつだな。さっきみたいに木の葉がお前を襲う“バリティー”もあるし、ヴェスが車や飛行機に変形するのも“バリティー”だ」
特殊能力…、その響きに、僕の心の熱は高騰し、爆発しそうになります!
「じゃあさ! エシナには、木の葉が僕を襲ったさっきのやつ以外にも、その“バリティー”っていうのがあるのッ!?」
「当たり前だろ! まだまだいっぱいあるぞ!!」
エシナは「ふふ~ん」とした顔をしました。
「すごいなぁ…、本当にすごいよ!」
「驚きすぎよ、和也君。そんなに褒めないで」
だからなんで立花さんが照れてるの!?

「さて、これくらいで俺たちの事がわかったか?」
「うん! すごくわかったよ。…つまりエシナたちはアレだよね…、不思議サムスィングって事だね!!」
「そうかそうか、お前は今ここで力いっぱい舌を噛め!」
エシナが飛んできた!!
「わにゃった! わにゃった!!」(わかった! わかった!)
エシナが僕の口の両側を引っ張っています。
「一応納得しとくことにするから怒らないでよ! エシナたちがすごいってことは、ものすごく分かったからさ!」
「よし、それでいいんだ」
エシナは何かご満悦な顔をしています。ムカつきます。
「じゃあ、最後に一つ質問してもいいですか?」
エシナはダッシュボードの上に戻って座りました。
「質問の多いヤツだな。で、何が知りたいんだ?」
エシナがジッと僕を見ています。
「えっとぉ…、今から僕たちは何をやりに行くんですか?」
ズバッと核心を突く質問です。この質問の答えによって、僕の人生が変わるといっても過言ではないでしょう!
「任務の内容を知りたいの?」
立花さんが僕の目をジッと見つめてきます。
「うん、教えてください立花さん。…でもそれは極秘事項で教えられないってやつですか?」
「ううん別に大丈夫よ。和也君も任務に一応参加するんだから知っておかないとね」
「しっかりと任務の内容を頭に叩き込んでおけよ」
エシナが軍隊の上官みたいな口調で言いました。
「努力する所存でありますぅ!」
口調が写ってしまいました。

「じゃあ~、和也君にわかりやすく教えるね。今から行くところは、福井にある山なんだけど、そこでは…」
「けいこクゥ~! けいこクゥ~~~!!」
「なに? どうしたの!?」
立花さんが慌てています。無論、僕は速攻でパニクってしまいましたけどねっ! 
「えっ、何!? どうしたのぉぉぉ~~!? ねぇ、どうしたのぉぉぉ~~!!?」 
僕はもう中学2年生なのに慌てふためいてしまいました!
「ミサイルがせっきんちゅウ~~~!」

――――――ミサイル?

それは、“魅裟威瑠”って感じの暴走族ですか?
それとも“美佐 いる?”って感じの女の子の日常の会話ですか?
「そう、距離は?」
「あと11000~!」
「11000か…」
「あと5秒ね。ヴェス! ステレス戦闘機にモデルチェンジして!」
「わかっタ! わかっタ!」
僕たちが座っている椅子以外が突然光り始めました!
「変形するバリティー“チャラック”! モデル:ステレス!!」
うわっ! すごいですぅ~! 僕たちが乗っている車が虹色の粒に変わりました!! 
って、さむっ! 上空5000メートルの風が僕を襲ってきます! 寒いっていうよりも痛い!!

「モデルテェンジかんりょウゥ~!」
その声が響き渡ると、周りから光が消えました、僕はオドオドしながら回りを見てみました。それは…、まさにスゴイの一言でした。さっきまで見ていた車内の風景がものすごく変わっています!
フロントガラスは横にとても長い台形の形に変わっていて、前方180度が見渡せるようになっていました。手元には、ゲームセンターにある飛行機のシュミレーションゲームに付いてあるようなコントローラーが付いていました。他にも意味が良くわからないスイッチやレバーが腐るほど付いて、レーダーらしき装置もあります。
僕の視界に入ったそのレーダーを何気なく見てみました。僕にも理解できるそのレーダーは、小さな点が僕達の居場所を示している中心の×印にどんどん近づいていっているのを表示させていました。

「ヴェス! 囮のダミーを射出! そして、この空域からすぐに離脱して!!」
「わかっタ! わかっタ!」
ボシュッと何かが出る音がしたかと思ったら、この機体は急に上昇し始めました。太陽がまぶしいです。おまけにすごい“G”です。そして、

ドオオオォッゴオオオオオオォォォッッッッンンンンン~~~~~~~~~~!!!!!

と、本当に本当にものすっげぇッ~爆音が聞こえました。
「渚、ギリギリだったな」
「えぇ、まさかあっちがレーダーとミサイルを持っているなんて思いもしなかったわ」
なんでこの二人はこんなにもすごい重力空間にいるのに平然としゃべっていられるのでしょうか? 僕なんて失神する寸前ですよ?
「誰かが情報を漏らしたのか?」
「その可能性はあるわね」
「任務が終わってから調べてみるか」
「そうね」
しばらくの間、急上昇を続けていましたが、やっとこの機体は水平飛行に移ってくれました。もう僕はもうクタクタですよ。

「はぁ~はぁ~、アレは一体なんなの!? なんでミサイルが飛んで来るんだよ!!」
座椅子に深く腰掛けながら、ため息混じりに言いました。
「私たちにも予想外だったわ。恐らく内部に内通者がいたのね」
「しばらくヴェスはステレスに変形していなければならなくなったな」
「そうね…。ヴェス? ステレスに変形していられる時間は後どのくらい?」
前の窓を見てみました。太陽がものすごく近くにあるような感じがします。

「そうだネ…、あと5分ってとこかナ?」
「それだけあれば十分ね。ヴェス! 急いで目的地の上空まで移動して!!」
「わかっタ! わかっタ!」
そして、またすごい“G”が僕を襲いました。この飛行機?は、ものすごい速さで飛んでいます! 速すぎて景色が良くわかりません!
「プランBに変更か?」
「だってしょうがないでしょ? あっちが私たちに気づいちゃったからね」
「帰りのフォトはあっちで調達するのか?」
「うん。ヴェスの“ソース”も多分あると思うし、大丈夫よ」
「よし、任務開始って感じだな」
「ヴェス、目的地まではあと何秒?」
「あと180秒~」
「わかったわ。あっ、それと和也君は急いでこれを着てね」

立花さんは後ろの席に置いてあった何かを僕に差し出しました。
「これは…、防弾チョッキ?」
「うん」

防弾チョッキ…、身体を銃弾から守る物:国語辞書より引用

「え? なんで僕がこんなものを着けないといけないの!?」
「だって、危ないから」
「それなら立花さんが着ければいいじゃないか!」
「だって…、格好悪いし動きづらいもん」
「なにそのポリシー!? 立花さんおかしいよ!!」
「まぁいいじゃない、和也君が私の盾になってくれるんだし」
「そうだぞ、がんばれ!」
こ…こいつらぁッ~~~! なめとんのも大概にしいやぁッッッ~~~!!
僕の中でこいつらに対する“殺意”が芽生えた瞬間でした。
「わかったよ…、僕がんばるから!」
僕は「ユラ~ッ」と手を差し伸ばして防弾チョッキを受け取りました。そして僕は、自分でも気づかないくらい不気味な笑みを浮かべながら、シャツの上から防弾チョッキを着ました。防弾チョッキはかなり重くて、確かに動きづらいです。
僕の装備…、シャツ、トランクス、白衣上下セット、防弾チョッキの4品です。バランスがいいですねぇ~。

「そろそろ目的地の上空に着くわ」
「準備は完了だな」
「って、ちょっと待ってよ! 結局どこに行くのさ!?」
「着いてから話すわ」
「渚、あと10秒だ。ヴェスも準備いいか?」
「いいヨ! いいヨ!」
「あぁ~もぉ~! どうにでもなれ~~~って感じだよ!!」
なんでこうなってしまうのでしょうか? 早く教えてほしいのにぃ!!
「ヴェス! そろそろいいわよ」
「わかっタ! わかっタ!」
そして…、僕たちが乗っていた飛行機?は突然虹色の光になって消えました…。

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!???」

僕の悲鳴が青空に響き渡ります!
僕の体は地球の重力に引っ張られてどんどん落ちていきます!ってさむっ!
「ありえないッ~ありえないッ~ありえないッ~ありえないッ~ありえないッ~!!!」
僕はそりゃ~パニクりまくりですよ! だってとっても高いところからパラシュートも着けずに落ちているんですよ!? はっきり言ってこれを読んでいるあなたもこの状況に陥ったら僕と同じようにパニクりますよ!! 絶対にぃぃぃっ~~~!!!

「大丈夫よ、和也君」
横を見てみると、立花さんが僕と同じような格好をして落ちていました。その背中にはエシナが乗っていて、エシナは片手でラジコンカーを持っていました。
そして、立花さんは僕の手を掴みました。
「何が大丈夫なんだよ! 死んじゃうよッ~~~!!」
「大丈夫よ。それよりも、今からキメ台詞を言うから一緒に言ってね!」
「キメ台詞は“ミッションスタート!”だ!」
「何を言ってるんだぁッ~君たちはッ~! 正気じゃないよッ~~~!!」
僕まで気が狂いそうになります!
「でもキメ台詞を言わないと死ぬわよ?」
「そうだヨ! そうだヨ!」
「もう訳わかんないよッ~~~!」
「じゃあ、1・2・3!で言うぞ!」
何か勝手に決めてるし!
「行くわよ! 1・2の!」


「ミッションスタートよ!」(立花さん)
「ミッションスタートだ!」(エシナ)
「ミッションスタートネ!」(ラジコンカー)
「ミッションなんてクソくらえぇぇぇッッッ~~~!!!」(僕)


みんなの声が虚空へと消えて行きました。そして、


「ミッション開始であります!!!」(???)



――――――ミッションスタート!!!



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