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”ツンデ・レデン・刹ッ”改 第四幕~第十幕

 
 ボクの小説は書き直しを入れる前は、25幕まで書き上げていて、枚数が220枚くらい行っちゃっているんですよね~。こうして数字にしてみると多いと感じます。

 で、今のところ十幕まで書き直して それで増えた枚数が30枚でした。つまり、十幕書き直すと30枚増えるということで。
 
 と、言うことは、25幕まででは75枚増えるという計算になります。で、このまま書き直していくと、普通に300枚超える計算ですね。
 ……学園メイド喫茶偏を70枚以内ぐらいで押さえないといけないッ!
 これはキツイっ♪
 
 書き直すのって、普通に書いていくのよりもキツイっていうことが分かりました。細かい情景、心情、新たな展開を書き足していく。それは無限の可能性。考える時間が長くなります。でも、かなりいい勉強になります。ありがとう”ツンデ・レデン・刹ッ”

 十幕まで見直しましたけど、やっぱりクソ面白かったっ♪

 ボクは断言いたします。

 この作品は……、今まで読んだ本の中で最高に面白いッ!!!
 いや、コレは本当にマジでシャレ抜きで本気で思うよ。誰にも負けない自信があるッ!!!

 まぁ、コレはボクが爆笑するためだけにある作品なので、他の人が笑えなくてもボクだけが笑えればそれでいいんですっ♪

 では、”ツンデ・レデン・刹ッ”改 第四幕~第十幕  スタート!



第4幕  依頼



 着いた先は人ごみで賑わっているある一角。そこは地元でも有名なメイド喫茶。見える奴らは皆ヲタク。自分ではカッコイイと思っているようなリュックサックを一様に肩に担ぎ、年中無休で活動するコイツ等は、俺様の大いなる収入源となっている。
ここは天国、癒しのオアシスワンダーランドだ。この目の前の扉を開くと極楽浄土への道が開かれること間違い無しだ。用意はいいか、お前たち? レッツゴ~。

――――――カランコローン……

 世界が変った。
「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ~~」
ハッハッハッァァァッッ~! メイドさん……、ハァ……ハァ……、ゴクリッ!
扉を開けて入ってきた俺達を出迎えてくれたのは、メイド服を着るために生まれてきたようなメガネっ子+巨乳の属性を兼ね備えた、俺様が今まで逢ったメイドさんの中でも最高ランクのメイドさんだった。緑色のショートヘヤーにカチューシャが良く似合っている。なるほど……、これは流行るわけだ。店内には腐るほどの油ギッシュな生命体が地に足を生やしていて、少し暑かった。ガヤガヤと五月蝿い騒音も随時生産中だ。お前らどこかへ行け。
「いや、俺達は客じゃないぞ」
平静を装っている俺様だが、目の前にいる生メイドさんに興奮して、全身から血が噴出さないようにこらえるので精一杯だぜッ!
「あはっ、お待ちしておりました。何でも屋の和也様ですねっ?」
メガネが良く似合うメイドさんが健やかに笑った。ぐふぅっ……、メガネ好きならこれで一発KO、恋の病に侵されること間違いなしだな。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
メイドさんが店の奥に手を向けると、そこにはちょっとシャレたドアが立っていた。
えっ? どんなドアだって? それはご想像にお任せする。 
「よしっ、行くぞレデン」
先を歩きだしたメイドさんの後に着いていこうと、俺様は一歩を踏み出そうとしたが、

――――――ギュムッ

レデンに後ろから服を引っ張られて止められてしまった。
「……どうしたレデン?」
後ろに振り返ると、周りをキョロキョロギョロギョロ見ようと首を忙しなく動かしているレデンがいた。挙動不審すぎるぞ。現地民に追われている国際指名犯罪者か。
「ご……ご主人様、ここは一体どこなのニャッ!?」
前から怪訝な視線を照射されていることに全く気づかないレデンは、俺様の服を掴む手を震えさせながら、働くメイドさん達に目が釘付けになったかのように対象物を凝視していた。
「ここか? ここはだなぁ……」
「ここはメイド喫茶“テラメイド”ですっ!」
代わりにメガネ+巨乳のメイドさんが答えてくれた。
「な、何でそんな服を着ているニャッ?」
そう言いながら、レデンはメイドさんが着ている服を指差した。なるほど……、レデンはさっきからこのメイド服が気になって気になってしょうがないのか。可愛いやつめっ!
 レデンに指差されたメイドさんは、胸の前で両手を自分に向けて<グッ>と握り締めてから口を開いた。
「いいですか? 良く聞いてくださいネコさん」
「了解ニャッ」
<スー>と息を吸い込むメイドさん。そして言葉を放つ。
「この服無しでは、決してメイドさんには成れないからですっ! この服無しにメイドさんなんてありえませんよっ!」
力説どうもありがとう。
「ニャニャ~! メイドさんってすごいニャ~!」
何がだよっ? レデンの価値観が良く分からない。 
「そろそろ案内してくれないか……」
このままメイドについて語り合うのもいいが、仕事は仕事だ。
「あっ、すいません。私ってメイドの事になるとツイ我を忘れちゃうんですよッ。てへっ、こちらへどうぞ~」
 先を歩いていくメイドさん。その後をレデンが尻尾を左右に揺らしながら着いていく。俺様はそんな二人のお尻を見つめながら、店の奥へと進んでいった。

――――――――――☆

案内された部屋には、木造の立派なテーブルと大きな黒いソファーが置いてあった。
「どうぞこちらへ座ってください」
 突然、俺の横から何かが飛び出した。
「フニョフニョするニャッ~! 気持ちいニャ~」
砂浜でフラッグ先取り競争する暑くるしい男達のように、レデンがソファーに飛び込んでいた。いつもなら叱るところだが、まぁ無視だな。
「で、仕事の内容なんだが」
「気持ちよすぎるニャッ~! これほしいニャ~! ほしいニャァァ~~! 買えよ、ご主人様ぁぁぁ~!」
「はい……、今回の依頼は、この店のオーナーの“萌えレジスタンス”に関してお願いなんですっ!」
「ほう……、聞こうか……」
「買って買って買って買ってニャ~! スキありニャァ!」

――――――ブシュァァッ!

「私たちはオーナーに言ったんです。“今は激動の時代、このままのスタイルでは他のメイド喫茶に後れを取ってしまいます。正統なメイドも大切ですが、時代の流れを取り入れるのも大事なんです。ですから、ネコ耳付きメイドさんやツンデレメイドさんの正式導入を認めてください”って。そう言ったらオーナーは何て答えたと思いますかっ!?……頬から血が滴り落ちていますよッ?」
「確かに……、今の時代、正統メイドだけでは生き延びるのは厳しいかもしれねぇな。……あぁ……、これは気にしないでくれ。ジャレているだけだ」
「ニャッ!? この匂いは……、カツオ節ニャァァァ~~~! どこニャッ!? 出てくるニャッ~!」

レデンは五月蝿くそう叫びながら、キッチンらしき方へ神風の如く飛んで行った。そのままもう二度と帰ってくるな。
話は続く。

「さっきの提案に対して、オーナーはこうおっしゃったのです」
 軽くノドを鳴らして、一呼吸置いてから、
「“時代の流れか……、そんなものは必要ない。よいか、良く聞きなさい。ワシの時代は本当に物が無くてひもじかった……。だから、メイドさんを雇っていたお金持ちの友達の家に遊びに行った時は衝撃が走ったわい。まさに、”メイドさん萌えぇ~ッ!”じゃった……。今のメイドさんでさえワシにとって贅沢なのに、それにさらにネコ耳やツンデレじゃとっ!? ワシは萌えすぎて死んでしまうわいっ!“ と……」
話し終えたメイドさんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「……で、結局、俺様は何をすればいいんだ?」
 どうにも理解できなかった。
「ぐすっ、は……はい! それで私たちが、ネコ耳付きやツンデレのメイドさんを実践して、オーナーには萌えに対する抵抗力を付けてもらおうとしたのですが……」
「……ですが?」
メイドさんの表情がより一層険しくなった。
「私たちではレベルが高すぎて、オーナーが萌え死する可能性が出てきてしまったんですよっ!」
「……………」
赤ん坊に1時間ぐらいかけてアインシュタインの一般相対性理論を説明しても、赤ん坊が『そんなことを理解できるわけねぇだろっ、ボケェ!』とキレ出すように、俺様もこのメイドさんが今言ったことを理解したくなかった。
「ですから、オーナーが死んじゃうんですよッ。それを防ぐために、萌えのエキスパートである和也様には、オーナーに適度なツンデレ子猫娘のメイドさんを用意してもらいたいのですッ!」

ふっ……、言い切った。コイツは言い切った。ここまで言い切れるヤツはざらにはいねぇ。ここまで自分に自信が持てるヤツは珍しい。誇っていいぜ。アンタはイタイ。

――――――「カツオ節ゲットニャ~! メイドさんからもらったニャ~」
 
 お母さんがお父さんに買ってほしい宝石やら指輪やらを買ってもらえた時のような笑みを浮かべながら、戦利品をゲットして戻ってきたレデンの口の中は、<モッシャモッシャ>とカツオ節で埋め尽くされていた。ツバ飛ばすな。
「タイミング良く帰ってきたな」
もうすでに、俺様の頭の中ではこの仕事に対する計画はまとまっていた。ふふふっ……、完璧だ。成功率100%だ。そしてこの計画に欠かせない重要な役割を持つのが……、レデン。ネコミミ子猫娘であるお前の存在だ。お前なら出来るっ。
希望と優しさに溢れる視線をレデンに送ったつもりだったが、この小娘は何を勘違いしたのか。
「ニャッ!? ご主人様にレデンのカツオ節が狙われているニャッ! 先手必勝ニャッ」

――――――ザシュッ!

「よしっ! この仕事引き受けた! 仕事料金は成功した時のみで結構だ」
「あっ、ありがとうございます! って、大丈夫ですかッ!?」
「ツンデレ子猫娘のメイドには、このレデンになってもらう。心配することは無い。上手くやる。任せてくれ」
「いやそうじゃなくて……、頭から血がッ」
「そうだな。明日の13時、オーナーをここへ呼び寄せろ。オーナーの萌えレジスタンスを一気に上げてやるぜッ!」

あぁ……、生きるって素晴らしいよな。世界が輝いて見える。
くっくっくっ……、燃えてきたぞッ! いや、萌えてきたッ!!

「あ、あのっ、メイド服はどうされますか……?」
 メガネをかけたメイドさんは、自分の着ている服の胸元の生地を引っ張りながら答えた。まぁなんだ……、一瞬というか1秒ぐらいその手元のグランドキャニオンに視線を奪われたが、俺様の萌えレジスタンスが抵抗してくれたおかげですぐに理性を取り戻すことができた。
「いや結構! 偶然にも今現在俺様特性メイド服を絶賛製作中だッ! 言っておくが、明日は俺たちの好きなようにさせてもらうからなッ」
 意気揚々と修羅の如く立ち上がった俺様は、カツオ節の香りを辺りに撒き散らしている臭い製造機に顔を向け、
「じゃあ帰るぞ、レデン。今から特訓だッ!」
 口の中に詰まったカツオ節を<ゴクリッ>と飲み込んだレデンは、
「了解ニャ~! カツオ節ありがとニャ~、さいニャら~」
 先に部屋の外へと飛び出していった。
「はっ、はい! 明日はどうかよろしくお願いします」
そして俺達は、勇気や萌えやカツオ節の臭いを抱きながら、メイド喫茶“テラメイド”を後にした。

――――――――――☆

「カツオ節~♪ モッシャモッシャで美味しいニャ~♪ シに打点を付けたらいけないニャ~♪」
先日教えた“カツオ節の歌”を、カツオ節を貪りながら熱唱しているレデンの歌声をBGMに、俺様は今日、レデンにどんなメイドテクニックを仕込むか考えていた。
ふっふっふっ……、明日が楽しみだ。
適度な萌えだと? くっくっくっ……、そんなモノ……、この世に存在してはいけないぜ。やるなら……、徹底敵にだ! 俺様にこんな仕事を依頼したことを、ものすご~~~~~く後悔させてやるぜっ!

「だぁ~はっはっはっはっは~~~!」
「何だか楽しそうなのニャ~! ニャ~っはっはっはっニャ~~~!」
俺達の笑い声は、どこまでもどこまでも響いていった……。

「(問題があるとすれば、美鈴をどうするかだな……)」




第5幕   メイド化計画


 我が家に帰ってきた俺達は、血が滲んで蒸発してしまいそうなくらい凄まじい特訓を繰り広げていた。Tシャツに短パンというラフな格好でレデンが、
「お水をお持ち致しましたニャ~」
「うむ、済まないな」
テーブルの上、ちょうど俺様の真ん前に水入りコップを置く。まるで、中世時代のメイドさんがご主人様に接するように、忠実に、優しくッ。正に完璧な動作・姿勢だ。
「って、言っておきますけどニャッ。べ……、別にお客さんのために持ってきたんじゃニャいんだからニャッ。仕事だからしょうがなくニャッ!」
「あぁ……、分かっているさ」
コップに注がれた水を飲みながら、レデンの様子を伺う。少し赤面しながらも、言われた事を一生懸命に実践してくれるレデンを、心から誇らしく思う。
「よしっ、水を持っていく時の特訓はこれで終了だ。良くがんばったな」
「っ♪ やったニャッ……」
レデンは一瞬だけ嬉しそうにしたが、
「って、ご主人様のためじゃニャいニャ~! レデンはただあの服が着たいだけニャァ~!!」
<ビシッ>とレデンはあるところを指差した。そこには一卓のタンスが存在感タップリに居座っている。何処と無く趣があるタンス。その扉は空いており、その中には一着の服がハンガーで掛けられていた。その服とは、俺様自らがデザイン、製作した、ネコのモコモコを忠実に表現したメイド服だ。メイド喫茶“テラメイド”から帰ってきて製作を開始し、所要した時間は僅かニ時間。出来上がったモノを眺めたとき、我ながら素晴らしい出来栄えだと感極まってしまった。もう俺様、匠じゃね?
「ふ~……、そろそろいいだろう。着ることを許可する」
「やったニャ~ッ!」
<ぴょん>と飛び跳ねて喜びを表現したレデンは、軽い足取りでタンスまで移動し、掛けてあったメイド服を手に取った。
「よし! 早く着替えるんだっ!」
「了解ニャ!」

――――――ザシュッ!

目の前が真っ暗になった。ホォ~ン、ホォ~ン~……、緊急事態緊急事態発生ッ、視覚に異常アリ、続いて痛覚に異変が発生っ。直ちに応答せよ。
「うぎゃぁぁぁ~、目がぁぁぁッッ~~~!」
赤ちゃんだったら確実に泣いてしまうような痛みが目から脳に伝達された。でも、俺様は泣かないぜ? 
「美鈴さんに教えてもらった通りニャ。これなら安心ニャッ!」
 くそっ、諸葛孔明も思いつかないような奇策を伝授しやがってっ。
「おのれ美鈴めぇ~! 俺様の趣味の“覗きが”出来なくなってしまったじゃないか~! あぁっ、音しか聞こえないぜ~! だが、それが逆にイイッ!」
目をやられてもだえ苦しんでいで琵琶法師化した俺様をよそに、レデンは鼻歌を歌いながら楽しそうに着替えているようだ。肌と服の擦れる音。衣類の落ちる音。ふっ……、気がブチキレそうになる音がこの世には存在することが証明されたぜ。まさに魅惑のメロディー。
でだ……、しばらくすると、
「着替えたニャっ」
 と、喜色を思わせる声が聞こえてきた。時間の経過とともに視力は回復していき、それは視界に入ってきた。
「……どうニャ?」
言葉が出なかった。
ネコ耳+ネコ尻尾を身に付けていたレデンにさらにメイド服が追加付加された。少女の印象が強いレデンがメイド服を着ることによって、俺様の予想を遥かに超えた究極生命体が誕生した。精錬された博識豊かな女性、泉に舞い降りた白鳥のような優雅さ。その中にも悪戯っ子を思わせるような子悪魔的美を持ち合わせている。これほどのモノが生み出されてしまうとは……、生きていて良かった。常人がこの姿を見たら、ものの二秒も自我を保つことはできないだろう。目の前にいる少女は、今ッ、世界最高の生物兵器になったのだッ。
 高鳴る鼓動を抑えて、俺様はレデンに最高の笑顔を送った。
「レデン、お前は今まで見た中で最高のメイドさんだぞっ! 俺様はお前を誇りに思う」
「ほ……本当かニャッ!? じゃあ早速。美鈴さんに見せに行くニャッ!」
 おぉっとぉ、予期せぬイベントが発生ッ。駆け足で玄関まで向かうレデンッ。
「待たんかいッ、そんなことをしたら……」

――――――ガチャリッ

「レデンちゃん。お好み焼きを作ったんだけど、食べる……」
突然の訪問者。そいつは俺様の妹の美鈴。何の前触れも無くまた登場してしまったぞ。それにしてもなに勝手にドアを開けているんだよコイツは。ノックぐらいしやがれっ。
 俺様はこの家の大黒柱。家族が生きていくために働かなければいけないし、不法侵入者が現れたらそいつを排除しなければいけない。大黒柱としての当然の仕事さ。よ~しっ、心の準備体操完了~。俺様は美鈴を追い出そうと以下のようなことを叫びながら玄関まで走っていった。
「不法侵入だぞ、美鈴! さっさと出てい……」

――――――ボシュァッ!

「ぎゃぁぁぁ~! 顔がぁッ!」
一瞬でキレた美鈴のカウンターお好み焼きストレートが見事に入った。痛いを通り越してまず熱かった。出来立てホヤホヤのお好み焼きで人様の顔を殴るなんざ、若手芸人でも怖気づく荒業だぞ。
「ニャァァァ~! ご主人様の顔に大事なカツオ節がぁッ!」
 そんな光景を見て、ネコミミ少女がうろたえていた。ちょっと待てお前。
「レデン~、『大事なご主人様に』、だろうがっ!」
「黙れニャ~!」

――――――ザシュシュッ!……ボトボトボト……

嫌な音が床に落ちた。途端、明るい光が差し込んでくる。
「あぁっ! 俺様の顔……に付いていたお好み焼きがッ!?」
「美味しいニャ~」
レデンはさっきまでお好み焼きが乗っていた皿を美鈴から受け取って、切り刻まれたお好み焼きのパーツをうまくキャッチしていた。器用なヤツだ。
「美味しいか。それは良かったな」
見ると、忙しなくお好み焼きを食べているレデンの口元には、ソースがこびり付いていた。他にもう一人ソースで身体がやばいことになっている青年がいるんだけどな……、誰かタオルくれ。
「まったく……、もうちょっとゆっくり食べられないのか?」
 口元を拭いてやろう思い、ティッシュを探そうとリビングへと振り返ろうとしたが、
「バカ兄貴……」
「ん?」
 ぶっとい血管を額に浮かばせた美鈴が俺様の肩を掴んだ。おいおい……、一本背負いでもする気か?
 直後、

――――――「レデンちゃんに変なことをさせるなって言ったでしょうがぁぁぁ~!」

予想的中。その掛け声と共に、俺様は美鈴の一本背負いで<ビューンッ>と軽快な音を響かせながら外まで飛ばされて、そのまま空中へダイブしそうになったが……、俺様の生(性)への執着心を舐めるなッ!

――――――ガシッ!

空中へと身を乗り出しながらも、何とか手すりに掴まることが出来た。
「ふっ~、危なかった……」
この手すりがもし存在していなかったら、ビル4階分の高さから地上へと一直線に落下する小旅行を体験してしまうところだった。

――――――ガシッ!

「ん?」
手すりを掴んでいた手に、何故か靴が乗っていた。

――――――グリグリグリ……

 それは、美鈴の足と俺様の手との摩擦によって生まれた不協和音。コレやばくないか?
「うぐぐぐぐぅぅ……、殺す気か美鈴ぅッ~!!」
 だが、美鈴は鬼だった。

――――――グリグリゴリゴリゴキゴキボキボキ……

 何だかいろんなものが折れたような感じがする。あえて言うなら『身も心も折れた』。その結果、
「美鈴ぅぅぅさま~~ッッ、すいませんでしたぁっ~~、許してくれぇぇッ!」
このままでは本当に落ちてしまうので、必死の命乞いに挑んだ。誰だって自分の命が大事だろ。
 だが、美鈴は鬼だった。
「バカ兄貴……、私は今日の朝、ちゃんと言ったよね……」
ゆっくりと上を覗いてみたんだ……。そして確信した。俺様を見下ろしていた美鈴の目には、一切の迷いが無かった事を……。(パンツを見ようとしたんだが、見えなかったぜっ!)
この世で最後に聞くことになるかもしれない声が聞こえた。
「レデンちゃんに変なことをさせたら……、殺すって……」
手を踏みつけていた足にさらに力が入った。
あっ……、俺様死んだかも……。あっけない人生だったかな?
だがそのときっ、

――――――ガバッ

「待ってニャッ、美鈴さん!」
レデンの声が聞こえたんだ。
「離しなさいレデンちゃん! この男は……、ここで殺しておかなければいけない男なのよっ」
「そんなのは分かっているニャッ! でも! こんなのでも……、レデンの命の恩人ニャ!」
 レデンの悲痛な訴えが、何でこんなにも心に染みるのだろうか。いや……、心が痛い。
「レデンちゃん……」
美鈴の足から、力が少しだけ抜けたのが分かった。 
「それにニャ! この服はレデンが着たいから着ただけニャッ。明日……、レデンはこの服を着て人を救うのニャ! こんなレデンでも……、人を救うことが出来るのニャ!」
ここからレデンの顔を見ることは出来ないが、きっと決意に満ちた表情をしているのだろうな。これまでの日々の調教の賜物だな。
「バカ兄貴……」
「ん?」

――――――グンッ

「うおっ?」
美鈴は俺様の腕を掴むと一気に引き上げた。相変わらずのすげぇ力だ。
「今回はレデンちゃんの顔に免じて許してあげるけど、次も同じようなことをレデンちゃんにさせたら……、分かっているわね?」
<グググッ>と握り締めた拳が額に突きつけられた。
「……了解した」
 この後に、『何でお前が俺様に命令するんだよ、このクソアマッ』と付け足したかった。だが、そんなことを言った日にはある男性遺体が何処かの湾に浮いていること間違いないな。そんなニュース見たくないだろ? まぁ、俺様は見るんじゃなくて体験する方がけどな……。
だがまぁっ、これで明日は何とかなりそうだ。無駄に疲れたぞ。
溜息をつく。そのとき、<ピーンっ>と一つの名案が浮かんだ。俺様って何て素晴らしい策士なんだろうかと褒めたくなるぐらいの名案だ。司馬懿も腰が砕けて何も対抗せずに逃げてしまうような最高の策。すぐに言わなければっ。

「おい美鈴っ。美鈴も明日、メイド服を着て一緒に……」

――――――ドゴ~ンッ!



第6幕   陰謀



「俺様が教えることは、もはや何も無い」

――――――モグモグ……

「あとは、レデンが自分自身の力を信じるだけだ」

――――――ゴックンッ

「了解ニャッ!」
決戦当日。
午前中は本番のためのリハーサルに使ったおかげで、レデンのメイドレベルは最強に近い。隙が無いとは、まさにこの事だろう。
「昼飯を食べ終えたら、すぐに出発だぞ」
「もう食べたニャっ」
「なにっ、俺様も急いで食べなければっ」
「ご主人様は何でも遅いニャ~」
「何を言っているんだ。遅い方がいいんだぞっ」
「レデンは早い方がいいニャ~」
「マジでッ!?」
今日も、レデンのおかげで楽しくなりそうだ……。

――――――――――☆

メイド喫茶“テラメイド”。その内なる世界と外とを繋いでいる扉を開放する。

――――――カランコローン

「あっ、和也様っ、お持ちしておりました」
メガネをかけたメイドさんが昨日と同じようにそこにいて、胸を<タプンタプン>揺らしていた。オオカミになっちゃおっかなぁ~。グルルルルゥゥゥ~。
「……まだオーナーは来ていないのか?」
理性で本能を押さえ込んでから店内を見渡してみた。客は誰もいないようだ。今日は店を休みにしたのだろうか。
「はいっ。でも、もうすぐで来られるようです」
異様にニコニコと笑っている。
「……何だか嬉しそうだな」
「えっ、そう見えますか?」
メイドさんはニヤケながら両手で自分の顔に<ペタペタ>と手を当て、自分の表情を確かめだした。だが、すぐにその動作を止めた。
「あっ、この子が私たちの代わりにメイドさんの役を引き受けてくれたんですね?」
 メイドさんがにこやかに見つめた先は俺様の横……、で俺様の袖を掴みながら立っているレデンだった。レデンの頭には白いネコ耳、お尻には白くて長い尻尾がいつものように生えている。だが、今日のレデンはいつもの短パンにTシャツのようなリフレッシュな姿ではなかった。その身を包む物はメイド服。しかも、俺様特性のネコの風味を優しく閉じ込めたネコバージョンのメイド服ッ。今のレデンの姿を見た者は、“これ以上のネコ耳メイドさんなんてこの世に存在しないッ、もう死んでもいいッ”と必ず断言しちしまうぜ?
こんな感じで俺様が自分で製作したメイド服のあまりの出来の良さに感心している間、メイドさんがレデンに駆け寄っていた。
「わぁっ、とってもカワイイですっ。あっ、コレ……、良かったら食べてねっ」
レデンの目の前に差し出されたものは、削る前のカツオ節の塊。
「……最高級品よ」
何故、説明を付け足す?
「ご……ご主人様……」
「んっ?」
見ると、レデンの体が<ガタガタブルブル>と震えていた。しかも、手に持ったカツオ節をじ~~~~~っと見つめている。このときは、レデンの体の調子でも悪くなったのかと心配してしまったぞ。だが、そんな心配なんてする必要は無かったな。
レデンが呟く。
「……コレからはカツオ節の匂いがするけど……、でも! でも! これはレデンの知っているカツオ節じゃないニャ! コレは一体何ニャッ!? カツオ節塊伝説?」
意味の分からない言葉を発しているところを見ると、恐らくレデンはカツオ節カルチャーショックに混乱しているようだ。だから俺様は、レデンに新たな知識を注入してやることにする。
「いいか、よ~く聞けよ……。レデンの知っているカツオ節は、今レデンが手に持っているものを、うす~~~くした物なんだ」
「な……なんだってニャ~ッ!?」 (レデンの後ろにガーンという文字が浮かび上がる)
 自分の知らない世界の秩序を知り、レデンはその場に手を着き前髪を垂らしながらうな垂れてしまった。
「じゃあ、レデンは今までうす~~~くなったカツオ節を食べさせられていたんだニャ?」
「まぁ……、そうだな……」
「レデンはずっと騙されていたんだニャ?」
「いや……、違うと思うぞ」
「ご主人様はこの事を知っていたのに、レデンには秘密にしていたんだニャ?」
「まぁ……、そうだが」
「ご主人様は無知なレデンを見て、“へっへっへっ…、このバカはうす~~~いカツオ節を嬉しそうに食べたやがるぜ、本当にバカだな”とか、思っていたんだニャッ!?」
気のせいだったらいいんだが、どんどん殺気立っていっている気がする。
とりあえず落ち着かせよう。話はそれからだ。
「ちょっと待て、いいか良く聞け。レデンが持っているそれは、薄くしないと食べられないんだ」
「……本当かニャ?」
疑心暗鬼の目でじっと見つめられた。
「試してみればいい」
俺様の言葉を聞いて、しばらく俺様とカツオ節を交互に見比べていたレデンだったが、
「試してみるニャ」
そう言って口にカツオ節を咥えた。

――――――ガブリッ! ボリボリボリ……

「美味しいニャァァァ~~~ッッ!」
歓喜の叫び声が店中に響き渡った。
「何でだよっ!? 普通食えねぇだろうがッ!」
「この歯ごたえ! そしてこの香り! 全てにおいて他を超越しているニャ! ご主人様の嘘つきィィッ!」

――――――カランコロ~ン

「レデンが喜んでくれて嬉しいよ。だからさ……、俺様の首に突きつけられているお前のこの鋭い爪を早く離してくれないか?」
触られている感覚で分かるんだが、レデンの鋭い爪が俺様の首の頚動脈を的確に捉えていた。って言うか、ちょっと刺さっている。
「ご主人様、嘘はよくないニャ。でも、今日のところは許してあげるニャ。コレも全てカツオ節のおかげなのニャ。ご主人様はカツオ節に命を救われたニャ」
レデンが言っていることは理解不能だが、とりあえず目はマジだった。

――――――「おや? お店を間違えてしまったかのぅ?」

突然、老紳士っぽい声が店に広がった。
『え…?』
店内にいたメイドたちが、一斉にその声の主に顔を向けた。俺様も声の主を見ようと首を動かしたが、レデンの爪が首に食い込んでしまったので死ぬかと思った。
まぁ……、だから俺たちの中で一番早く反応してみせたのは、メガネを掛けているあのメイドさんだった。
「オーナー! ようこそいらっしゃいましたっ!」
 元気良く声を出し、急いでその老紳士に駆け寄っていった。俺たちの行動を周りで傍観していたメイドさんたちも、自分達の職務を思い出したのか、メガネを掛けたメイドさんの後に続くように老紳士へと駆け寄って行った。
「はっはっはっ、元気のいいお嬢さんじゃのう」
これはレデンに対して向けられた言葉だろう。何故なら、俺様の首を押さえているレデンの爪が<ピクッ>と動いたからだ。って、ちょっと待て。これ以上深く食い込んできたらマジでヤバイんですけど。
そんなデンジャラスな状況に陥っている俺様になんて気が付いていないのか、その老紳士っぽいやつがレデンに近づくのが革靴と床が出す足音で分かった。
「ふむ……、いいメイド服じゃのぅ」
当たり前だ。俺様の全てを注ぎ込み、レデン専用に特化したネコミミメイド服なのだからなッ。
「おっとっと……」
 ジィさんのなんとも言えないワザとらしい声が聞こえた次の瞬間、レデンの体が跳ね上がった。
「なっ、なっ、なっ……」
レデンが何をされたか。俺様には分かった。このジィさん……、今レデンのお尻を撫でやがった。
当然のようにレデンは、
「ナニするニャッ~!」

――――――ドゴォォォッ!

という行動を取った。
「はっはっはっ……、これがツンデレというやつかのう?」
「いえ、ただオーナーがセクハラジジィなだけです」
「はっはっはっ……、サユリちゃんは冷たいのぉ」

――――――ガシッ!

「おや?」
無意識だ。無意識でクソジジィの胸倉を掴んでいた。体が勝手に動いてしまったというのかな。ついでだから、そのまま敵意をむき出しにしてクソジジィを睨みつけることにしよう。
「てめぇ……」
「なんじゃい若造」
クソジジィも負けじと睨み返してきた。この野郎……、レデンのご主人様である俺様でさえまだレデンのお尻に触ったことが無いって言うのに……、許さんッ。
瞬時にクソジジィの特徴をサーチ。服装は黒いスーツに黒いシルクハット、胸元にはこれまた黒い蝶ネクタイまで付けている、正に老紳士という固有名詞が良く似合うお姿だ。だが、しょせんはジィサン。ヨボヨボの体からは覇気が感じられない。とっくに定年を過ぎているんだろうな。てめぇみたいなオイボレジィさんには浴衣の方が似合っているぜ。
 情報収集終了。目標は俺様より弱いッ!
「レデンの物は俺様の物! レデンの体も俺様のモノだぁッ!!」
体が熱くなってきたッ。うぉぉぉ~っ、秘奥義、右コークスクリューフリッカーパンチッ!!!。
「ふんっ」

――――――ドカッ!……ピシィ……!

 イヤな音が突き出した拳から響いた。
「なにぃっ?」
 そして激痛が走った。全身が痺れるようなイヤな痛みだ。拳にヒビが入ったらしい。
「俺様のパンチを受け止めただとっ!? どういう体をしているんだこのジジィッ!」
「老いたとはいえ、貴様みたいな若造にはまだまだ負けんわい!」
血走ったクソジジィの目が俺を睨んで離さない。ちっ……、こうなったら、
「レデン、お前の出番だッ! このクソジジィを必ず萌え死させるんだッ!」
「了解ニャッ! フーッ!」
レデンもさっきのことでクソジジィに殺意を抱いていたようだ。萌殺する気まんまんだ。敵に回すと恐ろしいヤツだが、味方になるとこれほど頼もしいヤツはいないってやつだな。もし、美鈴とレデンが手を組んだら俺様でさえ全く歯が立たなくなるからな。早くレデンを美鈴の影響下から隔離し、俺様の、俺様による、俺様のためのレデンを作り上げなければッ。
そんな決意を抱いていると、
「あ……あの……、萌え死させたらダメですからね……?」
サユリと言う名のメガネをかけたメイドさんがこっちに近づいてくると、耳に口を近づけて耳打ちしてきた。メイドさんの息は暖かく、くすぐったかった。ふっ……、訂正する。気が狂うほど気持ち良かった。もっとやってほしかったッ!
「ふんっ、ワシを萌え死させるじゃと? 歯がゆいのぉ……、はっはっはっ……」
気持ちよ~くなっていた気分が一瞬で害されてしまった。ムカツク……MUKATSUKUぞッ。普通に殺したい。路地裏に引き吊りこんでレデンに惨殺させたい。そしてその光景の一部始終を横でカフェオラを味わいながら眺めていたい。
だが、俺様はもう立派な大人。怒りが理性を超えるような現象はもう起こらないのだ。クソジジィは殺すが、それは萌えによって遂行させなければならない。今はガマンだ。
俺様は呼吸を整えてから、黙ってクソジジィを店の中央に位置するVIP席に案内した。
「うむ、ご苦労さん、ウェイター」
 
――――――プチッ

 あっ、コレは俺様の脳内に張り巡らされている血管の内の一本が、ストレスの暴発によってブチ切れたときに発した音だ。ただ今、脳卒中になりかけ5秒前ってところだ。
「(このクソジジィ…!)」
偉そうな態度に最早限界かと思ったが、人間の理性って素晴らしいな。
「……どう致しまして……」
 何とかこらえた。だが、もうちょっとで自我が崩壊し殺戮本能が剥き出しになりそうだったので、俺様は癒しを求めレデン達のところにダッシュで戻った。ふぅ……、さすがは俺様のレデン。癒される。
 でだ、
「おいっ、サユリさんという名のメイドよ!」
「はっ、はいっ」
胸が揺れるほど驚いていた。なるほど、女性に不意に大きな声をかけるとこういう現象を見ることが出来るのか。これは良い。まぁ、レデンが同じように驚いても、何も揺れるものは無いがな。おっと……、これ以上ムダなことを思案する必要は無い。本題はコレだ。俺様は仁王立ちでメイドさんの前に立ち、微小な笑みを浮かべながら言った
「話に聞いていたジジィとはちょっと違うようだが、俺様の計画は変更無しだ。黙って見ていてもらおうっ」
「えっ……、わっ分かりましたっ。がんばってくださいっ」
メイドさんは妙に素直に頷くと、嬉しそうに表情を変化させて俺様の肩を軽く叩いた。そしてそのまま駆け足でお店の奥の方にあるシャレたドアを開け、そのまま姿を消してしまった。黙って見ていてもいいって言ったのに、どうして出て行ったのかは分からないが、これで邪魔が入ることは無いな。
「おい、クソジジィッ!」
<ビシッ>と、そのまま指の先から光線でも出せそうな勢いでクソジジィを指差した。
「この俺様が育て上げたツンデレ子猫娘のメイドバージョンが、今から貴様に究極の萌えを体感させて、そのまま貴様の人生を壮絶な萌え死で終わらせてやるぜッ!」
萌えバトルの挑戦にクソジジィは、
「ほう、ワシはそれが楽しみで来たんじゃ。まぁ、せいぜい頑張ってみたまえ。はっはっはっはっ……」

――――――「ブチッ」、「ブチィッ」

あっ、今度のコレは俺様とレデンの脳の血管が切れた音だ。
「ご主人様……、今日のレデンは何だか燃えているニャッ」
「ほう、奇遇だな。今日の俺様も最高に萌えているぜっ!」
 初めてレデンと意見が合った様な気がした。
 店内の温度がどんどん上がっていく。なぜかは知らない。だが、心地よい空気だ。血が滾る。萌え上がるぅ!

こうして、熾烈な戦いの火蓋が上がったのだった。

――――――――――☆

そしてここはテラメイドの奥に位置する応接間。暗い部屋でボソボソと小声で呟いているのはメガネを掛けたメイドさん。何と言っているのか聞いてみよう。耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声。
「くっくっくっ……、私の期待を裏切らない何でも屋だわ……。やっぱり彼らを雇って正解だったわ。……くっくっくっ……、ヒャァ~ッハッハッハァ~!」

――――――ガチャ、「何か変な叫び声が……?」

<ビクゥ>とアホみたいに驚くのはメガネを掛けたメイドさん。
「ど、どうかしたの?」
「いえ……、何だかとっても気持ち悪い変な薄ら笑いが聞こえたような気がして……」
「えっ、私には何も聞こえなかったわよ? そ、それよりもオーナーの様子をしっかりと見守っておいてね」
「はい。サユリさんはどうするんですか?」
「私は……、影から応援することにするわ」
「そうですか、じゃあ私行きますね」
「うん、お願いね」

――――――ガチャリ……

 今入ってきたメイドさんが出て行くと、すぐにまた何かが聞こえてきた。
「私は影から応援しているわ……、ふっふふっ! げほっ、けほっ、オーナー死ね! けほっ……」




第7幕   死闘(前半)



――――――トクットクトク……

グラスに水が満たされていく。
「では、行ってくるニャッ!」
水が入った分だけ重くなってしまったグラス。それを慎重にお盆に乗せ、レデンは意気揚々とクソジジィの所に向かおうとする。だけど俺様は、
「ちょっと待て、レデン」
「ニャっ?」
 引き止めた。まるで、特攻隊に出向く父を引き止める幼い娘のように。
「どうしたニャ、ご主人様?」
俺様はちょっと迷っていたんだ。このままのレデンのメイド技では、あのクソジジィを萌え死することはできないのではないかと。あのクソジジィは異常な萌え猛者だ、生半可なものは通用しない。そう……、俺様の経験が言っている。だが、いいのか? 封印を解除してしまっては、一体何が起こるのか俺様にも予測不可能になってしまう……。やっぱり危険すぎるのかッ。 
「ご主人様?」
レデンが心配して、悶えている俺様の顔を覗き込んできた。その表情はあまりに無知で、無垢なもの。汚したくはない。だがッ、だがッ……、
「レデン……」
「ニャ?」
くっ……、チクショウッ!
覚悟を決めた。

――――――「……裏メイド技の使用を許可する……」

その場にいたメイドさん達の顔色が急に青くなった。まぁ、当然の反応だな。
「ご主人様……?」
レデンの持っているお盆がカタカタと震えている。それほど恐ろしいことなのだ。だが、今の俺様にはその震えを止める力はない。どんな言葉をかけても無意味だ。自分で自分を落ち着かせ、己の壁を越えなければいけない。そうしなければレデン……、お前はあのクソジジィに負けてしまうんだ。レデンの負けは俺様の負けでもある。頼むッ、勝ってくれッ。
「頼んだぞ……」
俺様はこの判断をした自分が許せず、この悔しさを紛らわさせるために拳を思いっきり握った。こんなにも自分は無力なのかと憤慨する。手から血が滲み出ようが、お構いなしに拳を強く握り締めた。
「ご主人様……、行ってくるニャ……」
レデンの頬には冷や汗が流れていた。だが、俺様にはその汗を拭く資格すらない。済まない。こうでもしなければ……、ヤツを倒すことはできないんだ。裏メイド技しかヤツには通用しない。お前にしか出来ないんだ。俺様はお前を信じている。信じているぞッ! 
 戦地に向かうレデンは、国の英雄として還ってくる戦士よりも輝いて見えた。
「頼んだぞ……」
力強く一歩を踏み出したレデンは、そのまま激戦の最前線へと向かって行った……。

――――――――――☆

 戦闘開始。
「ご主人様、お水をお持ち致しましたニャッ」
元気のいいレデンの声が店内に響いた。
「ふむ、済まな……ッ?」
 ここでクソジジィに異変が発生。その視線の先を辿ると、そこには上半身を必要以上に屈めたレデンの姿。もっと詳しく言うと、レデンの胸部にクソジジィの目が釘付けになっていた。
これぞ、グラスをテーブルに置く際にお客さんに自分の胸の谷間が見えるようにする……、即ち……、裏メイドの極意、初極ッ。
「まずは初極」
レデン達の様子を遠くから見ていた俺様は、初極が決まったのが嬉しくつい声が出てしまった。それにしてもクソジジィ……、レデンにはほとんど胸が無いのに反応しやがった……。ちっ……、あのクソジジィ、ロリコンの属性も持っていやがるとは……。
 おっと、まだまだレデンの攻撃は続いているようだ。俺様のことはいいから早くレデンにカメラを向けなおせッ。
心に浮かんだカメラをレデンに向けると、甲高い叫びが聞こえてきた。
「って、何で御礼なんて言っているのニャッ!? べ……、別に貴方のためにお水を持って来てあげた訳じゃないんだからニャッ! し……、仕事だからっ、しょうがなくニャァァァ~!」
 突然の思いがけない反応には、どんな男も次のような行動を取るしかないのが世の定めだ。
「す……済まない……」
素直に謝る。これが一番の回復修繕方法さ。最近はちゃんと謝れないヤツもいるそうだ。そういう奴らって可哀想なんだぜ。だってさ、謝るという行為によってもたらされるM的な快感を得られないんだぜ。可哀想にもほどがあるよな。
「そ、それじゃあ早く注文するニャッ、まだ決まらないニャッ!?」
 あっ……、レデン達のことを忘れていた。急いで頭の中から出てきた妄想を振り払い、勝負の行方を注意深く見守る。状況は……、悪くは無い。むしろペースはレデンが握っている。これならいけるぞ。
「うっ、済まない。まだ決めておらんわい……」
注文を決めさせるのを焦らすのは中々の策略。焦ることによって心臓の鼓動も早くなり、ある意味の興奮状態を生み出すのさ。
「全くしょうがないご主人様ニャっ、でもいいニャっ、注文が決まったら呼んでニャ。すぐに駆けつけてあげるニャ」
「うっ、うぅ……、申し訳ない……ハァハァ……」
この絶妙なタイミングで『デレ』が来たら、誰だって堕ちる。恐ろしいまでのツンデレメイドがここにいた。
「では、失礼しますニャ」
「うむ……ぅッ!?」
クソジジィにまたもや異変が発生。その発生原因は……、言うまでもなくレデンだ。では、今クソジジィが喰らった裏メイド技を紹介してやろう。
お客さんの席から離れる際、軽くジャンプ気味にUターンし、スカートがヒラリと舞い上がるようにする。これぞ裏メイドの極意、次極。
 スキを全く与えない怒涛のような攻撃。
「ナイスだ、レデン」
鼻血が止まらない。急いでティッシュを探して鼻に突っ込んだ。
男は誰もが、パンチラという誘惑には勝てないのさ……。

――――――ガシャンッ

「ニャッ!?」
「むっ?」
おぉっとう……、予期せぬアクシデントの発生だぜっ。レデンが回転した際にレデンの尻尾がテーブルに置いてあったグラスにぶつかってしまい倒れてしまったじゃないかっ。しかも、こぼれた水がクソジジィの下半身の急所にかかってしまったではないかっ。これは緊急事態だぜっ。
「も……、申し訳ございませんニャ、ご主人様ぁ!」
レデンはこの状況をどうすればいいか分からず、ただオロオロしている。あぁ……見ちゃいられないぜっ。だがっ、ドジなメイドさんというものも中々いいなっ。 
 クソジジィは濡れてしまったことに初めは動揺していたが、すぐに冷静になった。
「いや、この程度だったら何も問題ないわ。気にするでない」
「……にゃぁ~……」
肩を落として落ち込むレデン。しかし、良く考えてみると、これはもしやレデンの作戦では……?
「ご主人様……」
「うむ、どうした?」
レデンが何処からともなく取り出したのは、清潔そうな白いタオル。
「拭かせてもらいますニャっ!」
決意に満ちたレデンの声が店内に響いた後、タオルを握り締めたレデンの手がクソジジィの魔の巣窟に迫った。当然、クソジジィは驚いた。
「い……いやっ! 自分で拭くから気にしなくてよいわい!」
クソジジィは迫り来るレデンの手から自分の聖域を必死で守ろうとしている。レデンよ……、俺様の聖域はいつでも開放しているから、いつでも遊びに来ていいぞ?
しばらく『うぬぬ~』とお互いが唸っていただけだったが、レデンの反撃が始まると形勢に優劣が生じた。
「何を言っているのニャッ! ご主人様に御奉仕するのがメイドの最上の喜びニャッ! 邪魔するなニャ~!」
さすがのクソジジィもこのレデンの強気な態度に一時ひるんだが、
「じゃあドライヤーで乾かしてくれい! それなら何も問題ないわい!」
「ドライヤー……、了解ニャッ! 今すぐ持ってまいりますニャッ!」

――――――ヒュンッ…………、ヒュンッ

「持ってきたニャ!」
「はやっ……、まぁよい。それで乾かしてくれい」
「了解ニャッ!」
 ドライヤーのスイッチが入れられた。

――――――ブォォォォォ……

「ふむぅぅぅ……、気持ち良いのぉ……」
暖かい熱風が濡れた場所に当たり、クソジジィは何とも言えない心地良い顔をしている。ふっ……、これぞ裏メイド技外伝、ご主人様の身も心も温めますだ。
 「は……くしゅんッニャッ」

――――――カポッ

「ノガァァァ~!?」
おぉっとぉ……、これまて予期せぬアクシデントが発生ッ。レデンがくしゃみをした反動で、持っていたドライヤーがクソジジィの股間にジャストミートしたぜっ! 正に自然に生まれた自然災害だな。
「あぁっ、ごめんなさいニャッ……、でもこっちの方が早く乾くニャッ! ウリャリャ~」

――――――グリグリ……

「ノォォォォ~! こんな……、こんな馬鹿なぁ……!」
両手で頭を抱え込みながら悶絶しているクソジジィの表情は、自分が叫んでいる内容とは全く違う清々しいものだった。あぁ……、俺様もされたいぜ。お互いの頭がぶつければ、体が入れ替わってしまうというベタなイベントが、何故いま発生しないんだッ!?
「乾いたニャ」
クソジジィの羅生門から、ドライヤーが<カポッ>と外れた。
「うむ、ご苦労だった……」
心なしか、クソジジィの顔色は先ほどよりも<キラキラ>と光沢を放っているようだ。何と言うか……、『生きていて良かった』という心の叫びが伝わってくる。
「注文決まったわい。この、“アツアツメイドスープ”をもらえるかな?」
「了解ニャッ!」
注文を取り終え、俺様の元に戻ってくるレデンは、まるで地球を隕石から救った宇宙飛行士の様に、何かを成し遂げたようにイキイキとした笑みを浮かべていた……。



第8幕  死闘(後編)



 順調に事は進んでいた。誰が見てもこっちが優勢だと思う。それぐらい素晴らしい接客だった。このまま行けば、あのクソジジィを萌殺することも不可能ではない。そう考えていた。ふっ……だからかな。そんな安直なことを考えていたから、俺様はレデンの異変に気が付かなかったんだな。情けない。バカだ俺様は。なんで……、レデンが倒れるまで異変に気が付かなかった。
 こっちに戻ってきたレデンは、笑顔のまま倒れた。
「やべッ」
 反応できたのは俺様だけだった。周りにいたメイドたちが呆気に取られている間に、スライディングキャッチ気味にレデンを助けることに成功。少しでも反応が遅かったらケガじゃ済まなかったぞ。

――――――「ぜ~はぁっ、ぜ~はぁっ!」

腕の中でグッタリとしているレデンを見て辛くなった。呼吸は乱れ、頬には大量の汗が流れている。こんなとき、俺様が励まさなければ誰がレデンを励ますんだ。しっかりしろよ。動揺するんじゃねぇよ。レデンに無駄な心配をさせるな。
一呼吸おいてから、弱々しくなってしまったレデンを見つめた。
「ここまで良くやったぞ。完璧にお前のペースだな」
「あ……当たり前ニャ……」
 呼吸を乱しながらも。強がりを言う気力は残っていたようだ。一応は一安心だな。だが、こんなにも体力を消費するとは……、やはりあのクソジジィは只者じゃなかった。レデンはとんでもないプレッシャーを感じていたんだな。
「ご……、ご主人様……」
「しゃべるな。息を整えるんだ」
クソジジィにレデンが疲労していることがばれないように、レデンの姿をヤツから見えないように少し移動させた。あと必要なことは、汗を拭いてやることだな。
「ちょっとそこのアンタ。そのタオル取ってくれないか」
壁にタオルが掛けてあったので、そこから一番近いところにいたメイドさんに頼んでみた。すると、その人はすぐにタオルを取って渡してくれた。
「ありがとう」
「どう致しましてです」
心優しいメイドさんから貰ったタオルで、レデンの汗を綺麗に拭いてやった。だが、レデンの顔色はどんどん悪くなっていく一方だ。嫌な予感がする。
 自分が心配されていることを感じ取ったのか、レデンは無理やり微笑んで見せた。
「レデン……、頑張っているニャ。何だかどんどん力が湧いてくるニャ。ご主人様……、レデン偉い?」
「あぁっ、偉いぞ。俺様はこんな偉いレデンのご主人様で鼻が高いぜっ。だから……、そんな泣きそうな顔をするな」
 こんなことって……、ありかよ。
見る見るうちにレデンの顔が青ざめていく……。イヤだ……、レデン……、レデンッ!
「ご主人様……、レデン……、楽しかったニャ……、今までずっと……、ありがとうニャ……」

――――――スゥ……

「レ……」
レデンのまぶたが閉じた。
「レデンッッ~~~!!!……ほらカツオ節だっ」
「やったニャッ~~~!(ボリボリッ)」
「はははっ、こらこらっ、そんなに食べカスを撒き散らすな。行儀悪いぞ」
「えへへ~、ごめんニャ~」
まるで砕断機が岩石を砕くような勢いで、レデンの口にカツオ節の塊が消えた。その途端、
「レデン、復活ニャ~!」
 『顔が濡れて力が出ない』と言っているヤツが、新しい顔を手に入れたときに復活するようなノリで、レデンが復活したッ! 世界最高の僧侶もビックリだ。復活魔法に匹敵する……、それがカツオ節パワー。レデン限定だけどな。
『おぉ~』と周りにいたメイドさんたちから拍手が送られた。いや~、良かった良かった。
 さて、気を取り直して次いってみよ~。
「いいかレデン、よく聞け。クソジジィもお前の攻撃で大分ダメージを受けている。ここからが本当の戦いだ。だが、心配することは無いぞ。お前は……、最高のツンデレ子猫娘なんだからな」
「ご主人様……、褒めても何も出ないニャ。だけど……、嬉しいニャッ」
「そうかそうかっ」
レデンの頭を撫でてあげた。
「ニャゥゥゥ~、ゴロゴロ~……」
レデンは目をつぶって喜んでいた。その時の笑みと言ったら、見た者もつい微笑んでしまうようなシロモノだった。レデンには笑顔が一番似合う。そう思ってしまった一瞬だった。
「アツアツメイドスープ出来たわよ~」
奥からメイドさんが出てきた。持っているのはスープの入った皿を乗せたお盆。
「どれどれ……」
その“アツアツメイドスープ”とは如何なる物か確かめるために、スープを覗き込んでみた。
「こ……、これはっ」
これはすげぇ……。スープの中には、メイドさんの形・色をしたカマボコが何枚か浮いており、それらがハートの形を成していた。

――――――ジュルッ

「おっとぉ」
思わずヨダレが口元からこぼれてしまったぜ。遂、メイドさんの形をしたカマボコを食べると言う行為が、メイドさんを食べるという行為に俺様の中で変換されてしまったぜ。危ない危ない。
「熱いから気をつけてくださいね」
ゆっくりとメイドさんからお盆を受け取ったレデンだったが、
「ニャッ?」
 予想していなかった重さだったのだろう。お盆を持ったレデンの腕がガクンと落ちた。するとお盆が揺れ、必然的にその上に乗っているスープ入り皿も揺れた。ヤバイッ。
「よっと」
急いでお盆を支えてあげた。レデンがふらついたせいで波打っていたスープは、ギリギリのところでこぼれなかった。
「大丈夫か?」
「うっ……、平気ニャっ、レデンは自分の力で頑張るニャっ!」
拗ねた子供のように言う。まったく…、強がることにことにかけては一人前だな。
「よしっ、では行ってこい!」
「了解ニャッ!」
そうして、レデンはクソジジィというラストボスが居るダンジョンへと勇ましく向かっていった。

――――――――――☆

で、不安を残しながらも後半戦スタート。まずは注文された品をテーブルに置くところからだな。
「お待たせしましたニャ~」
 さっきまでの疲れを感じさせない、素晴らしい営業スマイルだった。
「お~、やっと来たわい」
どうやら、さっきまでのレデンの不調にクソジジィは気が付いていなかったようだ。これは好都合。レデンよ、一気に攻め切れッ。
レデンがお盆をテーブルの上に置く。
「ほ~、コレがアツアツメイドスープか」

――――――ジュルッ

「おっといかん。遂、ヨダレが出てしまったわい。このカマボコのせいでぐっと美味しそうじゃな」
信じられねぇ。あの野郎……、俺様と同じ妄想をしやがったのか? やはり只者ではないな。
「熱いから気をつけてくださいニャ~」
そう言いながら、レデンはお盆に乗っていた皿をクソジジィの前に丁寧に置いた。
「おお、ありがとう。どれ、熱かったであろう」

――――――スリスリ

このときは気がとち狂うかと思った。クソジジィのヤツがレデンの愛くるしい手をイヤらしく触りまくったからだ。
「ニャピッ!? 何するニャ~!」

――――――ザシュシュシュシュッ!

「痛いではないか」
いろんなところが爪痕だらけになったクソジジィが出来上がった。いい気味だ。そのまま逝ってくれればよかったのにな。
「自業自得ニャッ」
おぉ、怒っている怒っている。俺様の中の“機嫌を損ねてはいけないランキング”2位のレデンを怒らすとどうなるか思い知ったか。まぁ……、2位程度なら爪痕が体に出来るだけだが、もし万が一にでも1位の奴を怒らせたら……、考えるだけで恐ろしいぜ。だがあえて言わせてもらうとすれば、この世から消滅してしまうといったところかな。
しばらく<プンプンッ>と湯気でも出ているんじゃないかと思うほど怒っていたレデンだったが、自分の仕事を思い出したらしく、メイドさんスタイルに切り替わった。
「当店では、このようなハレンチな行為をなさったお客様は、問答無用で追い出すのでお気をつけなさいませニャッ!」
「心得たわいッ!」
 まったく懲りていないな。もう100回ぐらい切り刻んだ方がいいぞ。
「では頂くわい」
クソジジィは何処で習ったのかと思うほどの優雅な仕草でスプーンを使い、スープを口元に運んだ。
「熱っ」
だが、すぐに離してしまった。
「ちょっと熱すぎるの~」
文句の多いヤツだな。黙って食えないのか。
「もうっ、貸してニャッ」
見かねたレデンがスプーンを奪い取った。

――――――フ~フ~フ~

 ここで裏メイド技が発動。その名も追極。熱い料理はメイド自らがフ~フ~してご主人様に食べさせてあげる。これがものすごく効く。やばいくらい効く。
 食べやすい熱さになったのか、息を吹きかけることを止めたレデンはスプーンをクソジジィの口元まで持って行き、
「はい、あ~んニャ」
「“あ~ん”だってぇぇぇぇぇぇぇぇ~~!!?」
コレは俺様の悲鳴だ。
「俺様だってまだ“あ~ん”はしてもらったことが無いのにぃ~! うぉ~、離せぇ~!」
突進しようとする俺様を、周りにいたメイド達が必死に押さえつけた。
「我慢してくださいぃ~」
「うぉ~~~」
くっそぉ~……、メイド5人分の力で押さえ込まれたらさすがに動けないぜ。だが、コレはコレで良かった……。だってムニョムニョプニョプニョだぜっ。極楽気分を味わえたから良しとするか。
とかなんとかやっている内に、クソジジィの口の中にスプーンが入っていってしまった。

――――――パクッ、モグモグ……

「う~ん、美味しいの~」
「当たり前だ~! 不味いなんて言ったら、貴様の体の皮を剥いで、熱い湯にぶち込んでやるッ!」
「はっはっはっ、可笑しいの~、どこからか負け犬の遠吠えが聞こえるわい。レデンちゃん、もう一杯もらえるかね?」
「全く……、役に立たないご主人様を持つと苦労するニャ~。しょうがないご主人様ニャ~」

――――――フ~フ~フ~

「うぉ~~~! 俺様にもフ~フ~してくれぇ~~~!」
この繰り返しが、このあと数回繰り返された。

――――――――――☆

「今日は大満足だったわい」
食事を終えたクソジジィは、レデンや他のメイドたちに礼を一通りした後、会計を済ませようとレジまで移動した。
「感想はいいからさっさと金払ってニャ」
何故かレデンがレジのカウンターに立っていた。お前……、いつのまにそんなことまでできるようになったんだ?
「おぉ、すまないすまない。いくらじゃ?」
「高級カツオ節の塊を3個ほどでい」

――――――バッ

「すいませんオーナー。お金は結構ですから」
突然登場してレデンの口を塞いだのはサユリというメイドさん。今までどこにいたんだ?
「いやいや、そういうわけにもいかんわい。こんなに萌えたのにお金を払わないとは、ワシの萌え魂が許さんわい」
「そうですか……」
複雑な表情をするサユリというメイド。
「それよりもオーナー」
「ん?」
クソジジィとサユリの目が合う。
「体は……、どこも悪くありませんか?」
「体? このとおりピンピンじゃい」
確かにその通りだな。今すぐ滅んでもいいような体つきなのに、顔は黄金色の光沢に包まれている。これは……萌えが最高潮に達したときに出現する『萌えピークフェイス』ッ。そんなレアな現象がクソジジィの顔には浮かんでいた。
「まぁ、ちょっと萌えすぎてオーバーヒート気味だわい」
「そうですか……」
気のせいか、一瞬サユリが何か悔しそうに顔を歪めたような……。
「まぁ、とにかくサユリちゃん。今日はツンデレ子猫娘メイド喫茶の開店の日に、無理やり貸し切りにしてくれてすまなかったわい」
「いえいえ、オーナーのお願いでしたら何なりと」
……何だって?
 何かがおかしい。そんな胸騒ぎがした。
「これなら何とかやって行けそうじゃ。これでワシの心配も無くなったわい」
「お褒めにあつかり光栄です」
「おい、話が違……」

――――――ジッ

「うっ」
俺様が異議を申し立てようとしたらサユリが睨んできた。
こいつ、何を隠していやがる? 分からない。
「では、ワシはそろそろ失礼するわい。おっと、これはほんの御礼だわい」
そう言ってレデンに差し出したものは、3枚の福沢諭吉のペラッペラバージョン。
「何ニャ、コレは?」
「ほぇ? 何じゃい、お札を見たこと無いのか」
「無いニャ~」
「そうじゃの~、コレがあれば高級カツオ節の塊が6個は買えるの~」
「6個もッ!? そ……、それはすごいニャ!!」
レデンはその紙切れを頭上に持って、クルクルと回転して喜びを表現した。一通り回り終えると、
「今日は冷たくしてすまなかったニャ~。ごめんニャ~」
「何を何を……、とっても暖かくしてもらったわい」
 クサイ台詞に少し鳥肌が立ってしまった。何が温かくだッ。くたばれボケェッ!
「嬉しいこと言ってくれるニャっ。はいっ、これレシートニャ~」
「うむ、記念に貰っておくわい」
レシートをレデンから受け取ったクソジジィは、それを大事そうに胸ポケットに入れた。
「体に悪いから、もう来るんじゃニャいニャ~」
「何の何の……、ワシはまだまだ現役じゃ、……のう若造?」
「……あ~ん?」
誰が若造だよと言い返そうと思ったが、機嫌の良いクソジジィを見たらそんな気は失せてしまった。何だかご機嫌な老人っていうのは苦手なんだよな。
「けっ、まぁ……、現役っていうことは認めてやるよっ」
「はっはっはっ……、若造。名前は何と言う?」
「新谷 和也だ」
「うむ、覚えておこう」
「クソジジィ……」
「ん?」
「あんたの名前は何と言うんだ?」
 俺様が名前を聞くことなんて、ちょ~稀なことなんだから誇りに思え。ほら、早く言えッ。
「ワシの名前は、相良 龍之介(さがら りゅうのすけ)じゃ」
「相良 龍之介……?」
どこかで聞いたことがあるような……。無いような……。
思い出せない。
思案していると、クソジジィはコートを翻しながら店内を見渡して、
「では、時間が無いのでこれで失礼するわい。サユリちゃん、これからもがんばってくれたまえ」
「かしこまりました、オーナー」
サユリが会釈すると、他のメイドたちも同じように頭を下げた。それが何とも言えない迫力のある見送り方で、お屋敷で何人ものメイドを雇っている主人が、メイドたちに見送られているかのようだった。
メイドたちが会釈する姿をチラリと見て、次にクソジジィはレデンに視線を移した。
「レデンちゃん、今度また会えたら何処かに一緒に遊びに行こうのぅ」
「ものすごくイヤだから行かないニャっ」
 ソレを速攻で撃墜させて見せたレデンは、『ニーっ』と綺麗な歯をこっちに向けながら、『ざまぁみろニャっ』と言わんばかりの笑顔を送った。
「むぅ……それは残念じゃのぅ……」
 それが最後の言葉になった。

――――――カランコローン……、バタン……

「行ってしまった……」
サユリが呟いた。そして、
「まったく……、役に立たない奴らだ……」
 また呟いた。先ほどよりも小さい声で言ったっぽいが、俺様は聞き漏らさなかったぜ?
「おい、今なんつった?」
「ひゃうっ!?」
背後に人がいたことに気が付いていなかったのか、思っていた予想以上に驚いた。
「いっいえ! なんでもありません! そ……、それよりも今日はお疲れ様でしたっ! あなた達を雇って正解でしたっ!」
「ほう」
悪いが、怪しいにもほどがある。お前怪しいぞと言ってみたい。
「オーナーに無事に適度なツンデレ子猫娘を見せることが出来、これでこのお店も無事に開店することが出来ます」
「適度……?」
「はい! とっても適度でした!」
 こいつは気が付かなかったらしい。レデンの攻撃が……、まだ終わっていないことにッ。
「くっくっくっ……」
「何が可笑しいのですかっ?」
遂、笑いがこみ上げてしまう。
「いや、すまんすまん。適度なツンデレ子猫娘はウチのレデンには無理だったようだ」
「はっ? どういう……」

――――――「ぐわぁっ!」

外からクソジジィの悲鳴が聞こえてきた。計画通り。
「今の悲鳴はッ!?」
慌てた様子でサユリが外に飛び出していった。その後ろ姿を見送った後、俺様とレデンはお互いの顔を見合わせてニヤリと微笑み合った。
どうやら上手くいったようだな。
「オーナーッ!?」
「おぉ…、サユリちゃんではないか」
俺様とレデンも外に出た。見ると、店から出てすぐの場所にクソジジィがうつ伏せで倒れていた。通行人も興味を持ったのか、立ち止まって何事かと観察していた。
「どうしたのですか?」
心配そうな言葉を投げかけながら、サユリは倒れていたクソジジィを抱き起こした。
「うむ……、まんまとしてやられたわい」
「何があったのですか?」
倒れているクソジジィは、無言で何かをサユリに見せる。
「これは……」
サユリはそれを乱暴に掴んで引き寄せた。それは、さっきレデンが渡したレシートだった。表は普通のレシート。サユリは何がおかしいのか分からず首をかしげた。
「コレが一体どうしたのですか?」
「裏を見てみぃ」
「裏?」
レシートの裏……、そこには、
「“元気な体でまた来てニャ”?」
「ギャフッ!」

――――――ぷるぷるぷる……

「オーナーッ!?」
クソジジィの体が小刻みに震えた。萌えダメージを受けている証拠だ。
「うむぅ……、まさかここまでワシにダメージを与えることが出来るやつがこの世におるとはのう……、信じられんわい」

レシートの裏には、お客様の心を爆発させるような言葉を書いておく。
これぞ、裏メイド極意、終極。メイド喫茶における最終奥義だ。

だが、ここまで見事に決まるとは思ってはいなかった。俺様の予想を遥かに超えて、レデンは急速に成長しているようだ。あまりの成長の早さに恐ろしくもある。
「もうちょっとで萌え死してしまうところだったわい」
信じられないことに、クソジジィがもう立ち上がっていた。コイツは底なしか?
「……嘘だろ?」
こいつはすげぇことなんだぜ? コイツも化け物ってことか……。だが、流石にダメージを受けすぎたのだろう、身体が不自然に<フラフラ>と前後に揺れている。
 ここであと一発でも萌え技を食らったなら、このクソジジィでも確実に萌え死んでまうだろうな。だが、そんなもったいないことはしない。この野郎は終極に耐えた男だ。称えてもいい。今日という日を、俺様が世界の広さを知った記念日として後世に残してもいいぐらいだぜ。
「ふっ、今度来やがったら、そのときは必ず萌え死させてやるぜっ!」
「やるぜっニャ!」
俺様とレデンで構成されている『ヲタク専門の何でも屋』が同じポーズで人差し指をクソジジィに向けた。その迫力に流石のクソジジィもちょっとたじたじだった。だが、減らず口だけは叩いてきた。
「ふっふっふっ……、それは楽しみじゃわい……」
「けっ、言ってろ……」
俺様とレデンとクソジジィの三人は、しばらく顔を見合わせていたが、途中で誰かが笑うといつの間にか三人とも笑っていた。何はともあれ、これで今日の仕事は一件落着ってところだな。

――――――「今度……?」

だが、一件落着とはいかなかった。急にサユリが変なことを言い出したからだ。
「どうしたのじゃ、サユリちゃん……?」
クソジジィも異変に気が付いたらしい。先ほどまでのおちゃらけた空気は何処かへ消し飛んでしまった。
「注意しろ、レデン」
「了解ニャ」
俺様がサユリとの距離を縮めようと足を前に出した途端、サユリがあり得ないぐらい後ろに飛んで距離を取った。突然こんな行動とられたら、誰だって唖然とする。さっきまでの巨乳メガネっ子メイドは何処へ行ってしまったんだ。

――――――「今度じゃなくて……」

不気味な雰囲気をかもし出しながら、サユリは右手で左の肩を覆っている生地を掴んだ。
……何をする気だ? 良い予感なんて全く感じないな。
 ヤバイ。何だか分からないが、とにかくヤバイ。俺様のシックスセンスは良く当たるんだぜ?
 むっ、ほら見てみろ。サユリが不気味に微笑んだだろ? 何かヤル気だぞ。
 予感的中。

――――――「……今じゃダメかしらねぇッ!?」

 すごい迫力でそう叫びながら、サユリはメイド服を掴んでいた右手を豪快に振り払った。すると、メイド服は宙を舞い、空を漂った。
蠢く大気。唸る大地。
メイド服を解き放ったサユリ……。そして見せた真の姿。
「うわぁぁぁ~~~!」(俺様)
「ニャピィ~~~~!」(レデン)
「こ……、これは~~~!」(クソジジィ)
その時、自分たちはとんでもない出来事に巻き込まれていたのだと、俺様はようやく気づいたのであった……。



第9幕  萌え忍(もえにん)



「うわぁぁぁ~~~!」
宙を舞うメイド服。ピピィー、こちら『俺様総合コントロール室』のオペレーター室長『ORESAMA』だ。何故か視覚に異常事態が発生した。原因を解析するのでしばらく待て……、って……こ……これはッ、おいおいっ、視線方向にメイド服が浮遊中だぜッ。緊急プログラム発動、直ちに捕獲せよッ。
一瞬で優先事項変更完了。俺様は全神経を集中させてそのお宝を追いかけたッ。
「早く回収しなければッ! 間に合うかッ!?」
 もう少しで地面に着きそう……、というギリギリのタイミングで飛び込みジャンプッ!

――――――バシィ……

 手に感触がある。良かった……、無事だったか。
 まるで恋人を悪の組織から救い出して、喜びの余りお互いが抱き合うかのように、俺様はゲットしたメイド服を暖かく胸に包み込んだ。。
 地面に盛大に倒れている俺様をよそに、向こうからは、

――――――「あ~っはっはっは~ッ!」

響き渡る甲高い声が一面を覆っていた。どうやったらそんな高い声が出せるんだと思ったぜ。オペラ歌手にも匹敵するうるさい声だ。だが、声の音量なんでどうでもよかったということが判明した。見ると、目に映ったのは何かの影。太陽の光を受けて空高く舞い上がった黒い影。もしや……、またメイド服かッ!?
「おのれ、何ヤツじゃっ!?」
俺様がその舞い上がった影がメイド服なのかどうか確認しようと目を細めていたら、クソジジィのイヤに役者ぶったセリフが聞こえてきた。おいおいクソジジィ良く聞けよ……、今の世の中、自分から自己紹介するやつなんてサラリーマン以外にはいねぇぞ。それにその時代劇みたいなセリフ回しは止めてくれ。でもまぁ、この次に『クセモノじゃッ、であぇいであぇい』とラストシーンに突入した悪代官みたいなことを言ったら褒めてやる。だって俺様、悪代官好きだし。
その黒い影は2階建てのテラメイドの屋根に着地した。この時点でメイド服じゃないと判断できたので絶望したよ。だが、俺様は一瞬で心を入れなおして屋根に立っているヤツに視線を向けた。太陽が向こう側にあるので目が眩んだが、何とかその姿を確認することは出来た。そいつはまぁ……、普通にサユリだったわけだが。どうもさっきと服装が違うような気がする。だが、さっきのメイド服よりも遥かに心が高鳴るのは何故だろうか。

――――――「相良 龍之介ッ! 貴様の命。貰い受けるッ!」

サユリは太陽を背に受けながら高々に叫んだ。同時に風が吹き、バタバタと音を立てて何かがバタついた。それは、まるで忍びが身に着けているかのような肩掛け。だが、そんなことはどうでもいい。肩掛けよりも、もっとインパクトのあるものがサユリの身体を包んでいるからだ。
「ご主人様~、あの格好は何ニャ?」
レデンも気になるそのお姿。それは戦国の世、動乱の裏舞台にて暗躍したであろう闇の組織。幾千もの男達を骨抜きにし、思いのままに操った究極の戦闘集団。そんな妄想をついしてしまうような衣装。それが……、ピンク色のくのいち衣装なのだッ!
サユリの身を包むものはピンクの布地と編みタイツオンリー。あっ、メガネも忘れちゃいけない。まともな理性を持っていなかったら、気が狂って飛び掛ってしまいそうになる服装だな。
その証拠に……ほら見てみろよ……、俺様のような強固な意志が無い一般市民は、サユリを見上げながらテラメイドの玄関に押し寄せるているだろ? 可哀想な奴らだ……。まるで自分たちの意思が消失してしまったゾンビに見えるぜ。
「何と言うことじゃ……、まさかサユリちゃんが“萌え忍(もえにん)”だったとは……」
サユリの隠された正体を知ったクソジジィが悔しそうに呟いた言葉は、俺様が今まで聞いたことが無い新鮮味を帯びたものだった。『萌え忍』……、この言葉を頭の中で復唱するだけで、なんだか胸の鼓動がどんどん高騰してきた。
あぁっ、カメラカメラッ。写真を撮らなければっ、カメラどこだっ?
えっ……?
「……カメラがねぇ~~~ッッ!!!」
無い。持ってない。何処にも無い。一生の不覚だ。俺様としたことが、なんてショボイミスをしてしまったんだッ。デジカメを家に忘れてしまった。あぁ~、俺様のバカッ。どうして気が付かなかったんだ。死にたいぜ。今持っている携帯にはカメラ付いていないし……、この世には神も仏も居ないのか?
「なんで泣いているのニャ?」
悔しさに負け、地面に膝を付いて泣いていた俺様を心配してか、レデンがこっちに向けて哀れみイオンを放っていた。
「うぅっ、レデン。お前にもきっといつか分かる時が来る」
「多分、一生来ないと思うのニャ~」

――――――トゥリュリュ~~、トゥッリュ~リュ~リュ~リュリュリュ~…

ちょっと待て、いきなり変なBGMが流れ出したぞ。
「何だか聞いたことがあるようなメロディーだニャ~」
何処から聞こえてくるのか……。まぁ探すとすぐに見つかった。サユリの足元に不自然に置かれたラジカセから聴こえて来ているようだ。って、アレは本当にラジカセなのか? 普通サイズのスイカみたいな形の物体。機械に見えなくは無い。その機械っぽいものの所々にボタンが付いているのが辛うじて見えた。変ったデザインだな、ってそんなことよりも疑問に思ったのは、一体どこからそのラジカセもどきを取り出したってことだ。もしかして、あの胸の中に入っていたのかッ!? ということは……、嫌な予感がした。
 俺様の脳裏をよぎった疑惑はこうだ。サユリのあの巨乳の正体は、あのラジカセだった……、ぐふぅ……、俺様は鬼気迫る勢いでサユリの胸を見た。
「……神よ、感謝します」
記憶と相違ない巨乳がそこにはあった。どうやら杞憂だったようだ。良かった……、本当に、よぉかぁったぁッ。

――――――「この世に萌える人々いる限り……」

生ける者全てに感謝を感じている俺様をよそに、サユリは音楽に合わせながら、手を胸の前で合わせたり足を上げたりとポーズを取り始めた。なにやってんだコイツ。その動きが妙にしなやかで、ヨガの演技指導を見ているみたいだった。

――――――「萌えの真髄、貫く心得……」

 流れるようにポーズを決めるサユリに、しばし誰もが口を開くことは無かった。それは驚いたからじゃなく、途中で邪魔したらもったいない気がしたからだと思う。俺様もそう思った一人だから分かるんだ。今、この場に集まっている男共の心は一つだった。即ち、『くのいち萌え~』。
 音楽が佳境に入ると、サユリの動きは一段とキレが増した。流れるような動きから、フィニッシュッのポーズへ変化ッ。それはまるで、我が子を谷に突き落とした親獅子のように、雄大で優雅なポーズだった。それにキメ台詞もちゃんとあった。

――――――「萌え忍……、サユリ参上!!!」

 <ジャジャ~ン>と音楽が終わった。
「ウオォォォォォォ~~~、萌え忍、萌えぇぇぇ~~~~~~!!!」
 サユリの登場ダンスにボルテージが最大まで高まった俺達は、天まで届きそうな歓喜の雄たけびを上げた。
「ニャッ?」
大きな声にびっくりしたのか、レデンは何が始まるのかとオロオロしていた。
「お前たち、あやつに騙されるなっ!」
せっかく盛り上がっていた気分を害したのは、地面に倒れているクソジジィ。ふっ……、今なんつった? 騙される? 違うな。俺達は今ッ、猛烈に萌えているのだッ。だから騙されるとか意味の分からないことを言うんじゃねぇよ。
 ほら見てみろ。あの素晴らしいコスチュームを身に着けたサユリが、
「ふっ、笑止っ! 最早、誰にも我々の野望を止めることは出来ぬッ。だが、我らの野望
を邪魔する輩……、貴様は目障りだ。弱っているのが運の尽きだなッ!」

――――――バッ

クソジジィに向かって飛び降りた。サユリの巨乳的胸は、空気の抵抗を受けて<ボヨ~ン>となっていた。空気ありがとう。
「覚悟ッ!」
 腕を広げた状態で飛び降りていくその光景は、まるでモモンガみたいだな。
「むっ!」
 それを待ち受けるクソジジィ。
って、俺様は何のん気に実況しているんだよ。このままじゃ二人が激突してしまうじゃないか。早く助けなければッ。サユリが危ないッ!

――――――ダッ

地面を思いっきり蹴るッ。間に合うかッ?
「喰らえ! 萌え忍奥義、“押しくら饅頭”ッ!」
 全てがスローモーションに見えた。クソジジィの険しい表情も、サユリの揺れる胸も……。
「危ないッ!」
神風の如くの速度でクソジジィの前に到着。急いで体の向きをサユリへ向ける。ふっ……間に合った。
「へっ?」
 サユリにとっては予期せぬ出来事だったんだろうな。

――――――モニュゥゥゥ~~~ッ

「はぅっ!?」
 激突したはずなのに、『ドゴォォォッ』とか『ズカァァァンッ』といった騒音は聴こえてこなかった。代わりに耳に入ってきたのは、『柔らかい』をイメージするのに最適な擬音語と、サユリの何とも言えない恥ずかしい声だった。
それにしても、この顔全体に広がる柔らかい感触は何だ……。
「な……、なんで貴様が出てくるのッ!?」
突然、真っ暗だった視界が開いた。それと同時に、でっかいマシュマロに顔を埋めているような感覚も失せてしまった。あぁっ、あと5分だけ、っと一歩後退してしまったピンク色のくのいちに話しかけようとしたが、あっという間に後ろへと飛んで、手の届かないところに行ってしまった。名残惜しい。
「(やっぱり大きな胸はイイな……)」
自分が何に顔を埋めていたかを思い出すだけで意識が飛んでしまいそうになる。俺様ってピュアな生物だろ? ふっ……、生物として頂点を極めた俺様でも、他の生物と共通する部分が在る。それは、如何なる生物も『柔らかい』モノは大好きだと言うことさッ。この世に生ける全ての者たちよ。心に刻めっ。柔よく萌えを制せッ。
サユリの『押しくら饅頭』を偶然にも喰らってしまった俺様の鼻の下は、恐らく搗きたてのモチのように伸びまくっていることが容易に予想できた。何故なら、周りにいる男供からは舌打ちやツバを吐き出す音がリズム良く聞こえてくるからだ。けっ、クズ共がッ。これがお前らと俺様の『格』の違いってわけだ。せいぜい俺様の周りで劣等感に浸っていやがれ。まぁ……、その分に応じて俺様は優越感に浸れるわけだがなッ。
「助かったぞ若造」
「ん?」
まるで生まれたてのロバみたいにヨロヨロと立ち上がったクソジジィは、あろうことか、自分のすぐ傍にいた俺様の肩に手を置いて自分の体を支えていた。ねっとりとした嫌な体温が伝わってくる。しかもクソジジィの体温。クソジジィのエネルギーが俺様の中に入ってくる……。と……鳥肌がぁッ!
「うぎゃ~ッ! ジジィ離せッ。じぃさんに触られたら俺様は死ぬしかないッ!」
 俺様の心には、全身全霊を賭けて誓った五大誓約書が刻まれている。その一つに、『じぃさんに触れると老人臭を植えつけられるから近寄るべからず』とある。ふっ……、禁を破った俺様もこれで老人臭をまとった訳か~。ガフゥッ!(精神的ダメージ大)
「さすがのワシも、今の攻撃を喰らっていたら萌え死していたかもしれん……」
宇宙の彼方へと意識を持っていかれていた俺様を呼び戻したのは、その原因を作った張本人のクソジジィだった。コイツの口調がやけに真剣で、お遊び気分が失せてしまったわけだ。俺様の肩に手を置いて立っているクソジジィからは疲労が伝わってくるし、疲労の証拠に額には冷や汗までかいでいやがった。
「じゃが、もう大丈夫じゃ」
 スッと肩から重さが抜けた。
「肩を貸してくれて感謝する」
そう言って、クソジジィはサユリの方へと足を進めていた。って、そんなボロボロな体でまだ戦う気かよ。バカじゃないのか。マジで死ぬぞ。俺様はそんな無謀なやつが大嫌いだ。自分勝手なヤツがどうなろうと知ったこっちゃない。自業自得さ。他人に頼ろうとしないのさ弱さでもあるんだぜ? 死んでから後悔しても遅いんだぜ? そう……後悔だけが残るんだ……、貴様にも……、この俺様にもなッ!
さっきまで俺様の肩を掴んでいた手の平の余熱が、まだ肩をつかんでいるような感覚が残っていたせいかな。
「退いてろ」
 そう言いながら、俺様はクソジジィの背中を引っ張って向こうに投げ飛ばした。
「ッ!?」
 声も出せずに飛んで行ったクソジジィだったが、上手く着地した。で、こっちを見た。
「お主ッ、どういうつもりじゃッ。これはワシの戦いなのじ」
「ゴラァッ、勘違いするな。コレはアンタの戦いじゃない。コレは俺様の仕事だッ!」
 クソジジィなんてどうでもいいんだよ、と付け足すのも時間の無駄なので、俺様はサユリの方に視線を移した。そこにはまだ胸を押さえているサユリがいて、俺様と目が合うと急に赤くなっていた。恥ずかしいのならさっきの技をやらなければ良かったんじゃないのかと少し哀れんでしまったぜ。
「貴様ッ。よくも邪魔したなッ!」
頬を染めながらも強気なセリフを吐いた女忍者サユリは、再びテラメイドの屋根へと飛び上がった。流石は萌え忍、身体能力が高いっ、とノリでそう思ってしまうほどのジャンプ力だった。
「なぜ邪魔をする、貴様ッ!」
「ふっ……、昨日言っといたはずだぜ。“明日は俺様の好きなようにさせてもらう”と。だからアンタにとやかく言われる筋合いはこれっぽちもねぇな」
 俺様は“これっぽっち”のジェスチャーを右手の親指と人差し指を使ってサユリに見せ付けながら言った。
「それに俺様は、人を騙すクズ野郎がこの世で一番キライなんでね。てめぇ、よくも俺様を騙しやがったなッ!」

――――――ダンッ!

地面を思いっきり蹴って跳躍。常人ならあり得ないほどのジャンプ力。
いつ以来だろう……、本気で跳んだのは。
「なっ……?」
 目の前にサユリの胸。もらったッ!
「お触り~~~ッッ!!」
 風を切って唸る俺様の右腕。その目標物は突然の出来事に対処できなかった……はずだったのに、

――――――ポサァ!

「あれっ?」
 期待していた感触は伝わってくることはなかった。だが、手は一応なにかを掴んでいた。それは全身を包み込むことができるほどの大きな一枚の布。そこには、
「ツン子ッ!!」
 俺様のアイドル、“ツンデレアタックNo1”のヒロイン“ツン子”の押し目も無いイラストが所狭しとプリントされていた。
「あぁっ、ツン子ッ!」
興奮した俺様はツン子に抱きついた。そんなことをしているうちに、地面に受身も取れずに大激突してしまったわけで……。
「和也ッ、大丈夫かッ?」
 クソジジィが駆け寄ってきて俺様の体を起こした。
「エヘヘ~、ツン子~」
「くっ、恐ろしい技じゃッ」
 ツン子がプリントされた布(ツン子マント)を、クソジジィは強引に奪った。
「てめぇッ、何するんだよッ。返せッ!」
「うむ、無事でよかったわい。……ツン子」
 クソジジィは奪ったツン子マントを抱きしめると、その後それをあろうことか羽織った。あっあっああああぁぁぁ~~~ッッ!!?
「出てくるのじゃッ。今度はワシが相手じゃッ!」
「その前に俺様が相手だ~ッ!」
 命よりも大事なツン子にこれ以上触れるなッ!
「ぬっ、お主っ、まだ動けるのかッ!?」
「か~え~せ~」
 さっきの落下時衝撃で、アバラが何本かイッていたが、ツン子に比べたらアバラなんて何本在ったって無価値だ。
「イヤじゃっ。コレはワシのもんじゃっ」
「な~に~?」
 お互い満身創痍ながらも、譲れぬ物がそこには在った。ふっ……負けないぜ?

――――――「命拾いしたな、相良 龍之介ッ!」

 だが、そんな決闘のお茶を濁したのは、どこからともなく聞こえてきたサユリの叫び声だった。すっかり存在を忘れていたな。

――――――「だがしかしッ! 貴様は今日この日に萌え死していれば良かったと思う日がいつかきっと来る! そのときを楽しみにしているんだなッ!」

一体どこから聞こえてくるんだ? 最後にもう一度その『ザ・胸』に触れたいのだが……。
――――――「去らばっ」

 それが最後のセリフとなった。なんというか、最後はアッサリと消えたな。もっとド派手に退散してもらいたかったんだがなっ。あと、
「ツン子のグッズをもっとくれよ……」
それだけが心残り。あと胸タッチもな。やっぱり顔で触れるのと手で触れるのとでは、神経の集まっている密度が高い手のほうが、繊細な感触まで感じ取ることができるからな。顔面じゃなくて手で触ればよかった。俺様ってドジっ子?
「ふぅ……」
見ると、ツン子マントを俺様と取り合っていたクソジジィは、あさっての方向を向いて溜息をついていた。その手には何も持ってなく、いつのまにか俺様の手にはツン子マントがしっかりと握られていた。
「あやつら……、本格的に始動しはじめたか」
 意味深だな。
「……おいクソジジィ。萌え忍って一体」

――――――キキィッ

「ん?」
普段見慣れていない車がすぐ横で止まった。何だこの車? 異様に長えぇ。もしかしてコレが噂に名高いリムジンってやつなのか? 金持ちかハリウッドスターが乗車していること間違い無しな黒いリムジン。それにワックスでピカピカだから光りすぎだ。眩しい。こっちに向けて太陽光を反射するなッ。黒色なら自然の摂理に従って光を吸収してろよ。それにしても長えぇ。
リムジンの運転席のドアが勢い良く開いた。
「龍之介様っ!」
その掛け声と共にリムジンから現れたのは、メガネを掛けたスレンダーな茶髪長髪美人秘書。髪の毛はサラサラだっ。最近OLたちの間で流行っている『できる女』のスーツシリーズの一つ『できる秘書』のスーツをそつなく着こなし、細く長い足の太ももを包んでいるのは灰色のミニスカート。その見えそうで見えないラインは正に神の仕業と疑ってしまうようなゴッドライン。このような常軌を逸脱したファッションに、俺様は感激したね。
「ご無事でっ」
その美人秘書がクソジジィに駆け寄る。

――――――ギュム~

そして熱い抱擁……。
「はっはっはっ、これこれ、皆が見ておる」
「ご無事で何よりです……」
泣いているのか、美人秘書は小刻みに震えている。このクソジジィのことをよほど心配していたんだろうな。うんうん……、実に不愉快だっ! レデンのメイド接客を直に体験でき、今は美人秘書に抱擁されている……、貴様の今日は美味し過ぎるぞ。まさかとは思うが、毎日こういう生活を送っているのか?
「よし、ではそろそろ帰ろうか、時雨ちゃん」
「はいっ」
見ていると誰もが誰かを恨んでしまうような抱擁を解いた二人はリムジンに乗り込んでいった。クソジジィは後ろの席に、時雨という名の美人秘書は運転席に。
「あっ、時雨ちゃん、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
後ろの席の窓ガラスが下へスライドしていく。そこから顔を出したのは、抱擁という回復魔法で元気を取り戻したクソジジィだった。
「おっほん……、和也よ、明日は何か用事があるか?」
「明日?」
いきなり何を言い出すかと思えば……、ふっ……、明日はレデンの萌え特化特訓という大事な仕事があるのだ。だから貴様の用件などどうでもいい。
「すまないが、明日は……」
「そうか、残念じゃの、とんでもないパラダイスへ招待しようと思ったのにのぉ」
「……何も用事がないのだ」
 レデンの特訓なんていつでもできる。そう自分に言い聞かせた俺様がそこにいた。
「そうかそうか、では明日の正午までにココに来てくれないか」
クソジジィから手渡されたものは、一枚のメモ用紙。
「この場所に行けばいいんだな?」
メモ用紙には簡単な地図が描かれていて、住所も書かれていた。
「そうじゃ、その場所に来てくれ。今日は世話を掛けて済まなかった。大変感謝しておる。ではまた明日会おう、失敬」

――――――ブロロロロォォォ……

俺様は車が見えなくなるまで、しばらく車が走り去った方向を眺めていた。
「パラダイスねぇ……」
その言葉がとっても気になるわけだ。パラダイスって何だよ。……はっ!? もしかして……、酒池肉林ってやつなのかもッ!?
クソジジィからもらったメモ用紙を凝視する。
「楽しみだな」
興味が急に湧いてきた。よしっ、明日起こる出来事を脳内で考えてみよう。
あのクソジジィの事だから、とんでもないジャンルの女の子たちを用意しているに違いないッ! 間違いないッ! ナース、スチュワーデス、チャイナ、先生、メイド、バニー、水着、でへへ~、考えたらキリがないぜっ、いやっほ~いっ!
そんな風に妄想ワールドを展開していたら、

――――――ヒソヒソヒソ……「おい、アイツやばくね?」、「目がイッていますね」

「はっ!?」
意識の凱旋帰国完了。やばいやばい……。周りのやつらの声が聞こえなかったら、このまま萌えカオスの世界に一生迷い込んでいたところだった。あやゆく命まで落とすところだった。想像力って怖いよな?
ツン子マントを羽織ってから、俺様はレデンを探した。すると、道の隅っこのほうでしょんぼりとしゃがみ込んでいたレデンを発見。何だか落ち込んでいるように見えてしまう。どうしたんだ?
「よし、レデン帰るぞっ」
ピクリと白いネコミミが動いたが、顔を上げようとはしない。見ると、ネコミミも尻尾をだらしなく垂れていて、レデンが落ち込んでいることを示していた。分かりやすい感情表現方法だと思わないか?
「おいっ、帰るぞっ」
だが反応なし。ふっ……、この俺様を無視するとはいい度胸だな。 
レデンは下を向いたまま微動だにしない。そろそろ抱きかかえてでも帰ろうかと思っていたら、
「ご……ご主人様……」
 ようやく顔を上げて、弱々しく声を漏らした。しかも泣き顔だった。
「何があったんだっ!?」
レデンは明らかに泣いていた。目元が赤い。まさか、誰かにナニかされたのかッ!?
「大丈夫かッ!?」
 膝をついて目線をレデンと合わせて、俺様はレデンの両肩を掴んだ。その華奢な肩は、プルプルと震えていた。何だ? 一体なにが遭ったっていうんだよッ!?
 困惑してしまうぜ。レデンから目を離したほんの少しの時間の間に、レデンは何かしらの恐怖を体験していたってことだ。ちくしょう、なんてこった……。
心配で目を瞑ってしまった。だがそのとき、レデンが自分の肩を掴んでいる俺様の手を握ったのが感覚で分かった。
「ん?」
見ると、レデンは俺様の手を肩から引き離し、こっちを涙目で見ていた。そしてレデンは目元の涙を指で拭うと、
「ご主人様は……、大きい胸が好きなんだニャ?」
「へっ?」
途端にまた<ブワ~>と涙が溢れ出していた。そんな目で見るな。
大きい胸……? あぁなるほど。さっきのサユリとのやり取りを見て、俺様が巨乳好きだという風に感じたんだな。その考えは正しいぞ。
「レデンはどうせ……、胸ないニャァ……」
 悲しみのあまり涙が滝のように出てきているレデンを見ていると、何だか心が痛む。ここは一つフォローを入れるに限る。
「いやっ、俺様はレデンの胸も好きだぞっ」
 だが、墓穴を掘ってしまった。
「嘘ニャッ! だって、さっきのご主人様、とんでもなく鼻の下が伸びていたニャッ!」
「うっ、それは……」
「ご主人様はやっぱり胸の大きい方が好きなんニャッ! バッキャロォォォ~!」

――――――ドゴッ!

「ぐはぁッ!?」
しゃがみ込んだ体勢から、いつもの爪攻撃ではなくケリを繰り出したレデン。腹にめり込んだところから<ミチミチ>と嫌な音が聞こえてくる。やべっ、吐きそう。
「どうせレデンは胸がないニャ~ッ!」
 吹き飛んだ俺様のところにグチを飛ばしながら、殺気立ったレデンが歩いてくる。これはヤバイ。機嫌を直さないと殺される。
「待てっ、レデンは今から大きく……」
「今ほしいニャ~ッ!」

――――――ドゴッ!

 今度はパンチ。一発で意識が持っていかれそうになるほどの威力。
「無茶言うな~ッ!」(頭から血を流しながら)
「ご主人様のバカァアァ~~~ッッ!」

――――――ドゴォォォッ!

「死ぬぅっ」
「バカァアアァァッ~~~!」
 人って死に直面すると、妙に頭が冴えるらしい。
「クッ、レデン! カツオ節の塊を買ってやるぞ!」
「ニャッ?」
誘惑の言葉にレデンの攻撃が止まった。いけるかッ!?
「ほらっ、早く行かないとお店が閉まるぞ!」
 俺様は立ち上がって、夕焼けに染まる空を指差した。すると、
「何しているニャッ! さっさと案内しろニャァッ!」(ビチャァァッ)
レデンの口からは大量のヨダレが滴り落ちていた。どうやら助かったようだ。これからレデンをあやすときの言葉は『カツオ節の塊』だな。
「こっちだ、ついて来いっ!」
「了解ニャッ!」
こうして、俺様とレデンは夕焼けに佇むテラメイドに背を向け、鮮やかなオレンジ色の夕焼けに向かって走っていったのであった……。



第10幕  相良 龍之介



――――――ボリボリボリボリ……

「レデン、食べ歩きはお行儀が悪いぞ」
「そんなのどうでもいいニャ~」

――――――ボリボリボリボリ……

何だか最近、レデンが俺様の言うことを聞かなくなってきている様な気がする……。つい最近からだ。どうも手に負えないというか五月蝿いというか……。まぁ、レデンがこうなってしまった原因は分かっている。美鈴だ。あの凶戦士が原因だ。アイツの凶暴性がいつのまにかレデンにうつってしまったのだ。くそっ、早く俺様という特効薬をレデンに注入してやらんと、とんでもないことになってしまうぜッ。
今、俺様とレデンは町里離れた山道を進んでいる。町から少し離れるだけでこんなにも緑が生い茂る場所があったなんて知らなかったな。空気も澄んでいてウマイ。だが、そんな自然の空気を汚すヤツが横にいる。レデンだ。コイツが家からずっとカツオ節の塊をかじりながらついてくるから、俺様の周りにはそれはすごい匂いが充満している。ちょっとしたカツオ節結界初極というヤツだ。
「美味しいニャ~」
隣からは幸せそうな声がずっと聞こえてくるので文句も言えやしない。まったく困ったヤツだ。
「そんなことよりもな」
ポケットから地図を取り出してもう一度よく見てみる。
「この地図おかしくないか?」
地図には大体の模式図が描かれているのだが、クソジジィの指定した場所がちょっとありえないくらい範囲が広いのだ。
「これって、東京ドーム一個が軽く入る広さだぞ?」
昨日のリムジンの件もあるし、あのクソジジィはもしかするととんでもない大金持ちなのかもしれない。ちっ、腹立たしいったらありゃしないぜっ。
「ニャッ!? 大っきぃ門があるニャ!」
レデンはわざわざこっちを向いて、カツオ節のクズを『つぶはぁっ!』と吹き飛ばしながら言ったので、その口からはカツオ節のクズが散弾銃のように発射された。それを神業的にかわしながら、俺様は向こうを見てみた。
「げっ、何だアレは?」
そこにそびえ立つものはまさに羅生門。高さ推定五メートル。神木でも使って建築したかのような神々しいオーラが解き放たれている。その両側には白い壁が向こうの方までず~~~~っと続いていて、この門を通る者を威圧する圧迫感が凄まじい。ヤクザの事務所なんて目じゃないな。
「ん? 誰かいるぞ」
その門の前には、昨日会った『時雨』と言う美人秘書が立っていた。お出迎えというやつか。俺たちはそいつのところまで行って挨拶した。
「ちぃ~っす」
 すぐに返事が返ってくると思ったんだが、
「………………」
時雨はまったくの無反応。下を向いてただ立っているだけ。
「何だ? 俺たちに気づいていないのか?」
涼やかな風、安らかな木々のざわめき。それらが俺たちの空間を埋め尽くしていた。
「この人どうしたんニャ?」
「う~む、分からん」
「死んでいるのかニャ?」
「よしっ、心臓が動いているか試してみよう」

――――――ザシュッ

「……冗談だ」
時雨の胸に手を伸ばそうとした俺様の手を、レデンが容赦なく切り裂いた。結構痛い。
「多分寝ているんだろうな。ちょっと待ってろ」
レデンが『?』マークを頭に浮かべている中、俺様はそこら辺に生えていた雑草をちぎって、それを時雨の鼻の中に突っ込んだ。

――――――こちょこちょこちょ……

「ふぇ……」
効果は絶大だな。さっきまで無反応だった時雨の顔が歪んだ。そして、
「ふぇくちっ」
可愛らしいクシャミだった。
「あ……あれ?」
ようやくお目覚めか。
「よう、目が覚めたようだな」

――――――クー……

 また寝た。
「………………」
 俺様とレデンはしばらく間を置いてから。
「起きろッ」、「ニャッ」

――――――ゴンッ

 二人同時に頭を叩いてやった。
「あ……あれ?」
今度こそ、ようやく時雨が目を覚ましたようだ。
「次、寝たらカンチョウするからな」
「あぐぅ……、すいません。いいお天気だったので、ついウトウトと……」

――――――クー……

「う~む……」
俺たちはどうすればいいのだろうか? 
このまま時雨を放って置いてこの門を通るべきか。それとも、親切にカンチョウで起こしてあげて、時雨に感謝されるべきなのだろうか……。
「う~む……」
まぁ、いろいろと考えるのは俺様らしくないな。頭で考えるよりも、体が先に動くのが俺様という生命体なのさ。よしっ、カンチョウしよう。これで時雨も俺様も救われるってもんさ。
だが、いざ遂行しようとしたら、何故かレデンが時雨の前に立って手を<ワキワキ>と動かしていた。何をする気だ?
俺様が『?』マークを頭に浮かべている中、レデンはニヤリと笑ったかと思うと、

――――――ムンズッ!

「はぅ!?」
「目が覚めたかニャ?」
ぐふっ、な……何ていうことだッ。レデンが時雨の胸を両手で思いっきり揉んだために、時雨が起きてしまったじゃないかっ。俺様のゴッドフィンガーカンチョウをお披露目できる折角のチャンスだったのにッ。
「あ……あれ? なんだか私……、長い長い夢を見ていたような気がします」
 どこか上の空で言っている。まだ眠気が抜けていないのだろう。
「そりゃあ、実際に寝ていたんだからな」
「はぁ……そうだったんですか……、えっ!?」
さっきまでボ~っとしていたのに、時雨は突然スイッチが入ったようにシャキっと背筋を伸ばした。
「そうでしたっ。私、和也という人を待っていたのでしたっ」
「それは俺様だ」
自分を指差して答えてみたら、時雨の後ろに『ガーンッ』という絵文字が浮き上がったのが見えた。衝撃の事実だったんだな。時雨は『あぐぅ~』と言った後に、
「うぅぅ……、すいません、寝坊してしまって……」
 寝坊ッ!? 違うな。
「言っちゃ悪いが、これは寝坊を通り越して死坊(亡)だと思うぞ?」
 突如、どこからともなく寒い風が<ヒュ~>と通り抜けた。おいおいっ、ちょっと待ってくれよ。言っておくが、これはオヤジジャグでは無いぞ。だから、寒いギャグ発生時に吹く風が吹くわけ無いだろう? これはヤングでイケてるチョベリグなギャグだッ!(直後、また風が吹く)
「あぐぅ~……、ツッコミを入れるべきか悩みますね」
「まったくニャ……」
 あれ? レデンがいつの間にか時雨サイドに移って、二人して俺様を冷たい目で見ていた。
「うっさいわ~っ、オラッ!」
 いてもたってもいられなくなったので、俺様は時雨の両方の頬っぺたを摘まんで引っ張ってやった。
「ひぃたいれす~」
「そもそも寝ていたアンタが一番悪いんだろうがっ。あ~や~ま~れ~」
「ごめんにゃひゃいぃ~」
 手を離してやると、時雨は自分の頬を摩りながら泣きそうになっていた。自業自得さっ。
「あぐぅ~、和也さんはヒドイ人ですっ」
「十分承知している」
「ヒドイって言うよりも邪悪に近い存在ニャっ」
「あっ、今、俺様キズ付いたぞ」
 心が痛い。レデンにそこまで思われていたとは……、いよいよもって早く調教しなければ、俺様の地位が危ういッ。
「はっ、早くご案内しなければっ」
いきなり自分の使命を思い出した時雨は、俺たちを見つめてこう言った。
「和也さん、そしてレデンさん、はじめまして。私は龍之介様の秘書をしております『柿本 時雨(かきもと しぐれ)』と申します。本日はわざわざこのような場所までお越しいただいて、誠にありがとうございます」
時雨がお辞儀をすると、その長い髪が風に揺れて、一瞬だけ俺様の視界が茶色に染まった。
「ちゃんとまともなことが言えたんだな」
「あぐぅ……、ちゃんと言えますよっ」
 少しだけ拗ねたように口を尖らせると、時雨は再度キッチリとした表情になってまじめに答えた。
「それではご案内いたしますね。中で総理がお待ちです」
「あぁ、分かったよ。レデン行くぞ~」
レデンは巨大な門を下から嬉しそうに見上げていたが、
「了解ニャ~」
素直に返事をしてこっちに駆け寄ってきた。でだ、その勢いを保ったまま、俺様とレデンは、

「って、総理って何だよッ!?<ピシッ>」
「って、総理って何ニャッ!?<ピシッ>」

と、全くと言っていいほどの同じタイミングで、時雨にツッコミを入れてしまった。
「な……何ですかっ?」
ツッコミを喰らった本人は、ただ戸惑うばかりでこっちが戸惑ってしまう。
「おいおい、冗談にしてはちょっと笑えないぞ」
俺様とレデンは『ワタシニホンゴワァ~ッカリマセ~ン』と喚く外人みたいに両手の掌を天に向けて『ハハハハハ……』と笑い声にならない笑い声をあげた。。
「いえ、冗談ではありません」
先程の時雨とは違い、今度はハッキリと物事を話すので妙に信憑性があった
「まさか、総理って言うのは、総帥 オブ 理科部 の略語か?」
よく分からないことを口走りながら、俺様はただひたすらにオロオロと手の甲の小さな毛を抜こうと努力し、レデンはと言うと、カツオ節の塊に対して“草履”と爪で必死に跡を刻み込んでいた。なぜそんな難しい漢字をレデンが知っているかは俺様には分からないが、レデンよ……、それは“ぞうり”と読むんだぞ?
「いえ、総理とは、総理大臣の略語です」
何をそんなに驚いているの? みたいな感じで時雨が答えた。ムカツク。
「ふっ、何を言っているんだ。そんな訳がないだろう」
俺様は気を落ち着かせるために、その場で片手腕立て伏せをし始めた。オイッチーニーサンーシー……。
「突然なんで片手腕立て伏せなんかし始めるんですかっ? 自分の国の総理大臣ぐらい知っておいてください」
頭の上から時雨の喧しい声が聞こえる。ふっ……、
「そんなこと信じられるかぁあぁぁ~!!」
その掛け声と共に、俺様は<ガバーッ>っと立ち上がった。
「あのクソジジィが総理大臣な訳ねぇだろうがっ! レデン、ついて来いッ!」
「了解ニャッ!」
「えっ、ちょっと?」

――――――ダンッ!

俺様とレデンは、その類まれなる身体能力を生かして高々にジャンプした。
「着地っ」
そして無事に門の上に着地した。垂直跳び五メートル。世界新かな?
「ほえ~、高いニャ~」 
景色は最高。俺たちがここまで歩いてきた道が一望できる。今日はイイ天気だ。
「……あのぉ~!」
下のほうで時雨が叫んでいる。
「……危険ですので降りてくださいぃ~!」
 落ちないように気をつけて、下のほうを覗いてみた。
「大丈夫だッ。そんなやわな鍛え方をしていないのでなッ」
5mほど下にいる時雨はそれでもバタバタと五月蝿く喚いていた。
「あぐぅ……! そうじゃなくて……」
時雨の様子がおかしい。
「ご主人様……」
「ん、どうした?」
隣にいたレデンの様子もおかしい。なんだ? このおかしいは女性限定なのか?
「なんだから嫌な予感がするニャ」
 嫌な予感……、女の勘というやつか。いや、レデンの場合は動物的本能によるものだろうな。
「ほう、それはどんな……」

――――――ダダダッダンッ!

 どこからともなく銃声が響いた。
「うわっ」
ちょっ、やべぇ!
「逃げるニャッ!」
レデンは言うが早いか先に飛び降りていった。
「見捨てるな~ッ」
で、俺様も急いで下にいた時雨の元へ飛び降りた。

――――――ダンッ!

 無事着地。着地は痛いからキライだな。
「大丈夫でしたかっ!?」
時雨が心配の表情を浮かべて俺たちの元に駆け寄ってきた。
「おい……、何でいきなり攻撃されないといけないんだ?」
こんな絶叫マシーンがあったら、客が事前に危険を察知して逃げ出してしまうテーマパークが完成してしまうぜ。だから、その恐怖を体感してしまった俺様の心臓がバクバク状態なのはしょうがないことだろ。
 何でいきなり攻撃されないといけないんだという問いに、時雨はにこやかにこう言った。
「それは……、この門を通って中に入らない人は、例え総理でも射殺せよと命令されているので……」
見ると、時雨の右手には、銃口から火薬の匂いがプンプンする銃が握られていた。
「って、お前が撃ったのかよッ!?」
「あぐぅ……、だって……」
「だって……じゃないだろうがぁぁぁッッ!」
やばい。気がどうにかしてしまいそうだ……。落ち着け、クールになれ俺様。クールに、クゥゥゥルゥゥゥになれ。
「ですので、門以外から中へ入ることはあまりオススメできませんっ」
まるで子供を注意する優しいお姉さんみたいに、時雨はニコっと笑った。てめぇ……、覚えていろよ。
「前途多難だニャ……」
いつも元気万点なレデンも、今回は流石に顔色が悪いかった。何だか急に寒気がしてきたぜ。
「では、ご案内致します~」
時雨は門の横の小さな扉を開けると、手招きして俺たちを中に入れた。この羅生門を通って中に入ってみたかったが、『開けるのが面倒くさいです』と断られてしまった。そして時雨は扉の鍵を閉めると、
「こちらです」
俺たちの前を先導して歩いていった。地面は砂利道。心地よい砂利音が歩くたびに響く。
「……広いニャ~」
「あぁ……」
 見渡す限り日本庭園。流れる小川に赤い橋、高さが三メートルぐらいの五重の塔まである。色とりどりの日本の植物が惜しめもなく目に入ってきて、この庭一つで日本を感じることができる。観光客に有料公開できるぐらいの素晴らしい庭だ。やはり、あのクソジジィは大金持ちで、時雨が言っていたようにこの国の総理大臣なのだろうか。ミトメタクナイ……。
「綺麗な所ニャ~」
 横を歩くレデンもすっかりご満悦だ。それにこの砂利というものも気に入ったらしく、世話しなく砂利を蹴って遊んでいた。だが、その遊びはかなり危険度が高く、レデンが蹴る砂利はショットガンのように俺様を襲うわけで、その結果、俺様は死に物狂いで逃げ回る羽目となった。
 そうこうしているうちに、クソジジィが居るらしい屋敷に着いたわけだ。これまた立派な屋敷で、もはや憎いを通り越して驚嘆してしまっていた。
「靴は脱いでお入りください」
外見も純和風。中身は純和風。日本家屋の素晴らしさが詰まった建造物だ。木の香りが心地よく、この屋敷の中に居るだけで癒される。アウトセラピーなんて可愛く見えてくるぜ。
「なんだか懐かしい匂いニャ」
レデンは鼻をクンクンさせて、柱や床やら畳の匂いを直に嗅いでいた。
「へぇ~、この匂いの良さが分かるなんて大人だな、レデン」
「むっ、レデンはもう立派な大人ニャッ!」
拗ねてしまったのか、プイっと顔を横に向けて黙ってしまった。やれやれ……、
「全く……、その態度がすでに子供っぽいんだけどな……」(ボソッ)
「何か言ったかニャ?」(ギロッ)
「別に……」(ボソッ)
「和也さん、レデンさん、着きましたよ」
レデンに睨まれていた俺様を救ったのは、ここまで案内してくれた時雨だった。時雨が立っている場所の正面には、横に何枚も障子が広がっている大きな部屋があった。横幅だけで十メートルはあるぞ。無駄に広すぎだ。
「くれぐれも総理の前では失礼の無いようにお願いしますね」
「はいはい……、どこの誰かさんみたいに急に銃なんてぶっ放さないから安心してくれ」
「あぐぅ……、そういうこと言う人嫌いです」
 こっちを見て少し泣きそうになった時雨だったが、部屋の方に向きなおすと、まともな秘書のようにこう言った。
「龍之介様。和也さんとレデンさんをお連れ致しました」
 そして部屋の中からは、
「うむ、ご苦労であった。通せ」
 昨日と相違ないクソジジィの声が聞こえた。
「はい」
 時雨が旅館の女将さんみたいに正座して障子を開けると、部屋の入り口から畳の横の幅三枚分の距離のところに、クソジジィが浴衣を着て座布団にあぐらで座っていた。
「おぉっ、和也ではないか。良く来たのぉ」
歓迎モードで笑顔を振りまく浴衣姿のクソジジィは、なんとなく勝海舟に見えて仕方がない。昨日は黒いシルクハット・スーツ・蝶ネクタイの黒三点セットで洋風に見えたから、昨日は大久保さんを意識したスタイルだったのかね?
まぁ、クソジジィのファッションセンスなんてどうでもいいんだよ。日本から見て地球の裏側に在る国の今日の天気予報ぐらいどうでもいい情報だ。最優先される情報は他に在る。
「おいクソジジィ、色々と聞きたいことがある」
そう言いながらクソジジィの前までスカスカと歩いていった俺様は、先に部屋に入っていた時雨が差し出してきた座布団を蹴り払って畳に<ドカッ>と強引に座った。
「ほう、何でも聞いてみぃ」
 クソジジィは挑戦的な目つきで睨んできた。だから俺様も負けじと睨み返しながら言った。
「まず……、昨日言った“パラダイス”って言うのは何処にあるんだ?」
「はて? パラダイス……?」
クソジジィがとぼけた様に答えたのでブチキレそうになったが、我慢ガマンがまんだ……。よしっ、落ち着いた。
「あぁ、俺様はそれが楽しみで、今日は忙しい中わざわざここまで来てやったんだからなっ」
しかもここまで来るのにちょっと死にかけたんだからなっ、二回もッ。それにその内一回は貴様の部下である時雨の発砲が原因だ。あんなバカな奴に銃を持たせるなんて正気か? 今すぐあんなヤツ解雇しろよ。で、俺様の家で美人メイド秘書として雇ってやるからさ。<ギロリッ>
「ひっ? 何だか寒気が……?」
 時雨は何処からともなく感じる恐怖に肩を抱いて震えていた。俺様、黒魔術の才能在るかも。
 時雨から視線を外しクソジジィに戻すと、さっきの質問の返答が返ってきた。
「済まんかった和也よ。冗談じゃよ。ちゃんと覚えておるわい。ほれっ、アレがレデンちゃん用のパラダイス“カツオ節風呂”じゃ」
クソジジィが部屋の横を指差した先、そこにはビニールでできた大きなプールが置いてあり、その中には恐ろしい量のカツオ節が投入されていた。

――――――「ニャニャニャァァァ~~~! パラダイスニャァァァ~~~!」

すでにレデンも投入されていた。行動が早いなお前。
まるで札束の風呂にでも入っているかの如く狂喜しているネコミミ少女は、両手でカツオ節を持ち、それを真上に投げ、そしてまた両手でカツオ節を待ってまた真上に投げるという行為を繰り返していた。
「ヒヒヒィ、ヒヒィッ……!」
レデンの超気持ち悪い声が聞こえくる。
「まぁ、アレは見なかったことにしよう」
はじめからアレが無かった事にできれば……と、世の中を生きる人間なら一度は思ったことが在るだろう。それが今このとき、俺様に発生した。
「ふむ、レデンちゃんが楽しそうで何よりじゃ」
 あれが楽しそうに見えるやつがいたら、お前は脳がイカれていると俺様が直接宣言してやりたくなる。だから目の前に居るこのクソジジィにも言ってやりたくなる。アンタの脳はイカれてイカみたいに透明になっているんじゃないのか? もう手遅れだな。ご愁傷様。って、そんなことはどうでもいいんだよッ。
「で、俺様のパラダイスとやらは何だよ?」
レデンのパラダイスはあの『カツオ節風呂』だということは分かった。じゃあ、俺様のパラダイスはこの流れで行くと……、まさか……、『女体乱れ風呂』ッ!?



                   続くwwwwww

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