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ツンデレデンデン! 第24幕

 うわぁ~~、久しぶりに続き書きましたよ。コレで280ページ。投稿は350ページまでだから、それまでになんとか区切り良く終わらないとね。

 では、タイトルを一新した”ツンデレデンデン!”の第24幕

 スタート!



第24幕  メイド喫茶計画



 俺様は北条にメイドの素晴らしさを熱く語り、なんとかメイドとは何かを理解してもらえたところで、俺様の独断と偏見で各役割のチームリーダーが次のように決められた。
 
レデン:【メイドチームリーダー】
 マドフェフカ:【衣装製作チームリーダー】
 北条:【宣伝チームリーダー】
 銀杏:【調理・調達チームリーダー】 
 
 選考理由は以下の通りだ。

 レデン:メイド経験が豊富。恐らく世界最強のメイドだろう。
 マドフェフカ:何となく手先が器用そう。編み物している光景が似合いそうだな。
 北条:フルート以外の楽器の知識もありそうなので、各人に楽器演奏の手ほどきをしてもらう。そして北条以外のメンバーで演奏団を結成し、演奏しながらメイド喫茶の宣伝をしてもらう。決して北条は演奏してはならない。コレ鉄則ね。
銀杏:豪快な料理を作り上げる力と、豪快な食材を手に入れる力の両方を持つ。インパクト重視の料理で、お客さんの度肝を抜いてやるぜ。まぁ一番の理由は、俺様の単なる嫌がらせだけどな。

 以上が選抜理由だ。ふっ、俺様の目に狂いは無い。これぞ最高の選抜チームだ。○○監督もビックリすること間違い無しだな。ハハハハハッ。
 俺様は教卓に両手を着きながら、
「さぁ皆! あとは自分のやりたいと思うチームに参加するだけだ。あっ、ちなみに各チームごとにちゃんと人数が均等に分散されるように分かれてくれよな? クラスの人数が三十五人だから、各チームごとに九人ずつでイイ感じになるな。それとこれも重要なことなんだが、北条は【宣伝チーム】のリーダーになったが、決してそのチームのメンバーは北条にフルートを吹かせないこと。分かったな?(『は~~い』と女子から声があがる) よ~~し、では分かれるの開始ぃぃ。……っておいおいどうした。皆して同じところを不安そうな眼差しで見やがって。何かあるのか?」
 皆の視線の延長線上に、オニギリを食べてお腹が一杯になって良い寝顔でくたばっている時雨の姿があった。口元にご飯粒が付いているぞ。もったいない。
で、眠っている時雨から目を離し、その横にいるヤツに視線を向けた。窓際の一番前にいる奴だ。そうアイツだよ。
俺様とクラスの連中の計三十五人分の視線がそいつに注がれている。で、その当人は、
「………………」
 変なモノを枕にして、黙ってずっと外の景色を眺めていた。もしかして寝ているのか?
「なぁ銀杏。俺様の話、ちゃんと聞いていたよな?」
 エリザベスというワケの分からんモノを頭に飼っている銀杏は、枕にしていたエリザベスから<むくぅぅ>と顔を上げると、 
「………………」
 なんかものすっげぇ無表情で俺様の方を見た。
「あの……聞いていましたか?」
 ちょっと敬語口調になっちまったぜ。昨日の昼休みのあの一件のせいだ。銀杏がエリザベスに奇妙な赤いモノを食べさせた瞬間、エリザベスの先端から火炎放射が<ボオオオオォォォ>と地獄の断末魔みたいな音を出しながら出てきた。あれは正直、世界で一番怖いっす。俺様は火葬よりも土葬の方が好きなんだ。だってそのほうがゾンビとして生き返るイベントが発生するかもしれないじゃん。
 で、そんな控えめな俺様の質問でさえ、銀杏は、
「………………?」
 首を傾げていた。
「聞いてなかったのかよッ!!」
「…………聞いていなかった」
 どうやら本当に寝ていたらしい。さっきの騒ぎの中ずっと寝ていたのかコイツは。図太い神経の持ち主だな。ヨダレの跡も見えるぞ。まぁそれは置いといて、
「いやあのな。いま文化祭で出すメイド喫茶の役割分担について話し合っているんだけどな、とりあえず銀杏には【調理・調達チーム】のリーダーになってもらったからさ。宜しく頼むな。異論無いだろう?」
「…………ない」
「そっかぁ。やっぱりイヤかぁ、ってオーケーエッ!?」
 俺様は不覚にもノリツッコミなるものを人生で初めてしてしまったぜ。まさか銀杏が何の異論も無しに要求を呑んでくれるとは夢にも思っていなかった。てっきり拒否して、それを断固反対しようとして迫る俺様をエリザベスで<ブバァァッ!>と薙ぎ倒して今日一日終了~~ってなるのかと思っていたが、まだ今日の学園編は終わらないらしいな。
「……私は料理を作ればいいだけでしょ?」
「あ、あぁ……。それに加えて、出来れば食材の調達も任せてもいいか? 食器とかは他の奴等に用意させるからさ」
「……分かった。料理は任せて」
 なんか妙に自信満々になっていた。コレってあれだ。遠足の日に自分でお弁当を作ると言ってはしゃぐ子供みたいだ。だけど、銀杏は決してそんな感情を表に出してはいない。感情を読ませないいつもの無表情ってやつだ。だがしかし、エリザベスの方は喜んでいるのが見え見えで、<ブルンブルン>と回転していた。……あれ、おかしいな。何やら銀杏のカラダが上昇していくように見えるんだが……。やっぱり浮いてるよアレ。
その驚きの光景を何も言えずに見ていると、北条が身を乗り出して「ちょっとお耳を」と手招いていた。その通りに耳を近づけると、
「スゴイですっ。銀杏さんが先生の言うことを聞いたのは初めての事です。ある意味歴史的瞬間ですよ。私達にとっても驚きです」
 と、興奮気味に耳元で小さく呟いた。
「それはそうと新谷先生――」
 まだ続きがあるようだ。
「――なんで私がフルートを演奏しちゃダメなのんですか~~ッ」
 <ギュムムッ>と首を絞められた。
「グエエェェって、オラッ!(無理やりそれを引っぺがす) そうかそんなに理由が聞きたいのか。ならばお前の耳にタコができるまで説明してやるよッ。いいかッ! お前がフルートを吹くと何処からとも無く凶悪なゴキブリ軍団が襲来して何もかも巻き込んでグチャグチャにしちまうんだよ。分かるか? 分かるよな? 昨日の出来事でお前がフルートを吹くとどれだけ危険かってことがよ~~く身に染みました! だからダメだッ。アーユーオーケー?」
「ノォッ!!」
「ゲエエェェッ」
 北条は英語で拒否すると、また首を締め付けてきた。
「私も皆の力になりたいのです~~ッ。だから演奏させてください~~ッ<ギュム~~>」
 北条は外見大人しそうなのに、中身は何気に頑固だった。だが、俺様の頑固さには勝てないだろう。
「ノォッ!!(無理やりそれを引っぺがす) うげほっげほっ。あのな、お前は演奏しなくていいんだって。お前は皆の演奏が上手くなるように皆のコーチをしてくれればそれで良いんだ。それは北条、お前にしか出来ないんだよ。お前の力が必要なんだよ。お前の演奏は不必要だけどな」
「イヤです~~ッ。私もフルート吹きたい吹きたい吹きたい吹きたい吹きたいぃぃッ!!」
 頭を抱えて床を転がり始めてしまった。大人しそうな北条がこれほどまでにフルートに固執するとは……こういうタイプってあまり関わらないほうがいいんだよなぁ……。でも、このまま何もさせないってのはさすがにカワイそうか? そこまで俺様は鬼じゃないしなぁ。う~~む……、よしっ、 
「じゃあさ、フルート以外の楽器でなら演奏しても良いことにする。アーユーオーケー?」
「……フルート以外ですか?」
「イッエ~~ス。それ以外を認める事はデ~~キマセ~~ン」
 フルートが何語かは知らないが、とりあえず英語っぽくしゃべってみました。まぁノリだよ、ノリ。
「……フルート以外……」
 北条は床にペタリと女の子座りしたまま、真剣な様子で思案していた。他に演奏できる楽器が有るのか無いのか、ここが勝負の分かれ所だな。
 まぁどっちにせよ、フルートさえ吹かせなければ北条は人畜無害だろう。危険なフルートを排除すれば、宣伝が成功する確率が格段に高くなるってもんだ。
 しばらく考えていた北条だったが、考えがまとまったのか立ち上がり、そして少しだけ自信なさげにこう言った。
「分かりました……。苦渋の選択ですが、フルート以外の楽器を演奏します。それだったら私も楽器を演奏してもいいんですね?」
「うむ。フルート以外ならストラディバリウスでもグランドピアノでも何でも御座れだ。好きなようにやればいい」
「はい、そうします。私その両方持っていますので」
「……マジっすか?」
「マジっす」
 おかしいなぁ。両方とも安くても一千万は下らないんだけどなぁ。この世の中は間違っているよなぁ。
「まぁいいや。とりあえず、各役割のチームリーダーは全力を注いで各々の仕事に取り組むように~~。レデン、メイドチームのリーダーちゃんとやっていけるよな?」
 するとレデンは少しだけむっとして、
「ヴゥゥゥゥ、しょうがないからやってあげるニャッ。レデンがリーダーってのにならないと、新谷先生が皆に変なことを教えそうニャ。そんなことはこのレデンが絶対に許さないニャッ!」
 人差し指を立ててそう高らかに宣言し、皆の拍手を集めていた。
「宜しい。では次にマドフェフカ委員長に問う。メイド衣装製作チームのリーダー、ちゃんと務まるよな?」
 するとマドフェフカは顔を伏せたまま、
「……はイ……」
 と答えた。
「ん~~ちょっと元気のない返事だがまぁいいだろう。メイドの衣装は宜しく頼むな。じゃあ次は北条に問うぞ。宣伝チームのリーダー、ちゃんと出来るよな? 変なの召喚しないよな?」
 すると北条は威勢の良い漁師みたいに、
「はいっ! 任せてくださいぃぃ。ゴキブリは決して召喚しませんッ!」
「……その言葉を信頼しておこう。くれぐれも失敗しないようにッ」 
「はいっ!」
 さてと、あとは……銀杏だけか。アレ? 銀杏どこ行った? いないんだけど。あのまま空まで飛んでいったのか? 一応もう一回意識確認をやっておきたかったんだが……まぁいっか、何だかやる気を出していてくれたみたいだし。
「よ~~しっ、じゃあ皆ぁっ。明日までにはちゃんと各チームごとに分かれておいてくれ。チームごとでやることを明日までに俺様がまとめてプリントを作っておくから、明日それを渡してから作業を開始するってことで宜しく」

――――――『は~~い』

 と、北条と時雨だけが返事をしていた。って、二人だけかよ。おいおい皆もっと盛り上がろうぜ。メイド喫茶だぞ、メイド喫茶。すっげぇ興奮するよな。文化祭当日が楽しみでしょうがないぜ。……いつの間にか時雨が復活しているし。
「ちなみに何のチームですか?」
 復活したものの、眠っていたときに失った時間は戻っては来なかったらしい、時雨だけが話に着いて来ていなかった。
「文化祭でメイド喫茶をやるためのチームだよ」
「お~~、なんだかスゴイことになっていますね。……メイド喫茶あぁッ?」
 時雨がびっくりしていた。メイド喫茶って知らないのかお前?
「そう。メイド喫茶だ。知ってるだろ?」
「……良く皆が許可しましたね」
 かなり疑っている目をしている。そんなに信用無いかな俺様?
「俺様の人徳が有れば当然のことだ」
 まぁ、人徳というよりも策略だなこりゃあ。……最後は結果オーライの形だったけどな。
 その内容で満足したのか、時雨はこっちまで来ると、教卓の中から教科書を取り出しながら、
「……そういうことにしておきましょう。それよりも今は授業の残り時間の方が気になります。皆さ~~ん、授業を始めますよ~~。数学の教科書の九十五ページを開いてください~~。あっ、新谷先生はそこに座って黙って授業の様子を眺めていてくださいね。邪魔しちゃダメですよ?」
「うぉっ? あっという間に時雨先生に指導権を奪われたばかりじゃなく、俺様を邪魔呼ばわりしやがった!? 許せねぇっ。こうなったら……保健室でぐっすり眠ってやる~~」
 俺様は教室から飛び出した。だって時雨の授業なんて眠くなるだけだし。
 それに俺様にはやることがあるんだよ。まぁ夜の話だけどな。明日までに“モウマンタイ組メイド喫茶計画書”を作り上げなければいけない。これは徹夜の作業になるだろう。だから今のうちに寝溜めしとかないとカラダが持たないってワケ。学園でやる今日の仕事はもう終わった。あとは家で仕事をするだけだ。
あっ、あと一つだけ仕事が残っていたぜ。それは、教頭にモウマンタイ組が文化祭に参加することを報告しに行かなきゃいけないってことだ。参加書を出さなきゃ意味ないじゃん。危ない危ない。忘れるところだった。やることが山のように有り過ぎて困っちまうぜ。だが……こういうのって楽しいよな。久しく忘れていたぜ。まるで本当に昔の頃に戻ったような気分だ。あの頃は……って、感傷に浸るなッ。もうちょっとでブルーになるところだったぜ。セーフ。今を生きろよ俺様。 
 そして俺様はこの後、“モウマンタイ組”、“メイド喫茶”と記述した文化祭でやる出し物の参加書を、泣いて受け取りを拒否する教頭に力ずくで渡すと、それから保健室でぐっすりと仮眠を取った。で、目が覚めるともう放課後になっていて、ふと横を見るとレデンがベッドの傍の椅子に座って寝ていたので、レデンを起こして一緒に家に帰って、一緒に夕食を食べて、一緒にお風呂に入ろうとしたらマジで殺されそうになってやばかったです。
「ニャ~~? 何をしているのニャ?」
 ピンク色のパジャマ姿のレデンは、風呂上りの牛乳を一気飲みすると、タオルで頭をゴシゴシしながら、パソコンに向かって作業している俺様に話しかけてきた。
「これか? メイド喫茶の計画書だ。皆にはコレを見て作業を進めてもらおうと思ってな」
 カタカタとキーボードを鳴らすと、レデンがディスプレイを覗き込んできた。
「ムダに凝っているニャ」
「無駄じゃない、必要なことだ」
「ニャらいいんだけど……」
 そしてレデンは離れていった。が、すぐに戻って来ると、耳元で、
「だけどニャ、もし皆に変なことをさせようとしたら、その時はレデンが責任を持ってご主人様を住民登録の欄から消し去るからくれぐれも気をつけてニャ?」
 このときレデンから掛かる息が、まるで雪女の息吹みたいに冷たかった。
「……どこでそんな単語を知ったのかは知らないが、了解したぜ」
 それに対して満面の笑みで返した俺様は、ディスプレイに向きなおして作業を続行した。
まだまだやることは山積みで困っちまうぜ。メイドの作法マニュアルの作成から始まり、メイド衣装の基本デザイン、宣伝用の演奏曲の選抜、予算の使い道……。あっ、メイド喫茶の内部はどうテーブルやら玄関を位置決めすればいいかな。だあぁ~~悩む~~ッ。俺様の技量が試されている瞬間だな。
「ねぇねぇ、ご主人様」
「ん?」
 後ろに振り返ると、レデンが俺様の肩を引っ張っていて、何か言いたそうだった。
「今日も美鈴さんいないのかニャ?」
 そう。実は今日も美鈴の姿を見ていないんだ。最近は毎日朝と夜に顔を会わせるという生活をしていたのに、昨日の夜から今日まで一回も美鈴を見かけていない。おかげで飯は俺様が作らないといけなくなって迷惑しているんだよ。
「やっぱり何かあったんじゃないのかニャ?」
 俺様が何も言えずに黙っていると、レデンは不安が隠せない様子でそう訊いてきた。
なるほど。レデンはこう思っているんだな。美鈴が誘拐やら強盗やらそんな類の事件に巻き込まれたと。大丈夫だって。そんなこと在り得ないっての。
「美鈴がこんなに帰ってこないのは珍しいことだが、まぁあまり詮索すんなって。事件とかそんなちゃっちぃモノに美鈴がやられることなんてまず無いから。多分、誰かと旅行でも行ってんだろ?」
「……そうなのかニャ……」
「そうだって。美鈴もそろそろイイ大人なんだから、旅行の一つや二つは黙って行くもんなのさ。今頃誰かと楽しく旅行しているって」
「……ならいいんだけどニャ」
 そしてレデンはベッドにゆっくりと潜り込むと、こっちに背を向ける感じで黙ってしまった。何だか拗ねているように見えて仕方ないんですけど。
「……明かり消すぞ」
「……うん」

――――――パチン

 照明を消し、俺様はディスプレイの明かりだけで計画書作成の作業を再開した。しばらく無心で作業を進めていると、不意にレデンから寝息が聴こえてきた。いつもよりもずっと遅い。寝付いてから一時間も経過していた。いつもは一秒で寝息が聴こえてくるのに、今日はいやに時間が掛かったな。それだけ美鈴を心配して寝付けなかったってことか……。
 俺様はレデンの傍まで行って、蒲団の掛かっていない肩まで蒲団をかけ直してあげた。それから頭を撫でてあげると、レデンはくすぐったそうに頭を動かした。起きているのかと思ったが、頬っぺたを突いてみても反応が無かったので本当に寝ているようだった。
一体どんな夢を見ているのだろうか。不安にならない夢じゃなければいいんだけどな。まったく……美鈴のヤツめ。レデンに心配かけるようなことをしてんじゃねぇよ。早く帰って来い。そして飯を作れ。お前の作る飯の方が美味いんだよ。
 はぁ、誰かに愚痴りたいぜ。チャットでもしようかな……。だけどそんな愚痴を言う時間すら今はもったいない。早く作業を進めなければッ。
 萌えの化身が乗り移ったが如く、俺様は怒涛の勢いで計画書を作成していった。その後、俺様の作り上げたメイド喫茶計画書は、のちに全世界のメイド喫茶で採用された……とか妄想しながらやっていると、結構すごいアイディアが浮かんできて順調に計画書の枚数が増えていった。そして気付くと時刻は午前三時。計画書は完成していた。
「終わったぜ……<バタッ>」
 最後にプリンタのスイッチを押して仕事をやり終えると、急にものすごい眠気が襲ってきてキーボードに伏せ倒れてしまった。そのまま俺様は眠気に耐えられなくなり、十秒数えないうち眠っちまったんじゃないだろうか。
そして目が覚めるともう朝だった。ディスプレイの中の時計を目を擦りながら見る。朝の七時を表示していた。外からは車の走行音が数秒ごとに聴こえて来る。朝の早いサラリーマンって大変だよな。距離のある通勤だと毎朝大変だよ。まぁ俺様は今まで不規則な生活をしてきたせいで、朝七時に起きるのも結構キツいんだよなぁ。だけど次第に早起きも慣れてきた。現にもう目覚めはバッチリだ。
 横を見る。この時間だったら眠っているはずのレデンは……、ベッドには居なかった。
「アイツもう起きたのか。……あれ?」
 俺様の背中には、昨日掛けた覚えの無い蒲団があった。こんなものを取ってきた記憶は無いんだけどな……待てよ。
「……もしかしてレデンが……?」
 そうとしか考えられないぜ。きっとそうだッ。蒲団を握る手に力が入ってしまう。あれ? 何だか目の前が霞んできたぞ。おかしいなぁ、ぐすっ。
 そしてさらに驚いた事があった。何処からともなくイイ匂いが漂ってきたことだ。
「ま、ま、ま、まさか……!?」
 ちょっと待ってくれよ。そんなこと在り得ないって。この流れでいくと、何だかレデンが朝の食事を作っているって感じになっちゃうんですけど。いや~~無理無理。レデンに料理なんて教えたことないって。そんなの無理だって。だけどこのイイ匂いはなんだ? 食欲をそそられるんですけど……。いや~~無いって。絶対無い。変な希望を持ってそれを砕かれたときほど悲しいものは無いんだぞ。だからコレは無いって。きっとレデンはコンビニに行って、暖めてもらった弁当を持って帰ってきたぐらいだって。それはそれですごい事だしな。偉いぞレデン。偉いっ。
 一応コンビニ弁当でも、朝食の準備をしているなんて偉いと思った俺様は、レデンの頭を思う存分に撫でてやろうとリビングに行って驚愕した。

――――――トントントン……カタカタカタ……

 包丁がまな板にぶつかる音。鍋が沸騰する音。醤油のイイ匂い。食欲を優しく導くカーニバルだ。それが辺りに充満していた。
そしてその中心に居る人物。レデンだ。しかもエプロン姿。ひょっ、ひょえええ? マジで? レデンがエプロンを着けているなんて初めての事だぞ。しかも大人用のエプロンしかないから、カラダの小さいレデンにとってはワンピースみたいになっている。あっ、ちなみにちゃんとその下にはピンク色のパジャマを着ているから安心してくれ。やっぱり高望みをしちゃあいけねぇよ。
「あっ、ご主人様おはようニャッ」
 天空に輝く太陽よりもありがたいありがたいレデンの朝一番の笑顔で、俺様はさらに今の状況を理解する事が出来なくなった。
「もうすぐで出来るから座っていてニャ」
 壊れたブリキ人形みたいになって突っ立ていた俺様を、レデンは押して押してイスに無理やり座らせると、また<トントン>と包丁を叩いていた。
……驚きすぎて心臓が不整脈で稼動中だよ。だってさ、料理なんて何も教えてもいないのにレデンが料理しているんだぜ? 例えるなら、飼っているネコが、教えてもいないのに『チンチン』をしたときぐらいにビックリだぜ。 
誰かに教わったのか? もしかして美鈴? それとも独学? どっちにしろ何でレデンが朝食を作っているかは原因不明だ。 
「もうすぐで出来るニャ~~」
 鍋に<ポチャポチャ>と何かを入れながら、レデンはまるでお母さんの真似事をしている少女のように言ってきた。
「あ、あぁ……」
 それに一応返事を返した俺様は、この何と言うかムズムズした気持ちに耐え切れなくなって、テレビのスイッチを入れてニュースを見ることにした。……おっ、何処もかしこ『文化祭では、必ず一つのクラスは“メイド喫茶”を行わなければいけない』の法律が施行されったことしか報道していねぇじゃん。へぇ……あのクソジジィ、本当に総理大臣だったんだぁ。
……あぁダメだ。こんなニュースじゃ気が紛れねぇ。どうしようもなく考えてしまう。悲しい……。レデンがどんどん女になっていく。どんどん遠い存在になっていく。胸がッ、苦しいッ。いつまでも子供のままってワケにはいかないのか……。レデンにはずっと俺様の手料理を食べていてもらいたかった。だけど美鈴が来るようになってからはその願いは殆ど叶わなくなり、遂にはレデンが自分で料理を作るようになってしまった。それは嬉しい。だけどとっても悲しい。俺様の作った料理を食べたレデンが、笑顔で『美味しいニャ』と言ってくれる日々に戻りたい。あの頃のレデンはそれはそれは純粋で生まれたばかりの子猫並に可愛かった。だけど美鈴が来てからその心はブラックボックス化しちまった。レデンが何を考えているか分からなくなってしまった。それもこれも全部美鈴のせいだッ! あのバカ妹が来てから全ての歯車が音を立てて崩壊しちまったんだ。憎いッ。美鈴が憎いッ。キエーーッ!
「出来たニャ~~♪」
 その天使の声で正気に戻る事が出来た。
「おっ、出来たか」
 お椀を乗せたお盆を持って、レデンがゆっくりとイスに座る俺様の方まで歩いてきた。そして頬を赤らめながら、
「えっと……昨日は夜遅くまでお仕事お疲れ様だったニャ。そのご褒美にレデンが朝ごはんを作ってあげたニャ。ありがたくいただいてニャ」
 テーブルの上にお椀を置いて、こっちに箸を差し出してきた。
 ……アレ? おかしいな。目の前がもうなんか凄いことになっているよ。見えないッ。全然見えないッ。世界はこんなにも美しいのに見えなくなったッ。うおおぉぉぉんっ!
「ご、ご主人様っ? どうしたニャ?」
 目元を押さえて何かを我慢している俺様の異変に気が付いたのか、レデンは差し出した箸をテーブルに置いて、俺様の顔を見ようと顔をすぐそこまで近づけてきた。
俺様は目を少しだけ開けてレデンを見た。とっても心配そうな表情だった。違うんだ。違うんだよレデン。悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて……ただ嬉しくて……泣きそうになっているんだよ。泣くのを我慢しているだけなんだ。嬉しいのに泣いたら、レデンが勘違いしちゃうんじゃないかと思ってな。
「……レデン、箸をくれ」
 自分ではもう箸を見る事が出来ない。だからレデンに取ってもらうことにした。
「うん。はいどうぞニャっ」
 心優しいレデンから箸を受け取けとる。ありがとうレデン。本当にありがとう。俺様は、いま世界中の誰よりも幸せです。
 お椀を持つ。暖かい。コレ、暖かい。まるでレデンの温もりがお椀を通して伝わって来ているようだ。
「……いただきます」
 お椀の中身は分からない。だって涙が邪魔して見えないんだ。くそぉ、涙のバカ野郎。
 何とかお椀の中身を箸ですくった。それを口元に近づける。視覚を今は使えないので、代わりに嗅覚と触覚だけが頼りだ。香りは……イイ香りだ。醤油のイイ香りがする。口の中に入れた。触感は……ご飯だ。これってまさか……。
「美味しいかニャ?」
 ちょっと待ってくれレデン。ほんの少しだけ待ってくれ。自分が食べたものを確認したいからさ。
 涙が次第に出なくなっていく。よし、目を開けるぞ。勇気を出せ俺様。とりゃああっ!
「………………」
 あのまま目が一生見えなくなっていれば良かった。
「レデン特性の“ネコまんま”は美味しかったかニャ?」
 俺様が食べたもの。そのお椀の中身。それは、ご飯の上にカツオ節を乗せて、その上から醤油をぶっ掛けたものだった。通称これを庶民の間で“ネコまんま”と呼ぶ。ネコが大好きな食べ物だが、人間の祝いの席で出る事は殆ど無い食べ物だろう。
 じゃあさ……、さっきの包丁の<トントン>とか、鍋の<カタカタ>といった音はなんのために鳴っていたんだ? ネコまんまってのは超簡単にできるもんだろ? 包丁とか必要ないじゃん。
「レデン……?」
「なんニャ?」
「あのさ……包丁で何を切っていたんだ?」
「カツオ節の塊が切り刻んでいたんだニャ」
「じゃああの鍋は?」
「あれは、醤油と切り刻んだカツオ節を一緒に煮込んでいたニャ。それでレデン特性のネコまんま用の醤油ソースが完成ニャッ」
 あの醤油のイイ匂いはそれだったのか……。確かにイイ味出ているネコまんまだよ。だけどさ……朝食がネコまんまだけってさ……。ちょっと予想外だったよ。
「……あははっ。てっきり俺様、あの鍋の中身は味噌汁だと思っていたよ。あははははっ」
 するとレデンは自信満々に、
「味噌汁なんて、とてもじゃないけど作れないニャっ」
 <ガビーン……>、<ガビーン……>、<ガビーン……>、<ガビーン……>。
 朝ごはんは味噌汁と温かいご飯だと思っていたのに、実際に出てきたのはネコまんまだった。悪いけど、そのショックを俺様は隠しようがなかった。
「そ、そっかぁ。でもなっ、ネコまんまが作れるなんて大したモンだぜ。レデンはとっても料理上手だな。うん。とっても美味しかったぜ」
「……本当ニャ?」
 レデンは少しだけ不安そうに訊いてきた。だから、出来るだけ大袈裟に言おうとして、 
「ん? あぁ。本当の本当だ。本当に美味か」
「嘘ニャッ!!」
 <バンッ>と思いっきりテーブルが叩かれていた。
「レデン……一生懸命に作ったのに……ご主人様の口には合わなかったのニャ……。ご主人様は味噌汁とかの方が良かったんだニャ。はっきりとそう言えばいいニャ……。別に気にしないニャ……ぐすっ」
 目元に“これでもかっ”と言わんばかりの量の涙が溜めり始めたレデンは、落ち込んでしまったのかをリビングの方を向いて啜り泣きを漏らしていた。あぁっ、レデン済まんかった。俺様が全部悪いんだ。今から弁解するからっ!
「いっ、いや違うって。本当に美味しかったって! ほ、ほらっ、味噌汁なんてもんはドブ水と同じようなもんだよな。そうそうっ。あんなものを考えたヤツに一度“渇ッ”を入れてやりたいよ。それに比べてレデンの作ったネコまんまといったら、美味し過ぎて感動のあまり声が出せなくなってしまったぜ。もうちょっとで昇天しちまう美味しさってやつだよ。こんな大層なもんを生きている間に食べる事が出来て、俺様は世界中で一番幸せなやつだ。ありがとうレデン。こんなにも俺様のことを大事にしてくれるのは、レデン、お前だけだ」
 <ズズズ~~ッ……ぐすっ>
 レデンは自分のカラダから出てきた全ての体液を吸い込むと、
「……本当にそう思うニャ……?」
 と、半身だけこっちに向けて言ってきた。
「あぁ。レデンの優しさは俺様が一番理解しているって。不器用だけど温かい。それがお前じゃないか。別に泣くようなことじゃないはずだぜ?」
「ご、ご主人さまぁまぁぁぁ……」
 レデンが飛びついてきた。いつもなら乱暴だが、今だけは弱々しいレデンを優しく抱きしめる。そして頭を撫でてあげた。
「ニャニャ~~♪」
 ご機嫌が戻ってきてくれたようだ。良かった。今回は俺様が全面的に悪かったから、本当にどうもすいませんでした。次からは気を付けるから安心してくれ。朝食を作ってくれてありがとうレデン。今度なにか買ってあげるよ。
「さぁ。一緒にネコまんま食べようぜ。冷めちまうよ」
「ニャニャ! 了解ニャっ!」
 レデンは自分の分のネコまんまを作るために台所へと戻っていった。見ると、レデンの尻尾はとっても嬉しそうに高速回転していた。まったく……、あんなに尻尾が回転したら前に吹っ飛んで行っちまうぞ? はははっ。だけどまぁ嬉しそうで何よりだよ。さてと、残りのネコまんまを急いで食べて学校に行く準備をしないとな。これから忙しくなりそうだぜっ<バクッ>
 俺様がネコまんまを口に含んだ、その時だった。

――――――『えっ、はい。ここで特番を中止して緊急ニュースをお伝えします。え~~、本日の午前未明。○○湾で若い女性の水死体が発見された模様です。女性は黒のスーツを着ていて、年齢は推定十代後半から二十台前半と見られます。所持品は無く、物取りの犯行の可能性も在ると見て、県警が捜査を……』
 
 そこから先は耳に入ってこなかった。
 OL。黒のスーツ。十代後半から二十台前半。……まさかな。

――――――ガシャァァァンッ!

 何かが割れる音。そこに、レデンがサファイアみたいに顔を真っ青にして突っ立っていた。その足元には、恐らくはネコまんまが大盛りで入っていただろうレデン専用のお椀が、無残にも砕け散っていた。そして、
「……ご、ご主人様? こ、これって……まさか……、美鈴さんじゃ……?」
「………………」
 そんなことがあるわけないだろう。
 とは言えなかった。
 テレビの中の女子アナが話した内容に、俺様はとてつもなく嫌な予感を感じていた。

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