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”ツンデ・レデン・刹ッ”改 第一幕~第三幕

 ふぅ…、これはヤバイ。小説っぽいです。一応第一幕から第三幕まで直しました。まぁ、第三幕は初公開、レデンと和也の出会いと美鈴降臨を事細かく表した幕です。
 これから膨大な量を直さなければいけません。追加ストーリも途中で大量に投下しなければいけません。
 今回の話で、誤字脱字の発見、もっと説明があった方が良いと思われた賢人が居たら、ぜひコメントください。宜しくお願いしますm(__)m



第1幕   朝の挨拶



「にゃぁ~、にゃぁ~……」

冷たい……水……当たる……体……痛い……お母さん……いない……どこ?
……寂しい……寂しい…1人は……嫌……嫌……嫌……。

――――――ガサッ

体が震えた。何か音がした。何がいる?
目を開けないと。逃げないと。お母さんを助けないと。動きたい。動きたい。動け動け。嫌……嫌……お母さん……逢いたい……逢いたい……。

――――――ガサガサッ、ガササッ

音……近づいている……怖い……怖い……お母さん……お母さん……お母さん……!

――――――「……えっ!?」

声……聞こえた……私と……同じ声……お母さんとは……違う……声……。

――――――「なんでこんなところに女の子が?」

私の……後ろ……いやな声……。
私の……前……良い……声……。

――――――「なんか良く分かんねぇが、困っているやつは見捨てられねぇな」

声……近づく……私の……体……動いた……浮いた……暖かい……これ……あたたかい……水……もう……冷たくない……暖かい……お母さん……逢いたい……。




「お母さん~!」
「逢いたいニャッ~!」
「カツオ節ニャッッ~~~!!!」

「うっさいわ、ボケェ~~~!」

――――――ポグッ!

「ニャピィ~~~!? グゥ~~~」
枕を投げてあげたら寝てくれました。
「この寝ぼすけは……、今良いところだったってのによっ」
本来なら暗闇に包まれるべき部屋を照らす光源は家宝のパソコン。そのディスプレイには、現在人気急上昇中“ツンデレアタックNO1”のオープニングが華麗に映っていた。
「ふぅ~、しかし、さすがの俺様も眠たいぜ」
現時刻は真夜中の3時。やれやれ……、いつもこんな極限状態で睡魔と萌魔の対決が始まるだよな。だが、こんな勝負は俺様に取っちゃ朝飯前だッ!
床に敷いてある布団の上には、“ツンデレアタックNO1”のエース(ツン子)のデザインが描かれた抱き枕が置いてある。俺様はそんなツン子が待っている布団へと大ジャンプッ!   
そして無事に着床。
「ツン子……、勝負の続きは夢の中でだ……、おやすみ……」
尖った瞳を持つツン子を俺の胸に優しく引き寄せる。あぁ……、幸せってこういうことを言うんだぜ?
おっと……、先ほどの寝坊助にも言ってやろう。
「レデン……、おやすみ……」
「グゥ~~~」
可愛らしい寝息が聞こえた。



――――――ボグゥゥゥ!

「はぐわぁ!?」
腹に異物を外側からハンマーで混入されたかのような痛み。少し胃液が喉まで登ってきたぞ。ぶっちゃけ痛気持ち悪い。誰だ、俺様を足蹴に踏みつけて行った無礼で畜生な不届き者はッ。

――――――タッタッタッ……

足跡が遠ざかって行く。 

――――――キュッキュッ

蛇口が開けられる音だ。

――――――バシャバシャバシャァァァ

顔を洗っているのだろうか?

――――――バシャバシャバシャシャシャニャニャニャニャニャァァァ~~~

「ブッ!?」
ここで俺様は吹き出してしまった。
「げほっ、ごほっ?」
何だ!? 後半部の音がおかしいぞ。
抱いていたツン子を優しくどかし、急いで洗面台まで走った。
「って、なにしとんじゃい!」
「ニャ?」
そこは洗面台がある場所。だが……、一面水浸し! 
「早く止めろ!」
「嫌ニャ~!」
「レデン! 止めなさいっ!」
「嫌ニャ~!」
俺様は攻撃してくるレデンの攻撃に耐えながら、やっとのことで蛇口の封印に成功した。おかげで手がものすげぇ痛い。この痛々しい手をレデンに見せつける。
「見ろッ。俺様の手が爪痕だらけじゃないかっ!」
「水~~~……」
悪いことをしたとは全然思っていないらしい。カリカリと蛇口を爪で掻いでいる。そんなレデンを見ていると、何だかマイナスエネルギーが溜まってくるぜッ!
だから、口調が激しくなってもしょうがないのさ。
「水はコップに入れて飲むものなんだよっ、この前教えただろうがっ!」
「ここに溜めたほうが飲みやすいニャッ」
そう言うと、レデンはペロペロと洗面台に溜まっている水を舐めだした。
「あぁ~もうッ! こっちに来いやぁ!」
「まだ飲んでないニャ~」
ズルズルとレデンを引きずって洗面台を後にした。
引きずっている間もレデンに手を引っかかれて、キレかけたことは言うまでも無い。

「ここに座りなさい」
「ニャ~」
部屋まで精神を削りながらやっとのことで引きずって連れてきたレデンを、座布団に強引に座らせた。
「って、猫座りするなっ。ちゃんと人間らしくこう座れッ!」
俺様は見本として、股を広げてお尻を落として座る“女の子座り”を教えようと、男にはやりづらい女の子座りを実践して見せた。
そんな模範演技を見たレデンは、
「こうかニャ?」
見よう見まねで同じポーズをとった。股を広げてお尻を座布団にペタンと簡単につける。だが……、どういうワケか苦しそうだ。
「むぐぐぐぐ~……」
顔が赤くなっていっている。どこか痛いのか?
「……レデン……、何でそんなに苦しそうなんだ……」
くっ……、この座り方は男の俺様にはキツイぜ。
「ニャっ?」
疑問系のアクセントで答えたレデンの顔色を見ると、いつのまにか元の晴れ晴れとしたものに戻っていた。
「だって、ご主人様がこんな顔をしているからレデンも一緒なことをしたんだニャ」
なるほど……、確かに今の俺様は苦痛に顔を歪めているに違いない。
「顔は気にしなくていいぞ……」
「分かったニャっ」
レデンの表情が笑顔に変わる。それと同時に動くもの。それはレデンの頭に何故か付いているネコっぽい白い耳と、お尻に付いている白く長い尻尾。耳は楽しそうに<フルフル>と振るえ、尻尾は嬉しそうにと床を叩き、リズムカルに<パタパタ>と音を出している。
 そんなネコ耳子猫娘のレデンとの朝の挨拶。

「おはようございますニャ、ご主人様っ」
「あぁ……、おはよう……」
「水くれニャ、ご主人様ッ!」
レデンが家に来てから……、一体何回目の朝の挨拶だろうか。



第2幕   兄と妹



 朝の朝食ほど大事なものは無いな。
「いただきますニャ~」
「おう、頂け頂け!」
テーブルの上には、こんがり焼いたトーストと、芸術としか言いようがない焼加減のベーコンエッグと、俺様特製のホットミルクが並べてある。
「ホットミルクは熱いから、ちゃんと冷ましてから飲むんだぞ?」
「了解ニャ~、熱ゥゥゥ~~~ッッ!」
「言っているそばからッ!?」
ミルクで汚れてしまったレデンの顔を拭いてあげようと、急いでタオルを持ってきた。
「ほら、ジッとしていろ」
「じ……自分でやるニャ! 貸せニャ!」
「まだタオルの使い方は教えてないからダメだ」
「そんニャ~……」
ちょっとだけ残念そうに俯いたが、すぐに顔を上げて
「拭いてニャ~」
「よしよし」
目を閉じているレデンの顔を拭こうとタオルを近づけた。この瞬間、
「(うっ……)」
レデンの無垢な表情は、ときに俺様を混沌の渦に巻き込むのだ。いや、 このレデンの可愛らしさが混沌そのものなのだ。カオスだ、宇宙の神秘だッ。
「(いやいや……、何を考えているんだ俺様は……)」
邪念をブラックホールに発射して振り払い、優しく優しくレデンの顔を拭こうとする。……しかしそこにっ、

――――――ガチャッ

玄関のドアが開いた。
「おはようバカ兄貴~、って何してるんだよっ!?」
「へっ?」

――――――ゴシュッ!

「ぐはぁぁぁ~!」
説明しよう。まず、今俺様は飛び膝蹴りを喰らって痛みに悶絶している状態だ。とっても痛いぜ。そして、俺様が床で転げまわっている原因を作ったダメージを与えた女犯人は、レデンに何か話しかけているみたいだぜっ!
「レデンちゃん? このバカ兄貴に何か、いやらしい事をされなかった?」
そいつはレデンの顔をタオルで拭きながら問いかけている。
「レデン、よく分からなかったニャ~……」
おいおい……、誤解を招くような発言をするな……、と言おうとしたがすでに遅かった。
「ふっ……! 殺すッ!!」
俺様に止めを刺すつもりなのか、そいつは高々に舞い上がった。

――――――ドコォッ!

「ちっ、逃げたか」
ジャンピング式ネリチャギ改から逃げて急いで立ち上がり、さっきまで自分が倒れていた場所を見た。
「……殺す気か?」
あまりの衝撃に床板がへこんでいた、っていうか地割れみたいなヒビがフローリングの沿い目に沿って入っていた。
「レデンちゃん、美味しいお魚を焼いているんだけど、家に食べに来る?」
「行くニャ~ッ!!」
家が軽く損壊して意気消沈している俺様をよそに、レデンが『美味しいお魚』という誘惑ワードに負けてそいつに抱きついた。
「こらっ、レデンは俺のモノだぞっ! それにレデン、まだトーストとベーコンエッグが残っているぞっ」
「ご主人様のモノより、美鈴さんのモノが食べたいニャ~」
ネコミミ子猫娘のレデンのノドからは、ゴロゴロとネコ特有の音が聞こえてくる。。
「こんなバカ兄貴のところで生活していたら体を壊しちゃうよ。レデンちゃんおいで~」
「了解ニャ~」

――――――バタンッ

ドアが閉まると二人の姿は消え、静けさだけが残ったが、それでもすぐに行動できるのが俺様の特徴です。
「けぇっけぇっけぇっ……、美鈴ゥゥゥ~! 俺様は怒ったぞっ!」
我が妹ながら、もはや許すことはできねぇッ!
ドアを開けて外に飛び出た。その勢いを保ったまま隣の部屋に住んでいる美鈴の家のドアノブに手をかけて開けようとしたが、その時、ドアの中から何か楽しそうな声が聞こえてきた。耳を澄ませば、

――――――「ニャはは~、このお魚とっても美味しいニャ~」
――――――「そうでしょ? レデンちゃんは育ち盛りなんだからウンと食べないとね」
――――――「レデン……、美鈴さんの家の子になろっかニャ~」
――――――「そうしなさいよ、あんなバカ兄貴なんかほっといてさ~」
――――――「ニャはは~」「あはは~」

「レデン……」
ドアノブを掴んでいた手に力が入らなり、どうしようもない落胆と動揺のカクテルが襲い掛かってきた。だから俺様は以下のように思ってしまったんだ。
そうなのか……、もう……、お前は俺様というご主人様を必要としていないのか。もう……、お前のご主人様にはなれないのか。ふっ……、だったら俺様は……、このまま姿を消したほうがいいのだろうか……。それが……、レデンのためになるのなら……、ってそんなことを考える俺様ではないわぁぁッ~~!

――――――ガチャッ!

 勢い良くドアを開け、そしてそのまま叫んだ。
「おいゴラァ~! 何さらしとんじゃい美鈴~~~ッ!」
ヤクザ並の怒号が響く。だが、そんな中で信じられない光景を見たんだ。

「あっ、やっと来たわねバカ兄貴。さっさと座りなよ」
「ご主人様! ここっ! ここっ!」

テーブルの上にはレデンと美鈴、そして……、俺様の分と思われる計三人分の朝食が用意されていた。
「お前たちィッ……<ぶわぁぁぁ>」
勢い良く登場したつもりだったが、ものすごいカウンターパンチを喰らってしまった。
「お……俺様を許してくれぇ……<ぶわぁぁぁ>」
涙腺が爆発するのを必死に抑えながら、やっとのことで椅子に座ることが出来た。何だか前が見づらいぜ。

「い……言っとくけどねっ、レデンちゃんにいっぱい食べさせようと思ったら、ちょっと余分に作りすぎちゃっただけなんだからねっ!」(美鈴)
「か……勘違いしないでよねっ!」(レデン)
久しぶりにうまい飯を食べたような気がした。

――――――――――☆

「じゃあ、私は会社に行ってくるからね」
美鈴は社会人だ。俗にいうOLだ。何故そんなつまらん職業に美鈴は就いたのだろうか……。殺し屋のほうが向いているのにな。
「おう、行ってこい」
「いってらっしゃいませニャ~!」
俺達の声を背に、美鈴はそのまま会社に向かうのかと思っていたが、
「あっ、一言、言っておくけどねバカ兄貴~」
こっちに振り返った。
「おうっ、何だ」
「レデンちゃんに変なことをさせたら殺すからね」
目がマジだった。
「お……おう……、任せろ」
そうして、破壊の権化かもしれない美鈴は階段を降りていった。世界に平和が戻った瞬間だった。

「お腹いっぱいニャ~」
レデンはまるでネコが顔を洗うように、自分の手を舐めて顔を拭っていた。食後の習慣らしい。しばらくそのままでいると、レデンが食後の習慣を終えて話しかけてきた。
「ご主人様、今日は何を教えてくれるのニャ?」
見ると、俺様を見つめるレデンの瞳にはキラキラとした期待の意が込められていた。
「今日は……」
そうだな、今日は何を教えようかな……。
昨日は萌え声を出させるために、“ときどきエロリアル”のヒロイン(時々)のセリフを発声練習と称して言わせたからなぁ……。いやぁ……、アレはよかったぜ……。例えばだな、『時々は時々だけエロくなるんだから~~ニャ~~』と語尾を変えることによってオリジナルを超える萌えを誕生させることが出来るわけだ。ちゃんと頭に叩き込んでおけよ。
「ご主人様……?」
はっ!? イカンイカンッ! つい妄想の世界に飛び立とうとしてしまったぜ。
「今日はだな……」

――――――モエ~、モエ~

「むっ、電話だ」
いきなりの電話。
あっ、この着信音は俺のホームページに置いてあるから勝手にダウンロードしてくれ。
「仕事の依頼かニャ?」
「さあな」
適当に相槌を打ちつつ、携帯を耳に当てる。
「もしもし?」

――――――ガヤガヤガヤ……

「何だ?」
向こう側がかなり騒がしい。耳が悪くなりそうだ。そんなことを気にしていると、唐突に女性の甲高い声が聞こえてきた。
「あっ、あの! “ヲタク専門の何でも屋”の“和也”さんですかっ?」

さぁ……、仕事だ。



第3幕   自己紹介



 さて、ここら辺で自己紹介でもした方がいいよな。ありがたく聞けよこの野郎っ♪
 おっほん……、やぁ諸君、はじめまして。“ヲタク専門の何でも屋”の『新谷和也』だ。読み方は『しんたにかずや』。覚えたな? 次行くぞ。
 正に容姿端麗という言葉が似合いすぎるスタイルで美形な俺様は、道を歩くたびに女の子の『キャ~、キャ~』という狂喜の叫びが聞こえてくるような気がしてならないのだ。それに頭脳明晰であり、萌えを極めたエキスパートでもある。これってすごくね?
 いいか良く聞けよ。萌えというものはこの世の真理であり、生命がここまで進化できたのも萌えのおかげなんだぜ? 知らなかっただろ? しょうがない奴らだ。心優しく心広い俺様の特別サービスだ。タダで萌え理論講義を聞かせてやろう
 はい、みんな席に着いて~。
はい、着席~。
今から萌えの歴史について講義を行います。頭の中に入っている脳みそのデータを全て消去して、今から教える知識だけを保存して帰るように~。
 では始めます。
生命は、地球誕生から6億年たったころの海の中で誕生した。材料となった基本的物質は、生物が生きていくために必要な栄養素であった。これにエネルギーを加えることで生命の素材が作られた。そのエネルギーとは、太陽光雷、放射線や紫外線などによってもってきたものである……とバカな科学者たちが言っている。全く持って学に乏しいと思わないか? 何で無機物に光を当てると有機物になって生命になるんだよ? もっとよく考えてみろ。生命が何故これほどの進化を遂げることが出来たか。何故、生命が誕生したのかを。
遠まわしに言うのはそろそろ止めにしよう。結論を述べる。

『生命は、萌えによって生まれる』
 
 はいっ、みんな拍手~。パチパチパチパチ~~~ッッ!
 はいっ、拍手止め~。
 驚嘆と感動に包まれている諸君たちも落ち着いて聞いてほしい。これは事実だ。真実だ。
 この事実を知った俺様はすぐに猛勉強を開始して、高校を卒業すると同時に“ヲタク専門の何でも屋”として仕事を始めた。今のところ同業者は少ない。当たり前だな。全ての萌えを知ることなど常人には不可能だからだ。才能と努力、この両方が無ければ成れない至高の職業なのさ。
 さて、萌えによってどのように生物が進化したか簡単に説明してやろう。
 昔の海を気ままに漂っていた中途半端な野郎たちが思った。
「アミノ酸萌え~~~」
 そして究極進化。萌えという太陽よりも壮大で神々しいエネルギーは凄まじい力をもたらした。生命が誕生するほどの力だったのだ。
しばらくアミノ酸だったものたちが次はこう思った。
「単細胞萌え~~~」
 そしてアルティメット進化。萌えから生まれたエネルギーはアミノ酸の周りに漂っていたものたちをも巻き込んで大爆発。煙が晴れると姿を現したのは生まれたばかりの一つの単細胞。やべっ、感動で泣きそうだ。
はじめ一匹だった彼も、分裂するたびに数を増やしていった。だがある時、
「もっと細胞がほしいッ、俺様萌えぇぇぇ~~~」
 バラバラだった彼が自分に萌え、そして何かに引き寄せられるように彼たちが合体。萌えによって自分を見つめなおした彼は、自分は自分だということを知り、世界を知った。そして多細胞が誕生。

 分かるか?
 萌えとは息吹く力。新しい何かが生まれる奇跡の力。心の底から燃え上がる力。生命が一歩も二歩も歩みを進めることが出来る究極のエネルギーなのだ。
多細胞は思った。
「もっと自由がほしい、自由萌えぇぇぇ~~~」
魚類は思った。
「普通に歩きたい、歩行萌えぇぇぇ~~~」
両生類は思った。
「陸でも海でも生きていかれるボクって萌えぇぇぇ~~~」 
爬虫類は思った。
「空飛びたい、飛行萌えぇぇぇ~~~。それに四足歩行にも飽きた。二足歩行で歩いてもみてぇよ。スラリと長い足萌えぇぇぇ~~~」
鳥類は思った。
「ふっ、私の優雅に飛翔する姿を見て萌え上がるがいいわ」 
哺乳類は思った。
「もっと萌えたい、もっとッ、もっとだッ!」

 両生類と鳥類は、自分達に萌えてしまい進化を中断している。だが、哺乳類……人類だけは違う。萌えることの意味、真理を知ったのだ。魚に萌える人々、両生類に萌える人々、爬虫類に萌える人々、鳥類に萌える人々、哺乳類に萌える人々、それ以外のモノに萌える人々。最近そんな奴らが急激に増大しているのだ。俗に言う“萌え進化論”が世界を飛び交っている。今はそういう時代だ。
 俺様はこんな時代に生まれることが出来て神に心底感謝している。萌えの神様、ありがとう。今すぐ萌えの神を降臨させてお姿を拝見しようと、何度怪しげな魔法陣や呪文を唱えたことか……。でも、いつかきっと目の前に現れてくれると信じていた。

 で、現れた。

 先月の話をしてやろう。
俺様はお得意先の依頼で極太のマツタケを人里離れた山中で探していた。現地の人によると、この山には伝説のマツタケ“エクスタシー”が眠っているそうだ。その何とも言えない名称の響きに、俺様の心は狂喜乱舞、体は固い殻から解き放たれたように軽やか。誰も立ち入らないような山中を、マツタケを探すために神がかり的なスピードで探索。気づかないうちにどんどん奥へ進んでいった。で、
「参ったなぁ……、迷ったか?」
 日も落ち、満月の白黄色な月光だけが山中を照らしている。しかも雨が降っている。結構土砂降りだ。だが、満月だけは顔を出している。妙な空模様だった。
「ふむ……、困った」
 依頼された仕事がまだ終わってもいないのに、このまま帰るのもアレだし。依頼を諦めるにしてもこのまま帰れるかもアレだった。
土砂降りの雨が降る中、月光だけが照らす山中に迷ってしまった時はどうすべきか。そのときの俺様はこう考えた。

――――――ウウウゥゥゥ~~~……

「……何の音だ?」
 考えて出した結論が脳から全身の運動神経に伝搬される前に、奇妙な音が聴こえてきた。それはこんな山奥では聴こえるはずが無い音。サイレンの音だった。
 雨音の隙間から聞こえてくるサイレンの音は、どっちの方角から聴こえてくるか分からなかったが、俺様は勘を頼りに音の方へ向かった。もしかしたら人がいるかもしれないと考えたからだ。山から下りる道が分かればそれでよかった。
 山中はほとんど真っ暗だったので、途中で木の枝に顔をかすめたり、雨でぬかるんだドロに足を取られて転びそうになったが、それでも俺様は必死で音源を探した。でだ、出会っちまったんだな。

奇妙な少女に。

「……え?」
 道じゃない道を走り、木々の密集した場所を蹴り倒しながら進んでいった先。それはノーモーションで現れた。
「……にゃあ~……」
 弱々しい声。今にも消え去りそうな声。雨の振る中、地面に座り込んでいる少女。白いTシャツはドロで汚れまくっていて、短パンには木の枝や葉っぱが突き刺さっていた。肌が露出している部分には擦り傷も見られた。微かに見えたエメラルドグリーン色の長い髪の毛は、降り続ける雨でしな垂れていた。
その姿は暗闇に近い状態でも確認することができた。だが、さっき以外にもこの少女について分かったことがあった。信じられないことだが、目の前にいる少女の頭には……ネコ耳、お尻からは長い尻尾がニョロと生えていた。どう見てもおかしい。だけど、どう見てもリアルだ。
「何でこんなところに女の子が?」
 そんな疑問よりも、こんな山奥に傷ついた少女がいる方がおかしい。俺様はそう思うことにした。間違っていないよな?
 
――――――ウウウゥゥゥ~~~……
 
サイレンの音が鳴り響いている。心なしかさっきよりも強く聞こえる。音源に少し近づいたのだろうか。それにだ……、どこからともかく人の声が聞こえてくるような。

――――――「…………早く……見つけろッ……、そう遠くには行っていない筈だッ」

 気のせいじゃなかった。それにだんだんはっきりと聴こえてきた。人の声だ。何かを探しているのか、怒鳴るような口調の男の声。何だか聴いているとムカついてくる声だ。
 声がどんどん近づいてくるにつれて、明かりも少しずつ見えてきた。懐中電灯の明かりだろうか、かなり向こうの林の奥から光がこぼれていた。
 俺様は直感したね、この少女は悪いヤツ等に追われていると。
 だったらやるべきことは一つだよな。困っている少女を悪の手から助け出すのはいつもイケメンな美青年だ。つまり俺様ということになるわけだ。
「なんか良く分かんねぇが、困っているやつは見捨てられねぇな」
 目を開けずに鼻だけクンクンと動かした少女は、疲れているのか俺が近づいても逃げようとはしなかった。少女を抱きかかえるために腕を頭の裏と足に回した。持ち上げるのに力はほとんどいらなかった。まるで現物大のマシュマロを持ち上げたみたいだった。
少女を優しく抱きかかえると、急に雨がより一層強くなった。それは、まるでこの少女との別れを山が悲しんでいるような……、そんな哀愁がたくさん詰まった味がした。
この妙な感覚が体から抜け出ると、力が湧いたような気がした。腕の中で眠るように静かな少女はというと、本当に寝ているのか『スー、スー』と寝息をたてていた。
「……さてと、行くか」
 そして俺は少女を抱きかかえたまま歩き出した。不思議なことに、さっきまで散々迷っていたのが嘘のように山の麓に着いてしまった。何だかエスカレーターに乗って山から脱出したような気分だった。

 以上で俺様とネコミミ子猫娘レデンの初出会い話は終わりだ。感動した者は手のひらの皮がベロンベロンに剥がれるまで拍手すること。それ以外の者は感動するまで拍手をし続けること。それが全人類に課せられた義務だ。
 話を戻すが。
 保護したネコミミ子猫娘を俺様の家、『イイ・マンション』の第403号室へと連れ込んだ。いや、搬送した。
 少女は極度に疲労し、マジで死んでしまうと思ったぐらいやばかった。変な気を起こす間もないぐらい必死に看病した。次の日、少女が目を開けたときは本当に嬉しかった。
「……気が付いたか?」
「………………」
目蓋が開くと、その中からは暗緑色のどこまでも透き通った瞳が出てきた。綺麗だった。だが、その瞳はじっと天井を見上げ、俺様のことなど見えていないかのようだった。だから目が見えていないのかと心配していると、少女の妙に神秘的な瞳がゆっくりとこっちを見たときはホッとした。
「…………ニャ?」
 俺様の存在に気づいてくれたことには感謝する。でもな、いきなり『ニャ?』と言われても俺様にはどういった行動を取ればいいか分からないぞ。
「…………ニャ?」
「いや…、もう一度繰り返してもらっても分からないぞ」
「……ニャ~……」
 まるで子供が買って欲しいお菓子をお母さんにダメと言われたときに発する溜息混じりの落胆のネコ語バージョンが、布団で仰向けに寝た状態のネコミミ少女から聞こえてきた。
「……俺様の言っていること……、分かるか?」
「ニャッ!」
 少女は言葉が分からなかった。いや、言っていることは理解できるのだろうが、自分から人語を話せないといった感じだった。無駄に元気の良い返事はその証拠だな。
 どうしようかと悩んだ。このまましゃべることも出来ない少女の面倒を見るか、嫌なことが起きそうになる前に山に帰すか。
「……なぁ」
だから俺様は聞くことにした。
「ニャ?」
 初対面の筈なのに何故か俺様のことを全く怖がらない少女は、ジッと自分を眺めているその男を見つめた。その瞳には動揺とか恐怖とかは微塵も感じられなかった。ただ、俺様が次、何を言っても聞き入れるといった覚悟さえも感じ取れた。だから俺様も気落ちなく言えることが出来た。
「……ここに居たいか?」
 まず、ここがどこかも分かっていない状態の少女に聞く言葉ではなかったかもしれない。だが、これが最も的確な質問だと思ったんだ。あのとき、この少女は何者かから逃げていた。迫り来る恐怖から必死に逃げ、その結果があのボロボロ状態だったんだ。もし俺様があそこに行かなかったら、その何者かに連れ去られていただろう。それはもしかしたら『死』を意味していたかもしれない。だから俺様は直感的に助けた。そうしないとダメだと思ったんだ。結果、この少女は助かった。でも、それは今だけだ。ここから出て行っても、すぐにヤツ等に捕まるような気がした。
 少女はしばらく黙って自分の手のひらを見つめていた。その真剣な表情から何かを読み取ろうとしたが、俺様にはできなかった。
 そして、ネコミミ少女は言ったんだ。
「ニャッ!」
 強烈な意思表示だった。上体を起こして胸の前で両手をグッと握った少女がニヤリと笑うと、暗緑色の瞳もキラリと光ったような気さえした。
「そっか……、じゃあ取り合えず……」
 病み上がりにしては元気が良すぎる少女に顔を近づけた。少女はキョトンとしている。このまま変なことをしてもバチが当たらないような気がしたが、俺様はペリーもビックリするほどのベリーエレガント紳士だぜ? 甘く見るなよッ!
 俺様は女性が見たら誰もが惚れてしまいそうな笑顔で、
「はじめまして。これからよろしくなっ」
 挨拶した。ネコミミ少女は先ほどと同じようにキョトンとしていたが、今度はちゃんと反応が返ってきた。
「ニャッ!」
しかも満面の笑み付きでだ。流石にこの笑顔にはクラっときたぜ。免疫の無いガキだったらヨダレを撒き散らしながら飛び掛っているところだが、俺様はベリーエレガント紳士。常人とは一味も三味も違うのだ。
「あっ、ちなみに」
「……ニャ?」
「俺様のことはご主人様と呼べ」
「……ニャ?」
まず始めに言葉を教えないとダメだった……。

――――――――――☆

 予想外だったのは、このネコミミ少女が俺様と出会ってからの以前の記憶を無くしていた事だ。そんなバカなと俺様思ったからな、『今まで何処に住んでいたんだ?』、『自分の名前は?』、『お前は追われていたんだぞ?』と優しくいろいろ問いただしてみた。しかし、返ってくるのは『ニャ~……』と思わずこっちが謝ってしまったぐらい可哀想な鳴き声だった。
 恐らく、あの山での体験を思い出さないように無意識に記憶を閉じ込めたのだろう。それほどの恐怖だったんだな。だったらこの話はもう無しだ。イヤな記憶ほど思い出したくない。俺様も心底そう思うぞ。だからこれ以上言及するのを止めた。
 『ここに居たいか?』とネコミミ少女に聞いた時、ここに居たいと言ったのは恐らく本能的だったんだ。自分が以前居た場所は覚えていない。だけどそこにはもう二度と帰りたくない。だからここに居る。貴方の側に居たい。居てもいい? ふっ、任せろッ! と俺様は解釈した。
 それに行き場の無い少女を野放しにするほど落ちぶれちゃいないつもりだぜ。もし路上に一人ぼっちな少女が心寂しそうに座っていたら、俺様は少女をちゃんと家に連れ帰って警察に通報されないぐらいに遊んで無事に少女の家へ返すほどの漢だぜ?
 ちなみにコレは経験談じゃないから本気にしないでくれよ。マジで冗談だからな。通報だけは勘弁してくれ。ただ俺様は、可哀想な少女は決して見捨てない心優しき青年だということを強調したかっただけさっ。
 さて……、どこまで話したっけな……。レデンとの出会いが終わって……、あっ、そうそう……、保護したネコミミ子猫娘には『レデン』と誰もが唇を噛んで妬むような素晴らしい名前を授けてあげたんだ。レデンはその名前を大変気に入ったらしく、自分の名前を言えるように毎日声が枯れるまで特訓していた。何とか自分の名前を言えるようになったのはあの時から一週間あとぐらいだったかな。でもな、自分の名前を言えるようになってからが凄まじかった。あっという間に何でもしゃべれるようになってしまった。元々しゃべれたんじゃないのかと疑うほどの上達振りだ。いや、俺様の教育の仕方が良かったのかもしれないな。レデンにいろんなゲームのヒロインの声入りセリフを聞かせ、それを言えるようになるまで涙を飲んで厳しく教え込んだ。その結果、レデンはどんなヒロインの声をも真似できるミラクル少女へと変貌を遂げた。しかも俺様のことを自然に『ご主人様』と呼ぶようにもなった。いいか? 『ご主人様』だぜ? やばいだろ? いいだろ?
もう幸せすぎて死んでもいいと思っていたぜ。だからかな、

 予期せぬ負荷要素が現れてしまったのは。

 ある日、

――――――ピンポーン……

 来訪者がインターンホーンを鳴らした。
「……誰だ?」
 俺様の家を尋ねてくるようなヤツは、宅配お届け人爽やかスマイル付きか新聞の勧誘ニヤケスマイル付きしかいないぞ。いちいち対応するのも面倒なので、シュミレーションゲームをしているレデンに出てもらうことにした。宅配便なら品物を受け取ってハンコを押せる。新聞の勧誘なら切り刻むということもできる。それぐらいの対応は出来るようにはなっていた。
「レデン~、頼む出てくれ~」
 俺様は忙しいかった。レデンにいつか着せるための服を製作中だったからだ。今のところ『巫女服』、『ナース服』は完成している。今作っているのは『メイド服』。だが、ただのメイド服じゃ面白くないので、何の要素を含めるか悩んでいて苦しい。メイドと何をかけ合せればいいのだろうか。やはりレデンに合わせてネコの要素を含めるべきか……、意表を突いてキツネの要素を含むべきか……、これからの人生の行く末を左右する大事な決断だった。
「了解ニャ~」
 素直に返事をしたレデンは、17インチの画面の中で髪の長い女の子に蹴られている情けない主人公を置き去りにし、玄関まで走っていった。
「さてと……、ネコ……、キツネ……、ロボットの要素も捨てがたい……」
 頭に浮かぶ究極のメイドたち。いっそ全部合わせてしまってはどうだろうか?
 いやダメだッ! 
 瞬時に否定した。何を言っているんだ俺様は……。萌えの重要要素の一つにバランスというものがある。バランスを保てないモノは、何も生み出さない。萌えない。生きる価値すらない。ネコとキツネとロボットをかけ合わせたら個性が消え、ワケの分からんモノが生まれてしまうだろうが。まったく……、どうかしていたぜ。最近はレデンのトレーニングにずっと構っていたからな、俺様自身のトレーニングを怠っていたぜ。
よしっ、今すぐ“ツンデレアタックNO1(羞恥編)”を買いに行こう。そしてこの体が倒れるまでやり尽くそう。決意の炎が目と心臓に移り燃え上がった。
甲子園に行くと決めた球児9人分よりも固い決意を秘めた俺様は、残り幾ら入っているかも分からない財布を持ち出し玄関まで向かった。もうレデンが来訪者を追い出している頃だろうと思った俺がバカだったんだ。
「んっ、どうしたレデン?」
 まだレデンは玄関先で誰かとやり取りをしていた。
「あっ、ご主人様。ちょうど良かったニャ」
振り返ってこちらを向いたレデンは、どこか困ったような感じだった。

――――――「ご主人様だ~~~???」

 語尾が13段階ぐらい上がって疑問詞が強調された言い方だった。その声の主はレデンの前に立っている人物。太陽に向けている背中が仰け反るくらい胸を張って、<キッ>とレデン越しに俺様を睨みつけた。あぁ……萌えの神様よ……、レデンが萌えの神様かどうかは今のところ分からないが、もし居るなら何故この幸せを壊そうとする? これはアレか……飴と鞭か? 残念だが、俺様はSの才能はあるがMの才能もある。効果は抜群だぜ。
 まぁ……、その来訪者は俺様の妹の『新谷美鈴』だったワケだ。強暴だから気を付けた方がいいぞ。っていうか見たら逃げろ。判断を誤るとこの世から消されてしまうぞ。何故こんな危ないヤツが家まで訪ねてきたのかは全く身に覚えが無かった。美鈴とはここしばらくは会っていなかったからな。もう……、何年になるかも分からない。だから昔のように普通に接してみた。
「よっ、誰かと思ったら美鈴じゃないか。来るならちゃんと言ってくれよ。そうだったらちゃんとココを引っ越してお前の目の届かない秘境に宅急便で送ってもらったのに」
「だから電話しなかったのよッ」
 相変わらずいつも怒っているヤツだった。昔から全然変わっていない。性格はその人の本質だからな。中々変わるものじゃないんだな。では外見特徴はどうかというとそうじゃなかった。これは結構変わっていた。俺様の頭の中に入っている忌々しい昔の美鈴像と今の美鈴像をトレースしてみた。照合して出した該当率、ジャスト70%。30%分の誤差が生じられた。その原因として考えられたのは、縦の長さである身長、横の長さであるバストとヒップ。よくここまで成長したものだと感嘆するぐらいだった。そう言えば美鈴を最後に見たのは美鈴が中学生と時だっけな……、当時の美鈴はそれはそれはガキだったなぁ……。
「何ニヤケてんのよッ」
 玄関の外から怒号が飛んできた。
「バカ兄貴が最近どうもおかしいって言う情報が入ったからわざわざ来てあげたら、私の予想を遥かに超えてバカ兄貴が変になっていた私の気持ちが分かるッ!?」
 そしてズカズカと豪快将軍のような足取りで勝手に入ってきた美鈴は、ネコの後頭部の柔らかいところを摘む力×五万倍のパワーで俺様の胸元を摘み上げた。
「く……苦しッ」
「それにコレは何よッ!?」
 両手から片手に持ち替えて俺様を持ち上げた美鈴は、空いた左手で玄関に佇んでいたレデンを指差した。相変わらずのバカ力だ。
指差された当人は二秒ぐらい『ニャっ? ニャっ?』とあたふたしていたが、
「レデン、“コレ”じゃないニャっ」
と、少しながらの反抗声明を出した。
「レデンはレデンニャっ。“コレ”じゃないニャっ!」
 さらに付け加えた。
「はいはいっ、良い子だから少し待っていてね」
 レデンの自己主張をまるでお茶漬けを飲み込むようにサラッと流した美鈴は、
「今からバカ兄貴と“お話”しに奥の部屋に行くから、レデンちゃんはここで大人しく待っていてね~」
 空いている左手で今度はレデンが着ているTシャツをキャッチ、そしてレデンごと椅子へリリース。レデンもコレにはビックリして声も出せなかったようだ。俺様もリリースしてもらうと助かるんだがな。っていうか今、コイツ両手で人間二人を持ち上げたぞ。もう人間じゃないんだな美鈴よ。このバケモノッ!
「じゃあ私たちは奥でじっくりとお話しましょうね~」
 口元が少し引きつった笑みを浮かべながら、美鈴は俺様を地に下ろすことなく、そのままの体勢で即席死刑室と化してしまった奥の部屋へ向かった。
 このあとの美鈴とのやり取りは……悪いが思い出したくも無い。イヤな記憶は呼び起こすものじゃない。そう思うだろ? まぁ……、途中から何故か記憶が無いから思い出したくても思い出せないんだ。予想だと、レデンとの出会い話 → レデンとの共同生活話 → レデンの調教話あたりで、美鈴がキレて俺様の頭蓋骨でも粉砕したんだろうな。
 でだ、その次の日には、
「私、引っ越してきたから」 
大荷物を持って、隣の402号室へと何度も往復するマイシスターがいたわけだ。アハハッ。もう笑うしかないよな。ほらっ笑えよ。ア~~~~~~ハッハッハッハッハッア~~~~~~~~ッッッ!!! 笑えるかぁぁッッッ~~~!!!
 引越しを一人でする美鈴を絶望の眼差しで眺めていた俺様を、レデンが優しく撫でてくれたときは、数年ぶりに不覚にも泣いた。悲しかった。世の中の摂理を恨んだ。真夜中の神社に突入して、ご神木に美鈴の顔写真付きワラ人形を押し当て『美鈴ぅ~、美鈴ぅ~』と怨声を発しながら顔面に五寸釘を叩きこみたかった。だけどそんなことをしたら、美鈴が闇から現れて俺様の顔面に直接五寸釘を打ち込む危険が発生するので、何とか思いとどまった。
 まぁ……、美鈴が隣に引っ越してきてから今日までいろいろなアクシデントが起こったよ。どれもこれも常人なら極大円形脱毛症になってしまうほどの出来事だった。例えば、俺様がレデンを教育しようとすると美鈴が邪魔しに来て家が半壊したり、なけなしのお金で激レアフィギィアを買ってくるといつも美鈴に全壊されたり、レデンと美鈴が最初はギクシャクしていたのに徐々に打ち解けていったり、もう不幸すぎて死にたいと思ったぜ。

 もう……この辺で自己紹介を終了してもいいよな? もう疲れた。もうイヤだ。思い出したくも無い。全て美鈴が原因。美鈴が悪の根源。美鈴さえいなければ俺様の天下。だったら美鈴を消せば良い。よし消そう。だけど百パー返り討ちにあってこっちが世界から消滅してしまう。だから現状維持。気が狂いそうになる。分かるか、この苦悩がッ、怒りがッ、誰か吸引してくれ。

――――――「ご主人様? 何ボ~っとしているニャ?」

「へっ?」
 腕を引っ張られた。不意に視界が明るくなる。
「シャキっとするニャっ」
また引っ張られた。今度は強く引かれたので足元がよろめいてこけそうになった。体勢を立て直しつつ横を見ると、そこには少し怒って頬を膨らませたレデンがいた。
「おぉ、レデン……。どうした?」
「どうしたじゃないニャ。ボケ~としていたご主人様が一体どうしたんだニャ?」
「……ボ~っとしていたか?」
「ボ~っとしていたニャっ」
 ふむ……、どうやら考え事をしていたらしい。何を考えていたか……忘れちまった。何だっけ?
まぁいいや。そんなことよりも思い出したことがある。俺様とレデンは仕事に行く途中だったんだ。周りは人ごみでいっぱい。無駄に高いビルも勢ぞろい。地上は都会独特の人模様で彩られている。レデン一人だと迷うこと間違いなし。急いで現状を確認する。完了。俺たちは横断歩道の手前で立ち尽くしていた。青信号なのに渡ろうとしないのは俺たちだけで、周りの連中は足早に進んでいく。その内の半数はレデンの頭に生えているネコミミやお尻の尻尾に興味を示し、歩を止めていた。そんな連中に営業スマイルで微笑みをばら撒き終えると、レデンは俺様の後ろに回った。
「ご主人様が動かないとレデンは何処に行けばいいかも分からないニャっ。シャキっとするニャッ<どんっ>」
 背中を両手で軽く押された。いつの間にか青信号は点滅している。
「へいへい……、悪ぅございました」
日に日に強気になっていくレデンを見ると嬉しくもあり、これがどう考えても美鈴の影響だと思うと悲しくもあり、そんな感傷に浸っているヒマも無いぐらい最近は忙しくてもうクタクタだ。レデンが家に着てから何故か依頼が殺到。気が付くと、俺たちはこの世界ではちょっとした有名人になっていた。正にレデンさまさまだ。萌えの神様ありがとう。   
だけど、レデンに本物のネコミミや尻尾が生えているのは俺様と美鈴しか知らない。もし、このことが外部に漏れたらとんでもないことになる。とりあえず一番厄介なのはレデンを追っていたアイツ等だ。今もレデンを探している可能性がある。レデンのためにも俺様自身のためにも、事は慎重に進めなければならない。
レデンの記憶が戻ってくれれば、手っ取り早く連中の居所が分かり、美鈴に連中のアジトを壊滅してもらえるのだが、今のところレデンの記憶が戻る様子は見られない。寝言でたまに変なことを口走ることもあるが、俺様は無視することに決めている。『カツオ節』、『お母さん』の単語が良くレデンの寝言に出てくる。前者はどう考えても何の価値も無い情報だろう。カツオ節はレデンの大大大好物だからな。夢にでも出てムシャボリ食っている様が頭に浮かぶ。ちなみに後者はどう考えても最重要要請しなければいけない情報だ。
『お母さん』。そう呟くレデンはいつも苦しそうだった。でも次の瞬間『カツオ節ニャ~!』と寝ながら叫び出すので無視することに決めたんだ。まぁ結論としてはだな……、俺様が幾ら憶測を出そうが、レデンの記憶が戻ればそれが一番信用できるワケだ。だからレデンの記憶待ちって状態だ。記憶が戻るその日がいつかは来るのかもしれないが、来て欲しくはないな。ノストラダムスの大予言並に来て欲しくない。来るんじゃねぇぞ。ノストラダムスの大予言は普通に外れてくれた。だから俺様のこの直感も外れてくれることを願う。こんな日々が、いつでも続けば良い。邪魔をするヤツは誰だって許さない。
 
「行くぞ、レデン」
「了解ニャッ」
 
一歩で進める距離が違うので、レデンは忙しなく駆け足で俺様の横にいようとしている。見ていて微笑ましい。ガンバレよ、レデン。俺様はお前の味方だぞ。
「何で笑っているニャ?」
「……別にいいだろ」
「変なご主人様だニャ~」
「へいへい……、約束の時間に遅れそうだから少し走るかっ」
「了解ニャっ!」

俺様の名は新谷和也。ヲタク専門の何でも屋。助手のレデンと共にどんなに困難で難関な依頼も達成する萌えのスペシャリスト。仕事の依頼は電話番号×××―××××ー××××までどしどしお寄せくださいだぜっ。期待に答える仕事をするのがモットーです。

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