Login

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


ミクシィで日記を書いています~

僕は日記を、ミクシィ(mixi)で書いていますので、興味ある人は覗いてみてください。



http://mixi.jp/home.pl

僕のニックネームは、 シミコン ですw

それで検索したら、出ますw  


スポンサーサイト

”自分に厳しく、地球に優しく” 第15幕

ふ~、今まで書いたヤツを全部、やっと載せることができたぁ…。
もし、万が一にでも、読んでくださる人が居ましたら、ぜひっ感想などを書き込んでもらえると、とってもとっても嬉しいです。
この作品は、とっても自信作ですっ。

では、”自分に厳しく、地球に優しく” 第15幕 スタート!



第15幕  初デートッ!?



何だか、良い気持ちです。まるで空をフワフワと飛んでいるような気分です。いや、体が空気で出来ているみたいと言った方がいいのでしょうか?
「あはは~」っと、空を飛んでいた僕でしたが、向こうの空に僕と同じように飛んでいる誰かがいるのに気が付きました。
それは、まるで天使のような姿をした美少女。って、遠くからじゃよく見えません! 
僕は息を荒らげ、カッコイイスーパーマンのように飛んで行きました!

「お嬢さん」
パサァァァっと、マントを豪風で払いのけながらその天使の前に到着した僕。
「もしや…、道に迷われたのですか?」
そのジェントルメンな僕の言葉に、その金髪の天使はこちらに振り返りました。でも、それはどこかで見た覚えがあるような顔でした…。
「あらっ、和也君、こんばんは。早速、修行よっ!」
思いっきり腕を掴まれる僕!

「うぎゃぁぁぁッッ~~~!!!」

――――――ガバッ!

「どうしたの!? 何かあったの?」
呼吸は乱れ、ちょっと嫌な汗が背中を伝っていました。
「いや、何でもないよ立花さん…。でも、ちょっとノドが渇いたね…」
「分かったわ。何か冷たいものでも持ってくるわ」
布団に座っていた僕の傍から、立花さんはリビングらしいところまで歩いて行きました。しばらくすると、冷蔵庫が開けられる音が聞こえ、コップに何かが注ぎ込まれる清々しい音が、僕達のいる空間に響き渡りました。それはまるで、小川のせせらぎのようで…。

「はい、どうぞ」
さっきの音に酔いしれていて、立花さんが戻ってきたことに気が付きませんでした。
「あぁ、ありがとう」
お盆に乗っていたコップを受け取りました。
「どう致しまして」
布団の傍に正座で座る立花さん。僕は、そのコップに入っているお茶を飲もうとコップに口を当て、
―――――――ゴクッ、ゴクッ…

美味しくいただきました。
「ぷはぁ~、美味しかったよ。何か、やけにノドが渇いてさぁ~」
僕が差し出した空っぽのコップを無言で受け取った立花さんは、そのコップをお盆に乗せました。
「それはそうよ。だって、和也君は昼休みからずっと水分を取っていなかったんだから」
「へぇ~、そうなんだぁ…」
そうだったのですか。僕は昼休みから一滴も水分を取ってなかったのかぁ…。
「まだほしい?」
私服の立花さんはとっても可愛いです。
「いや、もういいよ。ありがとうね」
「そう、じゃあ私も安心だわ」
そういえば、私服姿の立花さんを見たのは初めてかもしれません。薄い水色のワンピースに大きな赤いリボンが胸元にチョコンと付いています。

「あっ、そうだ! 立花さんに聞きたいことがあったんだ!」
そうです。そろそろここら辺でツッコミを入れなければ!
「うん、何でも聞いて」
ニコッと微笑む立花さん。昨日の僕ならこの笑顔にビビリ、何も言えなくなりますが、今日の僕は言いますよっ!
「あのね…」
「うんうん…」
段々と近づいていく僕と立花さんの顔。

「ここは一体どこ? そして、いつの間に僕はここに!?」
質問は1つずつした方がよかったでしょうか?
「ここは私の家。そして、和也君はヴェスに“運転”されてここに来たのよ」
「あぁ~、納得…」
「そう、良かった」
「してたまるかぁ!!!」
布団を払いのけて立ち上がりました。
「もう! また僕を危ない目に合わせるつもりでしょ!?」
「危なくないわよ」
すくっと立ち上がる立花さん。
「じゃあ、この手を離してよ! 逃げないから!!」
ものすごい力で腕を掴まれている僕。筋繊維が悲鳴を上げています。
「手を放したら、ちゃんとリビングまで来てくれる?」
「行きます! 行きます!! やばいっ、骨まで軋(きし)んできた!!」

――――――パッ

「フ~ッ、フ~ッ!」
立花さんに握りつぶされかけた腕を見てみると、それは見事に立花さんの手形がくっきりと赤く写っていました。ヒリヒリして痛かったので、痛みを和らげるために息を吹きかけましたが、痛みは全く引きませんでした。

「こっちよ、和也君」
立花さんはリビングらしき部屋に先に入って行ってしまいました。
「さっきの夢が正夢になっちゃったなぁ…」
立花さんの手形が付いた腕を見ながら、僕はつぶやきました。…おっとぉ…、早くリビングに行かないと立花さんにまた何かされそうなので急がねばっ!

「やっと起きたか、このヘタレ!」
「おはよウ~」
エシナは立派なソファーに偉そうにふんぞり返ってテレビを見ていましたが、僕の姿を見ると、すぐさまに僕を傷つける言葉をかけてくれましたよっ! ヴェス君の癒しボイスでストレスを相殺していなかったら、僕はエシナに襲いかかっているところでしたよ。…本当だよっ!

「それにしても…、明日、和也が学校で何て言われるかが、俺は楽しみでしょうがないぞ」
「へっ?」
エシナは僕を見ながらニタニタしています。
「何のことだよっ!?」
僕はエシナが座っていた大きなソファーへとジャンプ! そして、無事に着地。
「明日になれば分かることだ…、そんなことよりも…、くっくっく…、この番組は面白いな~! ひゃっひゃっひゃっ~!!」
エシナは僕のことなんて見向きもせずに、またテレビを見始めました。いつもの僕なら、このままキレて、エシナに殴りかかって、逆に殴られて泣きますが、そんなお約束を繰り返す僕ではありません!
「立花さん、優しい貴女なら教えてくれるよね?」
立花さんにさり気なく助け舟を出す僕。しかし!
「明日になれば分かるわよ…」
ちょっとだけ、哀れみの目で僕を見る立花さん。
「そうだった! この二人の性格を忘れていた!! じゃあ、ヴェス君! 君なら知っているよね? だって君が僕を…、なんか良く分かんないけど、何かしたんでよねッ!?」
その僕の必死な訴えにヴェス君は、
「明日になれば分かるヨ~」
最後の希望が絶望に変わり、僕は自分を支える力さえ沸かなくなり、ソファーに崩れるように座り込みました。

「さ・て・とっ、ついにあの修行の時間がやってきたわねっ」
僕の気分とは全く正反対のテンションで、立花さんが嬉しそうに言いました。
「お~、もうこんな時間か。早く行くぞ、和也」
エシナはテレビのスイッチを切り、ソファーに崩れるように座っていた僕の胸元を掴みました。
「お~い、行くぞ~(スパパパパ~ン!)」
往復ビンタを受けること約0.5秒。僕は自分のほっぺたの異変に気づき、その原因を作ったエシナを急いで投げ飛ばしました!
「うぎゃ~、ほっぺたがぁ! なんか信じられないように腫れている!!」
「よ~し、気合も十分だな、和也!」
「僕の美しい顔がぁ~~~!」
自分の顔に驚いている僕に、立花さんの冷たいお言葉…。
「和也君…、早く来ないと、またヴェスに“運転”させるわよ?」
「うんてン~、うんてン~!」
僕の周りをぐるぐると回るヴェス君。
「…行けばいいんだろっ! 行ってやるよっ!!」
半場、やけくそで返事を返しました。
「その意気よ。さぁ、ついてきて」
立花さんの言葉で僕は重い腰を上げました。そして、僕はこの先にある恐怖を感じることも無く、地獄への案内人たちの後について行ってしまいました…。



立花さんの豪華な家を出て、しばらく“ソム”の町を歩いていましたが、やっぱり僕は、コレが山の中とはまだ信じられません。周りからは、買い物客のおばさんたちの声があちらこちらから聞こえてきます。平和で、全く違和感の無い町。普通の町です。

「着いたわよ」
いつの間にかたどり着いた場所…。それは、

――――――「映画館?」

「そうよ」
僕の疑問系の発言に、間髪いれず答えてくれた立花さん。
「まさかコレって…」
僕は今、自分に起こっている事実が理解できません。それは何故かって? それはね、僕が女の子と一緒に映画館に来ているって事だよっ! しかも、相手は可愛らしい私服を着ているとっても素敵な女の子。やばいですよ! コレってまさか…、初デートォ~!?

その時、僕の右肩の上に天使(身長5cmでしかも裸で、背中に翼が生えていて、頭の上に金色のわっかがある僕)が「ポムッ」と現れて、耳元でつぶやきました。
「そうだよ。コレは君にとっての“初デート”だよ。そうだ! 君にとっても良いことを教えてあげるよっ!」
天使は僕の耳元に近づき、
「彼女の弱点は…、耳たぶだよっ!」
そういうと、子供がエロ本を読んでいるときの顔をしながら、天使は天空へと昇っていきました。

「どうした和也? 顔が言葉で表せないような不気味で、かつ、キモイ顔をしているぞ?」
「はっ!?」
僕は自我を取り戻し、急いで顔を元の愛らしい僕の顔に戻しました。
「立花さん? こんなところに僕を連れてきて、一体僕にナニをするつもりですか?」
高鳴る鼓動を抑えるのに精一杯の僕です。はぁ…、はぁ…。
「ついてこれば分かるわ」
そういうと、立花さんはエシナ達と映画館の中に入っていってしまいました。
「待ってよ、立花さん!」
何の疑いをも持たずに、僕は立花さん達の後を追いました。立花さんの通った自動ドアが閉まろうとしていたので、急いで自動ドアへと走って行きましたが、急に何か大きいものが自動ドアを開けて出てきました。

――――――ドスンッ!

「うわっ」
僕は止まる事が出来ず、その大きな何かに激突してしまいました。そして、信じられないことに僕の体がどんどんその物体にめり込んでいきます!
「にぎがぁ~…(息がぁ~)」
その物体は異様に軟らかく、僕の体がさらに沈んでいってしまいます!
やばいです! 死んじゃう!! ヘルプ・ミ~!!!

――――――ムンズッ

「えっ?」
なにか、大きな手のようなものが僕の背中の服を掴んだかと思ったら、思いっきり引っ張り出されました。
「けほっ、けほっ」
息を荒げながら、僕はチラリと上を見ました。するとそこには、大きな白衣を着た巨漢の男の人が立っていました。
「…おめ…、だれだ…?」
僕の背中を掴んでいた手に力が入ります。
「うわぁっ~」
いとも簡単に片手で持ち上げられ、僕の顔がその人の顔と同じ高さになりました。
「おめ…、だれだ…?」
もう一度同じ質問を繰り返したかと思ったら、僕の顔とその人の顔が近づいていっています!
「うぎゃぁ~~~、言います、言います! だからその顔を近づけないでっ!!」
僕がこれほど嫌がるのはですね、まぁあれですよ、この人の顔がぶっちゃけ“フランケンシュタイン”みたいだからですよっ! さすがの僕もこれには参ったね。この僕がだよっ!
「おめ…、怪じい…こっぢ…来い…」
「この僕が怪しいだってぇ!? そんな訳があ…」

――――――ムギュッ

「にぎがぁ~(息がぁ~)」
僕は、またお腹に押し込められて身動きが取れなくなってしまいました。
「ばずけて~(たすけて~)」
「…こっぢだ…」
僕の悲鳴がお腹に轟く中、そのフランケンシュタインみないな人はどこかに向かって歩き出しました。
「だじゅけてぇぇ~!(半泣き)」
くそぅ! どうせ埋もれるなら、立花さんのアレとか沢田さんのあんなものに埋もれたかった…。そして、そのまま死んでいきたかった…。あぁっ、未練が盛りだくさんだ。くそぉ~、これも全部立花さんが悪いんだ! 僕が死んだら立花さんの背後霊になって、一生ストーカー行為を繰り返してやるっ!

こんな危機的状況に陥っても、僕は元気でしたが、やっぱり人間には酸素が大事ですね。だって、僕の意識は後もうちょっとしか残っていませんから。
「さようなら…、みんな…」
その時です。

――――――「あれっ! “いしかっちょ”だぁ~!!」

この声は…、

「ごんにちは…、渚ぢゃん…」

薄れ行く意識の中…、確かに僕は立花さんの声を聞いたような気がしましたが、それが今となっては真実なのかよく分かりません…。でもこれだけは言えます。
「立花さんとエシナへの恨みを…晴らさずにぃっ、決してぇっ、朽ち果てるものかぁぁぁ~!」
それだけが僕の生きる希望です。

――――――フッ(意識が飛んだ)



(次回予告)

今日の和也もヒドイ目に遭いますw


”自分に厳しく、地球に優しく” 第14幕

第14幕  学校って、いいところ♪



「えっ?」
シュポ~ンと飛び出たその先は、
「プ~ルゥ~~~!?」

――――――ガシッ

何とか踏み止まりました。危なかったです。もうちょっとでプールの飛び込み台に、足を引っ掛けて、ヘドロみたいな緑色のプールにダイブしちゃうところでしたっ!
「全く…、シパンめ! 確かに5月のこの時期には絶対に見つからない場所だけどさっ!」
そこは学校にある屋外のプール。そこは絶対に見つからない場所で…。

――――――「新谷君…?」

…この声は!?

「沢田さんッ!!?」
そんな! まさか! そんなわけがあり得るはずが無い! これは夢だ! 妄想だ!!
「こんなところで何をしているのですか?」
しかし、僕の目の前にいる沢田さんは現実で…。
「沢田さんこそ、こんなところで何をしているの?」
「私は水泳部ですから。ちょっとプールの様子を見に…」

そうだった! 可憐な沢田さんは水泳部に所属しているんだった! 
こんな時期にプールの様子を見に来るなんて、あなたは水泳部員の鏡だっ!
「そんなことよりも、なんで昨日はあのまま帰ってこなかったのですか? 心配したのですよ?」
ぐわぁ~、やめてくれ~。僕の心を揺らさないでくれ! 現在、震度6強です!
「それはね…」
僕は平静を装い、普段とは変わらない口調で話そうと努力しました。
「えっとねっ…、何であれから帰ってこられなかったのはね、…そう! 病院!!」
「病院?」
僕は必死で考えます!
「そう! 病院に立花さんが入っていったんだよっ! で、僕はその後を追って、病院の中まで入っていったんだよ」
「それで…、どうしたのですか?」
沢田さんはじわりじわりと僕に近づいてきます。
「それで、一緒にエレベータに乗ると尾行がバレると思ったから、立花さんがエレベータに乗った後に、立花さんが何階で降りたかを確認して、そしてその階に行ったんだよ!」
「新谷君にしては、なかなか思慮深いですね」
「ほめられたぁ!」
「早く続きを…」
「うん! でねっ! 僕は階段でその階まで行ってね。見たんだ…」
「何をですか?」

さて、何て言ったほうがいいでしょうか?
選択肢は3つです!
1:立花さんが患者を「キャハハハッッ!」と言いながら皆殺ししていた。
2:立花さんは実は看護士。緊急の事態で病院に行かなければならなかった。
3:立花さんのお父様は脳がイカれてしまうご病気で、お見舞いをなされていた。

まず、1について考えてみることにします!
立花さんが患者を皆殺ししていた…。これはある意味では、真実! 立花さんが昨日、大量虐殺をしたことは、紛れも無い真実! 僕には真実を報道する義務があります! しかしぃ! そんな事を沢田さんが知る必要はありません! 時に情報とは、それが真実でも人に信じてもらえない時があります。そんな真実を人々が受け入れるには、少し時間が必要なのです! よって、1は却下と…。

次に、2について考えてみます!
立花さんは実は看護士。…おぉ、コレならイケルのでは? 一般の中学生が看護士だったなんて、ざらにあることですよね? そうですよね? 何とか言えよッ!!
…すいません、取り乱してしまって…。最近、疲れているんですよ、僕は。   
ヒッ、ヒッ、フー! ヒッ、ヒッ、フー! 深呼吸、深呼吸!
よし! よって、2は却下と…。

…あぁッもう! 3でいいや!
そして、僕は考えるのがだるくなったので、3を選びました。
「どうしたのですか? ボケ~っとして」
「えッ? いや、思い出していたんだよ! 実は、立花さんにはね。あまり大きな声で言えないけど…」
「はい…」
「病気で入院しているお父さんがいるんだよ…」
こんな感じだったら、しんみりモードに突入できるでしょうか?
「まぁ…、お気の毒に…」
よし! このまま押し切ります!
「うん、可哀想だよねっ! 昨日は急にお父さんの容態が悪化したらしく、それで立花さんは急いで病院まで行ったんだよ」
「それで…」
沢田さんの表情がだんだん曇っていきます。
「はぁ~…、分かりました。私は立花さんを誤解していたようです。あとで謝らなければ!」

そして、沢田さんは立ち去ろうとしました。と思ったら、
「あと一つ質問したいのですが」
こっちに振り返って、僕を見ました。
「なに?」
何を聞かれるのか、ドキドキですね!
「先ほど…」
「うん」
「立花さんとすれ違ったのですが…」
「えッ!?」
嫌な予感がします。
「さっきまで立花さんはここにいたのですか?」
すかさず、
「うん。さっきまで立花さんと一緒にいろいろ話しをしながら学校案内をしていたんだよっ! まだ立花さんはまだこの学校に詳しくなかったみたいだからねっ」

…完璧だぁ! 自分が恐ろしい。

「そうだったのですか…。分かりました。では、私たちもそろそろ教室に行きましょうか。授業に遅れてしまいます」
「うんっ」
そして、憧れの沢田さんと一緒に2年4組の教室へと歩いていくことが出来て、僕は大満足でした。途中、沢田さんと一緒に歩いていた僕に突き刺さるような男子の視線なんて気にもしませんでしたよっ。

沢田さんは教室に着くと、真っ先に、あるクラスメートの席へと歩いていきました。
「立花さん…」
「はい?」
本を読んでいた立花さんは顔を上げ、沢田さんの方を見ました。僕は教室の入り口のドアに隠れながら、じっと様子を伺います!
「あの…、私、貴女の事を誤解していました。申し訳ございません…」
頭を下げる沢田さん。
「はぁ…」
さすがの立花さんも戸惑っています。
「でも、どんな事情がある以上、学校を早退する時は学級委員である私に一度声をかけてくれませんか?」
あぁっ、ここからじゃ沢田さんの顔が見えない! くそったれ!!
「…分かったわ。こちらこそ迷惑をかけたみたいでごめんなさいね」
立花さんは一応事情をつかめたのか、素直に謝っている様です。
「ありがとうございます」
立花さんの席から、自分の席に行こうとする沢田さん。
「あ、あと…」
沢田さんはまだ何かを言いたそうです。
「早く…、お父さんの病気が治るといいですね」
「はぁ…」
そして、沢田さんは自分の席へと行き、座りました。

「よかった、よかった」と、僕も自分の席に向かおうとしましたが、どこからか強力なプレッシャーを感じます! 
「カハッ…!」
それは立花さんから照射されていました。「あんた、なに言ったのよッ!?」という立花さんの怒りのメッセージが僕を包み込みます。僕は必死に“和也スマイル”で対抗しますが、立花さんの怒りを余計に買うだけでした。
必死に自分の席へと歩き出しましたが、僕の周りだけ他の場所とは重力が10倍違ったので、嫌な汗をかきながら何とか目的地に到着しました。

「はふぅ~…」
朝っぱらからいろいろとあり過ぎて、もう僕は疲れました。少し眠くなってしまったので机にゴローンと寝そべってしまいました。
「お疲れだな、どうした新谷?」
横の席には、一応友達の長谷川が。
「もう疲れたぁ~」
顔を長谷川の方に向けて、僕は愚痴りました。
「全く…、朝からナニをしていたんだ?」
長谷川がニヤニヤしています! 殺すぞ、ボケェッ!!
「お前には僕の苦しみは分からないよ…」
僕は顔を窓側に向け、春の日差しが当たる中、ゆっくりと眠りの海へと落ちていきました。

――――――ガンッ

「いっ…!?」
痛みで目覚める僕。
「なに?」
顔を上げ、自分が今置かれている状況を一生懸命に考えました。しかし、目覚めたばかりでまだ頭が回りません。僕の周りでは「くす、くす…」と笑い声が聞こえ、僕の右斜め前には、木村先生が数学の教科書を右手に持ったまま、何だか怒ったような顔をして突っ立っています。
「新谷」
「はいぃ…?」
その僕の反応に、周りのクラスメートからは「ププッ」とか「アハハッ」と、さっきよりも1ランク上の笑い声が聞こえてきました。
「お疲れのところ悪いんだが、教科書の27ページの問1をやってもらえると先生は助かっちゃうんだけどな~」
木村先生の口調は穏やかだったけど、顔は怖かったです。
「えッ? 分かりました…」
僕はやっと状況を掴めました。いわゆる、「居眠りしていたら、先生に教科書の硬い部分で叩かれて、突然の痛みに慌てて起きると、先生にこの問題をやってみろっと言われちゃったよっ」というベタな現象が発生してしまったということですね!? 
僕は机の中から数学の教科書を取り出し、立ち上がって黒板まで歩いていきました。ご親切なことに、問題はすでに黒板に書かれていました。あとは、僕が答えを書けば完成です。

「えぇっとぉ…」
僕はクールな眼差しで教科書を見ながら、かっこよくチョークを持ちました。そして、教科書を見ながら問題を解こうとしましたが…、どうしましょうか…、全く分かりませんよ!! 何だよこの“連立方程式”って! 連立するなよ! 分かんなくなっちゃったでしょうが!
チョークを構えたままの状態で固まっている僕の後ろからは、また「クスクス…」と嫌な笑い声が聞こえてきました。
「どうした新谷? できないのか?」
木村先生が何故か僕の席に座っています。
「もしできなかったら…」

…もしできなかったらッ!?

「俺は彼女にフラれると思えッ!!!」
「えぇっ!?」
「分かったな!」
「はいぃ!」
教室のみんなが「どっ」と笑いの渦を発生させました。

「新谷ッ、先生の貞操はお前の手にかかっているぞッ!(長谷川)」、「頼む! 俺を助けてくれぇ!(木村先生)」、「新谷君、任せましたよ(沢田さん)」
と、クラスメートからの声援を受ける僕。先生は何故か涙ぐんでいます。
「そんなぁ…」
どうしましょう。プレッシャーがかかリまくりですよ。僕が問題を解けなくても、先生が彼女にフラれることは全く関係が無いと思うのですがッ! 
とにかく、この目の前にある問題を解かないことには、僕の安泰した学生ライフを送るという理想の実現が厳しくなるでしょう! 
僕は黒板に向かい直し、再度チャレンジしてみます。でも…、分っかんないですよう! 
どうしましょかぁッッ~~~!
突如、

――――――ピキーン!

「ッ!? ぎゃっぴぃィッッ~~!!」
「どうした、新谷ッ!?」(木村先生)
何でしょうか!? 突然、僕の頭にものすごい電流が流れたような、そんな刺激が脳髄を駆け巡りました! 
その痺れるような刺激は、僕の後頭部の方から発生したような感じがしたので、後ろに急いで振り返りました。僕の目に映ったもの…、それは、教室の後ろの席で「全く、もう…」って顔をしながら、僕に向かって何故か本を開いている立花さんの姿でした。僕が“立花さんは何故そんな顔をしているの?”と考えるよりも速く、僕の脳に何かがなだれ込んできました! 

それは…、知識! ありとあらゆる数字が次々と僕のビジョンに浮かんでいきます! 
定義、定数、概念、公式…、それらの知識がどんどん僕の中に!
体に十分それらが溜まった時! 僕の体が勝手に動きだしました!
「うおおおぉぉぉッ~~~!」
みんなが僕の奇声に驚いている中、僕はチョークが粉砕するぐらいのスピードで黒板に問題の答えをあっという間に書き上げてしまいました! 何だかとっても良い気持ちです。
 
「先生…、どうですか!?」
僕の言葉にはっとした木村先生は、僕の後ろに書かれているその白い文字をじっと見つめ、
「…合格だ、新谷」
右手を突き出し、親指をグッと天井へ伸ばして“OK”のポーズを取る木村先生。
その木村先生の仕草の後には、教室中に先ほどとは意味が違う「どっ」と歓声が沸きあがりました。

「すごいじゃないか! 見直したぞ、新谷!!(長谷川)」,「これで俺はフラれないぞ! ヤホ~イ!!(木村先生)」、「お見事でしたよ、新谷君(沢田さん)」
どうしましょう。僕があっという間にクラスのヒーローになっちゃいましたよ! 沢田さんからもお褒めの言葉をいただいて、僕は感激です!
「よし、席に戻っていいぞ」
「はい!」
気分は有頂天です。その後の授業も気分はルンルンで過ごしました。こんなにも授業が楽しいと思ったことは、今までの僕の人生の中で初めてのことです。しかし、さっきの立花さんの行動は一体なんだったのでしょうか? まぁ、いいや!

そして、今は昼休み。
「なぁ、新谷…」
「んっ、なに?」
購買という戦場から戦利品(明太子入りおむすび&カレーパン)を勝ち得て、今は教室へ長谷川と一緒に帰っている場面です。
「聞きたいことがあるんだけど、…モグモグ…」
長谷川は教室まで空腹に耐えられなかったのか、モグモグと焼きそばパンを食べています。
「教室に戻ってから聞くよ」
歩きながら、食べるなんて…、長谷川はどんなしつけを受けてきたのでしょうか? 親の顔を見てみたいものです。

「いや…、教室でこの質問をすると新谷が困ると思うぞ」
「なんで?」
長谷川はパンを食べることを止めて、ジッと僕を見ました。気色悪くて身震いしました。
「今日の朝のことなんだけど…」
「ッ? 今日の朝が…、どうかした?」
嫌な予感がします。
「新谷さぁ…、今日の朝、何で立花さんと一緒に体育館にいたんだ?」
ぐはぁっ! やっぱりか! 嫌な予感が当たりました。コイツのことだから、絶対にこの事を聞いてくると思っていましたが、実際に聞かれるとどう対処していいか困ります。もし、聞かれたら長谷川を殺そうと考えていましたが、ここでは無理です。人目に付きます。

「分かった、言うよ。でも、ここでは人目に付くから屋上で話すよ」
そこがお前の死に場所だ…。ヒィ~ス、ヒィ~ス…!
「屋上? ちょっと寒いけど、まぁいっか」
僕は屋上へ向かう階段へ歩き出し、長谷川は何も疑わずに僕の後に着いてきました。階段を登りながら、僕は長谷川をどんなツボで殺すか考えていました。一番苦痛を与えられるツボとか、一番死に方が派手なツボとか…。
「っと、もう屋上か」
そんなことを考えながら屋上へのドアに着いてしまいました。
「この学校って、屋上が禁止されていないからいいよなぁ~」
長谷川は僕を追い越すと、ドアに手をかけました。

――――――ギィ…

長谷川にとって、死への扉が開かれました。長谷川は僕より先に屋上に出て、周りに誰かいないか、キョロキョロしています。
「誰もいないみたいだな~」
長谷川は僕に背を向けたまま、独り言のように言いました。
「そうか…、それは好都合だね…」
僕は手に力を込めて、無防備な長谷川に飛びかかりました!
「えっ?」
後ろを振り返る長谷川…。しかし! 遅い!! 死ねぇぇええぇぇッッ~~~!!!
「立花さん…?」
「えっ?」
キキィ~!!っと急停止する僕。
「新谷…、その手は何だ?」
「なんでもないよ!」
僕は人差し指を立てていた手を、急いで後ろに引っ込めました。しかし今は、長谷川のさっきの発言の方が気になります!
「何が立花さんなんだよ…」
長谷川が見ている方向を見るために、体を後ろに回転させました。そして、
「……立花さん……」
立花さんの姿を見ました…。何でこんなところにィッ!?

「あらっ、こんにちは」
立花さんは僕達が出てきたドアの上の、屋上の展望台みたいな場所で、足を空中にブラ~ンとする姿勢で座りながら、お弁当を食べていました。
「新谷さんたちも、ここで昼ごはんを食べるのですか?」
ニコニコしながら、僕たちに話しかける立花さん。しかし、この口調は絶対にネコを被っていますね!
「いや~、こんなところで立花さんとお食事をご一緒できるなんて光栄~」
いつの間にか長谷川は、立花さんのいる場所まで移動していました!
「はやっ! 僕も急がないと!」
上へと上がるハシゴを注意しながら登ると、長谷川は図々しく立花さんの横に座ってパンを食べていました! あぁっ…、蹴り落としたい!

「立花さん、こんにちは」
僕は長谷川とは反対方向の立花さんの横に座ろうとしましたが、そこには茶色のぬいぐるみが置いてあったので、危険を回避するために、しょうがなく長谷川の隣に座りました。
「こんにちは、新谷さん」
立花さんに“新谷さん”と言われると、何か気持ち悪いです。だから、僕は危険も承知のうえ、立花さんに言いました。
「立花さん。僕の事は“和也”って言ってほしいな。そっちの方が、気が楽でいいから」
「えっ」
立花さんはちょっと顔を赤くして…、
「じゃあ…、和也君…、こんにちは」
何でそんなに恥ずかしそうに言うんでしょうか? 今までずっと僕の事を“和也君”って呼んでいたのに。
「じゃあ! 俺のことは“悠太君”って呼んでくれよぉ!!」
ちょっと興奮気味の長谷川。
「いえ…、私は長谷川さんって呼んだほうが…、好きですね」
「えぇっ!」
その言葉に何故か急に立ち上がる長谷川。
「長谷川…、どうかしたか?」
僕の声が聞こえていないのか、隅っこのほうに歩いて行く長谷川。
「お~い、落ちても知らないからな~」
スゥ~っと長谷川が息を吸い込んだ音が聞こえました。そして、
「女の子に初めて“好き”って言われたぁぁぁ~~!!!」
その悲しい叫びは、どこまでも響いていきました…。
「はぁ~、すっきりした!」
また長谷川は立花さんの横に座りました。それにしても長谷川…、お前は今まで一度も女の子に“好き”と言われたことが無いのか…、かわいそうに。…ちょっと待って…、僕も言われたこと無いッ!

「そうだっ、立花さんにも聞きたいことがあったんだよっ」
僕が長谷川の横で自己嫌悪に陥っているっていうのに、長谷川は立花さんにもあの質問をするつもりなのでしょうか?
「私にですか? (チラッ)…なんでしょうか?」
微笑みながら長谷川を見ていた立花さんでしたが、その質問を聞いた瞬間、一瞬僕の方を向いて、ギラッとした眼光を僕に突きつけたのは気のせいでしょうか?

「今日の朝、体育館で二人は何していたの?」
あぁぁっ、長谷川…、立花さんにお前絶対に消されるよ。僕に殺されていた方がきっと幸せだったのに…。
「今日の朝は、ここにいる親切な和也君に学園案内をしてもらっていたんですよ」
「えっ!? そうなんだ?」
はっ!? この返答の内容は…、僕が今日の朝、沢田さんについた嘘と同じ内容だ。シンクロしたよっ!
「私、まだこの学校に慣れていませんので、朝早く学校を散歩していましたら、和也君と偶然お会いして…」
「へぇ~、新谷、そうなのか?」
立花さんの返答が合っているか、長谷川は僕に尋ねました。
「そうなんだよ長谷川。何だか立花さんが不安そうな顔をしていたから、僕が心配して一緒に学校内を案内していたんだよ」
「(ピキッ) 和也君、今日は本当にありがとうございました」
“てめぇ…、なんで私が不安がっているんだよッ!?”と、一瞬、立花さんの額に“怒りマーク”が浮かびましたが、長谷川が立花さんの方に振り向くと、すぐにそれは消えていました。

「そっかぁ…、俺が案内したかったなぁ…! そうだっ、今日の放課後は空いてる?」
「すいません、放課後はちょっと用事があって…」
「がっくし、俺も学校案内をしてあげたかったなぁ…。新谷はいいよなぁ」
ナンパを諦めた長谷川は、黙ってパンを食べ始めました。

「とっても大事な用事なんです、すいません」
そう言うと立花さんもお弁当を食べ始めました。しかし…、立花さんが言うその大事な用事とは、恐らくっていうか絶対に僕を特訓することでしょうね。そう思ったら、急に食欲がなくなってきました。
「長谷川、このカレーパンあげるよ」
「おぉ! サンキュー。食欲無いのか?」
「うん…、何か急にお腹のあたりが痛くなって」
「そうか…、体調には気をつけろよ」
僕からカレーパンを受け取った長谷川は、嬉しそうにカレーパンを食べ始めました。
「では、私はそろそろ教室に戻りますね」
お弁当を食べ終えた立花さんは、弁当箱を布で包んで、横に置いておいたエシナを肩に乗せました。
「え~、もうちょっと話そうよ~」
長谷川が駄々っ子みたいな口調で言いました。しかし、長谷川がこんなナンパ男だったとは夢にも思いませんでしたよ。
「いえ、男二人の世界を邪魔しては悪いので。ではっ」

――――――ピョンッ

「えっ、飛び降りた!?」(長谷川)

――――――スタッ

「おぉ~」
感心している長谷川。僕は昨日の出来事で慣れているので、全然気にしませんでしたけどねっ。
「ごゆっくり~」
そう言った立花さんは、こっちに手を振るとドアを開けて行ってしまいました。
「あ~あ~…、行っちゃったぁ…。残ったのはむさ苦しい男だけかぁ…、はぁ~…」
「女の子じゃなくて悪かったな。はぁ~…」
同時に二人はため息をつきました。長谷川は、立花さんが行ってしまったことによる残念感で。僕は長谷川に嘘がばれなかったことによる安堵感でため息をつきました。

「おい新谷!」
「ど…どうした?」
長谷川がイヤに真剣です。
「お前に先は越されたが、俺がすぐに追いついてやるからなぁ!」
“ビシッ”と、指を指されながら言われました。
「何の話だ…?」
「いや、気にするな! そっちの方が俺にとっては好都合だ!」
食事を終えた長谷川は、すくっと立ち上がり、
「とうっ」
その掛け声と共に、先ほど立花さんが飛び降りたようにジャンプしました。。

――――――ダンッ

「~~~~~~ッッ!」
普通に痛そうです。
「くぅ…! お前には負けないからなぁ~!」
その捨て台詞を残して、長谷川もドアを開けて行ってしまいました。
「何だって言うんだよ、全く…」

僕は背中を後ろに倒し、ゴロンと横になりました。
「いい天気だぁ…」
コンクリートの地面はひんやりと冷たく、頬に当たる風はほんのり暖かいです。しばらく横になっていると眠気がじわりじわりと忍び寄ってきましたが、妙な音で眠気が逃げていきました。
「何の音だろう…?」
耳をすましてみます。

――――――シュィ~ン…

「お~イ、かずヤ~!」
この声は…、
「ヴぇス君!?」
「そうだヨ~」

――――――シュィ~ン…

「どこ!? どこにいるの!?」
「わかんなイ~?」
ヴぇス君の声はするけど、肝心の姿がどこにも見当たりません。モーター音が聞こえるだけです。
「じゃア~、ヒント~」
「ヒント?」
「えイッ!」
刹那、
「ッ!? ギャァァ~~~!! 耳っ、耳が痛い!!!」
激痛です! 
「痛い! 痛すぎる!! いったい今のは何!?」
右手で自分の耳を急いで触ります! しかし、その痛みは外部からではなく、僕の耳の中、すなわち内部からの痛みでした!
「僕は今ネ~、かずやの耳の中にいるノ~」
「なっ、なんだってぇぇぇ~!?」
意味が良く分かりません!
「どういうこと!? ヴェス君、ちゃんと説明して!!」
「わかっタ~」
僕の耳の中では相変わらずモーター音が響いています。

「僕の“バリティー”の“チャラック”でモデルテェンジしたんだヨ~」
「え!? “チャラック”って、昨日みたいに飛行機やダンプカーに変形するアレ?」
「そうだヨ~」
「一体何に変形したの!?」
「聞いて驚くなヨ~」
「早く言ってよぉ!」
ヴェス君にジラされると、何だか興奮してしまいます!

「しょうがないナ~。僕は今ネ~、小さくなって体内に侵入できる“ナノマシン”に変形したんだヨ~」
「おぉ~、何だかカッコイイね!」
「そうでしョ~」
「あははっ」っと笑い合う僕達。穏やかな空気が場を包み込まれていきます…、がっ!

「ごめんネ~、かずヤ~」
「ん? どうしたの、急に謝ったりなんかして?」
ヴェス君の様子がおかしいです。
「先に謝っておくネ~」
「何が!? とっても嫌な予感がするんですけど!!」
空がどんどん黒ずんでいきます。
「僕は渚に命令…、頼まれただけだからネ~」
「やめて! よく分からないけど、とにかく止めてぇぇぇ~~~!! 僕とヴェス君の仲でしょ!?」
僕の右耳から、微かな虹色の光がこぼれ始めました。
「乗り物するだけじャ~、つまらなイ~。たまには乗り物に乗りたいナ~」
次の瞬間、僕の目、耳、鼻、口から虹色の光が放射されました。(ピカァァァ~~~っと)
「運転するバリティー“ルマニカル”!!!」
「うぎゃぁぁぁ~~…」

――――――バタッ!

(後日談)
痛みは無かったです。僕の体が温かい水の中に浸されているような…、そんな気持ちい感覚が僕を包み込みました。そして、子守唄を歌われて、安らかに眠りにつく赤ん坊のように、僕の意識はゆっくりと遙か彼方へと飛ばされちゃったんだよね~。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第13幕

第13幕  冷たい水の中で



びっくりしました。
何故かというと、体育館の外側の壁から突然「シュパ~ン!」と変なケーブルが飛び出て、またそれが「シュルン!」と出てきた穴に吸い込まれたからです。しかし、この光景には身に覚えがありました。
「おはようさん~。いや~、昨日は大変だったですなぁ~。なぁ~っはっはっはっ~~!」
どこからともなく変な大阪弁の声が聞こえてきます。僕は神経を集中させ、どこに本体がいるか探ります。
「(ピキーン) そこだぁッ~~~!」
僕が蹴った場所は体育館の外壁のある一部。するとどうでしょうか。その場所が微妙にへこみました。
「アイタァ~!!! いつの間にそんな能力を身につけたんや、あんさん!?」
僕の目が赤く光り。
「我の、ち、カラ、の、源、は、憎し、ミ」
「怖いわぁ! もう怒らんといてぇなぁ~! ホンマすいませんでしたぁ~~~!!!」
優しい僕は、これぐらいで勘弁してあげます。
「ところで、何しに“ソム”へ行くんや?」
「さっきも言ったでしょ。…BDMを和也君にやらせようと思ってね」
「なんやてぇぇぇッッッ~~~!!!」
わざとらしい驚き方が僕をムカムカさせます。それにしても、

「BDMって何?」
その言葉に立花さん達は“ピクッ”と動揺しましたが、僕の問いに別に答える様子もなく、何故か、遠くを見ながらわざとらしく口笛を吹き始めました。
「えっ、なに!? みんな急にどうしたのッ!?」
「BDMって言うのわな」
「シパン!!」
説明しかけていたシパンを、立花さんの大きな声が遮りました。
「ケーブルを引きちぎるわよ?」
「ひぃぃぃッ~~~!! なんでもあらへんよ、あんさん!!!」
とっても怪しすぎるので、僕はこの場から速攻で逃げようと思いました。外に置いておいた鞄を手に持ち、いざダッシュで逃げようとした時、
「ワイは悪くないでなぁ~~~! 怒らんといてぇなぁ~、あんさん~~~!」
先ほど出現した穴から、ケーブルが“ニュルンッ”と出てきて、逃げようとしていた僕に向かって襲い掛かって来ました! シパンの仕業です!!

「ふっ、シパン…。今の僕にはコレぐらい難なくかわせる!」
このぐらいの攻撃は簡単にかわせると思いました。しかし、
「ふっ、甘いぞ和也! 惑わすバリティー! シシルチエ(木の葉牢獄)!!」
エシナの体が虹色に光ったかと思ったら、エシナの口から落ち葉が“ドバーッ”と出てきて、僕の周りを囲みました。
「うわぁッッ~~! 何も見えない~~~!」
「エシナはん、ナイスサポートやで!!」
「さっさとヤレ!!!」
「おおきに!!」
僕の微かな抵抗も虚しく、何気にタッグを組んだエシナとシパンには敵いませんでした。
ソムへの入り口であるケーブルに無抵抗で吸い込まれていく僕。薄れていく意識。そして、眩いばかりの光。

――――――シュッポ~ン!!

「うわあぁぁああぁぁッッ~~~!!」
「ええぇぇええぇぇぇッッ~~~!?」

――――――ドカッ!…ドスッ!

前にもあったようなこの展開。
痛みに苦しんでいる僕の体の下で、僕と同じように悶絶していたのは、立花さんのお父上である“まもるさん”でした。
「いたたた…、おぉッ! 君は和也君じゃないか! おはよう!!」
「おはようございます、まもるさん! 今日も元気ですね!」
はっ! 僕は気が付いちゃいました。今の状態は僕がまもるさんを芝生に押し倒しているということに! そして、僕と同じ様なことを感じ取ったのか、まもるさんの顔も赤くなっていきました。
とってもいいムードで見つめ合う僕とまもるさん。そして、二人の瞳は潤んで行き、
「キモイんだよボケェがぁッ!(ドゴッ!)」
「ゲフゥッッッ~~~!!!」
いつの間にか、僕の横にいたエシナに横からアッパーを食らった僕は、血反吐を吐きながら空に向かって飛んで行きました。僕は、かろうじて目を見開いて僕の着陸予定地を見ました。でもそこは、
「プール!?」

――――――バッシャァ~~~ン!

「ばんばぶぅーぶばっ!?(なんでプールが!?)」
でも、そんなことを考えている場合ではありません! 
「ぶはぁ! さぶっ! 寒すぎるぅ!!!」
あまりの寒さにガチガチと体を震わせてしまいます!
不運にもプールの底はとても深く、足を動かさなければ沈んでしまいます! あまりの寒さに体が急速に痺れてきたので、僕の体は溺れるまでの、ワン! ツー! スリー! っと、カウントダウンを開始してしまいました! 
プールのそばでは、そんな僕をせせら笑うエシナがいます。そして、その隣で興奮しているまもるさん。さらにその横で、いつの間にかこっちに来ていた立花さんが、何故かプールの反対側を向いてヴェス君と遊んでいます!!
「みんな助けてよぉ! 凍えて動けない!!」

僕が叫んだその時です。
「てりゃ~~~っ」
突然現れた可愛い声。変ですね、僕の気のせいじゃなければ、今の声は僕の頭の上の方から聞こえたような気がします。僕はその声の主を確かめようと顔を上げ、

――――――ドッバシャァ~~~ン!!!

「うわあぁぁぁッッ~~~!!」
すぐ横で突如発生した大波に、飲み込まれてしまいました。状況がつかめない僕は、そのままプールの岸に“ドッパ~ン”と打ち上げられました。
「た、助かった…」
少し飲んでしまったプールの水で気持ち悪くなったけど、僕は大丈夫です。たくましく生きていますよ。プールに全てのエネルギーを奪われ、よぼよぼのおじいちゃんみたいになったけど、僕を死の境地から救ってくれた波が発生した場所を恐る恐る見ました。

「大丈夫ですかぁ~?」
プールのほぼ真ん中にいたのは、僕に向かって大きく手を振っているとても小さくて可愛らしい女の子でした。僕は何が起こったのかわからず“ポカーン”としていると、その子は茶色のショートへアーをかきあげ、それからこっちに向かってバタ足で泳いできました。

「汐(うしお)ちゃ~ん、いい飛込みだったよ~~~!」
まもるさんは嬉しそうにその女の子に手を振りながら、プールの傍までやってきました。
「ぷはぁっ、ねぇ、パパッ!」
その女の子はプールの端まで泳いでくると、顔を水面から上げました。見た感じ、まだ小学5年生ぐらいでしょうか。
「僕、この人の命を救ったのよっ! すごいっ? すごいっ?」
「うん、でも今の場合は助けなかったほうがウケルけどねっ」
「もうっ、パパったら!」
まもるさんが手を差し出すと、その女の子はその手を掴みプールから上がりました。
「えっ? まもるさんがパパって…」
全く状況を掴めていない僕の顔を覗き込んだその女の子は、
「初めまして! 僕の名前は、立花 汐(うしお)って言います! 渚お姉ちゃんの妹ですっ! 今日はいい天気ですねっ!」

清々しい挨拶をしました。その時の、汐ちゃんの満面の笑顔といったら、世界中のどんな悪党の心をも癒してしまうことこと間違い無しです!
「こちらこそ初めまして! 僕は立花さんのクラスメートで新谷 和也って言うんだよ! 汐ちゃんっ! 僕のことは“和也お兄ちゃん”って呼んでねっ!」

――――――殺気ッ!?

気が付いた時には、僕は立花さんとエシナによる合体攻撃“局部一点集中攻撃”を受け、まるで人間大砲で発射されたかのような凄まじい勢いで空中へ飛んでいきました!
「和也君。死んでぇっ~!」(立花さん)
「わぁっ、和也お兄ちゃんが飛んでる~っ!」(汐ちゃん)
「飛べない和也はただの和也だ」(エシナ)
「エシナさんって本当に面白いですよねっ!」(汐ちゃん)
「汐ちゃ~ん! 和也お兄ちゃんって呼んでくれてアリガトォ~!? って、またプールだぁ!!」(僕)

――――――ドッバッシャァ~~~ン!

「だぁぶはぁっ! たっ、助けてぇっ~! 汐ちゃ~ん! プリーズゥ!!」
また、先ほど味わった凍え死にそうな寒さに襲われました。
「サブイよ~! 何で汐ちゃんは平気だったの!?」
こんな南極の極寒の海のようなところで、汐ちゃんは何故ケロッとしていられるのでしょうか!? 鈍いんでしょうか!?
「だって、僕は“人命保護執行人”になるために、あらゆる状況でも人命を救うことが出来るように修行したんだもんっ! すごいでしょっ?」
「こらっ、汐! まだ汐は“人命保護執行人”になるための修行中でしょ! まだ見習いよ、あなたは」
立花さんがちょっと怒ったような、ちょっとお姉さんみたいな、そんな感じで汐ちゃんの柔らかそうなほっぺたを軽くつまみました。
「はぅぅぅ…、ごめんなさい渚お姉ちゃん」
汐ちゃんが「えへっ」と自分のおでこに、丸めたコブシをコツンと当てました。

「“人命保護執行人”!? それはたいしたもんだよ汐ちゃん! だから、さっさと僕を助けに来てもらえないかなっ!?」
そろそろ僕は限界です。もうプールの底に沈みそうですよ! 死んじゃいますよ!!
「ごめん和也お兄ちゃん…、僕もう疲れちゃった…」
「えぇっ!?」
汐ちゃんはその場にペタリと座り込んでしまい、突然泣き崩れてしまいました。
「うっうぅ…、体が動かないよぉ…! もう誰も…、死んでほしくないのにぃ…! そう、アレは…、まだ僕が6歳のとき…」
「ちょっと待って! 何で今この緊急事態に回想シーンに突入するの!? 僕がもうすぐで汐ちゃんの回想シーンの1場面に追加されちゃうってのにッ!?」
「和也お兄ちゃんって面白い人ですねっ!!」
元気良く飛び跳ねる汐ちゃん。
「うん、ありがとっ! って、早く助けて!! 汐ちゃん元気じゃんっ!」
「和也~、助けてやろうか~?」
「えッ!?」
エシナが、にこやか~な笑顔でこちら見ています! くそっ!
「本当に!? 本当に助けてくれるのッ!?」
もう助けてくれるなら誰だっていいです!
「条件があるがな」
「わぁ~、エシナさんが悪人の顔になってるぅ~」
汐ちゃんが「キャッ、キャッ」と嬉しそうに騒いでいます。

「でもエシナさん…」
あれ? 急に真剣な口調になる汐ちゃん。
「和也お兄ちゃんは僕が助けるから大丈夫だよっ」
汐ちゃんはそう言うと、プールの中に飛び込みました。あっという間に僕のところまで泳いで来た汐ちゃんは、僕の腕を自分の肩にまわしました。
「遅れてごめんねっ、和也お兄ちゃん」
「汐ちゃん~…」
僕は汐ちゃんの優しさに涙してしまいました。
「余計なことをっ!」
向こうでエシナの悔しそうな声が聞こえました。

「エシナ」
「ん? どうした渚?」
立花さんは何故かエシナを抱きかかえました。
「上」
「上?」
僕もその言葉に顔を上げ、上を見ました。
目に映ったもの…、それは、とっても高い飛び込み台…。なるほど、さっき汐ちゃんはあんなに高いところから飛び込んだのですか。
「ん? アレは…」
良く見ると、その飛び込み台には黒い影が。
「あぁ…!」
突然、震えだす汐ちゃん。
「汐ちゃん、どうしたの!?」
「怒られる…」
「えっ!?」
そして、

――――――「何をやっているのですかっ!!!」(?)

遙か上空で轟く轟音。僕と汐ちゃんは同時にビクッと肩を震わせました。

――――――「今、そちらへ参ります!!」

黒い影が空中へ身を投げ出し、こっちに落下してきました!
「また新キャラかッ!? いいキャラでありますように!!」
僕は心の中の神様に心から祈りました。

――――――ドッバッシャァ~~~ン!

「うわあぁぁぁあああぁぁぁ~~~」
「きゃあぁぁぁあああぁぁぁ~~~」

落下してきたソレは、僕達の横に墜落し、その衝撃によって発生した波に、今度は僕と共に汐ちゃんもプールの岸に、「ばっしゃぁ~~~ん」と打ち上げられてしまいました。
「ごほっ、ごほっ、一体何が?」
プールの中央を見てみました。
「あぁっ! あれはっ」
なんと! プールの中央にはエシナとは違う、白い色のぬいぐるみが水面の上に立っていました!

「汐さんッ!」
その声は汐ちゃんに向けられたものでした。
「はいぃ…」
自信なさげに返事をする汐ちゃん。
「自分が今、何故怒られているか分かりますかッ?」
そう言いながら、水面を歩いてこっちに向かってくる白いぬいぐるみ。
「それは…、僕がすぐに和也お兄ちゃんを助けなかったから…」
「その通り!!」

そのぬいぐるみは倒れている僕達の前に来ると、じっと僕を見ました。
「見なさい! この一般市民がこんなにも衰弱しているのを! もう一歩遅かったら凍死していたかもしれないのですよッ!」
「だって、和也お兄ちゃんが助けなくてもいいって…」
「いや、言ってないから! 突然何を言い出すのッ!?」
「と・も・か・く、減点1点です!」
「えぇ~~~」
がっくりとうなだれる汐ちゃん。
「汐さん…、あなたは“人命保護執行人”になるのでしょう? だから、この私が貴女を立派な“人命保護執行人”にするために、厳しい修行を受けさせているのですよっ」
「まぁまぁ“ドトロちゃん”…」
まもるさんが会話の中に入ってきました! 
そして、僕はふと気が付きました。今、まもるさんが言った“ドトロ”というある有名なキャラクターのことを! 良く見てみると、このぬいぐるみはそのキャラクターにそっくりです! 色は違いますが…。

「汐だって真面目にドトロちゃんのキツイ修行を受けているんだろう? だったら、もうちょっと汐のことを信じてやってもいいじゃないか。それに汐は、ちゃんと和也君を助けようと頑張ったじゃないか」
まもるさんがまともな事を言っているッ!? ありえないぃッ!!
「それもそうですが…」
まもるさんの言葉にそのぬいぐるみは言葉を詰まらせました。

「汐ちゃん、僕は期待して待っているからね。頑張って立派な“人命保護執行人”になってね」
汐ちゃんの頭を撫でるまもるさん。そして、まもるさんの胸に抱きつく汐ちゃん。なんて微笑ましい家族の光景なのでしょう! 僕は感動して胸がときめいています!
「さて…、私はこの一般市民を治すとしますか」
ドトロと呼ばれるそのぬいぐるみは、凍えて動けない僕の体の上に両手をかざしました。
「えっ、何をするの!?」
「大丈夫だよ、和也お兄ちゃん。じっとしていて」
その汐ちゃんの言葉に安心した僕は、何が起こってもこの場を動かない決意をしました!

パアァァッッっと微かに虹色に光っていく僕にかざされた両手。
「暖かな光と共に…。治療するバリティー“アータート(癒しの光)”!!」
かざされた手から、虹色の光が僕に向かって照射され、僕の体を虹色の光が包み込みました。
「うわぁぁぁ…、なんだかとってもいい気持ち…」
温かい湯船に浮かんでいるような感覚に包み込まれました。僕の体と心が徐々に温かく癒されていくことを感じます。
「いいなぁ、和也君…」
立花さんが何故かぼやいています。
「そろそろいいでしょう」
ドトロさんは僕にかざしていた両手を引っ込めて、僕の顔を覗き込みました。
「気分はどうですか?」
まるでお医者さんに診断されているようです。
「はい、大丈夫だと思います…」
ゆっくりと立ち上がり、そして自分の体を軽く動かしてみました。
「全然だるくない…、むしろ体が軽いくらいだよっ! こんな気分は初めてだッ~!」
服も乾いています! 僕は「あはは~」とその場でクルクルと回転してしまいました。
「ありがとうございます、ドトロさん!」
「礼には及びません。当然のことをしたまでです」
なんてドトロさんはクールなのでしょうか! 惚れてしまいそうです!

「おい、ドトロ」
「その声は…、エシナさんですか」
エシナがドトロさんに話しかけています。
「相変わらず、そのお節介な性格は治っていないんだな」
「大きなお世話です」
エシナの言葉に少しムッとなるドトロさん。何だか仲が悪そうです。
「それにしても、何故、一般市民が“ソム”にいるのですか?」
「えっ!?」
僕は、今ドトロさんが言った言葉があまりよく理解できませんでした。
「ここが“ソム”だって? でもここ、空だってあるし…」
そうなのです。ここが“ソム”な訳がないです。ソムと言うのはあの研究所のことではなかったのですか?
「和也君。あの空はただ天井にモニターが貼り付けられていて、そこから空の映像を流しているだけなのよ」
僕は立花さんのその話が信じられなくて…、
「じゃあ、ここはどこなの!?」
まもるさんに答えを求めました。
「ここは間違いなく“ソム”だよ。“ソム”と言うのはだね和也君…。萩原山の内部にある“町”のことを言うのだよ」
「えぇぇぇッッ~~~! ここって、山の中なの!?」
仰天びっくり摩訶不思議です! ここが山の中だとはッ!
「びっくりした? すごいでしょ」
立花さんが「にこっ」と微笑みました。
「うん、すごいよ。本当にすごいっ」
僕はたび重なるすごい出来事に驚きっぱなしです! 

「じゃあ、あの大きなの家は立花さんの家?」
「そうよ」
今、気が付きましたが、僕達がいるこの場所はとても大きな庭だったのです! 大きなプールがあり、しかもきれいな芝生に覆われていて、さらにパラソル付きの寝られる長い椅子まであります。そして、向こうに見えるのは、真っ白な大きな家。
「まもるさんってお金持ちだったんだぁ…」
「いや、違うよ和也君」
まもるさんが僕の肩を掴みました。
「これは全部…、タダだ!」
「タダッ!?」
この、誰もが憧れるような凄い家がタダですと!?

「全部、“創造”担当の“カリス”に作ってもらったんだよ、えっへん!」
また新キャラ登場ですか!?
「“アート”って何でもありですね!」
「僕が天才だから成せる業だよ! はっはっはっ」
「その“カリス”って言う“アート”も誰かのパートナーなんですか?」
「そうよ」
立花さんが僕の前に歩み寄り、
「和也君が無断で借りていたその白衣の持ち主がカリスのパートナーよ。名前は石川 勇人(いしかわ はやと)さんと言って、私は「いしかっちょ」って呼んでいるわっ。ちなみに、いしかっちょは“文明開発執行人”でもあるんだからっ!」
何故か立花さんは誇らしげです。
「えっ、そうなの! すごい偶然!? それに文明開発執行人っていうのもスゴそう!」
僕は、今持っている袋を空け、中に入っている白衣を見てみました。そして思いました。
…ということは、ここにいる人たちはみんな“アート”のパートナーがいるってことですか!? いいなぁ~! 羨ましいよッ! 僕もほしいですっ!!

「汐さん、そろそろ学校に行く時間ですよ」
ドトロさんが腕に付けている腕時計を見て言いました。
「あっ、いっけな~い! もうそんな時間なんだ!」
汐ちゃんは駆け出し、
「じゃあね~、和也お兄ちゃん。またね~」
「それでは失礼します」
ドトロさんと一緒に向こうの家まで走って行ってしまいました。
「汐ちゃんって、何年生なの?」
「小学5年生よ」
「和也君、汐ちゃんには手を出したらダメだからねっ」
その意味ありげなまもるさんのお言葉に、
「大丈夫ですよ、まもるさん。汐ちゃんには絶対に手を出しません! 任せてください!」
はっきりと自分の意思を示しました。
「期待しているからねっ」
ぎゅっと握手を交わす僕とまもるさん。
「二人とも…、変なことを考えているんじゃないでしょうね?」
立花さんが僕とまもるさんの肩をガシッと掴みました!
「ん? 何も考えていないよ渚ちゃん。それよりも、ほらっ」
立花さんの握力から“スルッ”と抜け出したまもるさんは、自分の腕時計を立花さんに見せ、
「そろそろ渚ちゃん達も学校に行く時間じゃないのかな?」
と、僕達にとって重要な情報を提示してくれました。
「そうだよっ、早く学校に行かないと!」
僕はシパンが恐れた“BDM”という意味のわからないモノから逃れるために、立花さんの説得を試みます。
「でも、和也君の修行が…」
立花さんは何だか悲しそうです。
「学校が終わってからでもできるぞ、渚」
オイッ! なんて事を言ってんだよツ! このぬいぐるみがぁ!!(心の叫び)
「ん? 何か言いたそうだな、和也」
さすがエシナです。僕の訴えを第6感で感じ取ったのでしょう。
「そうよね。学校が終わってからでも、修行なんていつでも出来るわねっ。そうと決まったら、早く学校に行くわよ!」
「よかった! 僕の寿命が少しだけ延びた!!」
気合いを入れなおした立花さんは、ポケットから携帯を取り出すと、

――――――ピッ、ポッ、パッ、トゥル~、トゥル~、ガチャッ

「もしもし、シパン? えっと…、さっき繋いだゲートの学校側の出口をちょっとズラしてもらえないかな? うん…、学生に見つからないようなところにね。じゃあ、よろしく!えっ? 和也君? いるわよ…、話したい? 分かったわ。和也君、はいっ」
僕に手渡される立花さんの女の子らしいピンク色の携帯。
「もしもし…?」
僕は恐る恐る携帯に耳をつけました。
「おおぉぉッッ~~~! 生きとったかぁ~、あんさん! いや~、すごいで~、ホンマにすごいでぇ~。まさか生きとるとは夢にも思わなかったで! さすがワイの相方や!!…えっ? まだ“BDM”をしていない!?……………」

――――――ガチャっ…、ツーッ、ツーッ…

「ちょっと待てや! 何で切るんだよっ! せめて“BDM”が何の事かだけでも言えよ! 不安で死にそうぅ~~~!」
ちょっぴり涙で視界が見えづらくなりましたが、僕はちゃんと立花さんに携帯を返しました。
「さぁ、学業学業~」
「渚…、もう自分の力で答えろよ」
「わっ、分かっているわよ! ふんだっ」
そう言うと、立花さんはさっき僕達が出てきた穴に飛び込んでいってしまいました。
「まっテ、まっテ~」
その後を追うヴェス君。
「エシナ…、何のこと?」
僕は立花さんの様子がおかしくなったので、何かあるなぁと思いエシナに尋ねました。
「ん? 秘密だ♪」
そして、エシナも穴に飛び込んでいってしまいました。
「もう! 秘密が多すぎるよっ!」
僕もみんなの後を追いかけようとしましたが、
「あっ、まもるさん」
「なんだい、和也君?」
そういえば、洗濯した白衣を持ってきているのを忘れていました。
「コレを“石川さん”に返しておいてもらえないですか? それと、“勝手にお借りして申し訳ございません”と」
「わかったよ。絶対にコレも言葉も届けるよ」
「ありがとうございます。では」
ペコリとお辞儀をして、僕も学校へと繋がっている穴へ飛び込みました。



――――――「礼を言うのは僕の方だよ…」(まもるさん)


”自分に厳しく、地球に優しく” 第12幕

第12幕  朝練



2009年5月24日は、僕にとっては最低の日でしたよ…。これが本当の「最低」だと僕は思います。昨日も最低だったけど、今日も最低だったよ。最低レベルをランク別にすると、今日は17最低だったね。あっ、ちなみに昨日は15最低だったよ…。

僕の名前は新谷和也。私立萩原中学校の2年生です。5月24日のAM:6時に起床しました。

――――――全身、汗だくで!

まぁ…、理由は簡単ですよ。何故なら、美鈴がわざわざ早起きして僕の腰の上に大量のお灸を置いていったからだぁッ~~!(キレ気味)
全身汗だくで、ものすごく熱いですが、それを除けば腰の筋肉は喜んでいることでしょう。
何故、美鈴が犯人だと分かったのか。理由は簡単です。何故ならドアに、

バカ兄貴の健康法

というお札が張ってあったからだァァッッ~~~!!(マジ切れ)

「美鈴ゥゥッ~! ナニさらしとんじゃいぃぃッッ~~!!」
さすがの僕も堪忍袋の緒が切れましたね。ブチキレマシタネ。
急いで立ち上がろうとしたけど、腰に大量のお灸が置いてあるので無理でした。もし、今立ち上がると、お灸の火がベットとかに引火する可能性があります。
「さすが僕の妹だ。なんてトラップを考えるんだ」
何気に感心してしまいましたよ。って、この状況をどうやって脱出すればいいのでしょうか? 火が消えるまで待たなければいけないのでしょうか?
ふと、携帯に目が行きました。時間を確かめると6時2分でした。そして、メールが来ていることに気がつきました。
「あっ、立花さんからだ」
心臓の鼓動が急に早くなりました。女の子からメールが来たのは僕の人生で初めてだったからです。
「ふぅ…、落ち着け僕。…よし、見るぞ」
気持ちを落ち着けてから、メールを見ました。メールには次のような内容が書かれていました。

和也君へ
明日の6時30分から学校の体育館で修行をするので、遅れずに来てね。
                                       」
この時はまだ寝起きだったので、このメールの意味が良くわかりませんでした。しかし、それから時間が経つにつれて徐々に意味が分かってきました。
「修行ッ!? っていうか、このメールに優しさのカケラも感じねぇ!!」
このメールで立花さんがどんな女の子かがよ~~~く分かりましたねっ。
「6時30分って…、早く行かないと間に合わない!」

とりあえず、どうやって起きればいいんでしょうか? 腰のお灸をどうにかしなければ!
「くっそ~、美鈴め! 覚えてろ!」
僕はゆっくりと体を動かし始めました。そして、お灸を落とさないように気をつけてベットから降りて、ホフク前進で移動しながらドアを開けました。
「うぅっ、熱いよぉ…」
必死に熱に耐えながら、階段を猫みたいに慎重に降りて、靴も履かずに外に出ました。
玄関先の道路まで出るともう安心です。

「うおぉッ~~りゃぁぁぁッ~~~!!」
一気に立ち上がり、腰にあったお灸を道路にぶちまけました!
「僕だって、やれば出来るんだよぉぉ~~~!!」
空に向かって叫んだあと、急いで家の中に戻りました。リビングに向かうと美鈴がテレビを見ながらご飯を食べていました。
「美鈴ゥゥゥ~~~!!!」
「あっ、バカ兄貴おはよう。って、朝からうるさいっ!」

――――――プッチ~ン…!

第46次新谷家大戦の勃発です!
「これほどお前を憎んだことは、今まで一度もないぜ!!」
「お褒めに預かり光栄であります、バカ兄貴ィィィッ~~~!」

今日は武器を使わずに、素手での戦闘が続きました。しかし、素手では分が悪く、遂に僕は美鈴のアッパーを食らってしました。
「グフゥッ!」
「トドメよ~~~!」
その時、僕の頭の中で何かがはじけました。(パァァァ~ンと)
迫ってくる美鈴の正拳。僕はとっさにあるツボを押してしまいました。
「きゃあぁぁッ~~~! う…腕が痺れて動かないわ! 何をしたのよ!?」
美鈴は腕を抱えて一歩後退しました。
「何、たいしたことではないさ、ちょっと軽く“褒章”を突いただけださ」
美鈴は今の僕には敵わないことを本能的に悟ったのか、
「くっ…、卑怯よバカ兄貴! 最低っ~~~!!!」
という捨て台詞を残して、家を飛び出していきました。
「勝った…!」
しかし、勝利の美酒に酔いしれている暇はありませんでした。
「あぁ! もうこんな時間だ!」
時計の針は6時20分を刺していました。僕は急いでご飯を口に注ぎ込み、歯を磨いて、顔を洗って、昨日洗って干しておいた制服を着て、同じく干しておいた白衣を袋に入れて、それを持って家を飛び出しました。

学校の体育館には、もう立花さんが腕を組んで立っていました!
「遅いわよ和也君! 3分の遅刻よ!!」
激しく疲れている僕に、立花さんは容赦ない言葉を浴びせます。
「そんなことを言っても、僕だって頑張ったんだから…」
学校までの道のりを、自転車に乗ってノンストップで走ってきたので、もうクタクタです。
「言い訳は無用よ。さぁ、さっそく始めるわよ!」
「え? 始めるってまさか」
「何を想像してるのよ! 修行よ! しゅ・ぎょ・う!!!」
立花さんに腕を引っ張られて、無理やり体育館に入らされました。

広い体育館の中の中央に、何か記憶に新しいぬいぐるみが一体立っていました。
「よく怖気づかずにここまで来たな和也!」
ここまで堂々としているむいぐるみは他に例がないでしょう。
「エシナ…、今日も偉そうだね」
ピクっとエシナの頬に“怒りマーク”が浮かびました。
「そうかそうか、和也はそんなに厳しい特訓を受けたいのか。うんうん…」
「いや、そんなこと一言も言ってないから!」

視線を体育館の隅に向けると、そこにはラジコンカーが壁を横走りで走っていました。
「お~い、ヴェス君~!」
それがすぐにヴェス君だとわかったので、僕の心の友であるヴェス君をこっちに呼びました。
「わーイ! かずヤッ~~~!!」
ものすごい爆音を轟かせながら僕の方に突っ込んでくるヴェス君!
「ちょっ…、ちょっと待っ、グエフゥッッ~~~!!!」
よりにもよって、ヴェス君は僕の命よりも大事なプレイスに突っ込んできました。僕はその場にうずくまり、この世のものとは思えない痛みにしばらく悶え苦しみました。
「かずヤ~、どうしたノ~?」
人の気も知らないで! でも、ヴェス君には悪気は無いんだということは僕には、よ~く分かるので、許しちゃいます!
「次からは普通に挨拶してね、ヴェス君」
「は~イ」

こんな感じで昨日のパーティーがまた編成されました。ピスタさん(黄色いヘルメット)を除いて。
「さぁ、早速特訓を始めるわよ!」
どこから取り出したのか、立花さんは竹刀を振り回していました。
「つかぬ事をお伺いしますが、その振り回している竹刀で、立花さんは僕に一体どんなことをするおつもりですか?」
立花さんの口元がニヤリと微妙に動きました!
「私が今からこの竹刀で和也君を襲うから」
「ストップ! ストップ! その続きストップ!!」
危ない危ない、もうちょっとで大惨事が起こっていました。
「じゃあ、私が和也君をボコるから」
「さっきとあんまり変わってないし!」
「じゃあ、どうしろっつんだよっ!」
「逆ギレ!? そうやって君は、自分の都合のいい方向に話を持っていこうとするんだねッ!」
「口答えしないでぇ!」

――――――ピッ!

僕の鼻の数ミリ先を、立花さんが横に振った竹刀が通過しました。
「かすった! 今、空気の刃が僕の鼻をかすったよ!」
「特訓って楽しいぃ…」
「目がすわっているよ立花さん! エシナ何とかしてぇッ~!」
しかし、そんな僕の悲痛な叫びも、
「はははっ、追いついてみろ~」
「ま~テ~」
と、追いかけっこをしているエシナには届きませんでした。

「くそっ! こうなったら…、こうなったら…!」
僕は一歩下がってUターン。
「逃げる!!」
そして、体育館の出口のドアまで一目散にダッシュ! 後ろからは「あははっ」と立花さんの声が近づいてきます。僕は急いでドアに手をかけました。すると、

――――――ガラッ!

っと、ひとりでにドアが開きました。
ドアを向こう側から開けたヤツ。それは、
「おっ、なんだ新谷か。こんな朝っぱらからどうしたんだ?」
長谷川でした。
「どどどっ、どうして長谷川がいるの?」
動揺しまくった僕の声を、少し疑問に感じた長谷川でしたが、
「ん? あぁ、俺はバスケの朝練だよ」
長谷川が持っているものを見てみました。なるほど、長谷川はバスケットボールを大事そうに抱えています。

「それよりもお前は何で、…ん? 新谷の後ろにいる女の子は…」
その時、僕の心臓を流れる真っ赤な血液が一気に激流と化し、足に集中してなだれ込んだので、僕は一瞬クラッと目眩がしました。
「あらっ、おはようございます。えっと…、長谷川さんですよね?」
僕はロボットみたいに首を“キリキリ”と後ろに回転させ、後ろで微笑んでいる堕天使さんを見ました。
「こんなに朝早くから練習なんて大変ですね(にこっ)」
立花さんの微笑みアタックに免疫のない長谷川は、あっという間にデレ~と鼻の下を伸ばし、
「いや~、そんなことないさぁ~、はっはっはっ」
と、自慢げに立花さんの術中にはまってしまいました~。
「バスケットの試合頑張ってくださいね」
僕の横を通過して、長谷川の元を訪れた立花さんは、長谷川の手を握り、嘘丸出しのエールを長谷川に送っていました。
「いや~、俺頑張っちゃうよ~。はっはっはっ」

あれ? 立花さんがさっきまで握っていた竹刀は?
その時、僕の頭に何かがパラパラと落ちてきました。何かなっと、ふと上を見上げてみると、
「えぇ!?」
体育館の天井に竹刀が突き刺さっていました!
「どうしたんだ新谷?」
「なななっ、なんでもないよ!」
「くすっ、変な新谷さんですね」
お前のほうが変だよ! っと言いたいですけど、そんなことを言ったら僕は原子レベルまで分解されてしまいそうです!!

「では、私達はそろそろ失礼しますね」
ペコリと長谷川にお辞儀をすると、立花さんは僕の腕をグチッと強く握って、体育館の外へ僕を連れ出しました。体育館の中からは、
「うおぉぉッ~! 練習ッ練習ッッ~~!!」
と、バカの声が響き渡っていました。
「どうするんだ、渚?」
いつの間にか外へ抜け出していたエシナとヴェス君が、立花さんの肩に飛び乗りました。
「う~ん、この場所はあの“ゴミクズ(長谷川)”に取られちゃったから、“ソム”で特訓しよっか?」
「それがいいな」
「そうだネ、そうだネ!」

早速、立花さんの頭の中で長谷川はゴミクズの地位を獲得したようです。しかし、今からソムに行くとなると時間がかかりすぎるような気がします。
「え? 今からソムに行くの? ちょっと時間が足りなくなるんじゃないかな」
僕は特訓を断る口実を見つけました。
「だからさ、今日の特訓はこのぐらいで終了ってことで…」
その時、立花さんは自分のポケットに手を突っ込み、携帯を取り出しました。

――――――ピッ、ポッ、パッ、トゥル~、トゥル~、ガチャッ

どこかに電話しているみたいです。
「もしもし、シパン?」
シパン…。その言葉を聴いたとき、僕の心は、憎悪。嫉妬、殺意、復讐と言った負のエネルギーに満たされました!
「うッ、ぎゃッ、ぎゃッ~~~!」(僕)
「和也が変な言葉を発し、且つ、変な黒いオーラを放っているぞ!」
「ん? とりあえず殴っといてエシナ。 それでねシパン…」
「正気に戻れ! オラァッ!!」
「ハブゥッ~~!!」
するとどうでしょうか。僕の体から黒い禍々しいオーラが抜け出し、それは空に向かって昇天していきました。
「危なかった! もうちょっとで僕は僕じゃなくなっていたところだった!! おのれシパンめ!!!」
人の憎悪とは、これほどまで恐ろしいものかということを、我が身を持って体感しました。
「そういうわけだから、さっきの座標にゲートを作ってね。もし、万が一にでもミスったら、ケーブルを思いっきり踏みつけるからね。うん…、そんなに怖がらなくても良いじゃない。じゃあね」

――――――ピッ!

「よかった、これで特訓が出来るわね!」
本日、最高の笑顔の立花さんがそこに居ました。
「エシナ…、僕が今日という一日を無事に過ごすことが出来る確率は?」
「0%だ」
涙が出てきました。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第11幕

第11幕  明日があるさ



秘密基地“ソム”に向かっている空飛ぶ車(ヴェス君)の車内で、僕はボケ~っと窓から見える景色を眺めていました。すでに陽は落ちていて、空は星と月の光に包まれていました。
「は…腹減ったぁ…」
お腹の虫が鳴っています。
「そういえば私も何も食べてないわ」
立花さんのお腹の虫も鳴っています。
「あれだけ運動すれば、お腹が減るのが普通だよ」
「えへへ」と照れながら立花さんは自分のお腹を摩りました。

「ねぇ、立花さん」
「なに?」
車の運転をしていた立花さんの手が少し緩みました。
「立花さんとエシナ達はいつもこういうことをしているの?」
僕の顔は真剣でした。それを察してか、立花さんも少し真面目に答えてくれます。
「私たちの仕事は環境を汚す人たちの排除、そしてリサイクル。簡単に言うと地球のゴミ掃除ね。誰かが地球を汚しているようなら、例え地球の裏側にだって私たちは飛んでいくわ!」
立花さんの目は、向こうの遠くの空を眺めていました。
「俺たちはずっと前からいろんなところを拠点にして、地球の掃除をしてきたんだ。ニューヨークやドイツ、北京にもいたことがあるんだぞ」
エシナも、どこか遠い目をしています。立花さん達は今までいろんなところで旅をして、そして…、戦ってきたんだなぁと、ちょっと、じんわりとこみ上げてくるものを感じました。

「じゃあ、日本にはいつまでいるの?」
ぴくりと立花さんの手が動きました。
「本当は長いこと日本には滞在しないはずだったんだけど、ちょっと他に大事な仕事ができたわ」
立花さんの顔が急に険しくなっていきました。
「え? 大事な仕事って…?」
「おい和也、今日はお疲れだったな! どれ、俺が防弾チョッキを脱がしてやるよ!」
エシナが僕の着ている防弾チョッキを無理やり剥ぎ取ろうとします!
「いいよ、いいよ! 自分で脱ぐから! って痛い! やめてぇ~! 痛いからぁ!」
結局、無理やり脱がされてしまいました。
「結局、和也は足を引っ張るだけだったな」
痛いところを突かれました。ものすごく痛いところを突かれました!
「何ッ!? 僕に一体何を求めているの? 僕も君たちみたいに人を殺さないといけなかったのッ!? それとも、立花さんの盾になるために銃弾の雨の中に飛び込んで行かないといけなかったのッ!? ねぇ、そうなのッ!?」
「当たり前よ」「当たり前だ」
二人は、やっぱりいじめっ子ですっ!
「次は頑張ってね、和也君♪」
ぐわぁ! 立花さんのものすごい裏がありそうな笑顔が僕を襲います!
「もう勘弁してください……」
普通に土下座する僕。

「大丈夫よ和也君。大体こんな感じでクラスメート2,3を作って、使い捨てにする予定だから。でも、和也君にはもうちょっと頑張ってもらわないと困っちゃうかな~」
使い捨て!? じゃあもしかしたら、僕の大好きな沢田さんをも巻き込んでしまうという可能性があるってことですか? そんなことは絶対にダメだぁぁぁッッッ~~~!!!

「僕が…」
僕は…、何を言い出すのでしょうか!? 止めろっ! 止めるんだッ!

――――――「僕が強くなれば…、他の人たちを巻き込まないと約束してくれますか?」

予想もしなかった返答をされた時にびっくりするような…、そんな顔を立花さん達はしました。
「ちょっと、冗談…」
「冗談じゃないよ!」
突然、会話を中断されて驚く立花さん。
「僕が頑張れば、僕が死ななければ…、他の人たちには迷惑はかからないよね? だからお願いします! 大事な仕事だと思うから! 僕が強くなって立花さんたちを助けるから…、だから! 他のクラスメートをこんなことに巻き込まないと約束してくれますかッ!?」
涙が出そうになります。ただ一人の女性を守るために、沢田さんを守るためだけに、僕は命を掛けて今、土下座してます。

「ホントに冗談なんだけど・・・」
立花さんの独り言は小さくて聞き取れませんでした。
「渚、和也の決意は固いぞ…」
エシナの目には微かに光るものが見えました。立花さんは大きくため息をついて、何か悩んだように目を閉じました。そして、
「わかったわ和也君。約束は守るわ。だから…、強くなってね」
「立花しゃんん~~~っっ!」
僕は泣いた。自分がどんなに平和な世界に守られていたか、自分がどれだけ無知だったか。そして、自分が何も守れないという現実。今日、それらを立花さんに教えられたような気がします。

「よし! 俺がビシ! バシ! っと鍛えてやるからな! 覚悟しとけよ和也!!」
後ろの席にいたエシナが、僕の座っている椅子の後ろをドカドカと殴ってきました。
「まったく…、浮かれちゃってエシナは…」
立花さんはやれやれといった感じで僕たちを見ていました。
「そろそロ~、着くヨ~」
ヴェス君の声。
窓の外を見てみました。下には見覚えのある町の光が所々にありました。
「あぁ、僕の町だぁ…、帰ってきたよぉ」
自分の町が在るということが、こんなに素晴らしいことだったとは! やっぱり人は一度ぐらい旅をしてみないと、自分の町の素晴らしさが分からないのでしょう!

「このまま和也の家に向かうわよ」
「え? 僕の家がどこにあるか分かるの?」
「当たり前よ。あの学校に入学する前に自分のクラスメートの顔と名前と住所ぐらい暗記しとかないとね」
立花さんの言うとおり、ヴェス君は僕の家に向かって飛んで行っています。
「へぇ、すごいな立花さんは」
「俺もそのくらい知っているぞ!」
エシナも負けじと食いついてきます。…僕の首を後ろから締めながら。
「はいはい…、エシナもすごいよぉ」
エシナは満足したようで、後ろの席にどっかりと座り直しました。
「お世辞はそのくらいにして…、和也君はその白衣を早く脱いで返してね。それ、私達の研究所の誰かのでしょう?」

そういえば…、この白衣は誰かから借りているんでした…、無断で。
「でも、これを脱いじゃうと、僕はシャツとトランクスしか身に纏ってない人になっちゃうんですけど」
「ここにある袋に包まれたものは、学校の制服じゃないのか?」
あっ、忘れていました。後部座席に、僕の制服があったことをすっかり忘れていました。
「でもこれ、血の臭いが染み付いていて着られないよ」
立花さんのお父さんである守さんのコレクションである鎧に入ったせいで、制服にものすごい血の臭いが染み付いてしまっているので、血の臭いが嫌いな僕には、もう着れません!

「今日、あれだけ血の臭いを嗅いだのだから、もう大丈夫だ! ほらよっ!!」
「グフッ!」
エシナが後ろから僕の顔に制服を押し付けてきました。
「血の臭いがぁ! あああぁぁぁッッ~、…あれっ?」
不思議です。ちっとも気持ち悪くなりません。むしろ、
「違うぅッッ~~~!! 僕はそんな人種ではないぃッッッ~~~!!!」
ダッシュボートを頭で、ガン! ガン!っと叩きつけました。血の臭いが良い匂いだなんて、そんなことあるわけがないです!

「分かったわ…、その白衣は今度ソムに来たときに返してね」
立花さんの優しさを少しだけ感じた気がしました。
「ううぅぅ~、ありがとうぅぅ~!」

――――――ドスンッ!

「うわっ」
「着いたわ」
家の前の路地に着地したようです。無事に生還しました!
「今日はお疲れ様」
僕の横のドアがひとりでに開きまいた。
「ほら和也、制服だ」
エシナから僕の制服が入った袋を受け取りました。
「ありがとうエシナ…、じゃあまた明日学校でね、立花さん」
ゆっくりと外に出ました。
「和也君」
「んっ、何? 立花さん」
立花さんは、何かをポケットから取り出しました。
「これ…、私の携帯の番号とメールアドレスよ」
僕の手に握られる小さな白い紙。
「じゃね」
そして、空中に浮かんでいく車。
「和也~、またネ~」
「和也! しっかりと鍛えてやるからなぁ~・・・」
暗闇の空に消えて行った立花さん達。
僕はしばらくの間、立花さん達が消えた先の夜空をポケ~ッと眺めていました…。
って、
「女の子の携帯の番号とメールアドレスを初めてもらってしまったぁぁッッ~~~!!」
気が付いたら叫んでいまいた。
そうなのです。僕は今までに一度も同年代の女の子から携帯の番号をもらったことがなかったのです。携帯のアドレス帳には家族と長谷川(一応友達)のアドレスしか入っていなかったのです。
しかしぃ! 遂に! この時がやってきましたぁ~~~!

「ふっ、ふっ、ふっ…、僕の部屋でゆっくりと登録してあげるからねぇ…」
不気味な言葉を発しながら、自分の家のドアに手をかける僕。しかし、
「でも、このまま白衣を着たまま家に帰ったら、とっても怪しまれるよね?」
という訳で、僕は周りに誰もいないことを確認して、血の臭いがする制服を嫌々着ました。
「うぅ…、ガマンガマン…」
そして、ドアを開けました。

――――――ガチャッ

「おかえりバカ兄貴ィッッ~~~!!!」
僕の耳を掠めたパンチ、そして襲い掛かる美鈴の連撃。
「今日の恨みぃぃッ~!」
美鈴が繰り出さす怒涛の連続攻撃。しかし、僕はそれらをことごとくかわしました。
「何で当たらないの!?」
自分の攻撃には絶対の自信があった美鈴は戸惑いを隠せず、少し後ずさりしました。
「邪魔しないでくれるかなぁ? 美鈴…」
立花さんの携帯の番号が書かれている白い紙を握り締めている今の僕は…、無敵だぁッ!
「くぅっ…、今日は分が悪そうね。でも諦めないわよ!」
そうして悪役は去っていきました。

「全く、美鈴は困った子だなぁ…」
お腹が減っていたのでリビングに向かいます。
「ただいまぁ」
リビングには、お父さんとお母さんが椅子に座ってテレビを見ていました。
「あぁ、お帰り」
「お帰りなさい。…あら? 血の臭いがするわね」
一瞬で顔の筋肉が硬直したのが分かりました。僕は自分の服の臭いを嗅ぐ振りをして、
「あぁ、これは友達の鼻血が付いただけだよ」
「そう…、ちょんと洗濯箱に入れておくのよ」
「はぁ~い」
何とかやり過ごしました。でも、ご飯を食べている時のお母さんの様子が変でした。僕の事をじっと見つめたまま、ユラリユラリと微妙に体を揺らしていました。

「和也」
「なに、お父さん?」
お父さんが僕の耳に顔を近づけて囁きました。
「早く食べて自分の部屋に行きなさい」
僕は黙って頷き、急いでご飯を口に含んでその場をあとにしました。
「モグモグモグ…、僕の家族って変な人ばっかだなぁ」
それともコレが普通なのかと思いながら、僕は自分の部屋に入りました。
「早く脱がないと!」
血の臭いがプンプン!する制服を急いで脱ぎ捨て、お気に入りの青色のパジャマを着ました。
「この制服を普通に洗濯機に入れることができても、さすがにこの白衣は怪しさMAXでダメだろうなぁ…、しょうがない、今から自分で洗濯するかっ」
僕は家族の誰にも見つからないように洗濯機まで移動し、血で汚れきった制服と土や血が付いた白衣を洗濯機の中に放り込みました。
「洗剤、洗剤…、うおぉりゃぁ~!」
普通に洗濯する時に入れる洗剤の量の約5倍の量の洗剤をぶち込みました。これくらい入れないと臭いが落ちないと思ったからです。
「これでよしっと」
洗濯開始のボタンを押し、僕が後ろを向いた時です。

「…お母さん…」
そこには、じっと僕を見つめる我が母がいました。
「洗濯したの?」
それは僕に向けられた言葉でしたが、僕はしばらく反応できませんでした。
「うん、明日までに乾かさないといけないから、早く洗濯したんだよ」
「そう…、私が洗濯したかったわ…」
そして、お母さんはリビングへと歩いていきました。

――――――ヒュンッ

「危ない、危ない…」
「えッ?」
いつの間にか、お父さんが僕の横にいました!
「見張っていたんだが…、和也がすぐに洗濯してくれて助かったぞ」
そして、お父さんは僕の肩をポンっと叩くと、お母さんがいるであろうリビングに歩いて行きました。
「僕の家族って…」
しばらくその場から動けませんでした。

「はっ、そうだ! 早く立花さんのメールアドレスをっ!」
大事な使命を思い出し、自分の部屋に誰にも見つからないようにこっそりと戻りました。
「さて、いよいよだな…(ゴクリッ)」
僕はポケットから白い紙を取り出し、ゆっくりとゆっくりと広げました
「おぉ、すばらしい…」
紙には綺麗な筆記で立花さんの携帯の番号とメールアドレスが書かれていました。僕は震える手でその文字を自分の携帯に登録しました
「これで完了っと」

さて…、ここからが重要デスよ皆さん!!
一番初めのメールで相手の性格、クセ、愛が分かるといっても過言ではないでしょうッ!
よって、ここで一つ問題が発生しました。それは、僕は一度も女の子にメールを送ったことがないということです!(ドーン)
「うが~ッ! どんなメールを送ればいいんだぁ~? 普通に僕の番号とアドレスを送るだけじゃダメだぁ!!」
こんな時、リラックスしてメールの内容を考えられる場所といえば、
「お風呂で考えようっ!」
僕はそう思い、お風呂に行きました。幸い誰も入っていなくて助かりました。
「はふぅぅぅ~~~」
極楽です。疲れきっていた僕の体と心が温かいお風呂で癒されていきます。今日はあり得ない事が起こることの連続で、もうクッタクタでしたからねぇ。

「う~ん」
さて、どんなメールを送ればいいでしょうか? さすがの僕も悩みます。
湯船に頭まで浸かり、30分ぐらい悩み、悶え苦しみました。
「よし、やっぱりシンプルに行こう。シンプル イズ ザ ベスト って言うもんね」
僕はフラフラになりながらもお風呂から出て、火照る体をタオルで拭き、新しいパンツを履いて、いざ出陣。
でもその前に…。
「あっ、洗濯物、洗濯物…」
洗濯機はもう動いていなかったので、中から制服と大きな白衣を取り出しました。僕は念のため、臭いが残っていないか嗅いでみましたが、
「…臭くない…よぉぉぉ…っしゃあぁぁ!」
よかったです! これで明日は制服を着て普通に学校に行けます! 白衣も明日ちゃんと立花さんに返すことが出来ます!

自分の部屋に戻ると、制服と白衣をハンガーに掛け、
「よし…」
携帯を手に取り、ベッドに飛び込みました。そして、仰向けになりながら、先ほど登録した立花さんのメルアドをメールの宛て先にし、そして本文には自分の携帯の番号とアドレスを書き込み、その文の後に今日の不満を爆発させた文章を書きたい衝動をグッと堪えながら、

今日はとっても疲れましたぁ! おやすみぃ!!

とだけ打ち込み、立花さんにメールを送りました。
「ふぅ、疲れたぁ…」
そして、今日の壮大な出来事を振り返ることもせずに、僕はそのまま深い眠りへと落ちていきました。



                             5月23日終了


”自分に厳しく、地球に優しく” 第10幕

第10幕  リサイクル



「う~ん、ここは…」
「やっと気が付いたか」
目覚めのファーストシーンがエシナの度アップな顔でした。
「ツブハァ!」
思わず噴出してしまいました。
「汚いぞボケがぁ! オラ!!」
「ハブゥッ~」
容赦なく殴るエシナ。でもおかげで目がパッチリ覚めました!

「立花さんは?」
キョロキョロと周りを見渡しました。
「うわぁ、瓦礫の山だ…」
さっきまで確かにそこに在った建物は、完全に瓦礫の山と化していました。
「廃棄場所を記した肝心のパソコンも、これじゃあな…」
がっくりとうな垂れるエシナ。

――――――シュイ~ン…

「カズヤ~」
「あ、ヴェス君ッ!大丈夫?」
ヴェス君の体はボロボロでした。こんなになってまで僕を助けてくれるなんて…、グスッ!
「だいじょうブ~、もう“フォト”を補充したからすぐに治るヨ~」
ヴェス君の体の傷跡から、虹色の光が微かににじみ出ているのがわかります。
「そっか、お疲れ様ヴェス君。えっと…、立花さんはどこかな?」
「こっチ~」
僕はヴェス君の後について行きました。ヴェス君が向かう先には丘があり、そこに立花さんはいました。

「夕日けが綺麗ね、ピスタ」
「そうでありますなぁ、渚殿」
赤い夕焼けをバックに僕の方に振り返る立花さん。その時僕は、まるで天使が僕に微笑んでいるような…、そんな不思議な感覚に包み込まれました。
「あっ、和也君…、やっと起きた」
トッタッ! トッタッ! と丘を駆け下りてくる立花さん。そして、そのままの勢いで僕にラリアット!
「ゴヒュゥッ!」
一瞬、首の骨が粉砕されたかと思ったほどのすごい衝撃。僕は宙に舞い、そのままの勢いで走り続ける立花さんに引きづられながら、瓦礫の方へと戻って行きます!
「さ~て、後始末よ~、和也君~~~!!」
「ゴフッ!…ねぇ、やっぱり怒っているよね? さっきのこと…」

急停止する立花さん。そして、慣性の法則に従っている僕は、そのままのエネルギーを保ったまま、瓦礫の山に大激突!
「エシナァ~! 後始末よ~~!!」
満身創痍の僕を無視して、立花さんはエシナを呼んでいます。
「おう! まずは腹ごしらえだ!」
そして、今日の昼に見た風景と同じようなことが、また僕の目の前で起こりました。
落ち葉や壊れたコンクリート…、それら壊れた物が瞬く間に消えていきます!

「エシナ、そういえば今日は珍しくエシリウス(エシナ砲)を使わなかったわね」
「それはだな…」
エシナは食事を中断して、立花さんの肩に飛び乗りました。
「今回は情報収集の任務も含んでいただろ? 大事な情報源を消し飛ばすのはさすがにまずいなと思ったからな。それに和也もいたから、むやみやたらに乱射すると和也が死ぬ可能性があった」
「へぇ、それが私に勝負で負けた言い訳?」
また口げんかが始まりそうです…。
「ほう。どうやら自分の力を過信しすぎているようだな渚はぁ! “ソム”に戻ったら一対一で勝負してやるぞ!」
「フフフ、望むところよ」
この二人って、仲が悪いのか良いのか全く分からないです。
「ヴェスはあそこに残っているおやつ(トラック)を食べてきなさい」
「わかっタ~」
ヴェス君に優しく命令する立花さん。ヴェス君には誰もが優しくなってしまう魔力があるようです。

「よし! 補充完了だぞ!」
フォトの補充を終えたエシナの体が虹色に輝き始めました。
「え? 今から何をするの?」
エシナはまた何かをするようです。一体何をッ!?
「“リサイクル”であります。和也殿!」
「リサイクル?」
ピスタさんのカッ開いた目が、僕を凝視しています。キモイです。
「そう…、人肉のリサイクルよ。和也君!」
ものすごい笑顔で僕に答えを教えてくれた立花さん。目がすごく輝いています!

「へぇ…、人肉ねぇ…、へぇぇぇえええええええッッッ!!!???」
驚いている僕の声が周りに響く中、エシナの体がさらに光りだしました。
「ゴミの存在を宿りし物たちよ! 蘇れ! 再生するバリティー“インピース”!!!」
エシナの口から虹色の光が放出され、その光の先で粒子が集って何かが形作られていきます。そして、何かの形が出来あがった時。それは地面に「ドスン」と落ちました。
「きゃ~、できたわ~」
立花さんが嬉しそうに、それに駆け寄って行きます。でも、コレって…。
「洗濯機?」
そうなんです。コレは、僕の家に置いてあるような普通の白い洗濯機ですよ。で、これでどうしろと?
「私が入力するね~、えっと…“じ・ん・に・く”っと」

――――――ピッ!

立花さんがおぞましい言葉を嬉しそうに入力した後、赤いボタンをこれまた嬉しそうに押しました。直後、その洗濯機はガタガタと動き出し、上のフタが開きました。そして、その穴に風がなだれ込み始めると、どんどんすさまじい風が僕達の周りに集まってきました。
「うわっ、すごい風だなぁ!…ん?」
僕たちのところに向かって、瓦礫の中から何かがいっぱい飛んできます。僕は目を細めてそれらをじっと見つめました。僕の目に映った赤い物たち。それは、人の頭とか腕とか足とか心臓とか胃とか腸とか肺とか腎臓とか肝臓とか十二指腸とか!…人体のパーツがすごい勢いでどんどん洗濯機に吸い込まれていきます!

「うぎゃぁぁ~~~!!!」
僕は夕焼けの空に向かって走り出しました。走っている時だけは、何もかも忘れ去ることが出来ました。
「エシナ!」
「任せろ! 惑わすバリティー“シシルチエ(木の葉牢獄)”!」
エシナの口から放出された木の葉が、僕の周りを囲みこみ、そして回りだしました!
「うわぁ~! 何も見えない~~~!!」
どこに向かって走っているのか分かりませんでしたが、とにかくがむしゃらに走りました。しばらく走っていましたが、僕は走り疲れて、とうとうその場に座り込んでしまいました。僕の周りで回っていた木の葉が消えると、目の前にはあの洗濯機がありました!

「今から、おも…、じゃなかった、感動的な場面が見られるわよ」
洗濯機は全ての肉片を集めたのか、フタが閉まっていました。代わりにガタンゴトンと激しく動いています。しばらくすると、プシュ~と煙が中から上がって、洗濯機の前の扉が開きました…。

――――――「生きてるって素晴らしい~」(?)

扉の中から男臭い声が聞こえ、そして超マッチョな男の人がパンツ一丁で扉の中から、のっそりと出てきました!!

――――――「自然って美しい~」(?)

またまた出てきました! しかも目がキラキラしてるよぉ!!

――――――「世界は僕が守る~」(?)

こんな感じでワラワラと超マッチョな男の人たちが、パンツ一丁で5人も僕たちの目の前で誕生しました。
「お前たちぃ!」
エシナが軍隊の上官みたいに手を後ろに組み、誕生したての人たちの前に立ち、激を飛ばしています。
「お前たちの目的は何だぁ!!」
「守る! 守る! 守る!」(5人一緒に)
「地球の未来はお前たちに懸かっているぞ!!」
「I LOVE MY EARTH! I LOVE MY EARTH!」(5人一緒に)
「さぁ、行け! そして己の成すべき事を果たして来い!!」
「進め! 進め! 進め!」(5人一緒に)
ザッ、ザッ!っと、行進を始めた5人組は、そのままどこかに消えてしまいました。立花さんとエシナは、超マッチョな人たちの姿が見えなくなるまで、ずっと敬礼していました。
「えっと、あの…、いろいろと突っこむところが多すぎて困っているんだけど…」
敬礼を終えたエシナが、僕の方に飛び乗って来ました。

「あいつらのことか?」
彼らの過ぎ去った跡をエシナは眺めています。そして、立ち上がりこう言いました。
「あいつらは…、生まれ変わったんだ!!!」
拳を握り締め、ガッツポーズを取るエシナ。
「日々、悪行を重ねる毎日! しかし、そんな呪縛から解き放たれた者達! それがあいつらだ!!」
「よく分かんないから」
何でちゃんと説明してくれないのでしょうか。
「簡単に説明するとね…」
珍しく丁寧な言葉で立花さんが僕に説明してくれるようです。
「私たちは今日、環境のソース(存在力)を宿した武器で戦っていました…」

――――――物語口調っ!?

「その武器で対象を消去すると、その対象に“ゴミ”のソースが植えつけられます」
ふみふむ。
「そして、“ゴミ”のソースを宿す物をリサイクルして、新しいものを生み出すバリティーが…」
「俺の“インピース”だ!!!」
最後の締めはエシナがとりました。少し顔が引きつる立花さん。
「だから私たちは、普通の銃とか爆弾は使えないの。敵に“ゴミ”のソースを植え付けないとリサイクルできないからよ。わかった?」
今日の一部始終をこの目で見てきましたけど、そんな深い意味があの戦闘には込められていたのだと、初めて知りました。僕はただ、立花さん達は殴り殺すのが好きなだけだと思っていました!
「うん! すごく分かったよ! ちょっとマジで感動みたいな感じがするようでもないよ…!」
少しだけ、僕の目に変な汗が流れました。

「そして、リサイクルされて新しく誕生した彼らは、地球上のゴミを片っ端から片付けていくのよ!」
「だからお前も敬礼しろッ!」
エシナに右腕を強引に上げられて、右手をおでこに引っ付けさせられました。人間二人とぬいぐるみ一匹が敬礼する夕焼けの空の下。こんな光景は誰も目にすることは、今後決して無いでしょう。

「さてと、帰るわよ~」
う~ん、と背伸びする立花さん。
「ピスタ、今日はお疲れ様」
立花さんはヘルメットを脱いで、ヘルメットに浮き出ただるまさんの顔(ピスタの顔)を摩りました。
「いえ! お役に立てて光栄でありました!」
ピスタさんの赤い顔がさらに真っ赤になりました。
「ピスタ、顔が赤いわよ?」
顔を傾げる立花さん。
「これはその…、夕焼けのせいであります! 間違いございません!」
「そう…?」
可愛いく微笑む立花さん。僕が思うに…、これはピスタさんを洗脳するための悩殺儀式だと考えられます。こうやって立花さんはピスタさんを自分の思うがままに操っているのでしょう。僕も気をつけなければいけません!

「ヴェス~、帰るわよ~」
おやつ(トラック)を食べ終えたヴェス君が、モーター音を響かせながら走ってきます。
「お腹いっぱイ~」
ヴェス君はエシナの肩に飛び乗りました。恐らく定位置なのでしょう。

「ちょっと任務失敗って感じだが、まぁ次、頑張るぞ!」
「お~!」(僕以外)
「よぉ~し! キメ台詞言うぞ~!」
「お~!」(僕以外)
「えっ、またキメ台詞~?」(僕)
「せ~のぉ!」


「ミッションコンプリート~~~!!!」(僕以外)
「えっとぉ…、今日のは全て夢オチってことにしてくれぇぇぇッッッ~~~!」(僕)




――――――ミッションコンプリート?            


”自分に厳しく、地球に優しく” 第9幕

第9幕  ミッション(陰謀、破壊、殺戮、消滅)



ズゴゴゴゴォォォォォッッッドゴォッガゴォッドガガガアアアァァアアドゴォッ~ン!!

まるで隕石が落下したかのような衝撃。
周りにいたやつらは急に騒ぎだした。
「何事だ!? 何が起きた!?」
薄汚いブタの喚く声。
「わかりません! 部下を使って調べさせます!!」
天井からホコリが落ちてくる…、汚い部屋だ。

「ちゃんとさっきの奴等は始末したのか?」(???)
原因はそれしか考えられないからな。
「えっ…、はい! 確かにミサイルで撃墜したはずです!!」
「…撃墜したはず? 何だそのいい加減な答えは? お前は俺をなめているのか?」
「いえ、滅相もございません! レーダーから反応が消えたのでもう死んだと…」
「お前はここの責任者だろ? 殺すぞ?」
「ヒィッ! 申し訳ございません!!」
地面にひれ伏す薄汚いブタ。
別に俺が手を下さなくても…、アイツが殺すか。
「後のことは任せるぞ。ここでの俺の仕事は終わった」
「えっ、そんな…!」
次は、どこで仕事するかな。後で考えるか…。
「“ファポ”! 時間を止めろ」
左手首がムズムズする。
「報酬は?」(???)
「パーペチュアルデイトジャスト 116234AR」
「よろし」
「ちょっと待ってください! 私たちを見捨てないでくだ…」

そして、突然やってくる静寂。
周りのやつらの助けを求める表情。

全て俺が好きなもの。

この建物に衝突していく様子は、僕にはスローモーションに見えました。人は死ぬ瞬間には走馬灯が見えるらしいですけど、僕は走馬灯を今日一回見ちゃったのでこの時は見ることができませんでした。そのかわり、極限まで高められた集中力で周りの風景がスローで見えました。砕かれていく建物の壁の小さな小さな粉。光り輝く甲殻に触れ、消えていくコンクリート。そして、突然の出来事に驚く人たちの表情。それらは全てスローでした。

ズゴゴゴゴォォォォォッッッドゴォッガゴォッドガガガアアアァァアアドゴォッ~ン!!

そんなものすごい音を出しながらも、無事に止まることができました。
急いで周囲を見渡しますが、周りは砂煙に包まれていてよく見えません。
「立花さん、これからどうするの?」
僕が立花さんの方を振り向いた瞬間でした。

「ふっふっふっ…、行っくわよぉ~エシナァ!!!」
「ああ! ひゃっひゃっひゃ!!!」
「防御はまかせてください渚殿!!!」
「ころセ! ころセ!!!」

そして、みんなは僕の視界から「ヒュンッ」と消えました。
「あれ? みんなどこに行ったの~?」
その刹那、
「ぐぎゃあああぁぁぁッッッ!」
「がはあああぁぁぁッッッ!」
「ぎゃあああぁぁぁッッッ!」
という悲鳴があちらこちらから聞こえてきました。

「エシナ!! 殺りやすいように、“グーグニグ(お掃除ホウキ)”を出して!!!」
「わかった!…ウオオオォォォリャアッッ! 受け取れ渚!!」
「ありがと! みんな死んじゃえぇっ~~~!!!」

――――――ダダダダダダンッ! パンッ! パンッ! パンッ! ヒュン! ヒュン! 

「そんな攻撃は効かないであります!」
「死ネ! 死ネ!」
…僕は一体何の音を聞いているのでしょうか? 
聞こえてくるのは人の悲鳴と銃声と立花さんたちの歓喜の雄たけびなのでしょうか?
僕には良くわかりません。僕はただ、頭を抱えて床で丸まっているだけです。

「何で僕がこんなひどい目に遭うんだよッ~! 夢なら早く覚めてくれ~!」
目をつぶってずっと祈りました。「早く終わってくれ」と。
すると突然、「スゥッ~」と音がしました。目を開けてみると、なんとそこには心の中の神様がいました!
僕は神様に問います。
「神様! なぜ僕にこんな試練を課すのですか? 僕の運命はあなたによって決められているのですか!?」
そして、神様はこう仰いました。
「I don’t like you、fuck you!」(中指を立てながら)
そして消えました。
…このときの僕は、この世の全てを憎みましたね。
「ファッキュッ~! ファッキュッ~~!! ファッキュッ~~~!!!」
僕の雄たけびは砂煙の中に消えていきました。そして、何だか虚しくなりました。しかし、そんな感傷に浸っている場合ではありませんでした。何故なら突然、目の前に銃を持った男の人が姿を現したからです!

「うっ、うわぁっ!」
男の人の血走った目が僕を睨みつけます。
「はぁ…! はぁ…! お前…、“堕天使”の仲間か!? ならば死んでもらう!!!」
僕の顔に向けられる銃口。僕は目を閉じました。
…終わった。僕の人生は終わった。僕の人生短かったなぁ。でも泣かないぞぉ!

僕の人生のろうそくの炎が消え去ろうとした時、僕は変な音を聞きました。

――――――パキュッ!

何の音でしょうか? 目を開けてみました。
「…えっ?」
目の前で吹き上がる赤い噴水は、僕が今まで見た噴水の中で一番きれいでした。しかし、その赤い噴水が出ている場所には問題がありました。なんとそこは、さっき僕に銃口を突きつけていた男の人の首だったからです!
「あれ? この人の頭はどこ?」
僕は当然の疑問にぶち当たって、周りをキョロキョロと見渡しました。しかし、見えたのは血の海だけでした。
「ちょっと! 和也君!? 戦闘中によそ見をしちゃダメじゃない! 死にたいの?」
男の人の体が「どさり」と僕の前に倒れ落ちました。その後ろには立花さんの姿が。
「次は助けないわよ、ほらっ! 私について来て」
立花さんは真っ赤な血を滴り落としているホウキを左手に持っていて、余った右手で僕の手を掴みました。
「ねえ立花さん、この人の頭はどこに行ったの?」
周りからは悲鳴や銃声が消えていました。
「うーん…、私が掃除して片付けておいたわ。それよりも早く立って!」
立花さんに右手を掴まれて、強引に立ち上がらされました。

「このフロアの敵は全員“掃除”したから、次に行くわよエシナ!」
ピチャ、ピチャと変な足音が近づいて来るなと思ったら、エシナが砂煙の中から姿を現しました。
「俺は6人殺したぞ」
エシナの手は血まみれでした。エシナの背中にはヴェスが引っ付いています。
「あら、私は8人よ、勝ったわ」
あれ? 僕の手を掴む立花さんの手がちょっと震えています。ふと、僕は立花さんの顔を見てみました。…そこには口元が不気味に笑っている立花さんの顔が…。ヒイィィッッ~!
「次は負けないからな!」
ビシッと指を立花さんに向けるエシナ。
「今日の私は調子がいいのよ。今日、エシナは私には勝てないわ」
自信満々の立花さん、エシナの顔の表情が変わりました。
「ほう、言うようになったな渚。だが、この俺を甘く見るなよ?」
二人の間に飛びかう火花。もう僕にはこの二人を止めることはできないようです。っていうか、この任務の目的を僕は知らないんですけど…。だから聞いてみることにします。
「ねぇ、あのさ…」
「早く上の階に行くぞ!」
エシナはそう言って立花さんの肩に飛び乗りました。
「えぇ、楽しみね」
僕の手を引っ張ってスタスタと歩いて行く立花さん。僕の言っていることなんて最早、耳に入っていないようです。

「たくさんのチ! たくさんのチ!」
ヴェスも興奮状態です。
「ヴェス、またいっぱい血の海を見せてあげるからね」
囁く立花さん。
「楽しミ! 楽しミ!」
モーターをおもいっきり回転させるヴェス君。どうやらこいつらは人の血を見るのが大好きな軍団みたいです。僕とは正反対です。
「和也は人の血を見ても大丈夫みたいだな」
「え!?」
突然のエシナの言葉に、頭の中が綺麗に洗い流されていくのが分かりました。そういえば…、僕は血が大嫌いで臭いだけでも吐きそうになるのに、何で今は平気なんでしょうか? 感覚が麻痺しているのでしょうか。

「よかった、和也君も私たちと同類で」
堕天使さんの輝かしい笑みが僕を襲います。…立花さん達と僕が同類?
「やめてくれ~! 僕は君たちとは違うんだぁぁぁ~~~!」
立花さんの手を強引に振り解いて、僕は一目散に逃げ出しました。

「うわあああぁぁぁ~~んッッ!!」
ありえない現実に困惑してしまいます。僕と立花さんたちが同類なわけがないです!
ただ、ありえないことが多すぎて感覚が麻痺しているだけなんです! 
普段の僕は、そりゃあ~もうびっくりするぐらいピュアな心を持った少年ですよ!
「待ちなさい和也君!…危ないわよ?」
「えっ…、うわっ!?」
足元に何かが当たって僕は転んでしまいました。
「いたたた…、一体何が」
振り返ってみたると、そこには微かに動いている人が。そして、僕に向けられる銃口。
「くそ…、死ね」

――――――バァンッッ!

響き渡る銃声。硬直する僕の体。飛び散る男の人の指。一瞬で移動して男の人の頭を吹き飛ばした立花さん。…あっという間の出来事でした。
「もう! 一人でここから脱出するなんて無茶よ、和也君!」
何が起こったのか全く理解できない僕を、引きずりながら歩き出す立花さん。
「なかなかやるな渚。“グーグニグ”の千本を投げる動作に無駄が無くなっていたぞ」
「うふふっ、ありがと。銃を貫くことなんて簡単よ。でもいいの? 私はこれで9人目よ?」
「いや、8人目だな。さっきのやつは渚が仕留め損ねたやつだろ? まだまだ甘いな」
「えっ? 違うわよ、エシナが仕留め損ねたんでしょ?」
「違う! 渚が仕留め損ねたんだ!!」
「いいえ! エシナが仕留め損ねたのよ!!」
二人が言い争いをしているうちに上の階に続いていそうな階段に着きました。

「まぁいいわ、この上のフロアで決着を着けるわよ!」
「望むところだ!」
二人は意気揚々と階段を登って行きます。でも僕には、もう階段を登る力さえ残っていません。僕はその場で力尽きて座り込んでしまいました。
「ねえ立花さん、僕はここまでみたいだ…。後のことは頼むよ…」
後ろを振り向き、僕を見下ろす立花さん。
「いいえ、和也君には私の盾になってもらう重要な仕事があるんだから、そんなところで休んでもらったら困るわよ」
僕のところまで戻ってきて、立花さんは僕の目をじっと見つめました。
「でも僕、もう限界みたいだよ」
立花さんのキラキラした目に耐えれなくなった僕は目を反らしてしまいました。
「もうすぐでピスタのフォトも切れそうなのよ。だからお願い…」
「え!?」
ウルウルの目で僕を見つめる立花さん。…なんだか胸が苦しくなってきました! だって、
こっ…こんな立花さんは本日初めてです! 何ですか、この僕の心をえぐるような目は!? なんだか僕が悪いみたいです! 
生気が失われかけていた僕の心に勇気が湧いてきました!!

「わかったよ立花さん! 君は僕が守る!!」
見る見る力がみなぎり、僕は力強く立ち上がりました。
「わぁ、和也君カッコイイ!」
ッ!? カッコイイ? そんなことを女の子に言われたのは…、生まれて初めてだ~ッ!
「うおおおおりゃああぁぁッッ~~!!! 突撃ぃぃッッ~~!!!」
ものすごい勢いで階段を駆け上がっていきました。…立花さんのためにぃ!
「なぁ、渚」
一生懸命に階段を駆け上がっていたときに下のほうでエシナの声が聞こえました。
「もし…、あいつが拒否していたらどうするつもりだったんだ?」
「え? それはもちろん…、殺していたわ」
「そうか。命拾いしたってことかあいつは」
よく聞こえませんでしたが、今はそんなことよりも立花さんを守るという使命のほうが大事なので気にしないことにしました。
「ちょっと待って和也君」
「ん? 何?」
「これ…」
立花さんが僕のところまで上がってきて、僕に何か尖ったものを渡しました。
「これは何?」
長さが20cmぐらいで両方の先端が尖っている太い針みたいなものです。
「これは“グーグニグ”の先端に付いてる千本のうちの一本よ。これがあれば、和也君も敵を殺せるから…」
「はいぃ~!? 一体僕に何をさせるつもりだよ!? いらないよそんな物騒なもの!」
いきなり何を言い出すんですかこの人は。

「じゃあ、和也君はどうやって敵を殺すの? 銃は使ったらダメだよ」
「僕は誰も殺さないの! だからこんなものも要らないし、銃もいらないの! これは返すよ!!」
僕は立花さんの前にこの千本を差し出しましたが、立花さんは黙ってしまいました。
「早く受け取ってよ!」
ようやく立花さんは、僕が差し出した千本を受け取ろうとゆっくり手を動かしました。しかし、その両手の行き先は千本ではなくて、立花さんの顔でした。

「ひっく、ひっく…! わ…私はただっ、和也君の事が…、心配だから! だから! 和也君のためを思って…、ただそれだけなのに、うっうぅっ…」
その時、僕の心臓は無数の千本に串刺しにされるような強い痛みを覚えました。
あぁっ、僕はなんてひどい男なのでしょうか。こんなに人を思いやる心を持った女の子の気持ちを裏切るなんて…、僕にはできません!
「やっと気づいたよ立花さん! 僕は君を守るために戦うよ!!」
「和也君…、私嬉しい」

立花さんの微妙に赤くなった目が僕を見つめます。もしや…、このシチュエーションは!? そんなまさか!? アレなんですかッ!?
「た…立花さ」
「じゃあ、私たちが先頭に行くから、和也君は私たちのあとに続いてね」
立花さんは僕の横をすぅっと通り過ぎていきました。何事も無かったかのように。
僕も何事も無かったかのように動こうとしましたが、体が変な悲しみに襲われて、なかなか動き出せませんでした。

「ほら早く!…あぁ、目が痒いわ」
立花さんに呼ばれて、やっと動くことができました。しかし、階段を上がる足取りは、さっきと比べて格段に落ちてしまいました。それに、この千本を僕はどうすればいいのでしょうか? どうしようもない時は使わないといけないと思うけど、こんなものでどうやって人を殺せるのかな?
「上の階に着いたわ。さぁ、ここから攻めるわよ」
立花さんたちは早くもドアの前で構えていました。
「しっかり後について来いよ和也。…まぁ無理だと思うけどな」
エシナは立花さんの肩から降りて、その場で軽くジャンプしています。
「さぁ戦闘であります! 楽しみですな!!」
「殺セ! 殺セ!」
みんなものすごいやる気です! また殺戮ショーが始まってしまいそうです。

「ピスタ、あとどのくらいフォトが残っているの?」
立花さんは自分が被っているピスタさん(ヘルメット)に話しかけました。
「恐らくこのフロアで無くなってしまうと思われます、渚殿!」
「そう…、じゃあここの所長を殺す時は、ピスタの“ガービスク”は期待できないわね…」
「申し訳ございません渚殿! しかし、ここに私のソースである“金属”があればフォトの補充ができます!」
なるほど、ピスタさんのソースは“金属”なのか。ここにある金属といえば…
「あまり期待しないほうがいいわね。見た感じなさそうだから」
確かに、周りには金属って感じのものは見当たりません。
「ううぅ…、ではせめてこのドアノブを…」
ピスタさんが立花さんの頭からぴょんと飛び降りて、ドアノブにかぶりつきました。

――――――ボリボリボリボリ…

「ふむ…、まったく足しになりません!」
足しにならないのかい!
「このアホピスタ! ドアノブなんて食うな! どうやってドア開けるんだ!?」
「はっ!? 申し訳ありませんエシナ殿!!」
ピスタさんの顔(ダルマさん)からものすごい汗が放出しています。
「しょうがないわね…、ピスタ! さっさと汗を引っ込めて私の頭に戻りなさい!!」
「はっ!」
ピスタさんは急いで汗を舌で拭いて、立花さんの頭に飛んで装着しました。
「ドアを蹴り破って入るわよ! エシナ…、さっきの勝負忘れてないわね?」
「ふっ、当たり前だろ! 行くぞ!!」
さぁ、また血の殺戮ショーが始まりそうです!

「せ~っの! はいぃ!」
立花さんがくるっと廻ってドアを蹴りで吹き飛ばしました。この技は回転廻し蹴りという空手の蹴り技の一つです。さて、吹き飛んだドアは壁にぶつかって大破しました。しかし、こんなに目立って大丈夫なのでしょうか? ってあれ?
「…誰もいないわね」
「…逃げたか?」
僕も恐る恐る前に進みました。銃を構えた人がいっぱいいるのかなっと予想していたのに、周りを見渡してみても誰もいません。周りにはパソコンや机が置いてあるだけでこれといって目立つ物はありません。
「あっ! あの穴は…」
向こうのほうに大きな穴が見えます。きっと、僕たちが衝突した時にできた大きな穴ですね。天井にも大きな穴ができていました。僕は床にできた大きな穴を覗いてみます。
「げぇふ!」
速攻で吐きました。下のフロアは血の海だったことをうっかりな僕は忘れていました。しかし、僕が吐いたという事は、それ即ち僕が正常の状態を取り戻したということなのでしょうか?
「どうしたの和也君! 大丈夫?」
僕の事を心配した立花さんが駆け寄ってきてくれました。
「大丈夫だよ、さぁ行こうか」
僕にとっては、ちょっとかっこいいセリフを言い放ち、そして起き上がろうとしたその時でした。

「ん?」
ふと、上の穴を見てみると何かがいました。穴の壁から変な物体が体を出していました。見た感じモグラみたいな姿をしています。でも、僕が知っているモグラのイメージよりもそいつはちょっとだけ大きい感じがします。それに、そのモグラはじっと赤色の目で僕の事を見ています。
「どうしたの和也君?」
エシナたちも僕のところまで駆け寄って来ました。
「アレは何かな?」
僕は立花さんの方を向いて、指を上の穴の方に向けました。
「…何もいないよ?」
「え!?」
僕が再び上の穴を見たときはもう何もいませんでした。
「あれ? でも確かに何かがいたんだよ!」
みんながヒソヒソとざわめき始めました。
「ついに和也が妄想を見始めたか…」
「和也君…」
「もうそウ! もうそウ!」
「残念であります和也殿」
みんなが哀れみの目で僕を凝視しています。
「何でそんな目で僕を見るんだよ!? 本当にあそこに何かがいたんだよっ!」
「うん、分かっているわ。大丈夫よ和也君、心配しないで」
「何だよ! その精神異常者に接するような態度は!? 僕の事が信じられないの!?」
「うん」
「なんで即答なんだよ!!」
「だって、和也君…、今日は色々と大変な目に遭っているでしょう? だから変な幻覚が見えてもおかしくないわ。これからだんだん慣れていけばいいのよっ!」
「誰のせいで大変な目に遭ってると思っているんだよ!」
その僕の言葉を聞いた立花さんは、少しだけ悲しい顔をした様な感じがしました。
「そんなヤツのことは放っておいて、早く先に進むぞ」
「そうね」
みんなは僕を置いて先に進んでいきました。
「え!? ついに無視ですか! 無視なんですか!? 何とか言ってよぉぉッッ~~!」

――――――ガツッ

「痛っ!」
何かが僕の頭に当たりました。コロコロと床に転がるそれは…、僕の記憶が間違っていなければ、
「手榴弾ッッ~~!? 死ぬぅぅぅ!!」
僕の叫びで立花さんたちがこっちに気が付きました。
「ピスタァ!」
「任せるであります! 拘束するバリティ! “ルクロック(漆黒の球体)”!!!」
ピスタから黒い光線が発射され、それが手榴弾に当たりました。すると、手榴弾は黒い球体に包まれました。その直後、

――――――ボフゥゥンッッ!

「うわぁっ!…え?」
手榴弾が爆発しましたが、僕は全くの無傷でした。どうやら助かったみたいです。
「和也殿~、大丈夫でありますか~~~?」
ピスタさんが向こうで叫んでいます。
「うん、大丈夫だよ~! ありがと、ピスタさん~~!」
また上の穴から手榴弾が落ちてきそうな感じがしたので、急いで立花さんたちのところまで走りました。
「ホンットにドジというか運が悪いな和也は」
エシナのこのムカツク声を聞いても、何故か今は清々しい気分です。だって、今はピスタさんへの感謝の気持ちで僕の心はいっぱいだからです。

「しかし、これで自分のフォトは空っぽになってしまったであります! 和也殿のせいで!」
ピスタさんの目が僕を睨みつけています。そして立花さんも、
「か~ず~や~く~ん~?」
ご立腹です。怒っています。この人たちは僕の命よりもフォトの方が大事だっていうことが良くわかりました。
「だが、上の階に敵がいるっていう事がわかったな。早く行くぞ」
「ええ、和也君も早く早く」
「え、うん」
その時です。

――――――ガチャッ

「ん?」
ドアが勝手に開きました。 

――――――パァンッ!

直後、銃声が響き渡りました。幸い誰にも当たりませんでしたが、僕は突然の出来事に
「うわああぁぁぁッッ~~! ヘルプ・ミィィッッッ~~~!!」
と、パニクってしまいました。しかし立花さんたちは僕とは逆に、
「エシナ! 勝負開始よ!!」
「あぁ、負けないぞ!!」

すぐにグロテスクな音が聞こえてきたので僕は耳を塞ぎました。しかし、それでも微かに音が聞こえてしまうので、僕はブツブツとお経を唱えることにしました。
「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏ぅ! 悪即斬!!」
「何やってるんだ?」
いつの間にかエシナが目の前にいました。
「いや、僕の事は気にしないでくれ。それより…、もう終わったの?」
「あぁ、だから早く上に行くぞ」
エシナが僕のズボンを強引に引っ張って、無理やり移動させました。僕は惨劇の光景を見ないように目をつぶって歩くことにしました。
「2人しか殺せなかったわ」
「ふっ、これで同点だな」
「調査結果道理だと、構成員はこれで全員片付けたわね」
「あぁ、残りはここの所長だけだな」
「逃げていなければいいけど」
「逃がさないさ」
「僕を逃がしてほしいよ」
「ダメよ」「ダメだ」
はぁ…、僕は一生こんな感じで生きていかなければならないのでしょうか?

「着いたわ」
階段を登った先には、木製の立派なドアがありました。
「エシナ、まずは情報を聞き出すことが先決だからね。殺したらダメよ」
「あぁ、分かっている。行くぞ!」
立花さんは右側のドアを蹴り飛ばし、エシナは左側のドアを突き飛ばしました。…何で普通にドアを開けないのでしょうか?

吹っ飛んだドアは、誰かが座っている机に激突しました。
「ヒイイィィィッッッ!!」
オヤジ狩りに遭ったおじさんの叫び声みたいな声が聞こえてきました。その声の主は、椅子から立ち上がり、信じられないものを見ているような表情で僕たちを見ています。
「バカな! あれほどいた私の部下が全滅だと!?」
そのおじさんはヨロヨロと後ずさりし、大きな窓ガラスに体をぶつけました。
「頼む! 殺さないでくれ! お金ならいくらでもやる! 頼む!」
僕は初めて“命乞い”というものを見ました。自分の命のためなら何でも投げ出す…、そういう心の叫びが、このおじさんからは聞こえてきそうです。

「お金なんて要らないわ、それよりも教えてほしいことがあるのよ」
冷静に、そして冷徹な立花さんの表情がそこにありました。
「私たちが知りたい情報は二つ。まず一つ目は、あなたたちが不正に捨てた“使用済み核燃料”の廃棄場所よ。…どこに捨てたの?」
ギラリと鋭い眼光がおじさんを貫きます。
「廃棄場所を示した情報ならこの下の階のパソコンの中に入っている!」
「パスワードは何だ?」
今度はエシナが問い詰めています。
「ちょっと待ってくれ! 今紙に書くから…」
おじさんは机の上にあった紙に何かを書き、覚束無い足取りでこっちに歩いてきました。
「待ちなさい! 銃は持ってないでしょうね?」
ホウキを構える立花さん。
「ああ! 持ってないよ! 信じてくれ!!」
そのまま歩いてきたおじさんは、紙を立花さんに手渡しで渡しました。
「…本当にパスワードはこれで合っているんでしょうね?」
「あぁ本当だ! 私だって死にたくないからな!!」
おじさんの顔は汗でびっしょりでした。

「じゃあ、最後の質問よ。…あなたたちに私たちの情報を流したのは誰?」
「えっ!?」
おじさんの表情が固まりました。
「私たちの中にスパイがいる可能性があるわ。…あなたに情報を漏らしたのは誰?」
立花さんの表情は、どこかつらく感じました。
「ぐぅ…、それは言えない!…言えないんだ!!」
突然、おじさんの態度が変わりました。
「バラしてしまうと私は…!」
直後、

「警告~♪ 警告~♪」(???)
「ヒイイィィィッ!!」
おじさんの顔が恐怖で凍りつき、おじさんはそのまま床に座り込んでしまいました。
「何ッ!?」           
僕も天井を見ました。
そして…、それを見ました。

「…モグラ?」
さっき僕が見た変な物体が、天井から上半身をニョロっと出して、逆さまでおじさんを赤い目でじっと見つめています。ニヤニヤしながら。
「ほら! さっきのは僕の見間違いじゃなかったじゃないか!」
自分がボケてない事がわかって一安心です。っていうか、今このモグラしゃべったんですけど…。

「待ってくれ! 俺はあの人のことは何もしゃべっちゃいないぞ!」
おじさんは、僕たちの事なんか見向きもしないで、モグラに必死で訴えかけています。
「で~も~♪ あ~な~た~は~♪」
モグラが歌い出しました。
「つ~か~ま~って~♪ い~つ~か~♪ は~な~し~ちゃ~う~♪」
か…かわいい! 僕はこんな動物が超大好きなんです!

でも、立花さんのは険しい表情が変わる様子はありません。むしろ、さらに険しくなっていき、戦闘モードMAXのオーラを解き放っています。僕は、そんな立花さんがとても恐ろしく感じました。
「エシナ…、油断したらダメよ」
「あぁ…、だがコイツは…」
エシナも超マジマジモードです。遊び感覚が一瞬でなくなったようです。
「だ~か~ら~♪」
モグラが目を閉じました。武器を構える立花さん。

「ぶっ殺してあげるよぉッ!! ヒヒィハハァァッッ!!!」
血のように赤い目が大きく開きました。そして、その目が一瞬僕を睨みました!
ものすごい鳥肌と悪寒がしました! 未知なる物に対する恐怖が僕を襲います!!
「た…助けてくれッッッ~~!!」
おじさんが窓に向かって走りました。

――――――トプンッ!

「え?」
「ヒヒィハハァァッ!」
モグラが天井から飛び出し、おじさんに向かって飛んでいきました。
「うわあああぁぁぁッ」

――――――トプンッ!

「ヒィッ!!」
おじさんは転んで壁に激突しました。
「今…、おじさんの体の中にモグラが入ったように見えたんだけど!?」
おじさんが床の上に倒れこみました。
「エシナ…、これってやっぱり」
「あぁ。信じられないが…」
二人は何かを悟ったようで、お互いを確認し合っています。
「嫌だ~! 死にたくないぃッッ~~!!!」
おじさんはさっきからずっと床をゴロゴロと転げまわっています。
「う~る~さ~い~な~♪」

――――――トプンッ!

まるで池から飛び出したかのように、モグラはおじさんの体から飛び出てきて机の上に着地しました。
「あ~と~♪ 2秒~♪」
「嫌だ~!!」
「やばいわ!」

――――――ヒュン!

「え?」

――――――バキュッ!!

立花さんが、まるでゴルフでボールを吹き飛ばすかのごとく、床で転がっていたおじさんの顔をグーグニグ(お掃除ホウキ)で吹き飛ばしました。
「え!? なんで殺したの!?」
「みんな隠れて!!!」
「和也! そっちだ!」
「え!? ゴフゥッ!」
エシナが僕の横腹を急に押したので、軽く吹き出してしまいました。そして、ソファーの後ろにそのままタッチダウン!
「渚!」
そうだ、立花さんは?
「ボン♪」

――――――ボゥンッッ!!! ビチャビチャァァァ!!!

「うわあぁぁぁッ! 何!? 何が起こったの!?」
周り一面に飛び散る赤い血肉。…おじさんの体が爆発したようです。
「渚! 大丈夫かぁ!?」
エシナが大きな声で叫びます。
「えぇ…、大丈夫よ~~」
机の後ろから姿を現した立花さん。無傷でよかったです。
「あのモグラは?」
そういえばさっきのモグラがどこにもいません。
「くそ! 逃げたか!?」
エシナが悔しがっています。

「に~げ~な~い~さ~♪」
まず初めに頭が、次に赤い目が、そして全身が机の中から出てきました。あのモグラです。
「華麗に~登場~♪」
なんと! モグラが立ち上がり、そして、机の上を2足歩行で優雅に踊り始めました!
「ダンスも~上手~♪」
「てぇぇい!」
立花さんがモグラに向かってホウキを振り下ろしました。

――――――ズバンッ!

真っ二つになった机…。しかし、モグラには当たりませんでした。
「な~に~す~る~ん~だ~よ~♪」
クルクルっと体を回転させて、床に着地するのかと思いきや、そのまま床に

――――――トプンッ!

と沈んでしまいました。
「しまった!」
「渚、気をつけろ! とりあえずこっちに来い!」
僕たちは部屋の中央に集まりました。
「どうするエシナ?」
「どうするっていわれてもな…、どうする和也?」
「え、僕? じゃあ、逃げるっていう案は?」
「却下だ」、「却下よ」
「やっぱり即却下かぁ…」
ものすごい緊張感が僕たちを包み込みます。

「あのモグラ…、やっぱり」
「何か知っているの? 立花さん」
立花さんは、やはり何かを知っているようです。
「確信は無いんだけど…」
「僕が~ど~う~か~し~た~?」
ズブズブと入り口付近の床からあのモグラが出てきました!
「出たわね~! さっさとかかって来なさいよ!」
「あいつの正体が気になる…。殺したらダメだぞ渚。」
にらみ合う僕たちとモグラ。

「ちょっと~待って~よ~♪」
緊張感が解かれそうな柔らかい声。
「僕は~君たちを~♪ 傷つける~つもりは~♪ ないんだ~よ~♪」
僕たちを傷つけるつもりは無い? それはよかったよかった。
「僕の~仕事は~♪ あと~1つ~♪」
クルクルと回転し始めたモグラの体。
「仕事? 何をする気だ!?」
回っていたモグラの体が止まりました。
「僕が~ご主人様に~命令されたのは~♪」
渇開くモグラの大きな赤い瞳。
「この施設の爆破だよぉ!!! ヒヒィハハァァッッッ!!!」
「なんですって!?」
「黙って見てな~♪」

モグラはおもいっきり息を吸い込み始めました。そして、どんどんモグラの体が大きくなっていきますぅ!?
「何をする気だ!?」
そして、
「おえぇぇぇ!」

――――――ドゴンッ!

自分の目を疑いました。モグラの口から直径が1メートルはあろうかと思われる手榴弾が出てきたからです!
「これが~僕の~“バリティー”~♪ その名も~♪ “エボアズム(気爆玉)”だぁ!
ヒヒィハハァァッッ!!!」
モグラの手が手榴弾のピンを掴みました。
「待て! お前に人工知能を植え付けたのは一体誰だ!? それにお前の体…、生命体に人工知能を植え付ける事は不可能なはずだぞ!!」
エシナがこんなに動揺しているのを僕は初めて見ました。

「君たちに~教える~つもりは~無い~♪ じゃあね~♪…環境クン♪」

――――――ピンッ!

モグラが手榴弾のピンを抜きました。
「あぁぁ! 抜いちゃったよ! 爆発するぅ~~!!」
僕は最高にあたふたしています。
「あと~5秒~♪ 僕は~地中に~♪」
モグラが床に沈もうとしたその時です。
「和也、それ貸せ!」
「え?」
エシナは僕が握り締めていた千本を強引に奪い取り、すかさずそれをモグラに向かって投げました!

――――――ガツッ!

でも、モグラのほうが速く逃げてしまいました。
「生きていたら~また会おうね~♪ 環境クン♪ ヒヒィハハァァッッ…!」
がーん! どうしようどうしようぅ!! 逃げないと~~!
「渚ぁ! 逃げるぞ!」
「でもどうやって!?」
さすがの二人も戸惑っています。
「僕ガ…」
ピョンとエシナの体から飛び降りるヴェス君、そして、急に光りだしたヴェス君の体…。

「変形するバリティー“チャラック”! モデル:ダンプカー!!」
ヴェス君がそう言った直後、僕たちの目の前に大きなコンテナを積んだダンプカーが出現しました!
「速く乗っテ!」
「でも、ヴェス君…、君は?」
「いいから早ク!」
「和也! 早く乗るんだ!」
僕たちはコンテナの中に急いで乗り込みました。そして、閉じられるコンテナの扉。
「行け~! ヴェス!」
「まかせロ~~~!!!」
急発進する車! 窓ガラスが割れる音! そして…、

――――――ドゴオオオオオォォォッッッ~~~~~ンンン!!

「うわああああぁぁぁッッッ! すごいGィ~~~~!!」
爆風に後ろから押されながら、このダンプカーが空を飛んでいるのがわかります。コンテナの中で僕たちは前のほうにすっ飛んで行き、壁に激突しました。もうメチャクチャ痛いです!
「ちゃくチ~」

――――――ドカァァァ! クルッ!

次の瞬間には逆向きに回転していました。コンテナの中の僕たちは壁にドカドカと激突しまくりです! 痛いです!! そんな僕達を無視ながら、ダンプカーはそのまま吹き飛び、

――――――ドゴゴゴオォォンンン……!

っと、やっと止まりました。でも逆向きに着地してしまったみたいです。
「いたたたたぁ…、もうちょっとうまく着地してよ~ヴェス君、…ん?」

――――――ムニュ

「この感触は一体…」

――――――ムニュ

真っ暗で何もわかりません。

――――――ガシッ!

首を掴まれる僕。
「え?」
開かれるコンテナの扉。光が差し込んできて見えた最初のものは、
「どこ触ってんのよ、あんたは!!!!!」
立花さんの鉄拳でした。…バタッ。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第8幕

第8幕  ミッション(落下)



立花さんが被っている黄色いヘルメットが突然、輝き始めました。そして、光が消えた後、変なヘルメットが姿を現しました。何故なら、ヘルメットの表面にダルマさんみたいな顔が浮かび上がっていたからです!
「やっと起きたわね“ピスタ”!」
立花さんが怒った口調で言いました。
「はっ! ご迷惑をおかけしたようですね! 申し訳ございませんでした!」
そのダルマさんがものすごい形相で謝っています…。

「“ピスタ”、任務の内容はメモリに入っているな?」
「はっ! エシナ殿、準備は怠っておりません!!」
「現在、プランBに計画を変更して実行中だ」
「はっ! 了解致しました! それでは早速…」

…ダルマさんの目と僕の目が合いました。

「誰でありますかッ? 自分はあなたを存じ上げませんが!…まさか!? 敵の偵察隊ですか、あなたはッ!?」
また、ひと悶着ありそうな雰囲気です。
「ピスタ、この人は…」
「はっ! わかっております渚殿! こやつは敵ですね!!」
ほらぁ~、また変なことになりそうですよ? やれやれです。
「ちょっとピスタ。人の話は最後まで…」
「自分が皆さんをお守りせねば! いきますよ! ウウウオオオォォォッッッ~~~~~!!! 守護するバリティー!! “ガービスク(金色の球体)”!!」
ピスタさん(立花さんが被っている黄色いヘルメット)が叫ぶと、ピスタさんから金色の光が放出され、それが立花さんたちの周りを覆いつくし、丸い金色の球体が出来上がりました。
「これでこの敵からも身を守ることができ、かつ、地面に衝突してもへっちゃらです!!死ぬのはこの敵だけです!!!」
…僕だけ死ぬ!? それは困っちゃいますね~。僕が地面に落ちてグチャグチャの肉塊に変わる前に、僕はピスタさんの説得を試みます。
「あの…、ピスタさん? 僕は敵ではないですよ? 立花さんのクラスメートで新谷 和也と言います。今後ともよろしくお願いします」
これで恐らくは大丈夫でしょう。
「そんなことを言っても自分は騙されません!! エシナ殿! エシリウス(エシナ砲)をこの敵に発射してください!!!」
「あぁ、任せろ」

――――――フォン…フォン……

光り輝くエシナの大きな口。
「ちょっと待ってよ! 何でだよ! そんなことをして一体何の意味があるっていうんだよ! エシナァァァッ~~~!!!」
僕の目からは涙が出始めます。その涙は僕の体よりも落下速度が遅いのでどんどん僕の上の方に飛んで行きます。僕は今、我が身を持って空気抵抗を体験しています。勉強になります。
「エシナもピスタも、そろそろ止めなさい」
そこに天使の助け声が! でも僕は、涙でその天使の顔が良く見えません!
「ピスタ。この人は和也君と言ってね、私の身代わりになってくれるクラスメートその1なの。だから敵じゃないのよ。わかった?」
「渚の言うとおりだ。メモリに記憶しとけよ、ピスタ」
光り輝く口を止めて、エシナもやっと正しい真実を話してくれました。…でも立花さんのセリフに何か恐ろしい言葉が含まれていたような気がします。…クラスメートその1ッ?

「はっ! そうでありましたか! 大変申し訳ございませんでした、和也殿!!」
「分かってくれたならいいんだよピスタさん。だから…、さっさと僕もその金色の球体の中に入れろぉぉぉッッッ~~~!!!」(キレ気味)
「はっ! 了解致しました!!」
ピスタさんが再び光り始めました。すると、金色の球体は「シュバッ」と大きくなり、僕の体もその光に飲み込まれました。
「これで大丈夫であります、和也殿!」
「ありがとうピスタさん」
突然のことにびっくりしましたが、この球体の中はとても心地よくてちょうどいい温度です。さっきまで冷えきっていた僕の体と心を暖めてくれます。

「よかったナ、おまエ」
どこかで聞いたことがある口調。この声は…。
「今の声はもしかして、エシナが持っているラジコンカー君ですか?」
「そうだヨ! そうだヨ!」
ラジコンカーの「ウィ~ン」というモーター音が聞こえました。
「僕の身を心配くれてありがとう、ラジコンカー君。君の名前って何だっけ?」
「ヴェスだヨ!」
「ヴェス君、これからよろしくね。僕の事は和也って呼んでくれ」
「かずヤ! かずヤ!」
なんだかヴェス君は嬉しそうです。僕まで嬉しくなってしまいました。

「これで自己紹介は終わったわね」
立花さんの満足げな笑顔。
「かなり時間がかかったけどね…」
僕の何かやるせない笑顔。
「誰のせいでこんなに時間がかかったと思っているんだ? おい」
立花さんの背中に乗っているエシナが僕を見下ろした感じで言いました。そのセリフの答えは…、お前だよ! エシナァッ!!
「和也君のせいって事は確実ね」
「やっぱりな」
この二人は間違いなくSです。絶対ぃ!

「あと15秒で目的地に衝突します!」
その声に反応して僕は地上を見てみます。目の前に広がる景色は山山山。
「山しかないね」
見渡す限り緑色の山ばっかりです!
「そろそろよ和也君。気合入れていくわよ~!! キャハハハハァァッ~~~!!!」
立花さんはノリノリです。
「ピスタ! 出力硬度最大だ!!」
「はっ! 了解致しました!! ウウウオオォォォッッッ~~~ッリャアァァァッッ~~!」
僕たちを包み込んでいる光の甲殻がさらに光り輝きました。
「みんなノリノリだなぁ~」
僕はなんとなく感心してしまいました。

「ころスッ~、ころスッ~!」
ものすごく可愛い声がものすごいことを言っています!
「ちょっとヴェス君? 物騒なことを言わないでよ!」
せっかくの可愛い声が台無しですよ。
「殺すッ~、殺すッ~!」(僕以外)
「え!? なんで? なんでみんなは殺したがるの? 相手はただミサイルを発射しただけじゃないか! 悪気は無かったんだよ!! 許してあげて!」
「殺すッ~、殺すッ~!」(僕以外)
僕の悲痛な叫びもこいつらには届きませんでした。
「みなさ~ん! 逃げて下さ~い! 今から殺人マシーンXがあなたたちを殺しに行きますよ~!!!」
「あと2秒~」
そして僕たちは、山の平坦な場所に建っている、工場らしき所にものすごい速さで墜落して行きました。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第7幕

第7幕  細かで正確な説明を要求します!!!



あぁ…、ここはどこだろう。
下には真っ白い雲が、まるで高級じゅうたんのように広がっています。あっ、ここは雲の上なんだ~。僕、初めて雲の上まで来ました。
「なあ、変なぬいぐるみ。雲の上ってすばらしいね~、ガハッ!」
僕の美しい横顔を変なぬいぐるみが殴りました!
「ッ!? 殴ったね? ぬいぐるみには今まで一度も殴られたことなんて無かったのにぃッ~!!」
「変なぬいぐるみって呼ぶな。俺のことは“エシナ”って呼べ!」
「わかったよ。“絵死名”」
「今…、変な漢字で俺の名前を呼んだだろ?」

絵死名の体があっという間に虹色の光に包まれました!!

「えっ、なんで!? なんで分かったの! はっ、しまった! ばらしちゃった!!」
「ふっ…、食らいなぁッ~!」
するとどうでしょう。変なぬいぐるみの口から、大量の木の葉が僕に向かって吐き出されました。(ダバーッと)
しかも、その木の葉は僕の体にまとわり付いてきます!
「ぎゃ~ッはッはッはッ~! やめて~! 死んじゃうよッ~! 木の葉が僕の…、白衣の中に入り込んで…! くすぐってる~!? ぎゃ~ッはッはッはッ~!」
まるで木の葉が生きているみたいに動いて、僕の汚れ無き体を弄んでいます!
「負けたくない~! 負けたくないよ~! ぎゃ~ッはッはッはッ~! やめてッ~!」
息ができないくらいに笑ってしまい、とてもとても苦しいです。死んじゃいます!

「俺の“バリティー”の1つ“シシルチエ(木の葉牢獄)”だ!…死ぬまで笑いな!!」(キメ台詞)
「ちょっとっ、エシナ! 車の中が汚れちゃうでしょ! 和也君のヨダレで!」
「えええぇぇッッ~! ひどいよ立花さん! ぎゃ~ッはッはッはッ~!」
「おお、そうか。すまんすまん!」
するとまるで、粉雪が儚く散るように「パァァァッ~」と、木の葉は虹色の光を放ちながら消えていきました。
「はぁッ~…、はぁッ~…、死ぬかと思った~。今のは一体なに?」
「さっきも言っただろ。頭の悪いやつだな」
「もうちょっと分かりやすく細かく正確に言ってくれると嬉しいんだよ!」
「エシナ、“フォト”のムダ使いはやめてね。悪いクセよ」
「そうか? それほど使ってないと思うけどな」
「今日の朝だって任務でもないのに“ソウェルス(偵察スズメ)”を3匹も作っていたでしょ?」
「あれは…、今後あの町を範囲として活動していくわけだから、あの町の周辺の環境を調べていただけだ。だから別に“フォト”のムダ使いではないと思うぞ」
「今日みたいに、急な任務に就かなければならなくなった時は困るでしょ? だからさっきまでエシナは急いで“フォト”を溜めていたじゃないの…」
「間に合ったからいいじゃないか」
「もう…、それもそうね」
「あははっ」
「うふふっ」

ここでツッコミが入る! まぁ、見ていてよ。

「僕を無視するなッッ~! 僕の話しを聞いてくれYOー! オー、イェイ~!!」
「うるさいぞ、渚‘s盾!」

…その時! 僕の脳天に深緑色の光を放つ魔方陣が描き出され、その輝く魔方陣からグレテヤレ悪魔が召喚されました。
その悪魔が僕の耳元でブツブツと呪文を唱え始めます。

グレテヤレ…! グレテヤレェッ~!! グレテヤレ…! グレテヤレェェッッ~~!!

すると、みるみるうちに僕はグレテヤルマンに変身してしまいました!

「いいんだ、いいんだ! 僕なんて誰からも必要とされていない人間なんだ! わかったよ! ヘイ! ヨォ~! オレはマジマジいらない人間!? エ? マジで!? チェケラッ!!」
僕の叫びは青空に消えて行きました…。

「なに? どうしたの?」
「壊れたんだな…」

二人がとても深い哀れみの眼差しで僕を見ています!
「なんだよ…、そんな目で僕を見るな! やめろ! やめろ! やめてくれぇぇッ~~!」
僕の体からグレテヤレ悪魔が消滅していくのが分かります。グレテヤレ悪魔の最後です。

グオオォォッッ~…、コッ…コンナ…バカナッ!…ナゼダ!! コンナハズデハ…! グギャアァッ~! グレテヤル~~~!!

そして、白い煙になって消えて逝きました。
「ありがとう二人とも。二人はエクソシストだったんだね。よくぞ僕を救ってくれた!」
RPGの中で助け出された王様みたいなセリフを僕は吐き捨てました。
「意味のわからないことを言ってんじゃね~よ! オラッ!!」
「えっ? ガハッ!」
また変なぬいぐるみに殴られました。僕の口から「キラキラ」と血しぶきが飛びました。目からは悔し涙もにじり出てきました。

「す…すんませんでした…、エシナ」
しょうがないので…、本当にしょうがないので!
僕はちゃんと“エシナ”って名前で呼んであげました。
恐る恐るエシナの顔を見てみます。
「おぉ、ちゃんと言えるじゃないか。最初っからちゃんと言え!」
「人生にユーモアという要素を取り入れなければ、僕は死ぬんだよっ!」
「知るかっ!」
僕とエシナはまたケンカを始めました。

「仲良くなれたわね」
立花さんが微笑みの女神のような眼差しで僕たちを見つめています。
「主人とその下僕って感じだけどね」
「おぉ、よく分かってるな」
「これからは、いろいろとよろしくね、和也君」
「頑張って、渚の立派な盾になるんだぞ!」
「うん! 僕…、頑張るよ!」

あれ? なんか僕…、納得してるぅッ!

「とりあえず今は色々と聞きたいことがあるでしょ?」
立花さんは慣れた感じで車を運転しています。
「そうだね…、今日の出来事はありえない事だらけで、このまま何も知らずに生きていくと、僕の精神構造は崩壊しそうになるから早く教えてください!」
「何から知りたいの?」
向こうの空にジャンボ飛行機が飛んでいるのが見えます。
「まず…、君は一体何者なんですか? 殺し屋Xなの?」
「殺し屋X? 分からないけど殺し屋じゃないわ。私は“環境保護執行人”なの」
また新たな単語が出現してしまいました。

「環境保護執行人? お願いだから分かりやすく説明してくださいぃ!!」
「“環境”を“保護”することを“執行”する“人”よ」
「そう意味じゃなくて、例えば…、どういうことをするのかなぁ~って」
「う~ん…」
立花さんはしばらく考えて、
「地球の環境を破壊、もしくは汚す人たちを抹消することが仕事かな」
「抹消!? ってことはつまり…、殺すってこと?」
「だってしょうがないでしょ?」
「なんだよそれ! 子供の言い訳みたいに言わないでよ」
「だって…、ウザイじゃん?」
「そんな理由で殺したらダメだよ! どんな教育を受けて来たんだよっ?」
「お父さんは“お前は誰もが怯える殺人マシーンになるんだよ”っていつも私に言ってたわ」
「まもるさんは何? 悪の黒幕ですか? そして、立花さんは殺戮堕天使ですか?」
「え? なんで私の通り名を知っているの?」
「うわ~ん! もう帰りたいッ~!!」
でも僕は帰れません。だってここは雲の上だから。

「もう聞きたいことは無いのか?」
エシナは、僕と立花さんの間のスペースに座っています。
「良くぞ聞いてくれたね、エシナ。それはね…、“エシナは何でこんな風に動けるんだ?”ってことだよ!!」
立花さんのことは大体分かったから、次はエシナのことが猛烈に知りたいねっ!
「なんだ…、俺のことが知りたいのか。何でも聞いてみろ! 遠慮すること無いぞ!」
エシナは自分の胸を「ドンッ」と腕で叩いて、構えています。
「じゃあ…、エシナって何なの? ちゃんと分かるように説明してくれよ」
「ふむ、説明すると長くなるがそれでも聞くか?」
「お願いします!」

そして…、エシナはその重い口を開けて語り始めました。
「俺は“環境”担当の人工知能Eが入っているモコモコしたぬいぐるみだ! 渚のパートナーをしている。渚とは、渚が生まれた時からの付き合いだ!」
立花さんは「うん、うん」とうなずきながら聞いています。
「俺の発明者は渚の父親である立花博士だ。普段はどうしようもなくだらしない立花博士は、俺を含めて26種類の“アート”を発明したんだ。“アート”っていうのは“俺みたいな人工知能が入っている何か”の名称だな。あの自動販売機のシパンも、今俺たちが乗っている車のヴェスも“アート”だ。今は寝ているが、渚が被っているこの黄色いヘルメットも“アート”で、名前はピスタだ」

エシナの口から出てきた言葉はとんでもない内容でした。まさか、
「あのまもるさんがエシナ達を作ったの!? 嘘でしょ!? 信じられないぃ!!」
「驚くところはそこじゃないでしょっ」
立花さんに軽くツッコまれましたぁ! 嬉しすぎて失神しそうです!!
「うーん…、信じがたいけど本当なんだね。夢じゃないんだね。はぁ~…」
信じられないけど、真実を受け止めようと思います。僕は偉いです。
「話を続けてもいいかな?」
エシナのこみかみには、なにやら筋の入った血管のようなものが浮かび上がっています!
「お…おねがいしますぅ…」
エシナは僕の顔に向けて構えていた拳を下ろしてくれました。

「続けるぞ…。俺たち“アート”は“フォト”をエネルギー源として動いている。“フォト”っていうのはだな…、この世のあらゆる物体を司っている“ソース(存在力)”を吸収し、それを俺たちの人工知能のフォト変換基盤に送り、使用できる純粋なエネルギーに変換されたものだ」
「ふむふむ」
「しかも、その“ソース”にはいろんな種類があるんだ。ちなみに俺の“ソース”は“ゴミの存在力”だ。さっき学校から“ソム”までの道のりまで“ゴミ”がなかったのを不思議に思わなかったか?」

僕の記憶がよみがえっていきます。
「そういえばゴミが無かった! なんで無かったの!?」
「俺がゴミを吸収して、フォトを補充していたからだ」
「どこから吸収したの!?」
「口から」
「ゴミだったら何でもいいの!?」
「そうだ。ゴミという概念が存在しているものなら、俺は何でもフォトに変換できる」
僕の情報保管庫に、どんどん信じられない情報が入力されていきます!
「エシナたちって本当にすごいんだね」
僕は感激して、パチパチと拍手をしてしまいました。
「やめてくれよ、恥ずかしい!」
エシナが、にやけながら頭を掻いています。そして、何故か立花さんも照れくさそうです。
「へぇ~、本当にすごいんだな~。…もう説明は終わり?」
その僕の問いに
「まだだぞ和也! 聞いてもっと驚け!!」

エシナは僕の前にあるダッシュボードの上に移動して、気合い満々で話し始めました。
「次の説明は“バリティー”についてだ! そうだなぁ…、まぁ、簡単に言うと“それぞれのアートの特殊能力”ってやつだな。さっきみたいに木の葉がお前を襲う“バリティー”もあるし、ヴェスが車や飛行機に変形するのも“バリティー”だ」
特殊能力…、その響きに、僕の心の熱は高騰し、爆発しそうになります!
「じゃあさ! エシナには、木の葉が僕を襲ったさっきのやつ以外にも、その“バリティー”っていうのがあるのッ!?」
「当たり前だろ! まだまだいっぱいあるぞ!!」
エシナは「ふふ~ん」とした顔をしました。
「すごいなぁ…、本当にすごいよ!」
「驚きすぎよ、和也君。そんなに褒めないで」
だからなんで立花さんが照れてるの!?

「さて、これくらいで俺たちの事がわかったか?」
「うん! すごくわかったよ。…つまりエシナたちはアレだよね…、不思議サムスィングって事だね!!」
「そうかそうか、お前は今ここで力いっぱい舌を噛め!」
エシナが飛んできた!!
「わにゃった! わにゃった!!」(わかった! わかった!)
エシナが僕の口の両側を引っ張っています。
「一応納得しとくことにするから怒らないでよ! エシナたちがすごいってことは、ものすごく分かったからさ!」
「よし、それでいいんだ」
エシナは何かご満悦な顔をしています。ムカつきます。
「じゃあ、最後に一つ質問してもいいですか?」
エシナはダッシュボードの上に戻って座りました。
「質問の多いヤツだな。で、何が知りたいんだ?」
エシナがジッと僕を見ています。
「えっとぉ…、今から僕たちは何をやりに行くんですか?」
ズバッと核心を突く質問です。この質問の答えによって、僕の人生が変わるといっても過言ではないでしょう!
「任務の内容を知りたいの?」
立花さんが僕の目をジッと見つめてきます。
「うん、教えてください立花さん。…でもそれは極秘事項で教えられないってやつですか?」
「ううん別に大丈夫よ。和也君も任務に一応参加するんだから知っておかないとね」
「しっかりと任務の内容を頭に叩き込んでおけよ」
エシナが軍隊の上官みたいな口調で言いました。
「努力する所存でありますぅ!」
口調が写ってしまいました。

「じゃあ~、和也君にわかりやすく教えるね。今から行くところは、福井にある山なんだけど、そこでは…」
「けいこクゥ~! けいこクゥ~~~!!」
「なに? どうしたの!?」
立花さんが慌てています。無論、僕は速攻でパニクってしまいましたけどねっ! 
「えっ、何!? どうしたのぉぉぉ~~!? ねぇ、どうしたのぉぉぉ~~!!?」 
僕はもう中学2年生なのに慌てふためいてしまいました!
「ミサイルがせっきんちゅウ~~~!」

――――――ミサイル?

それは、“魅裟威瑠”って感じの暴走族ですか?
それとも“美佐 いる?”って感じの女の子の日常の会話ですか?
「そう、距離は?」
「あと11000~!」
「11000か…」
「あと5秒ね。ヴェス! ステレス戦闘機にモデルチェンジして!」
「わかっタ! わかっタ!」
僕たちが座っている椅子以外が突然光り始めました!
「変形するバリティー“チャラック”! モデル:ステレス!!」
うわっ! すごいですぅ~! 僕たちが乗っている車が虹色の粒に変わりました!! 
って、さむっ! 上空5000メートルの風が僕を襲ってきます! 寒いっていうよりも痛い!!

「モデルテェンジかんりょウゥ~!」
その声が響き渡ると、周りから光が消えました、僕はオドオドしながら回りを見てみました。それは…、まさにスゴイの一言でした。さっきまで見ていた車内の風景がものすごく変わっています!
フロントガラスは横にとても長い台形の形に変わっていて、前方180度が見渡せるようになっていました。手元には、ゲームセンターにある飛行機のシュミレーションゲームに付いてあるようなコントローラーが付いていました。他にも意味が良くわからないスイッチやレバーが腐るほど付いて、レーダーらしき装置もあります。
僕の視界に入ったそのレーダーを何気なく見てみました。僕にも理解できるそのレーダーは、小さな点が僕達の居場所を示している中心の×印にどんどん近づいていっているのを表示させていました。

「ヴェス! 囮のダミーを射出! そして、この空域からすぐに離脱して!!」
「わかっタ! わかっタ!」
ボシュッと何かが出る音がしたかと思ったら、この機体は急に上昇し始めました。太陽がまぶしいです。おまけにすごい“G”です。そして、

ドオオオォッゴオオオオオオォォォッッッッンンンンン~~~~~~~~~~!!!!!

と、本当に本当にものすっげぇッ~爆音が聞こえました。
「渚、ギリギリだったな」
「えぇ、まさかあっちがレーダーとミサイルを持っているなんて思いもしなかったわ」
なんでこの二人はこんなにもすごい重力空間にいるのに平然としゃべっていられるのでしょうか? 僕なんて失神する寸前ですよ?
「誰かが情報を漏らしたのか?」
「その可能性はあるわね」
「任務が終わってから調べてみるか」
「そうね」
しばらくの間、急上昇を続けていましたが、やっとこの機体は水平飛行に移ってくれました。もう僕はもうクタクタですよ。

「はぁ~はぁ~、アレは一体なんなの!? なんでミサイルが飛んで来るんだよ!!」
座椅子に深く腰掛けながら、ため息混じりに言いました。
「私たちにも予想外だったわ。恐らく内部に内通者がいたのね」
「しばらくヴェスはステレスに変形していなければならなくなったな」
「そうね…。ヴェス? ステレスに変形していられる時間は後どのくらい?」
前の窓を見てみました。太陽がものすごく近くにあるような感じがします。

「そうだネ…、あと5分ってとこかナ?」
「それだけあれば十分ね。ヴェス! 急いで目的地の上空まで移動して!!」
「わかっタ! わかっタ!」
そして、またすごい“G”が僕を襲いました。この飛行機?は、ものすごい速さで飛んでいます! 速すぎて景色が良くわかりません!
「プランBに変更か?」
「だってしょうがないでしょ? あっちが私たちに気づいちゃったからね」
「帰りのフォトはあっちで調達するのか?」
「うん。ヴェスの“ソース”も多分あると思うし、大丈夫よ」
「よし、任務開始って感じだな」
「ヴェス、目的地まではあと何秒?」
「あと180秒~」
「わかったわ。あっ、それと和也君は急いでこれを着てね」

立花さんは後ろの席に置いてあった何かを僕に差し出しました。
「これは…、防弾チョッキ?」
「うん」

防弾チョッキ…、身体を銃弾から守る物:国語辞書より引用

「え? なんで僕がこんなものを着けないといけないの!?」
「だって、危ないから」
「それなら立花さんが着ければいいじゃないか!」
「だって…、格好悪いし動きづらいもん」
「なにそのポリシー!? 立花さんおかしいよ!!」
「まぁいいじゃない、和也君が私の盾になってくれるんだし」
「そうだぞ、がんばれ!」
こ…こいつらぁッ~~~! なめとんのも大概にしいやぁッッッ~~~!!
僕の中でこいつらに対する“殺意”が芽生えた瞬間でした。
「わかったよ…、僕がんばるから!」
僕は「ユラ~ッ」と手を差し伸ばして防弾チョッキを受け取りました。そして僕は、自分でも気づかないくらい不気味な笑みを浮かべながら、シャツの上から防弾チョッキを着ました。防弾チョッキはかなり重くて、確かに動きづらいです。
僕の装備…、シャツ、トランクス、白衣上下セット、防弾チョッキの4品です。バランスがいいですねぇ~。

「そろそろ目的地の上空に着くわ」
「準備は完了だな」
「って、ちょっと待ってよ! 結局どこに行くのさ!?」
「着いてから話すわ」
「渚、あと10秒だ。ヴェスも準備いいか?」
「いいヨ! いいヨ!」
「あぁ~もぉ~! どうにでもなれ~~~って感じだよ!!」
なんでこうなってしまうのでしょうか? 早く教えてほしいのにぃ!!
「ヴェス! そろそろいいわよ」
「わかっタ! わかっタ!」
そして…、僕たちが乗っていた飛行機?は突然虹色の光になって消えました…。

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!???」

僕の悲鳴が青空に響き渡ります!
僕の体は地球の重力に引っ張られてどんどん落ちていきます!ってさむっ!
「ありえないッ~ありえないッ~ありえないッ~ありえないッ~ありえないッ~!!!」
僕はそりゃ~パニクりまくりですよ! だってとっても高いところからパラシュートも着けずに落ちているんですよ!? はっきり言ってこれを読んでいるあなたもこの状況に陥ったら僕と同じようにパニクりますよ!! 絶対にぃぃぃっ~~~!!!

「大丈夫よ、和也君」
横を見てみると、立花さんが僕と同じような格好をして落ちていました。その背中にはエシナが乗っていて、エシナは片手でラジコンカーを持っていました。
そして、立花さんは僕の手を掴みました。
「何が大丈夫なんだよ! 死んじゃうよッ~~~!!」
「大丈夫よ。それよりも、今からキメ台詞を言うから一緒に言ってね!」
「キメ台詞は“ミッションスタート!”だ!」
「何を言ってるんだぁッ~君たちはッ~! 正気じゃないよッ~~~!!」
僕まで気が狂いそうになります!
「でもキメ台詞を言わないと死ぬわよ?」
「そうだヨ! そうだヨ!」
「もう訳わかんないよッ~~~!」
「じゃあ、1・2・3!で言うぞ!」
何か勝手に決めてるし!
「行くわよ! 1・2の!」


「ミッションスタートよ!」(立花さん)
「ミッションスタートだ!」(エシナ)
「ミッションスタートネ!」(ラジコンカー)
「ミッションなんてクソくらえぇぇぇッッッ~~~!!!」(僕)


みんなの声が虚空へと消えて行きました。そして、


「ミッション開始であります!!!」(???)



――――――ミッションスタート!!!


”自分に厳しく、地球に優しく” 第6幕

第6幕  秘密基地:ソム「シークレット・オブ・マウンテンSecret Of Mountain(SOM)」



さて、出口はどっちでしょうか?

廊下の片隅でひっそりと撤退体勢をとりながら僕は考えています。いつでも走り出せる体勢ですよっ。
あのヨロイの前を通って行った男の人も、立花さんたちも、同じ方角に向かって行きました。立花さんは“任務”のために福井に行くって言っていたから、やっぱり外に一度は出ないといけないでしょう。ということは、立花さんたちが向かった方向が外につながっている可能性が高いです。
でも、もしかしたらワープ装置(変な自動販売機のケーブル?)があるだけかもしれなくて、またあの変な自動販売機に襲われる可能性があります。
はぁ~…、やっぱりここから無事に脱出するのは難しそうです。

とりあえず、立花さんたちがいない方向に行きます。もしかしたら、ここにはあの男の人と立花さんしかいないかもしれないし、どこかにここの見取り図があるかもしれません。だから、僕は少しでも人がいない方向に行くぞ!
僕はこう結論を出しました
そして、照明が転々と続く廊下を歩き出そうとした時!

――――――「ちょっと、あんさん。まだここにいたん?」

…聞き覚えのある声。

「まだ、誰にも会ってないんでっか? 奇跡やな~。奇跡の芸人やであんさんは~」

どこから聞こえるんでしょうか?

「しょうがないな~、ワイが手っ取り早く案内したるわッ!!」

次の瞬間、僕の足元に突然大きな穴が現れました。(よく見ると大きなケーブル)
僕は、その穴に芸人っぽく落ちてしまいました。
「ううわあぁぁッッ~~~ああああぁぁ~~~~しぃ~~~ぬぅ~~~!!!」
僕の体は、飛行機から落ちたネコのように落ちていきます!
「絶対死ぬ! 絶対死ぬ! 限りなく絶対死ぬぅぅ~~!!」
恐怖で、目が開けられないです。もうダメです。

その時、僕の脳裏に懐かしい顔が浮かんできました。
あぁ、これはお母さんの顔だ…。隣にはお父さんもいる。
このちっこい子は…、美鈴か?
このころはかわいかったのになぁ~。突然かわいくなくなったな~。
あはは…、みんなの顔がもう見れないのかなと思っていたら、走馬灯見ちゃっているよ。
僕の目に浮かんでくるのは…、僕の家族…、そして、沢田さん!
「沢田さぁ~~~ん! また、会いたいよぉぉッッ~!!!」
僕は、涙をいっぱい溜めた目をかっ開いて叫びました。
あっ、遠くに小さい光が見えました。
そして、その光はあっという間に大きくなりました!

――――――シュッポ~ン!!

「うわあぁぁああぁぁッッ~~~!!」
「ええぇぇええぇぇぇッッ~~~!?」

――――――ドカッ!…ドスッ!…

がやがや…、ざわざわ…。
なんだ?…おいどうしたんだ?…さぁ?…誰か二人倒れてるいるぞ?…本当だ…、所長と…、もう一人は誰だっけ?

「いたたた…、ここはどこ?」

………………ッ!?

こ…言葉が出ないとは…、まさしくこういうことを言うのでしょうか?
周りには…、白衣を着た人たちがたくさんいます。ざっと100人。
みんなが自分を見ています。なっなっなっ、なんか恥ずかしいよ…!
白衣を着た100人の人達の視線が、僕を突き刺してきます。それだけで僕は…、あああぁぁぁッッ~~~!!

「ちょっと君!」

その一声で、僕は狂気の世界から戻ってこれました。
「君は…、一体誰だね? ここの白衣を着ているようだが、僕は君みたいな人は知らないよ? それに君はまだ子供でしょ?」
僕が突き飛ばしてしまった人が話しかけてきました。それにこの声…、聞き覚えがあります。あっ、あの血ダルマヨロイの前をさっき通り過ぎた人です!

「聞いてる君? ちゃんと答えてくれないと困るよ?」
「はっ…はいぃ! ぶつかってすいませんでした!!」
「いやいや謝ってくれればいいんだ…。かなり痛かったよ」
「ほんとうにすいませんでした! どこが痛いですか!?」
「君を受け止めたこの胸が痛いんだ…。精神的に!」
「ドキィッ!? ごめんなさいお兄さん! 僕が悪いんです!!」
「お兄さん? ふっ…、“まもる”って呼んでくれないか!?」
「まもるさん! 僕のことは、“カズヤ”って呼んでください!!」
「カズヤ!!」
「まもるさん!!」
僕とまもるさんが抱きしめ合おうとしたその時!

――――――ドォルン…ドォルンッ…ドォルンッ…ドォルンッ!

「ちょっとお父さん? ナニしようとしてるの…?」
「全く…、恥ずかしくないのか?」
「そうだヨ! そうだヨ!」

…上のほうから何かが聞こえます。

僕は上を見上げました。そして見ました!
でも…? これはなに?
どこかで見たような気もするけど…、なんだっけ?
あぁッ! これは車の下の部分だ!!
僕の上に車が降りて来るんだ。
へぇ~、ってうおおぉぉッッりゃぁぁッッ~~~!!?

急いでその場から跳んで逃げました!
でも、まもるさんはケロッとして上を眺めています。
「まもるさぁ~ん! 逃げてぇ~~!! いやあぁぁッッ~~~!!!」注:(僕)

僕の悲鳴が轟く中、突然、車が光りました! 
虹色の光が辺りに散っていきます…!
「あっ、あれは?」(僕)
光が散った後、その場所には、黄色いヘルメットとゴーグルを頭にかぶった立花さんと、その彼女の肩に乗っているぬいぐるみと、床を走り回っているラジコンカーと、ぽつんと立っているまもるさんがいました。

「すまんすまん渚ちゃん! ちょっと邪魔しちゃったみたいだね」
「邪魔っていうか…、気になったから見に来ただけよお父さん。…あれ? あなた…」

立花さんの視線の方向が、まもるさんから僕に代わりました。

「え? あなたは確か…、萩原中学校の生徒名簿ファイルに乗っていたわね。写真で顔を見たから知っているわ。名前は確か…、新谷 和也君だったわよね?」
「うっ…、はい…、そうです。2年4組の新谷 和也です」

僕の事を知っているなんて…、なんか複雑な心境です。

「おおぉ! そうかそうか! 渚ちゃんと同じクラスの子か! 僕の娘はどうだい? か可愛いかい? グッと来るかい?」
「ちょっと! なに言ってるのよお父さん! やめてよ!!」
「だって、渚ちゃんが初めて彼氏を連れてきてくれたんじゃないか! こういう時は、こんな感じに言うのがいいんだよって“シパン”が言ってたぞ?」
「もおぉぉッッ~!! さっきの話を聞いてなかったの!? この人とは初対面よ!!! だから…、そういうのじゃないわよ!!!」

…顔が真っ赤になりながら、必死に弁明する立花さん。。

「そうか、渚ちゃんの彼氏じゃないのか…。じゃあ、君は何でここにいるんだい?」

みんなの視線が僕に向けられました。

「ええぇっと~、僕にもその…、何がなんだかわからないんです」
「わからないで済んだら環境大臣はいらねぇ~んだよ!!!」

突然、ぬいぐるみに怒鳴られました。

「まあ、まあ、エシナちゃん。カズヤ君は混乱しているみたいだから、順を追って話してみようよ」
「“エシナちゃん”って呼ぶな! キモイんだよ、このボケ!! この次、そんな風に言ったら“エシリウス(エシナ砲)”食らわすからな!!!」
「わかったわかった“エ・シ・ナ・ちゃ~ん”!」

…みるみる変なぬいぐるみの体が虹色の光に包まれていきました!

「ダメよエシナ! “フォト”がもったいないでしょ?」
「って渚ちゃん!? 親よりも“フォト”の方が大事なの?」
「うん」
「って即答!? 僕は…、僕は…、家出してやるうぅッ~~~!」

…みるみるまもるさんの姿が見えなくなっていきました!

「すまないな渚。つい、無駄な“フォト”を使うところだった」
「ううん、別にお父さんを消しても“環境”は良くはならないからって判断したからよ。エシナの“フォト”は“環境”を良くするために使わないとね」
「そうだったな。これからは気をつける」

…泣けます。

「かわいそうに、まもるさん…」
僕は、一人の男の生き様に涙が止まらないです!

「それで…、あなたはどうやってここに侵入したの?」

話が突然僕に向けられたので、全身に汗が滝のように流れ出しました。(びちゃ~っと)
立花さんも、変なぬいぐるみも、周りの白衣を着ている人たちも僕に注目しています。
足元には、「ウィ~ン、グィ~ン」とラジコンカーが走っていて、ちょっとウザイです。

「えぇっとですね…」
そして、僕はありのままの真実を語ることにしました。
「僕は萩原公園で変な自動販売機に襲われたんです。その時に変な自動販売機の変なケーブルに吸い込まれたんです! そして気が付いたら…、僕はここにいたんです!」

周りがざわざわと騒がしくなりました。

「そうなの…、あの“シパン”の仕業だったのね」
「全く…、あいつは“セキュリティ”担当だという自覚が足りないんじゃないか?」
「とりあえず…、あのバカシパンを呼んでみるわ!」
立花さんが「ス~ッ」と息をゆっくり吸い込んでいきました。
そして、

「シィィィッッッ~~パァァァッッッ~~ンンンンンンッッッ~~~!!!」

発生した衝撃波の波が壁を伝わり轟き響いていきます!
これぞまさに「絶対に聞こえてるよね!? ボイス2」です!
あの沢田さんよりも大きいです。立花さんすごい!
感心していて油断していた僕は、音の衝撃波で2メートルくらい吹き飛ばされてしまいました。
でも、周りの白衣を着た人たちは「やれやれ」って感じでヒョロっとしていました。
「毎度の事なのかな?」っと、吹っ飛ばされながら僕は思いました…、ガハァッ!
受身を取れずに床に叩きつけられてしまいました! すっごく痛いッ!
しばらくすると壁の振動も収まりました。でもすぐに、

「ど~したんや渚は~ん? なにかあったんでっか~~~?」

どこからともなくあの声が聞こえてきました。段々ムカついてくるあの声です!
僕がムカムカし始めたとき、立花さんの肩に乗っていたぬいぐるみが突然壁に向かって跳んでいきました。そしてそのままの勢いで、壁に向かってグーでパンチしました! 音は「ベシッ」でした。

「あいた~! なにするんや“エシナちゅあ~ん”」

ぬいぐるみの体がものすごい勢いで虹色に光り輝いていきましたぁッッ!!!

「お前…、さっきの話を聞いていたのかぁぁッッ~~~!!!」
「ちょっと! ちょっと! タンマタンマや! ほんの“シパンちゃんジョーク”やないか~。全く…、あれ? エシナはんの体が急速に光っていっとる? 具合でも悪いんでっか? 保健室行こか~?」
ぬいぐるみはさっき殴った壁の部分とは違うところを凝視しました。
「そこだな! 死ぃッ~~ねぇッッ~~~!!」
ぬいぐるみの口が大きく開きました。口からは「フォン…フォン…!」という音が聞こえてきます。
「ダメよエシナ! それではシパンには当たらないわ!!」
「ッ!? なぜだ?」
「シパンには“カカクロス(絶対回避したるで~)”の“バリティー”があるからよ!」
「そうか。じゃあ…、俺はどうすればいいんだ?」
「次のチャンスを待ちましょう。きっと次があるわ」
「わかった」
「かわされたら掃除が大変だしね」
「ああ」
「お父さんが怒るしね」
「あぁ…、というわけだシパン。命拾いしたな!」
ぬいぐるみがさっきまで見ていた壁とは違う壁を見て言いました。
そして、ぬいぐるみの体からは、虹色の光が徐々に消えていきました。

「そんな怖いこと言わんといて~な、ホンマ。まぁええわぁ~。それで…、なんでワイを呼んだんや~?」

こいつッ…!

僕の体が怒りのフィーリング(感情)でプルプルと震えていきます。
「シパン…、あなたは“セキュリティ”担当よね?」
立花さんの体もプルプルと震えていました。
「またまた~、なに言っとるの渚は~ん? そんなの当たり前やないかぁ~」
立花さんの体がブルブルと振動し始めています。
「じゃあ…、何で部外者を“ソム”に入れたの!?」
「部外者じゃないで~。そのボーイはワイの相方に成る男だからや。二人合わせて“芸人王”ってか? なっはっはっはっはっ~~~!」

――――――ブチッ!!!

あれ? なに今の音?
はっ!? 立花さんがぁ、立花さんがぁぁッッ!!

…あれ? 何にも起こらない…。

立花さんの様子を伺ってみました。立花さんはさっきまでガタガタと揺れ動いていたのに、今はピクリとも動かないです。不気味です。
皆が彼女を見つめる中、立花さんはぬいぐるみの元にトボトボと歩いていきました。

ぬいぐるみの耳元で何かをささやいているのが見えます。あっ、ぬいぐるみが頷きました。はっ、立花さんとぬいぐるみの口元が不気味に笑っている!? はっ! 立花さんが僕の方を向いた!

そして…、僕の元に歩み寄ってくるその二人(立花さんとぬいぐるみ)の姿は、僕の目から見るとそれはそれは恐ろしいものだったとさ…。

「ねぇ、新谷君だったっけ?」
修羅の内の一人(立花さん)が僕に鬼眼を向けて尋ねました。
「はいぃぃ…、何でしょうか?」(オドオド)
「一応、シパンのせいだったとしても、あなたがここの秘密を知ってしまった事には変わりはないわよね?」
「え? はっ、はい! そうですね。知ってしまいましたね。…ちょっとだけ」
「ちょっとだけでも、ここの秘密を知ってしまったらダメなのよ。わかる?」
「はいぃっ、そうですね! ちょっとだけでも秘密を知ってしまったらダメですね!!」
「ここの秘密は世界的に見てもトップレベルなの。だからここの秘密を知ってしまったあなたは、抹消されないといけないのよ。わかる?」
「へぇ…、そうなんだぁ………え!?」

い…今なんとおっしゃいましたか?
話の内容が良くわからないです。え…、何? 僕は殺されるって事ですか?
そ…そんなぁ~! 僕はまだ若いのに…、やりたいことはまだまだいっぱいあるのに…、そんなの嫌だぁぁッッ~~~よぉぉッッ~~~~~~!!!

すると突然、僕の左肩の上に天使(身長5cmでしかも裸で、背中に翼が生えていて、頭の上に金色のわっかがある僕)、右肩の上にママ(銀座のママみたいな格好と化粧をした、ちっちゃな僕)、そして僕の顔の真正面に心の中の神様(白くて長いヒゲを生やした僕)がそれぞれ、「ポムッ」「ボンッ」「スゥ~ッ」と現れました!
そして、
「あ~あ~…、早く沢田さんに告白しないからこんなことになるんだよ~。この腰抜け野郎が!! じゃな~」(天使)
「もう…! ウチの店で働かないからこんなことになるのよ~、せっかくいい素材を見つけたと思ったのに…、残念だわ。さよなら~」(ママ)
「…プッ」(神様)
それだけほざいて消えやがった!!
ああぁぁ…、なんかもう…なんかもう…うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ~~!!

「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ~~!!」

気が付くと、叫んでいました。
立花さんも「ビクッ」と驚いています。
「一体僕が何をしたっていうんだよぉッッ~~~!!」
僕は逃げ出そうと、人のいない方向に向かって必死に走りだしました。
「エシナ! 捕まえて!!」
「あぁ、わかった。ひゃっひゃっひゃっ…!!」
あれ? ぬいぐるみの性格が変わってないですか?
そんなことを思っているうちに、ものすごい速さで突進してくるぬいぐるみにタックルされました。タックルされた僕は、ものすごい衝撃で吹っ飛んでいきます!
なんでこんなに軽そうな物にここまで吹き飛ばされるのでしょうか?
やはり、速さが大事なのですか?
僕はそんなことを思いながら…、昼休みに食べたパンを口からちょっと出そうになるのを頑張って堪えながら…、地面にトライされました!
そして、うつ伏せになっている僕の背中にぬいぐるみが乗ってきて、上からすごい力で押さえ込まれました。
「お~い! 捕まえたぞ~!!」
ぬいぐるみは、僕を押さえ込んだまま逃がそうとしません。くっそ~、なんか屈辱だぁッ~! いつか消したる!!
「もう、新谷君? 話を最後まで聞いてよね!」
立花さんが僕も元に駆け寄って来きます。そして、目の前にしゃがみこみました。
「さっき抹消するって言ったけど…、条件付きで抹消を取り消してあげてもいいわよって話だったのよ?」
立花さんが「まったくもう…」って感じの困った顔をして言いました。
あれ? 変ですね…、突然周りがざわめきと始めましたよ。

がやがや…、ざわざわ…。
へぇ…、そうだったんだ? 私もてっきり有無も言わずに消すと思ったけどね~。
俺もだよ…、いつもの渚ちゃんならそうするからな。
うんうん、今日の渚ちゃんは優しいですね~。
あいつ…、運がいいな。
そうやな~、さすがワイの相方や!(シパン)

すごい内容がどんどん聞こえているような気がするのは僕の気のせいですか? あと、なんかむかつく声が聞こえたのも僕の気のせいですかぁ~~~!!?

「ちょっと! 聞いている? 人の話?」
よそ見をしていたら怒られてしまいました。
「あっ、ごめんなさい。すいませんでした!」
何で僕がこんな目に…。(ブツブツ)
「今、何かブツブツと文句でも言った? エシナ…」

――――――フォン…フォン………!(エシリウスの発射準備中)

「ひぃッ~、背中から変な音が聞こえるぅぅッッ~~!」
背中から天国へのカウントダウンが聞こえますぅ!
「すいませんでした。すいませんでした!すいませんでした!!すいませんでした!!!」
必死に命乞いしました。
「まぁいいわ、許してあげる。それよりも、今から条件を言うからちゃんと聞いていてね?」
「はいぃぃ~…」
もうどうにでもなれって感じです。
「率直に言うとね、私の盾になってもらいたいの」
あぁなるほど、盾ね。それぐらいなら…って、フオオォォイッッ~~~?
「そういうことだ」
背中に乗っているやつも偉そうに答えました。
「盾って…! なんで盾なの!?」
「だって、“ピスタ”はいつも眠ってて危なげないし…、あっ“ピスタ”っていうのは、私が被っているこの黄色いヘルメットのことよ」

“ピスタ”?

僕は、立花さんが被っている黄色いヘルメットを無言で見ました。でも、これといって別に普通のヘルメットに見えますよ。
「ちょっと! ピスタ!! いい加減に起きなさい!!!」
立花さんが「ゴン!ゴン!ゴン!!」とゲンコツでヘルメットを叩きだしました!
…でも、何も起きなかったです。

「あぁ、ダメね。起きないわ」
「やはり任務の時にしか起きないんだな、ピスタは」
「ねっ、わかった? だからあなたに私の盾になってほしいの」
「全然わからないよ!!!」
「じゃあ、死ぬ?」
「了解致しました! あなたの盾になります!!!」
これぞ忍法“心変わりの術”!
絶妙なタイミングでこの術を発生させていなければ死んでいたところですぅ!

「そう…、よかった。じゃあ時間が無いから、すぐに出発よ!」
「お~い! “ヴェス”! 行くぞ~!!」
ぬいぐるみが走り回っていたラジコンカーに向かって叫びました。
「わかっタ! わかっタ!」
走り回っていたラジコンカーが空中に「ピョンッ」とジャンプしたかと思ったら、次の瞬間、それは虹色の光に包まれました。
僕が気づいた時には、“それ”はさっき見たような、人が乗れるような車になって地面から50cmぐらいの高さに浮かんでいました。

――――――ドォルン…ドォルンッ…ドォルンッ…ドォルンッ!

けっこうシブイ車です。カッコイイなぁ!!
「さぁ! 早く行くわよ!」
「早く立て!」
僕の背中からぬいぐるみがどいて、僕は立花さんに無理やり起こされました。

「ちょっと待って! 最後にこれだけ聞かせて!」
僕の手を引っぱって、立花さんは強引に僕を車の助手席に押し込みました。
「何を?」
立花さんは慣れた感じで車の運転席に乗り込んで来ました。
「変な質問したら殺すぞ?」
くっそぉっ~、こいつッ…、ぬいぐるみの分際でぇ~…!
「何? 早く言って!」
急いでいる立花さんは可愛かったです。
「えっと~、ここは一体どこなんですか?」
他にも聞きたいことがあるけど、今はこれが一番気になります。
「ここは“ソム”よ。正式名称はシークレット・オブ・マウンテン(Secret Of Mountain)。
萩原山の中にある秘密基地よ。頭文字をとって“ソム(SOM)”って言うわ」
えっ!? ここは山の中なんだ…。
「じゃあ、あの変な自動販売機のケーブルがここに通じている入り口なの?」
「そうよ。でも他にも入り口はあるわ」
「お~い! そろそろゲートを開けてくれ~!!」

――――――ゴゴゴゴゴォッッ・…

ぬいぐるみがそう言うと、周りに光が広がっていきました。
「詳しい事は移動しながら話すわ」
天井に大きな四角い穴が開いていきます、そこに向かって僕たちは上昇していきました。

「いってらっしゃーい」
「気をつけてな~」
「死ぬなよ~」

下にいた人たちの声がどんどん小さくなっていきます。
「うわっ、すご~~~!」
僕はありえない状況に興奮していくのが分かりました。僕達を乗せた車は上昇して行き、そして、外に出ました。太陽が木々の葉っぱの間から見え隠れします。
久しぶりに太陽を見た感じがして、少し眩しかったです。

この穴の周りには木々が集まっていて、他からは見えないようになっていました。
気づかないはずです。こんなの衛星写真にも写らないです。
何となく感心してしまいました。
横を見てみると、立花さんはヘルメットにかけていたゴーグルを自分の目にかけていました。そして、「ふっふっふっ…」と不敵な笑みを浮かべています!?

「和也君、それじゃあッッ~~、行っくわよッッッ~~~!!!」
あっ、僕のことを名前で呼んでくれた。ちょっとドキドキ!!
って、え?

立花さんの右足がアクセルを思いっきり踏み込んだのがわかりました。
だって、ものすごい“G”が僕の体を襲ったからです! 国内最強ジェットコースター並の“G”でした。…グフッ!!

「ちょっと、立花さん…! もうすこし優しくしてくれないとぉ…、僕…、壊れちゃうよぉぉッッ~~~! それと、僕“和也君”って呼ばれてドキドキィッ~!」

僕たちを乗せた車は、木々の間を神業的にすり抜けて行き、そして、とっても青い空に向かって飛んで行きました。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第5幕

第5幕  新たなる覚醒



あれ? なんか横顔が冷たい? それに頭が痛い。
僕はひんやりと冷たいリノリウムの床の上で目を覚ましました。
「ここはどこ…?」
ゆっくりと起き上がりました。頭がズキズキと痛みます。
顔を上げて周りを観察してみます。
ここは…、研究所みたいな雰囲気を漂わせている廊下です。窓はなくて、天井はそれほど高くはなく、一定の距離に照明が点々と付いています。
「ここは一体…、僕は確か…」
記憶が徐々によみがえっていきます。
「僕は確か…、公園にいて…、そして…」
僕の顔から血の気が引いていきました。
「突然、変な自動販売機に襲われて…、それからどうなったっけ?」
頭を手で押さえながら、必死で記憶をたどっていきます。
「そうだ…、一応、変な自動販売機は倒したんだけど…、その後の漫才大戦で負けちゃったんだ…、そして…」

――――――コツ…コツ…コツ…コツ…

誰かが近いてくる音が聞こえます!
「やばいっ、どこかに隠れないと!」
僕は急いで立ち上がりました。
そして、周りを見渡して、どこか隠れる場所がないか探します!

ゴミ箱…、ダメだ、小さすぎて入れない。
ドア…、ダメだ、誰かがいたらどうする!?
植木鉢…、いやいや無理だって。
中世のヨロイ…、これだぁッ~~~!

僕は急いでヨロイの中に潜り込みました。ヨロイの中は身が凍えるくらい冷たかったです。それに、変な臭いがしました。

――――――コツ…コツ…コツ…

足音が近づいてきます。
よかった。どうやら間に合ったみたいです。ばれなくてよかったです。

――――――コツ…コツ!…コツ!…

突然、僕の目の前でその人は止まったぁああぁっ~~よぉぉおおぉぉ~~~!!?

僕のハートはヨロイを突き破りそうになりました。
「どうかばれませんように…! どうかばれませんように…!」
目をつぶりながら、心の中で強く祈りました。
すると突然、僕のお腹の辺りに心の中の神様(白くて長いヒゲを生やした僕)のミニチュア版が「スゥ~ッ」と現れました。
僕は目を下に向けて、“それ”を見つめます。
「おぬしの最後じゃ…、グッドラック!」
それだけ言って、“それ”は「ニタァ~」とした笑みを浮かべながら消えていきました。
「あんのやろぉおおぉッッ~~~があぁぁッッ~~~!!!」
僕は心の中で高く高く叫びました。怒りで瞳が「ピシッ!」と砕けそうになりました!

「いやぁ~、いつ見てもコレは迫力があるね~」

唐突に、目の前の人の声が聞こえました。僕は息と耳を潜めます。

「さすが中世の怪物“ベルセルク”が着ていたヨロイだけのことはあるね~。うーん…、良い買い物したなぁ~、僕!」

――――――コツ!…コツ…コツ…コツ…コツ…コツ…

足音が遠ざかって行きます。そしてしばらくすると、足音は完全に聞こえなくなりました。後に残ったのは、「ガチガチ」と震える僕だけでした。
「よ…よかったぁ…、てっきりばれたのかと思ったよ」
僕は「はぁ~…」とため息をつきました。安堵のため息です。

「とりあえず、現在の状況を確認しよう」
ヨロイの中でじっと考えてみます。
まず、ここにはあの変な自動販売機の変なケーブルに吸い込まれてきたんだよね?
でも、どうしてこんな所につながっているんでしょうか? まったく分かりません!
まぁ…、原理を今考えても仕方ないかな。恐らく、僕の考えなんかでは到底理解できないものなのでしょう。
じゃあ、ここから逃げると時はどうやって逃げればいいんでしょうか?
来た時と同じように、変なケーブルに吸い込まれないといけないのせしょうか?
でもここにはケーブルらしきものは見当たらないです。じゃあ…、どうすればいいんでしょうか?

………うおぉッ~! わっかんねぇ~~! 僕はどうなってしまうんだあぁッ~~!

頭から「メリッ」という音が聞こえます。僕の脳みそが破裂しそうになる音です!
「とにかく出口を探そう!」
うだうだ考えていてもしょうがないです。僕はここからすぐに脱出することに決めました。
他に誰か来ないかと耳を済ませ…。
…よし、足音は何も聞こえません。だから、僕は安心してとヨロイから出ました

「ん?」
なんとなく自分の服を「パッパッ」と叩きました。
でも、変な臭いがするので、何かな? と思いました。
ふと…、自分の服の臭いを嗅いでみたら、とてつもない血生臭い臭いがしました!
「うげぇ~、ナニこれナニこれナニこれキモチわるいぃぃッ!?」
全然状況が理解できません!
僕の全身から「プンプン! プンプン!」と血と鉄の臭いがします。
僕はヨロイを見ました。そして理解しました。
「コイツのせいかぁあぁああッッ~~~!!」
よく見てみると、このヨロイにはおびただしい量の乾いた血がこびり付いていました。
さっき隠れるときは無我夢中で気がつかなかったけど、改めて今見てみるとすごく気持ち悪いッ!!
ここまで血がこびり付いてるヨロイを作るには、血の池に50回ぐらい浸からないとできないだろうと思います!
さすが中世の怪物“ベルセルク”だ! と感心する間もなく、
「うげぇえぇぇええッッ~~…!」
と、ゴミ箱に吐いてしまいました。
僕は…、血がダメなのです。血を見たり、血の臭いを嗅ぐだけでノックダウンアンドKOしてしまいます。そんな僕が、こんなにもすさまじい血の量を見ちゃったら………、そりゃ吐くわ!!! (マジ切れ)
「はぁ…、はぁ…、ダメだ…、早く…、着替えないと…!」
僕は吐くのをこらえながら、近くにあったドアに近づきました。誰か居ないかと、僕は冷静に判断し、ドアに耳を当てて中の様子を探ってみました。

…よし、何も聞こえない。誰もいない…。

僕はそっとドアのノブを回して、少しドアを押しました。

――――――ギイィィ…

「…どなたかいらっしゃいますかぁ~?」
…返事はないです。ドアを全部開けて部屋の中に入りました。
そして、前を向きながら後ろ手でそっとドアを閉めて、部屋の様子を伺いました。

ここは…、ロッカールーム!? 

なんて僕は運がいいんだ! と自分に感心しました。
目の前には、ロッカーが30個ぐらいありました。まるでプール場のロッカールームみたいです。
僕は急いで制服を脱いで、鍵がかかってないロッカーを探します。

――――――ガチャ…

「やった! 開いたぁ!」
6番目に確かめたロッカーが開きました。中を見てみると、そこには白衣の上下セットがハンガーで吊るされていました。上着の左胸ポケットの辺りに名札が付いています。
名札には…、石川と書いてあります。
「石川さん、黙って白衣借りま~す!」
一応、謝ってから、僕はロッカーから白衣を取り出して、慣れない手つきでそれを着ました。
着てみてから気づいたけど、これは僕には大きすぎました。サイズが違いすぎです。手は袖の外には出なくて、袖は情けなく「だらーん」としています。上着は地面を引きずってしまいます。ズボンも長すぎて、僕の足はズボンの外に出て行きませんでした。
しょうがないので、裾を折り曲げて手を出せるようにし、ズボンも折り曲げて足が出せるようにしました。上着が地面を引きずってしまうのはちょっと気になるけど、気にしないことにしました。
着ていた制服は、このロッカーに一緒に入っていたコンビニの袋に無理やり詰め込みました。
着替えが終わって、ふと部屋の隅っこのほうを向いたとき…、僕はこの部屋に大きな立て鏡があることに気が付きました。
その鏡の前に立ってみました。するとそこには、絶世の科学美少年の姿が!!!

「だ…、誰だ君は!?」

僕は鏡の中の美少年に叫んでしまいました。でもすぐにそれは自分だと気が付きました。目の前には、真っ白な白衣に包まれている驚いた表情の僕が立っています。
「なぁんだ僕かぁ…、それにしても…、僕って…」
僕は鏡の中の自分を見つめながら、いろんなポーズをとり始めました。
「う~ん、これいいね~! おぉ、このポーズもいい! え? これも!? わぁ、これはやばいな…、放送できないな…。う~ん、やっぱりこのポーズが一番いいなぁッ~!」
ドキドキしながら自分のポーズを変え続ける僕!
新たな力が覚醒していくのがわかる…! うおおぉぉおおぉッッ~~~~!!
僕の隠された本能の一部が「いいね~、いいね~!」と僕に語りかけています。

すると突然、目の前に「ボンッ!」と本能の一部が具現化して現れました!
それは、銀座のママみたいな格好と化粧をした、ちっちゃな僕でした。
「あんたぁ…、ウチの店で働いてみない?」
突然のスカウトに僕は驚いちゃったよ、あはっ。
「それ」はおばさんボイスで僕を勧誘してきました。

「えっ、お店って…、どんなお店ですか?」
僕は興味が湧いてきたのでそのママに聞いてみました。
「お店の名前は“美少年の館”よ。客層は………、目の肥えたおじさまよ!」
「うがあぁッッ~~! 遠慮しときますぅ~~~!!」
僕は地面をゴロゴロと転がりました。
「そう、残念ね…。また今度お会いしたら、覚悟しといてね」
それだけ言うとママは、「ボンッ!」と姿を消してしまいました。
「なんだよ~、覚悟って~!? 何の覚悟だよ~!? 教えてよママぁッ~~~!!」
しかし、聞こえてくるのは僕のすすり泣く声だけでした。
えっぐえっぐと泣きながら目の前の鏡を見てみます。そこには泣き顔の僕が白衣を身にまとって座っていました。その姿が僕の目に飛び込んできたとき、また僕の意識は異次元の世界にに飛ばされてしまった!(うっとりと)

もう僕は現実の世界に帰っては来られないのでしょうかッ!? 
このまま永遠に異次元の世界を漂ってしまうのでしょうかッ!?
僕の無意識な部分の本能がそう思っていたとき、そんな僕を救ってくれたのが、

――――――タツ…タツ…タッ…タッ…!

「誰かがまた近づいてくる! しかも走って!!」
僕は、この足音で現実世界に帰ってくることができました。ありがとう不審者!!
あっ、不審者は僕か?
そんなことを考えているうちに、足音がこの部屋の前で「タンッ!」と止まったのが聞こえました。
「やばいやばいやばい…!」
僕はものすごい速さでロッカーの中に入りました。このときの速さを見た人は、僕のことを今後「疾風のカズヤ」と呼ぶでしょう!
そっと、ロッカーの扉を閉めて、息を潜めます。

――――――ギイィィ…、バタン!

「はぁ~…。ごめんね、忘れ物しちゃって」
「まったく…、渚は忘れ物が多すぎるぞ!?」
「だからごめんって言ってるでしょ? 今回は急な任務だし、学校も黙って抜け出してきちゃったし…」
「ごめんで済んだら人は殺されないのか?」
「なによそれ!? 人はいつか死ぬのよ! だから命乞いなんてムダなのよ!!」
「なにを言ってるんだ! 死んだら意味がなくなっちまうだろ! そんなこともわからないのか渚は!!」

………話が最初とずれている気がします。

「命乞いしてまで私は生き延びたくないわ! そんなの…、いい生き恥よ!!」
「ばっきゃろぉ~!!!」

――――――バシッ!

「ッ!? 叩いたね? お父さんにもぶたれた事ないのにぃッ~~~!!」
「あぁ、叩いてやるさ! 何度でも!! 俺は…、渚のパートナーだからな!」
「エシナ…?」
「もし…、渚の身に何かが起きたら、俺は…、俺は…! 自分が許せねぇ!!」

僕………、感動して前がびべまぜん!!(見えません!!)

「エシナ…、ごめんね(グスッ)。これからはもっと自分のこと大事にするよ…。だから…、いつまでも私のそばにいてくれる?」
「当たり前だろ!(グスッ)。さっさと忘れ物を取ってこい!!(グスッ)」
「ありがとう…。初めてエシナのこと…、ううん、なんでもないわ」
「そ…、そうか(ドキドキ!)、頼むから早く取ってこい!!」
「くすっ、わかったわ」

そして、「ガチャッ」と隣のロッカーが開けられたのが聞こえました。
その時の僕は、びっくりしすぎて気を失いそうになりましたねっ。
「あっぶなぁ~、ばれてないよね?」と思っている僕の横で、「えぇっとぉ…、あったあった」と立花さんの嬉しそうな声が聞こえました。

「やっぱりこのゴーグルがないと、いい雰囲気がでないのよねぇ~」
「いい雰囲気のためじゃなくて、目を守るためにゴーグルを装備するんだからな! 遊びじゃないぞ」
「うん。そこはちゃんと心がけているから安心してエシナ!」
「ほんとかどうか疑わしいが、一応納得しといてやるよ」
「ありがと! エシナ!!」

…この声の主は、本当に立花さんなのかな?
学校での彼女と、今の彼女とのギャップが激しすぎて混乱してきました。
まぁ…、こっちの彼女のほうが本当の彼女だとは思うけど、やっぱりまだ信じられないです。あの、外見は大和撫子みたいな立花さんがこんなギャル(死語)みたいな会話を発生させているとは…。もう2009年だからなぁ…、時間が経過していけば、人は変わっていくんだなぁ…と、しみじみ思いました。

「じゃ、行こっか?」
「あぁ…、地球を汚すやつらに血の制裁を!」
「もう、変な言い方しないでよエシナ。普通に“殺してやる”って言ってよね」
「こっちの言い方の方がいい雰囲気が出るだろ?」
「あははっ、そうね。…あっ、早く行かないとお父さんに怒られちゃうわよ?」
「わかった急ごう。それにしても“ピスタ”は静かに寝てるな」
「この子は任務が始まってから起きるのよ」

――――――ギィィ…、バタン! タッ!…タッ!…タッ…タッ………

「ふ~っ…、行ったかぁ」
ちょっと暗いロッカーの中で「ばれなくて済んだ」とほっとしました。
もう足音はどこからも聞こえないので、「よっこらせっ」とロッカーから出ました。僕の体はちょっと熱を帯びていて、汗が額に浮かび上がっていました。
「さて…、今からどうしよっかな?」
額の汗を手でぬぐってから、先ほどの立花さんたちの会話を頭の中でじっくりと考えてみます。

簡単にまとめるとこうです!
立花さんは“ある任務”のために学校を黙って抜け出しました。そして、その任務のパートナーは、あの“エシナ”っていう名前のぬいぐるみ。任務の内容は、「人を人とは思わないやつらを殺すこと…」。
はぁぁ~~~、ちょっと待ってくださいよ。なにこの話?
どこの世界の話だよ? って感じです。
立花さんはつまりその…、“殺し屋”ってやつですかぁ?
あの、立花さんが?
でも人は「外見で判断したらダメよ」ってお母さんが言ってたしなぁ~…。
あぁっ、思春期真っ只中な僕です! 悩んでしまいます!
あぁもう、どうすればいいんだよ僕はぁぁッッ~!?
立花さんを連れ戻すことはもう無理だよ! 無理ムリむり!! 絶対にぃ~~~!!!
とりあえず、沢田さんにはちゃんと説明して許してもらおう。ありのままを話そう。そうすればきっと! 沢田さんもわかってくれるはずです!!
例え、どんな内容の話でも、真剣に話せば誰だってわかってくれるさ!
あの沢田さんでも…、たぶん!

そんな希望(絶望)を抱き、僕は入り口のドアの前に立ちます。
そして、また誰か来ないか耳を潜めます。

…よし、大丈夫だ。

扉をゆっくりと開けて廊下に出ました。
そして、僕は自分の制服が入っているコンビニの袋の存在を忘れていたことに気づいて、あわてて袋を取りに戻って、また廊下にゆっくりと出ました。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第4幕

第4幕  死闘



今、僕の目には自動販売機の裏側が映っています。自動販売機の裏側なんてあまりいつもよく見ていなかったので、じっくり見てみると結構複雑なんだなぁ~って思います。
だって、変なケーブルとかがグチャグチャに張りめぐされているからです。赤色や青色、黄色、茶色、黒色…、とにかくバラエティに富んださまざまな色が僕の目の前に存在し、さまざまな太さのケーブルがあるのです!
「へぇ~、こうなっているんだぁ…」
僕の脳に新しい発見がインプットされていきます。でも、そこで割り込みエラーが発生!

「ってこれ自動販売機じゃないやろ! あんたぁ!?」(何故か大阪弁)

このとき僕は、「なんていいツッコミなんだ!」とプルプルと感動しました。
そうなのです。明らかに変なのです。どう考えてもおかしいです。どこの世界にこんなにぶっといケーブルが張りめぐされている自動販売機があるんですか!?
どう考えてもこれは、ただジュースが出るだけの普通の自動販売機ではありません!
では…、これは何なのか?
すると突然、

「そうなんすぅよ~! えろぉ~すいませんなぁ~!」(大阪弁)

ッ!? …なんですか? 何か聞こえたたような。
周りを見渡しても誰もいません。…もしや!?
僕は顔を「バッ」と上げて自動販売機の上を見ました。
…何もいない。よかった…。また変な未確認サムシィングが出現したかと思ったよ。
僕はふっと心をなでおろしました。

「ちょっと、あんさん? こっちやこっち!」

ッ…!? …なんですか? また変な声が聞こえたような。
周りを見渡しても誰もいません。…もしや!?
僕は顔を「バッ」と下げて僕の足元を見ました。
…何もいない。よかった…。僕はてっきり、大阪弁を話すある有名なCMに出ている変な地底人が顔を出しているのかと思ったよ。
僕はふっと心をなでおろしました。

「しょうがないでんな~…、これならどうや!?」
突然、目の前のケーブルが僕に襲いかかってきた!!!
戦闘シーンのBGMが流れ出す。ジャジャン!ジャジャン!ジャジャン…!

「突然、変な自動販売機が現れた!!」

シパン


戦闘開始!!!
1ターン目:カズヤの攻撃!
カズヤは変なケーブルを揉んだ!!
      変な自動販売機は「あふぅん…!」というあげき声をあげた!
      変な自動販売機に16のダメージを与えた。
      変な自動販売機の攻撃!
      変なケーブルがカズヤの○○○をかすめた!!
カズヤは「こ…これは!?」という初めての感覚に驚いた!
      カズヤは15のダメージをくらった。
      カズヤは精も根も尽きてしまった…。
      ゲームオーバ~!
しかし、どこからか沢田さんの声が聞こえてきました。
「さっさと立花さんを連れて帰ってきてくださいね? ちゃんとわかっているのですか?じゃないと、私、…新谷君のこと…、キライになってしまいますぅ~~~!」
「フンヌオォッッ~~イ!」
カズヤは生き返った! まさに奇跡!!
2ターン目:カズヤの攻撃!
      カズヤは変なケーブルに「フッ」と息を吹きかけた!!
      変な自動販売機は「あぁ…!」というあげき声をあげた!
      変な自動販売機に33のダメージを与えた。
「ワイの弱点をよく見破ったなぁ…、あんさん…、バタッ」
      変な自動販売機をやっつけた!!
129の経験値を手に入れた!
カズヤはレベルが上がった!
沢田さんへの想いが3上がった。
○○○の持久力が4上がった。
鼻の穴の大きさが5上がった。


少し…、風が強くなった感じがしました。激戦を制したあとの僕の顔には、微量の汗が流れていました。汗が風で急に冷たくなっていくので、慌てて汗をぬぐいました。
「はぁ…、はぁ…、あんさん、けっこうやりますな~!」
目の前の自動販売機が僕に話しかけました。
「はぁ…、はぁ…、お前もな!」
僕は返事をしました。そして、なんだか急に笑えてきました。世の中まだまだ強いやつがいる。つくづくそう思いました。僕は井の中の蛙でしかなかったです。そう思えてくると嬉しくなったきました。
ここで一句、
日の高い 丘にて二人 横たわり なかなかやるな そっとつぶやく 
                                   新谷 和也
あれ? なんでだろ? 涙が止まらない!
この涙はなんで流れてくるんだろう…?
それはね…、突然、変な自動販売機が襲いかかってきたからだよっ!(キレ気味)
「お前は一体なんなんだ!?」
僕は真剣な眼差しで、目の前の自動販売機を見つめました。
「そうなんです! 私が変なおじさんです!! あふぃん!?(びくびくぅ!)」
変なケーブルを僕は強く揉みました。
「すんまへん、冗談が過ぎたわ。勘弁してなぁ、あんさん…、はぁ…、はぁ…!」
僕は手で掴んでいたモノを離します。
「しょうがないでんな~、せやけどなぁ…、この事はとっても“とっぷしーくれっと”なんやよ。ワイに感謝せぇやぁ~」
そして、変な自動販売機は語り始めました…。
僕は、「とっても“トップシークレット”なんやよ、って変な言い方だなぁ…」と思いながら話を聞き始めました。

「まずは自己紹介や。ワイの名前は“シパン”、世界一の泥棒や!」
「それは“ルパン”やろ~がッ!」 スパ-ン!!(ツッコミの音)
はっ、しまった。ついツッコミを入れてしまいました! 体が自然に動いてしまったぁ!
「おぉ! なんていいツッコミや! あんさん、ワイと漫才やらへんか?」
突然、僕の脳内に「パァッ~」っと広がっていく光景。

美少年&しゃべる自動販売機のコンビが繰り広げる漫才の嵐…!
一躍有名になることは間違いないでしょう。そして、一人と一台がこの大芸人時代の頂点に立つのです!
「僕は…、芸人王になる男だ!!!」(背景に「どーん」という文字が浮かび上がる)
そして、その高い叫びは、どこまでもどこまでも響いていきました…!

はっ、しまった。また、バーサーカー状態になってしまっていました!
僕は正気を取り戻します。
「いやいや、違うでんがな! 芸人王になるのは…、このワイや!! ハブゥッー!?(ガクガクゥ!)」
すかさず、裏拳を変なケーブルに叩き込みます。
「話が進まないだろうがぁ! さっさと続きを言え!!」
僕は段々イライラしてきました。
「あんさんがツッコミを入れたからや…(ぼそっ)」
「ああぁん!? なんか言ったかこのボケナスがぁ!!?」
「なんでもあらへん! 話を続けさせてもらいやす!!」
あぁ、やっとちゃんと話してくれる。僕は、両腕を組んで、話を聞き始めます。
しかし…、一体どこからこいつの声が出ているのでしょうか?

「さっきも言ったとおり、ワイの名前は“シパン”や。これは本当やでな。嘘は言ってないでな! それで、今あんさんが一番知りたいことは恐らく…、「ワイは何者」かっていうことやろ? よっしゃ、ずばり教えたるわ! ワイは…・実は………、自動販売機やったんや! 痛っ痛い! 石を投げんといてーな、ホンマ。ほんの“シパンちゃんジョーク”やないか、まったく…。アレ? あんさん顔色が悪いで~、保険室行こか~? 痛っ痛い! コンクリートの破片を投げるの止めてくれなはれ、ホンマ! わかった、わかった。言います! 言います!! 中国語で…」 

その時、絶望で地面に倒れて行く僕は思ったんです。
僕はもうダメだ。ツッコミに疲れた。こんなにもツッコミがキツイとは思ってなかったよ。正直…、ツッコミを舐めてたよ。
あぁ…、世界中のツッコミ屋さん、ごめんなさい! あなたたちがこんなにも苦労してツッコミをしていたなんて知りませんでした。
本当にごめん! ってこのやろうがぁあぁッッ~!!
僕は最後の力を振り絞りました!
「なんで中国語やっね~~~ん!…やっね~ん…やっね~ん…(エコー)」 

――――――ビシッ!(ツッコミの音)

言った。僕は言ったぞ…! ツッコんだぞ…!
そして、僕は地面に「どさっ」と倒れこみました。もう立ち上がる力は残ってないです。
「…ワイの漫才にここまでついてこれたんは、あんさんが初めてや…! 久々の強敵やったであんさんは。ワイも危なかった…。でも、久しぶりにいい漫才ができておもろかったで~。だから、褒美にいいところに連れてってあげるで、あんさん! まぁ、詳しい話はあっちで聞いて~なぁ~。正直な話、いろいろ説明するのが面倒臭かっただけなんや」

薄れていく意識の中、僕は変なケーブルに「シュポーン!」と吸い込まれたのが分かりました。そして、そのまま僕の体はどんどん吸い込まれていきました…。



これからの僕の人生がどれだけ変わってしまうか…。
この時の僕はわかっていなかったぁぁぁッッッ~~~~~~!!!


”自分に厳しく、地球に優しく” 第3幕

手直しが終わったので、もう一気に全部公開しちゃいますねっ!

では、”自分に厳しく、地球に優しく” 第3幕 スタート!

   

第3幕   木の葉が舞い散る中で



現在12時22分です。僕は教室を出て、廊下を走っています。
廊下の壁に貼ってある「廊下は音を出さずに走りましょう」の張り紙が目に映るけど、今はそんなことを気にしている状態じゃなかったです! 
一刻も早く沢田さんの喜ぶ笑顔が見たいという概念が僕の体を無理やり動かしてしまうので、僕は「ドタドタ」と足音をたてて廊下を走ってしまいます。
途中、長谷川が「ヒュ~…、ヒュ~…」と廊下の壁に寄りかかって呼吸をしていました。
体が全く動かなくなってしまい、さらに時間が経つにつれて息ができなくなっていく、代々新谷家に伝わる秘伝書に載っていた秘孔“森羅”をさっき長谷川に突いたからです。
このままでは長谷川が死んでしまうと判断したので、しょうがなく僕は術を解く秘孔“万象”を突いてあげました。長谷川は「ギャラボァッ!」と叫んだ後、廊下に倒れてピクリとも動かなくなりました。
この秘孔には問題があって、この秘孔を突かれた人間は1~2時間ぐらい仮死状態に陥ってしまうのです!
「つまらぬ物を突いてしまった…」
と、僕は捨て台詞を残してその場を走り去りました。

自転車に乗り、正門の辺りまで移動しました。
太陽は高く上がり、本当に暑かったです。もうすぐ夏が来るんだなぁ~、としみじみ思いました。
振り返って2階の窓を見てみると、そこには可憐な沢田さんと彼女の女子の友達3人が仲良く笑いながら話しているのが見えました。(ちなみに僕の視力は1.5)
「行ってきます。沢田さん!」と心の中で叫んで僕は正門を出ました。

「立花さんは確か南のほうに向かって行ったっけ…」
僕は南のほうに向かって自転車を漕いで行きます。周りを見渡しても立花さんらしき姿は全く見えません。しかし、変な違和感を僕は感じました。

自転車に乗りながら周りを注意深く見渡します。今、僕は朝来た道を通っています。でも、朝通ったときとは風景が違うのです。朝通ったときは木の葉や空き缶がたくさんこの道に落ちていたような気がするけど、今はきれいに何もなくてとても走りやすいです。
「誰か掃除でもしたのかな? いいやつもいるもんだなぁ~」
と、感心しながら僕は自転車を走らせました。

山の麓(ふもと)まで着くと、僕は自転車を押しながら萩原公園を目指しました。
僕の直感が「ここに立花さんはいる!」と言っているからです!
山を登りながら僕は考えました。「絶対に彼女とあのぬいぐるみは普通じゃない。何か、ものすごい秘密が隠されている気がするね。恐らく本体がぬいぐるみで立花さんは良く作られた人造人間で、あのぬいぐるみの忠実なる部下だろうとか、立花さんはエイリアンが変装した姿で、あのぬいぐるみは彼らの兵器の一つ“ファラテイン”で、ひとたび力を発揮すればこんな町なんか一発で消し飛んでしまう光線を「ドォウゥッッ~~~!」と口から出すのではないだろうか」などいろいろ考えました。

妄想している間も周りを見渡してみると、朝通った時には、いっぱいあった葉っぱや木の枝が、1つ残らず道の上から姿を消していました。なぜっ? なぜでしょうっ!?
「学校からここまでの道を掃除してくれるなんて…、すごく大変なのに…、なんていい人がこの世にはいるんだぁぁぁッッッ~~~!!!」
と空に向かって何故か叫んでしまいました。でも、スッキリしました。朝からいろいろあってちょっとイライラしていたものが消えたからです。(イライラの原因:美鈴99%、長谷川1%)。
しばらく歩いていると萩原公園が見えました。自転車を置いて、歩いて立花さんを探します。
「おぉ~い! 立花さ~ん!! いたら返事してぇッ~~~!!!」
周りには誰もいなかったのでシャイな僕でも大声が出せました。でも返事はないです。
っていうか、なんでこの公園はいつも人がいないのだろうと思います。一応それなりの遊具はあるし、自動販売機もあるのに不思議です。やっぱり、こんな山の上の公園なんかには誰も来ないのかなぁと思います。
しかし、ここでも変な違和感がありました。ここの場所も綺麗に片付けられているということです。ゴミ箱の中に入っていた木の葉までもが片付けられています。朝の光景とは、まるで違っていました。
「この町にこんなボランティアをする人たちっていたっけな~?」
と、僕がつぶやいたその時でした。

――――――ヒュッ…

…何かの音が聞こえたました。僕は首をかしげながら、「スゥ~ッ」と耳を澄まして集中してみます。

――――――…ゥン…ヒュッ…ヒュッヒュン……ヒュン!…

なんでしょうか? 
何かが風を切るような音が聞こえます。カマイタチでしょうか!?
その音は、あのぬいぐるみが突如出現した例の自動販売機があるエリアから聞こえます。

僕は恐る恐るそっちに歩いて行きます。今の場所からは自動販売機があるエリアは林が邪魔して見えないからです。
すぅっと木の陰に隠れてそっと向こう側を見てみます。
そして…、僕の目に飛び込んできた風景はとんでもないものでした! 

なんと! 地面の上にある木の葉、木の枝、空き缶、スーパーの袋、さらには壊れかけていたジャングルジムまでがすごい勢いで消えていっているのです!
突然、ジャングルジムの一部が消えたと思ったら、次の瞬間には向こうのほうで舞っていた木の葉も消えてしまうのです!!
「な…、何が起こっているの?」
僕は状況がつかめず、ただオロオロと周りを見渡します。
そのとき突然、「シュポ~ン!」という何かが飛び出る音が聞こえました。
僕は条件反射で「サッ」と木の陰に隠れました。

今、自分が置かれている状況が全くと言っていいほど理解不能です。
さっきの音の方角からは「シュルン!」と先ほどの音とは違う音が聞こえてきました。
僕は恐る恐る、自分の顔の右半分だけをのり出して音の根源を見ました。
音の方向にあった物は自動販売機でした。すると次の瞬間、その自動販売機の後ろから人の顔が出てきました!
僕は心臓が破裂するぐらい驚きました。心臓が「ドクゥッン!」と唸ったのがわかりましたね。

「何であんなところから人が出て来るんだ?」
予想もしなかった出来事が発生! それでは早速、出てきた人物を観察してみます!!
黄色いヘルメットを被っているので顔は分かりません。来ている服装もなんか映画に出てきそうなパイロットが着ている服みたいな服装です。シルエットから判断すると、その人は女性だということがわかります。
しかし…、遠目でもわかるあの胸の膨らみは…、まさかぁ!?

その人は周りをキョロキョロと何かを探しているような仕草をしています。そして、あっちにある小丘の上まで歩いて行きました。
その人は小丘の真ん中に到着したとき、「やっほっ~」をするときのポーズを取り。そして、
「エシナッ~! どこッッ~~~!!」
と叫んだのが聞こえました。女の子の声でした。その声が鳴り止まぬうちに何かが高速で彼女に向かって来るのが音で分かりました。。
その何かが「ヒュッ」とジャンプして彼女の肩に乗ったのが、遠くから見えました。

遠くからでも分かる“それ”は…、例のぬいぐるみだったぁぁああぁぁッッ~~~~!!!

その女の子とぬいぐるみが自動販売機まで歩いて行きます。
「もう仕事なのか? どこだ?」(ぬいぐるみ)
「そうよ。場所は…、福井ね」(女の子)
「そうか…、腕が鳴るな…!」
「日本での初めての仕事ね。少し緊張するわ」
「ほぉ…、渚でも緊張くらいするんだな」
「うるさいわよ、それよりも“フォト”は溜まったの?」
「あぁ、ばっちりだ」
僕は息を潜めてジッと一人と一匹の会話を聞いていました。でも、話の内容は全く理解できませんでした。

“仕事”?“エシナ”?“フォト”?

分かったのは、やっぱり彼女は立花さんだということだけです。
しばらくすると、ぬいぐるみを肩に乗せた立花さんは、自動販売機の後ろに隠れてしまいました。そして、さっきと同じような「シュポーン!」という音がしたかと思ったら、すぐにまた「シュルン!」という音が聞こえ、その後には風の音しか聞こえなくなりました。

僕は木の陰に隠れながら、しばらく考えてみることにします。
「な…、なんじゃこりゃあ…!」
意識が混乱します。朝起きた時は、「今日も一日平和でありますように」って心の中の神様にお願いしたのにぃ…!
さっそく僕の夢を破ってくれますよコイツは! この能無しがぁぁッ~!
すると突然、目の前に心の中の神様(白くて長いヒゲを生やした僕)が「スゥーッ」と現れました!
そして僕の目を見つめてながら、
「おぬしの願いはちゃんと聞こえておる。しかし、それを叶えてしまってはお主のためにはならぬと「極秘超神会議(通称:沢田さんラブ)」で決定してしまったのじゃ。これから、大変なことがお主の身にいろいろ起こるが、まぁ…、がんばれ! ぎゃばッ!?」
目の前のヤツにとりあえず正拳をお見舞いしました。いいストレス解消法です。
すると、心の中の神様は鼻血を出しながら「スゥーッ」と悔しそうに消えてしまいました。
消える間際、「おぼえてろ…!」と聞こえた気がしました。
って、あぁっ、こんな妄想をしている場合じゃない!

やっと僕は正気を取り戻した。ここからは現実編がスタートです!
まず、僕は今からどうすべきなんでしょうか?
選択肢は恐らく3つです。
1:自動販売機の裏側を調べる。
2:このまま学校に戻る。
3:このまますぐに自分の家に帰る。
まず、3について考えてみます!
今現在、僕は鞄を持ってないのでやはりもう一度学校に戻る必要があります。それは何故か…?
それは、鞄の中に「沢田さん宛てのラブレター」が入っているからだぁぁッッ~~!
きゃッ~、言っちゃった!!(誰に?)
僕は本当に沢田さんが好きなんです。心の底から!
あの目、あの唇、あの笑顔…、どれを取ってもかわいいんだよ! っていうか沢田さん好きだあぁぁっっ~~~ぁぁああッッッ~~~!!!
だからもし、僕と沢田さんが二人っきりになってイイ雰囲気だったら、いつでもラブレター(一週間かけて書いた)を渡せるように鞄の中に入れているのです!
っという訳で、誰か(長谷川)が僕の鞄を覗くかもしれないので、あの鞄は絶対に死守しなければならないのです。
だから3はダメと…。

次は2について考えてみます!
このまま、立花さんを連れ戻していない状態で学校に戻ってしまったら、僕は沢田さんとの約束を破ってしまうことになります。
そんなことしたら…、僕は沢田さんに殺されてしまう。いや、殺されてしまう方がいいかもしれないです。もし、もし万が一…!
嫌われてしまうなんてことになってしまったら! 僕は…、僕わぁっ…! 
あぁっ、考えただけで血の涙が出てくる!!

――――――ツツゥ…

僕の目からは一筋の赤い涙が!
「そんなことにはなってはいけない…! そんなことになってはいけないのだぁッ~!」
僕の体がメラメラと黒い炎に包まれていきます!
「やってやる! やってやるぅぅぅッッ~~~!!」
僕は、選択肢の1を無意識のうちに選び、無我夢中で自動販売機の裏側まで走って行きました…。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第2幕

あぁ~、”自分に厳しく、地球に優しく”の手直し終わったぁぁぁ~!
けっこう時間かかりましたねッ!
なんて言ったって、140枚もありましたからねッ!
良く書いたなぁ、僕…。
でも、まだまだ続くんですよね、この話。
まぁ、面白いから全然OKですね。
昨日、夜中まで読んでいたら、こっちの続きも書きたくなってきましたよっ。
血がっ…、血が騒ぐぅぅぅ!

では、”自分に厳しく、地球に優しく” 第2幕 スタート!

第2幕  あなたのために



何でしょうか? 
なんかチクチクします…。首筋と肘に何か嫌な違和感があります。
瞼を開けて僕の目に映った風景は、いつも見ている世界よりも90度傾いていました。左に地面があって、右に空があります。
僕は左手を枕にした感じで横になって寝ていました。風が強く吹いていたので体が冷えています…、さぶいよっ!

仰向きに体勢を直し、「よいしょっ」と起き上がりました。
「あれ? ここは萩原公園じゃないか。僕はなんでこんなところにいるんだ?」
周りには誰もいなくて、僕しかいませんでした。
芝生の上に座りながらしばし考えてみます。
僕は考え事を始める時、癖でいつも携帯電話の時計を見るんですけど、この時は、「こんな癖を持っていて本当によかった」と思いました。
デジタルで表示されている時間を見てみると7時50分でした。

さぁ! ここからはスゥインキングタァ~イムです! イヤッホーイ!
まず、僕の学校は8時に授業が始まりま~す。なので、あと10分で一時間目が始まっちゃいます。きゃは! 
そして、萩原公園から萩原中学校までの僕の自転車での最高タイムは12分です。校舎に入ってから自分の席にたどり着くまでの時間も入れてのタイムです。
さらに追加事項として、僕は今まで一度も学校を休んだことはありません。遅刻もないです。
運動神経は全然よくないけど、体が丈夫なことは僕の誇りです。遅刻をしたことがないことも僕の誇りです。しかし、今の状態だと人生初めての遅刻をしてしまいます! 
やばいです。今日遅刻をしてしまったら、一体僕はどうなってしまうのでしょうか…!?
遅刻しただけでは僕の社会的環境は変わらないと思います。先生も友達も、
「お前が遅刻するなんて珍しいな」
の一言だけで、あとは別に何も変わらないでしょう。ただそれだけです。
しかしぃ! 一度でも遅刻という冒険をしてしまうと、人はスリルと「この前、遅刻しちゃったからもう一度ぐらい遅刻してもいいかなぁ~、えへっ」という精神破壊ウィルスに感染してしまうのです! 僕はそれが良くわかっています!
よし…、僕は冷静だぁぁぁッッ~~~! 今から何をするべきかはもう決まったぞ!

ここまでが僕の脳内で処理された内容です。そして結論。
「制限時間内に目的地(萩原中学校)に必ずたどり着くこと」

――――――ミッションスタート

僕は鞄を手に取り、急いで自転車まで走りました。自転車にまたがり思いっきりペダルを漕いで、さぁ、レッツゴー! 山から麓(ふもと)までの坂道は、ほとんどノーブレーキで走り、どこかの豆腐屋の息子で、下り最強のあいつにも負けないドリフトをカーブでは何発も決めました。あと、顔に爽やかな風が当たって気持ちよかったぁです!

山から下りてからは、学校までの一番の近道をひたすらがむしゃらに自転車で走りました。
途中、人間3人、猫2匹に当たりそうになりました。僕はごめんと思いつつ、神業的なドリフトでかわし、誰に謝りもせずに先を急ぎました。
息をするのを忘れるぐらいペダルを漕ぎました。足もパンパンでした。呼吸が「ぜぇ~は~っ! ぜぇ~は~っ!」となったころに学校の校舎が300メートル先に見えました。

「ラストスパートだ…、カズヤ! 行きマ~ス!!」

と、心の中で叫びながら最後の力を振り絞ってペダルを漕ぎました。
「チャイムはまだ鳴ってないよね…」
自転車を自転車置き場に鍵もかけずに乱暴に止めて、校舎の中まで今度は自分の足で全力疾走。下駄箱から自分の内ズックを取り出して、それに半分だけ足を入れて走りました。
途中、トロトロと歩いている学生がたくさんいました。精神破壊ウィルスに感染してしまった哀れなやつらだ…、と嘆きながら自分のクラス(2年4組)に入りました。
まだチャイムは鳴っていなかったと思います。クラスの奴等は自分の席で友達としゃべっているか、教室の後ろのほうでしゃべっているかのどちらかに別れていました。寝ているやつもいました。
そんな奴等を横目で見ながら、僕は窓際の前から3番目の自分の席に「ドカッ」とすごい音を出して座りました。次の瞬間、

「キ~ン~コ~ン~カ~ン~コ~ン…」

―――――ミッションコンプリート!

やった。成し遂げた。
偉い…、僕はなんて高貴で気高い男なんでしょうか! 
自分に“ノーベル努力賞”を贈呈したいです。息は乱れていて、足も疲れて重くなっています。しかし、僕は成し遂げました。感動で…、

――――――ガラッ!

突然、扉が開いて担任がズカズカと教卓の前に立ちました。
この人の名前は木村 一(きむら はじめ)。27歳、独身。数学を受け持っています。
その木村先生がゆっくりと口を開きました。
「今、彼女とうまくいってない俺からの話を聞いてくれ…。突然だが、今日このクラスに転校生が入ることになったぁ!」

教室のみんなが突然静かになる。シ~ン…。僕だけ「ハァ、ハァッ…」(息)
3秒後、

「入ってもいいぞ~」
木村先生の声に反応して、みんなと同じように僕も教室の前側の扉に集中します。
扉は開いていたので、その子はスタスタと歩いて教室に入ってきました。
教室の男子は「うぉッ~~~!」と叫び始め、女子たちは「きゃッ~~~!」と叫び始めました。…僕だけ「ハァ、ハァッ、フゥゥゥッ~」(深呼吸)。

その子が僕から見て木村先生の左側に立ち、みんなの方を向きました。しかし、彼女の視線は僕達には行かず、彼女の手元に向けられています。
ふふふっ、恥ずかしがり屋さんなのかなっ?

「え~、彼女の名前は立花 渚(たちばな なぎさ)だ」
木村先生が黒板に“立花 渚”と名前を書きながらしゃべり始めました。そして徐々に、僕の顔はだんだんと真っ青になって行きました。
「立花はここに転校してくる前までは、親御さんの仕事の関係で世界各地を転々としていたそうだ。次の仕事の場所がここ萩原市になったそうなので、この学校に入学して来た訳だ。じゃあ、このアホたちに何か言いたいことはないか立花?」
木村先生の視線が立花さんの手元に行きます。クラスのみんなの視線も彼女の手元に集中しています。僕も“それ”を凝視していました。

それはなぜかって? 
だって…! 彼女は、ぬいぐるみを持っていたんだもん!
どこかで見た覚えがあるぅ!!!
そのぬいぐるみと僕はちらっと目が合ったような気がしました。その瞬間、僕の顔は真っ白に…。

彼女は両手でそのぬいぐるみを持って視線を“それ”に向けていたけど、木村先生の声に反応して視線を前に向けました。
「よろしくおねがいします」
それだけ言って、教室の後ろに用意されていたらしい机に「トタトタ」と小走りで走って行き、その席に座りました。ぬいぐるみは膝に置き、鞄の中からいくつかの本を取り出して机の上に置いていきました。これで転校生の紹介は終わったようです。

「よし、それでは授業を始めるぞ~。出席を取るぞ。青木ぃ…」
木村先生のその一言で教室のみんなはざわめきながらも数学の教科書とノートを机の上に置いて教卓のほうを向きました。しかし、僕だけはボ~ッと彼女の方を見ていました。

「お…思い出した…、あの時のぬいぐるみだ。突然、僕の目の前に現れて話しかけてきたあのぬいぐるみだ!」(心の中の叫び)
全身の血の気が引いて行きます。何で今まで忘れていたのでしょうか。

「なぁ、あの子かわいいな」
右の席の長谷川 悠太(はせがわ ゆうた)が突然小声で話しかけてきました。
「新谷、あの子のことずっと見てるけど一目ぼれでもしたのか?」
「見ているのはぬいぐるみだ!」と言うと変に見られるので「違う」と返事をしました。
「まぁ、いいけどさ」
長谷川はそれだけ言うとそれ以上は追求してこなくなりました。

その日、午前中の授業の内容はまったく頭に入っていません。ずっと立花さんと彼女が持っていたぬいぐるみを観察していたからです。
彼女を観察した結果はこうです。
身長は160cmぐらいで僕と同じぐらいです。髪の毛は長くて黒い、なんか変な編み方をしています。スタイルはかなりいいほうだと思いました(特に胸)。顔色は日本人って感じです。だけど表情は暗くて、独特の雰囲気を漂わせています。
2限目の英語の授業では、英語の先生である田中先生(女性)に、
「では、この英文の訳を転校生の立花さんにやってもらおっかなぁ~?」
と質問されたときは、クラスのみんなの注目を集めました。
彼女は最初、モジモジしながら下を向いて何かブツブツと小言でしゃべっていました。しかし、それから英語の教科書の2ページ文をスラスラと日本語で話していったときは、先生もクラスのみんなもポカ~ンと呆けていました。
また、3限目の国語の授業のときは、大野先生が、
「誰か兼好法師の徒然草の冒頭の文章を言えるものはいるか?」
とみんなに向かってを質問しました。でも誰も手を上げませんでした。
そこで大野先生は何かいいことを思いついたような顔をして、
「では、転校生である立花に言ってもらおうかな」
その言葉でみんなが立花さんに注目しました。
何でこの学校の先生たちは転校生に問題を当てたがるのでしょうか。いいことだと思っているのでしょうか。転校生がみんなと早く仲良くできるように話す場を与えているのだとは思うけど、もし僕が転校生だったらそれはいい迷惑だよ!
僕も気になったので彼女の方をチラリと見ました。
「無理ならいいぞ」
大野先生はそう言ってから前を向いて黒板に「徒然なるまま…」と書き始めました。
それを見た立花さんは、また何か下を向いてブツブツと小声を言ってから、
「つれづれなるままに、日くらし、 硯(スズリ)にむかいて、心に移りゆくよしなし事(ゴト)を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。……いでや、この世に生れては、願はしかるべき事こそ多(オホ)かンめれ。 御門(ミカド)の御位(オホンクライ)は、いともかしこし。竹の園生(ソノフ) の、末葉(スヱバ)まで………」
その先は全く耳に入ってきませんでした。立花さんは英語の訳を言ったときと同じようにスラスラと答えました。僕の前の席の女子は、後ろを向きながら廻していたペンを落としてしまいましたが、その落としたペンを拾うことなく、立花さんの方を向いてじっと見ていました。みんながそんな感じで、しばらく1分ぐらい先生も教室のみんなも「ボケ~ッ」と呆けていました。

そして、今は昼休みです。
4限目は観察するのに疲れて眠ってしまいました。4限目までは、ぬいぐるみは別に動きもせずに、立花さんの膝の上でじっとしていました。今のところは普通のぬいぐるみです。
「あの出来事は僕の妄想で、たまたま偶然に偶然が重なってアレに似たようなぬいぐるみを持った天才転校生が、この学校に転校してきただけかもしれない」と僕は思い始めていました。そんなことを考えているうちに眠ってしまったのです。起きたらもう昼休みが2分ほど経過していて、立花さんは教室にはいなかったです。
うーん…と、背伸びをして体をほぐしました。直後、僕のお腹がキュルギュルと鳴りだしました。朝、美鈴のせいで全然食べられなかったせいです。
「なんでこの学校には給食がないんだよ。売店に買いに行くのメンドイなぁ。」
僕はグチを言いながらしぶしぶ立ち上がりました。そうなんです。この学校には給食がないのです。みんなは、お弁当を持ってくるか、売店でおにぎりかパンを買って、飢えをしのぐしかないのです。
僕は気だるい体を無理やり立ち上がらせて教室を出ました。廊下のほうが教室の中よりも空気がうまかったような気がしました。もう一度背伸びをしてから、僕は階段を降りて1階にある売店コーナーに向かいました。

そこはまさに戦場でした…。弁当を持ってこないやつらがここを利用するわけですけど、今ここにいるだけでも30人はいます。売店コーナーはそれほど広くはないので、今はギュ~ギュ~の状態です。
「ここ暑くない?」、「おばさ~ん! これいくら?」、「ねぇ~ねぇ~、アイス買ってみよっか?」、「なぁ、10円持ってない?」と、いろんな雑音が聞こえてきます。僕はあまりうるさい所は好きではないので段々とムカムカしてきました。毎日毎日こんなところにいたら気が狂いそうになりますねぇ!
そう考えながら、こいつらを押しのけてパンが置かれている場所を目指します。ここにいる奴等は慣れた手つきでパンやおにぎりを選んでいくので、人気商品はすごい勢いで消えていきます。

あと、どのくらい残っているのでしょうか?
やっとの思いでパンコーナーの前に立ちます。見てみると、見事に人気の高いパンたちは姿を消していました…。
「ヤッキー(焼きそばパン)…、インド(カレーパン)…」、心の中で彼らがいないことを悲しみます。しょうがないので、残っていたアンパンとメロンパンを手に取り、飲み物にオレンジジュースを選びました。
レジのおばさんの前に無言でパンとジュースを置きます。
「340円です」
おばさんは瞬時に計算して値段を言いまいた。財布の中から350円を取り出してカウンターに置きました。
「10円のお返しです。ありがとうございました」
…あんたはコンビニの定員の方が合ってるよ。
と、最近いつも思います。

この場所から立ち去るときも大変で、こいつらに挟まれてパンがつぶれないようにするのにも無駄な体力を使う羽目になります。パンを手でガードしながら無理やり突き進んでいきます。なんとかうまくこの場所から出たときはいつも達成感があります。ふと、横を見ると長谷川もこの群衆から抜け出そうとしていました。

「ぷはぁっ…!」
そして、二人で同時に戦場から逃げ出しました。
「よう、長谷川」
一応友達なので声をかけてみます。
「ん? なんだ新谷か。もう起きたのか?」
長谷川は右手にヤッキー(焼きそばパン)とおにぎり一個、左手にウーロン茶の入ったペットボトルを持っています。
「なんで起こしてくれなかったんだよ?」
寝ていたせいで、立花さんがどこに行ったかがわからなくなってしまっただろうがぁ…!
「だって、寝顔がかわいかったんだもん」
ガスッと右足で長谷川のお尻を蹴りました。
「照れるなよ」

僕は長谷川の声を無視して教室に戻ることに決めましたが、長谷川は僕の後についてきました。キモイです。
後ろの方で長谷川が、
「思春期か…」
と、つぶやいたことを僕は聞き逃しませんでした。
とりあえず、振り向いて長谷川の首の秘孔を突いておきました。

教室にある時計を見てみると12時15分でした。教室の中を見渡してみても、立花さんの姿はどこにもありませんでした。
自分の席に座り、メロンパンの袋をちぎって中身を取り出し、メロンパンの一片を口の中に放り込み、いつものように窓の外を見ながら食べ始めました。

「空は青いし、風は穏やかだし、木はきれいな赤の花を咲かせているし、肩にぬいぐるみを乗せている立花さんも見えるし、ここからの風景はパンを食べるのには最高の眺めだなぁッ~~! って えぇッ~~!? ぬいぐるみが立花さんの肩に乗ってるぅ!?」

「うるさいです、新谷君」
後ろの席にいる学級委員の沢田 由井(さわだ ゆい)さんに怒られました!
後ろを見てみると、沢田さんは可愛いらしい弁当を食べながら、ジッとこっちを可愛い顔で見ていました。
たったそれだけで、「ズキュ~ンッ」と僕の赤いハートは打ち抜かれてしまうんです! 粉々になった僕のハートのカケラが目の前を漂流しています。
僕はいつも沢田さんと話そうとするとこのようの状態に陥ってしまい、その結果恐らく、心拍数が40、血圧が60も上がってしまうのです!
なので、段々とおかしくなっていく僕の顔を見ていた沢田さんは、すぐに窓のほうに向いてしまいました。僕はしょんぼりしながら体の向きを元に戻しました。

「ごめん、沢田さん…、食事の邪魔をしちゃって…」
僕は、自分の机を悲しく見つめながら言いました。
「…あの、何で立花さんは学校を出ようとしているのですか?」
その声に「ん?」と反応して、また僕は沢田さんの方を向いてみました。すると、沢田さんは窓の外の方を指で差していました。
その方角に目を向けてみると、立花さんが自転車に乗って、正門を通り過ぎてどこかに行くのが見えました。
「あれ? お~い、立花さ~ん。どこ行くの~?」
絶対に立花さんには聞こえない音量で言いました。だって、僕はシャイだから…。
でも、
「たぁ~! ちぃ~! ばぁ~! なぁ~! さぁ~ん!! どぉ~! こぉ~! にぃ^! いぃ~! くぅ~! のぉぉッッ~~~!!?」
ものすごくでっかい声で沢田さんは叫びました。大気が揺れて、風が轟きました。近くにいたもんだから、僕の耳がキ~ン、キ~ンと鳴っています。
でも、そんなでっかい声にも立花さんは反応しなくて、しばらくすると彼女の姿は見えなくなりました。
「私の“絶対に聞こえてるよね!? ボイス”を無視するとはいい度胸ですね」
不屈の笑みを浮かべて沢田さんは言いました。僕は、「そうっすね…」としか言えなかったです。
「新谷君、頼みがありますぅ~~~」 注:(沢田さん)
突然、エンジェルスマイルを浮かべながら僕を見つめる沢田さん。しかも、初めて聞く口調で、
「な…、なんですか?」
「私は学級委員です、よって、一応クラスの出席に関しては責任があるのです」
「うん…、立派だね沢田さんは!」
「そうですか? じゃあ~、私のこと立派だと思うのでしたら、頼みゴト聞いてくれますか~?」
「いいよ、何でも僕に相談しなよ!」
「よろしいですか…、では…、さっき立花さんが、どこかに黙って行ってしまわれたでしょう?」
「うん、そうだね! でもそれがどうかした?」
「もうっ、ニブイんですね~、新谷君ってぇ~。私の言いたいことわからないのですか~?」
このシチェーションはもしやッ!? 
僕の心臓の鼓動がシュポシュポっと機関車のように早くなります!
「(ドキドキ…)えっ? それってもしかして…、立花さんを…」
沢田さんはデビルスマイルを浮かべながら、
「うん、そうですよぉ~、新谷君に彼女を連れて帰ってきてほしいのです!」
「えっ、なんでだよ!? 何で僕がそんなことしなくちゃいけないの!?」
ここは一応抗議してみます!

でも沢田さんがぁぁッッ~~~!
「ううぅっ…! 新谷君は…、私の相談にのってくれるって…、仰ったのにぃ…! ヒッグッヒッグッ…、新谷君はうそつきだったんですね」
その時、僕の右肩の上に天使(身長5cmでしかも裸で、背中に翼が生えてて、頭の上に金色のわっかがある僕)が「ポムッ」と現れて、耳元でつぶやきました。

「ウオォォッッ~! 何言ってんだよあんたは!? 沢田さんに嫌われるちゃうじゃないかぁッ~! アホ~! 早く謝れ!」
その言葉で僕は正気を取り戻しました。(注:ここでの正気は本当の正気じゃないから)
「ごめん沢田さん! 僕のこのイカれた脳みそはどうにかしていたよ!」
僕は地面にひれ伏して、土下座しながら言いました。
「うぅん、わかってくれたのならいいのです。じゃあ、早く行ってきてくださいね」
沢田さんは窓の外を眺めながら言ってくれました。
「うん! じゃあ、僕行ってきま~す!」
そうして僕は体を翻して、鞄も持たずに突風のように教室を出て行きました…。


”自分に厳しく、地球に優しく” 第1幕

和也の5年前のお話です。
前まで書いていた小説ですが、途中で子猫娘の誘惑に負けて続きを保留にしてしまった作品です。
ちょっとずつ書き直しながら読んでみましたが、やっぱり面白いですねっ! いや、マジで!
今回、リメイク板で堂々と再登場することに決めましたッ!

では、第1幕 スタート!



第1幕  仲良しこよし



2009年5月23日は僕(新谷 和也)にとって最低の日でしたよ…。
どのくらい最低かと言うと、パソコンにコーヒーをこぼしてしまって、まずはパソコンが破壊される。キレた自分がそのパソコンを外に投げ飛ばしたら、偶然、外にいた総理大臣に激突し、「おぅちっ、あの少年をつ~かま~えなさ~いっ」と叫ばれる。そしてエージェントに追われる生活が始まり、僕の人生がズタボロになっていく…。よりも最低ですねっ!
では、僕の苦悩振りをごくと堪能してくださいぃ!



僕の名前は新谷和也(しんたに かずや)。私立萩原中学校の2年生です。5月23日のAM:6時に起床しました。

――――――全身、汗だくで!

理由は簡単です。何故なら、僕の妹がわざわざ早起きして石油ストーブを僕の顔から10cmのところにセッティングしておいたからだぁぁぁっ~!!(キレ気味)

ちょっと呼吸器官が麻痺していて「ヒィ~ス…! ヒィ~ス…!」と呼吸してしまうし、頭もグルングルン揺れている状態ではあるけれど、それを除けば全身の筋肉たちは喜んでいることでしょう。
なぜ妹が犯人だと僕にはわかったのか…。それは、ご丁寧なことに僕とストーブの間に、

「バカ兄貴の最後」

というお札(おふだ)が置いてあったからだぁぁッッ~!(マジ切れ)

僕はストーブの電源を消し、2分間ゆっくり深呼吸してから立ち上がりました。カーテンを開けると、清々しい朝日が僕の目に飛び込んできました。
ふと、前下の道路を見てみるとスズメが3匹「チュン、チューン!」と鳴きながら地面をつついていまいた。鳴き方がちょっと変だと思いました。

「今日も一日平和でありますように」と心の中の神様(白くて長いヒゲを生やした僕)にお願いしながら、2階と1階をつなぐ階段を僕はゆっくりと降りて行きました…。

一階のリビングには、すでに朝食を食べ始めている僕の家族がいました。
父と妹はテーブルに座っていて、母は包丁をヒュン!ヒュン!と回しながら、まな板の前に立っています。驚くことに、空中では次々と野菜が切り刻まれています。

僕の家族は僕も含めると合計4人です。
自宅近くにある“新谷クリニック”の所長であり、ツボ師でもある父の新谷 秋夫(しんたに あきお)、そして、日本という国の至って標準的な主婦であると思われる母の新谷 智代(しんたに ともよ)、そして、僕と一歳違いの妹の新谷 ベルセルク。
…ではなくて、新谷 美鈴(しんたに みすず)と暮らしています。
ちなみに、妹の学校でのあだ名は“ベルセルク”です。顔は悪いというわけではなく、むしろ僕に似ていてイイほうだと思うけど…、性格はまさに凶暴な“野獣”なのです!

「いつからこんなになってしまったのか…」
僕はそんなことを思いながら、飲もうと思ってコップに入れたオレンジジュースを、思いっきり「バッシャァ~~~ン」と妹にぶっかけました。
直後、

「うっぎゃッッ~~~!」   

っと、リビングに女の子らしくない悲鳴があがりました。
オレンジジュースでびしょぬれになった自分の制服を見てから、美鈴はキッっとこちらをにらみつけました。
「何てことするのよ、バカ兄貴!」
すかさず、
「うるさいっ、この兄の命を狙う暗殺者め!」

第45次新谷家大戦の勃発です!
先に核ミサイルを発射したのは美鈴でした。テーブルの近くにいたからです。
手の届く範囲にあったコショウを手に取り、すかさずフタを外して、僕に向かってコショウの黒い粒を華麗に振り撒きました。
僕はその攻撃を予想していたので、先にコップに牛乳を入れながら目を閉じて反撃体制をとっていました。
コショウの集中砲火を全身で受け止めること約2秒。口にためていた息でコショウの霧をなぎ払う僕! (ブフゥッ~~!っとね)
次の瞬間、僕は敵の位置を目で確認し、すかさずこちらも新兵器“白い彗星”を発射しようとしていました。妹は次の武器である“塩塩エンドレス”に手を伸ばしていました。
遅いよ…、僕は白い液体がたくさん入ったコップを妹の方に向けました。っと、その時に予期せぬ第3者が介入してきました。母の智代です!
恐らくは新谷家大戦における最最最終兵器である“包丁”をこっちに投げたのですぅ!

――――――ブゥ~ンッッッ!

その轟音を発生させた包丁は、僕の右耳のすぐ近くを通過して向こうの壁に突き刺さりました! 
その信じられないような出来事に、一瞬で凍りついたのは、リビングにいる者の中で僕だけでした…。美鈴なんてニヤリと微笑みましたからねっ。
「やってやり返されたのだからもうその辺でやめておきなさい。仲が良いにもほどがありますよ」
母が優しい声で言いました。
ふっ、お母さん…。僕はお母さんのその言葉をちゃぁ~んと理解できますよぉ~。
だから、「やられて、やり返して、やられた」のだから次はこっちの番ですよ! ね?

しかし! 母は「石油ストーブで兄貴をやっつけよう作戦」の事件を知りません。
このまま“白い彗星”を発射してしまうと、僕の家族内の評価が下がってしまう…、っていうか、お母さんに殺される!?
しょうがないので右手に持っていたコップをテーブルの上に置きました。
「今日は潔いな」
お父さんは新聞でガードしながら今日の第一声を言いました。
「美鈴とは違ってだんだん大人になっていってるからね。多少のことでは…」

――――――ガスッ!

まぶたでガードされている目ん玉に何かが当たりました。ちょっとだけ涙目になる僕。
「な~にがぁ“大人に”だよ! このバカ兄貴!!」
下で転がっている物はさっきのコショウのフタでした。
「運動神経もトロくて勉強神経もトロいバカ兄貴が“大人”なんて言葉を使うなよ」
僕は怒らないぞ。
「彼女もいないくせにな~にがぁ“大人”だよ!」
僕は怒らないぞぉ…!
「バカ兄貴の人生なんて、そこの牛乳みたいに真っ白だよ!」

僕の脳内の回線が4本ぐらい切れて、目の前が真っ白になりました。

そして、僕の真っ白な人生の象徴である牛乳を美鈴に思いっきりぶっかけました!



空は、もうすっかり明るくなっています。風は少し温かい感じで、もうすぐ夏って感じがして嬉しいです。
僕は四季の中でも夏が一番好きです。何故なら、美鈴は夏が一番嫌いだからです。
現在、AM:7時2分です。場所は萩原市の南側にある萩原山を少し登ったところにある萩原公園です。学校が始まるまではまだ少し時間があるので、僕のお気に入りスポットに入っているこの公園に来たのです。山の上にあるので、来るのに少し疲れました。

やっと着いた公園の中には自分ひとりしかいなくて、周りには誰も見えませんでした。あの後、僕は美鈴が“白い彗星”に絶叫している間に退散を決めました。テーブルの上にあったクロワッサンを素早く手に取って口に咥え、2階に上がって自分の部屋の床に置いてあった制服と鞄と財布を持ち出し、大急ぎで階段を駆け下りました。リビングを見てみると美鈴が台所の蛇口の前で顔を洗っていました。
「余裕、余裕っ」と僕は靴を履き、玄関の扉を開けました。
「覚えてろよぉッ~、バカ兄貴ィィッ~~~!!」
その言葉は毎日聞いているから忘れないよ…、と僕は扉をバタンっと閉めました。

そして、現在は公園のトイレで制服に着替えている最中です。
着替えが終わると急にノドが渇いてきました。家からここまでは自転車を漕いできたし、クロワッサンも食べたし、なによりも起きてから一滴の水分も採っていないからです。
でも、ここの蛇口で水を飲むのには少し抵抗がありました。
「仕方ないな、ジュースでも買おっかな」
公園内にある林の向こう側に設置されている、ここで唯一の自動販売機まで歩いていきました。周りには誰もいません。。
「やっぱり今はポカリに限るなぁ~」
と、独り言を言いながら100円玉1枚と10円玉2枚を自動販売機に贈呈しました。周りには誰もいません。
ポカリのボタンを押すとすぐに下の取り出し口から「ガシャン」という音が聞こえました。他には風の音しか聞こえません。

僕は、しゃがんで取り出し口からよく冷えたポカリを取り出しました。目の前からは「カシャン」という缶を取り出した音が聞こえ、上からは「スタッ」という何かの着地音が聞こえました。

ふと…、顔をあげて上を見てみると自動販売機の上に何かがいました。

それは…、ライオンとタヌキを足して2で割ったような茶色をしたぬいぐるみでした。
恐らく、「これは何ですか?」と100人に聞いて99人はぬいぐるみと答えるでしょう。残りの一人は美鈴みたいに「サンドバック」と答えるかもしれません。今ヤツはいないけど、多分そう言うに違いないと思います!

さて、思考回路を接続し直してちゃんと考えてみますね。まず、これはぬいぐるみです。間違ありません。しかし、「スタッ」という音をぬいぐるみが出せるのでしょうか?
でも、現に今このぬいぐるみは二つの足で立ったままじっと上から僕を見下ろしています。あれ? 
おかしいな。ぬいぐるみが立って僕を見下ろしている…。いやいやありえないからと、自分に言い聞かせもう一度上を見てみます。やっぱりコレは二つの足で立って僕をじっと見下ろしているぅぅッ~!

僕が右に体を移動させると、コレは視線を動かして僕の動きについて来ます。僕が左に移動すると、またコレは視線を動かして僕の後について来ました。
偶然じゃない…。いや待てよ? 
僕は思いました。コレはラジコンじゃないのかと。どこかで誰かが隠れていて僕の行動を楽しんでいるのかもしれません。きっとそうだ、僕はそう確信しました。
しかし、最近のラジコンはここまで進化したかぁ~っと思うほど、コレは良い出来ばえですよ!
「まさか着地がここまでうまくできるようになるとは夢にも思わなかったよ~」
と、このぬいぐるみに感想を言ってみました。でも、相変わらずコレは無表情ですね。あっ、ぬいぐるみだから当たり前か。
「さぁってと、早いけどそろそろ学校に行こうかなっ」
僕は、そう言って後ろに振り返ろうとしました。しかしその時、唐突にそのぬいぐるみの口が少し開きました。

「おい…」

見つめ合う僕達。しばしの沈黙…。30秒後。

「あのな…」

にらみ合う僕達。しばしの沈黙…。10秒後。

「ジュースなんて買うな、ボケがぁッッッ~~~!!!」

飛び掛ってくるぬいぐるみ!!!

「ぬっ…ぬいぐるみが普通にしゃべったぁぁぁッッッ~~~!!!」

そして、僕は現実から逃げ出すために、気を失ってしまいました。


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第11幕

今回の話を書いていて、僕はちょっと泣いてしまいました。
僕はこの話のキャラのことが大好きです。みんな好きです。
和也の悲しみ、苦しみ、僕だったら耐えられませんね。和也、お前はすごいヤツだ…!

まぁ、和也の5年前の話。
今書いている話の5年前の話を、僕はずっとほったらかしにしているんですけど、先に未来の話を書いているなんてダメですよねぇ…。しかも今回の幕でちょっとだけネタバレしているような気もしますからね~。

うぉぉぉ~、どっちを先に書けばいいんだぁ~!?


では、第11幕 スタート!



第11幕  俺が俺であるために



「お風呂に入ってくるニャ~」
「あぁ…」
「覗いたらダメだからニャ~!」
「あぁ…」
「レデン、今服を脱いでいるニャ~!」
「あぁ…」
「ニャ~! レデン今裸ニャ~!!」
「あぁ…」
「ターザンの叫び声は何ニャ~?」
「あぁ…」
「ちょっと違うニャ~! ア~アアァ~ッニャ!」
「あぁ…」
「………バカァッ!」

――――――パタンッ

そして、レデンの声が聞こえなくなった。代わりにお風呂に浸かる音が聞こえた。

「学校か…」
布団に寝そべりながら、天井を見て昔を思い出す。
「5年か…」
そう。そんなにも時間が経っているんだな。
「俺は…」
どうすればいいんだ? なぁ………さん………。
「俺は…」
急に涙がこぼれてきた。止められない。悲しくて、涙を止められない。
「まだ…、忘れられないのか…」
今まで必死に生きてきた。いや、必死に忘れてきた。

口調を変えた。自分のことを言うとき、僕から俺に変えた。
敬語をやめた。誰かの名前を呼ぶときは呼び捨てにした。さん付けで呼ぶなんて寒気がするぜ。
性格を変えた。いつでも強気でいるようにした。弱気になるなんて、恥ずかしくて死にそうだぜ。
学校を辞めた。今まで一人で生きてきた。誰の力も借りずに、一人で。一人で生きてきたんだよっ!

「俺は…」
手が涙でびしょ濡れだぜ…。
「まだ弱いのか…」
自分は強くなったと思っていた。
「まだ変わっていないのか…」
自分が変われば、自然に忘れられると思ったのに…・
「まだ忘れられないのか…」
胸が締め付けられる。あの思い出が心の奥底で爆発し、俺の心を圧縮しているようだ。

――――――ズキンッ

「…さん?」
ふいに、俺の心に亀裂が入ったような気がした。
その瞬間、

――――――「和也君っ、ちゃんと私の後について来なさいよっ」(?)

――――――「でも…さん。僕もうクタクタだよ…」

――――――「なに弱気なことを言っているのよっ! ほらっ、ビシバシいくからねっ!」

――――――「うわぁぁぁ~ん!」

「はっ」
目を開ける。
「今のは…」
心の奥に押し込めていた昔の記憶…。
あの子との…、思い出の記憶。
「うっ」
頭が割れそうに痛い。また! 何かが聞こえてくるッ!

――――――「…和也君…?」(?)

――――――「そう、僕だよっ、…さん!」

――――――「何で泣きそうな顔しているのよ?」

――――――「泣いてなんかいないよっ!」

――――――「そう…、よかった…」

――――――「僕のことよりも、…さんがっ!」

――――――「私の心配するなんて、まだ早いわよ和也君…」

――――――「もう無理だよっ、逃げようよっ」

――――――「あの人を止めないと…、結局は皆が死んじゃうのよ」

――――――「先に…さんが死んじゃうよっ、さぁ! 早く逃げ…」

――――――ドゴッ

首の後ろに強い衝撃が響いた。

――――――「…さん?」

気が遠くなった。

――――――「和也君…」

僕と同じ年の女の子の顔が目に映った。

――――――「今まで…、こんな私と一緒に居てくれて…ありがとう」

その子の笑顔は綺麗だった。
そして、崩れていく学校に向かって、その子は一人で走って行った…。

――――――「僕が弱いから! …さんが一人で行ってしまったんだ! 僕は…僕が嫌いだ! こんな僕なんて、消えてしまえばいいんだッ!!」 

そこで思い出は途切れた…。


――――――「ご主人様?」

気がつくと、レデンがバスタオルを頭に巻いてドアの前に立っていた。
「泣いているのニャ?」
ピンクのパジャマを着たレデンが俺の横に座った。
「泣いてなんかいねぇよ」
俺は、レデンに顔を見られないように顔を隠しながら立ち上がった。
「さてと、俺も風呂に入るか」
ドアノブに手をかける。

――――――ギュッ

「んっ?」
後ろから誰かに抱きつかれる。
「レデン…?」
俺の腰に、レデンの細い腕が回されていた。
「レデンじゃダメかもしれないけど…、今だけはこうした方がいいと思ったんニャ」
腕に強く力が込められた。
「済まないな…」

俺たちはしばらく立ち尽くした。
静かな時が流れた。
レデンの心臓の鼓動だけが、俺の世界に響いた。

――――――トクントクントクン…

俺の鼓動とレデンの鼓動。二つの鼓動が一つに重なったような気がした。
落ち着く。癒される。俺が俺でいられる…。

「レデン…」
「なんニャ?」
ピクンとレデンの腕が震えた。
「もう…大丈夫だ」

腕が離れた。
暖かい物が去っていくような余韻が残る。
「ご主人様…」
「どうした?」
俺は後ろに振り返った。

「レデンの入った後のお風呂で変なことしたらダメだからニャっ」
そこには、レデンの笑顔があった。
「プッ」
ダメだ。笑いが吹き出してしまった。
「何で笑うニャ!」
レデンは怒った。
「いや、何でもねぇよ」
俺は笑った。
「やっぱり変なご主人様ニャっ」
怒って、ベットの上に飛んで行ってしまった。
「さてと…、レデンの入った後のお風呂のお湯でも飲もうかね…」

――――――バタンッ

ドアを閉めた。
「絶対にダメニャァァァ~~~!!!」
レデンらしい叫び声が響いた。

俺は、今閉めたドアを見つめ、
「…ありがとうレデン…」
自分にしか聞こえない、小さな声でつぶやいた…。

――――――チャプン…

「ふぅ…」
いい湯だ。心も体も温まる。
体と頭を無心で洗い、もう一度湯に浸かった。

「ふぅ…」
俺は…、
「やっぱり…」
ユラリユラリと揺れる波紋を見ながら思った。
「こんなの俺様らしくねぇ…!」
波紋が激しく振動した。俺がお風呂のお湯で顔を勢いよく洗ったからだ。
「ウジウジしやがって、何様のつもりだ、俺!」

――――――パァンッ

右手で自分の頬を叩いた。

「レデンに心配されてんじゃねぇよ!」

――――――パァンッ

左手で自分の頬を叩いた。

「俺は黙って俺らしくしていろっ!!」

――――――パァンッ!

両手で顔面を思いっきり叩いた。

「………痛い」
少しだけ涙目になる。
「だが…うぉぉおぉおおぉぉ~!!」
気合十分だ。
「俺様、復活だぜっ!」
立ち上がり、両手を掲げてガッツポーズを取った

――――――ドタバタドタバタッ!

「ん?」
慌しい足音が近づいてくる。

――――――ガラッ

「何かあったんニャッ?」
レデンに俺の後ろ姿が見られている…。
「レデン喜べッ!」
俺はレデン側に向いた。
「ニャァァァ~~~!」

――――――ドタバタドタバタッ

足音が遠ざかっていく。
「俺様は復活したからなぁぁぁ~~~!」
レデンに聞こえるような大きな声で叫んだ。
「俺は俺だぁぁぁ~~~!」
何回も繰り返して叫んだ。そう…、俺は俺なんだ。もう…、僕じゃない。昔の自分じゃないんだ。


「1回死ねニャッ!」
「はっはっはっ、まぁ気にするなっ」
今は夕食中だ。
「どうかしたの、レデンちゃん?」
何故か美鈴もいる。
「さっきご主人様が、レデンにとんでもない物を見せ…」
「レデン、そこのソースとってくれ」
「えっ、はいどうぞニャっ」
レデンからソースを受け取った。
「うむ、ありがとう」
今日の夕食は美鈴が作ってくれた豚カツだ。
「うん…、今日の飯は最高にウマイなっ」
ガツガツと飯と豚カツを口に放り込みながら食べた。

「えっ、そうかな?」
美鈴が少し照れくさそうに顔を赤らめた。
「あぁ、お前の料理は最高だぞっ」

――――――ボンッ

「美鈴さんの顔が爆発したニャッ!!」
「大丈夫か美鈴っ!?」
俺とレデンが美鈴の様子を伺う。
「ちょっと…、タバスコをかけ過ぎたわ…」
「豚カツにか…?」
そもそも、タバスコなんて物はテーブルの上に存在していない。
「私の好物なのっ」
そして、美鈴は下を向きながら、黙ってまた食事をし始めた。
「そうか…」
俺とレデンも食事を続けた。ふぅ、なんとか危険を回避できたようだ。危なかったぜ。

「あっ、そうだ美鈴」
びくっと美鈴の肩が震えた。
「な…なに?」
何故、上目使いで俺を見る?

「食事が終わったら、レデンと俺は出かけるからな」
「えっ、そうなんニャ?」
レデンは口の中をいっぱいにしながら、一生懸命に答えた。
「…どこに行くの?」
いつも道理の美鈴がそこにいた。

「…萩原学園だ」

――――――カシャン…

「あっ」
美鈴は手に持っていた箸を床に落とした。
「なにやってるんだよ」
「ほっといてよ」
美鈴は落ちた箸を拾うと、キッチンでそれを水洗いし、タオルで拭いてからこっちに戻ってきた。
「ちょっとだけびっくりしただけよ」
そう言ってまた食べだした。

「…何も聞かないのか?」
箸を動かしていた美鈴の手が止まった。
「聞く必要がないわ」
美鈴の瞳が俺の目を見つめる。
「これはバカ兄貴の問題よ。私は…、聞いても何も答えられないから…」

――――――モグモグモグ…

レデンの食べる音だけが、異様にでかく聞こえるような気がする。
「そうか…」

――――――モグモグモグ…

「でも、これだけは言っておくわ」
「何だ?」

――――――モグモグモグ…

「レデンちゃんを夜更かしさせたらダメだからね」

――――――ゴックン

「うん、レデン、すぐに眠たくなってしまうニャ」
すでに目をこすっているレデン。
「バカ兄貴、わかった?」
美鈴は本当にお節介と言うか何と言うか…。
「了解した」
良くできた妹だった。



「ここかニャ?」
「あぁ…」
5年ぶり…。遠い昔の記憶。
俺の中にあった風景と、目の前にある風景は全くの別物になっていた。
「まぁ、あれだけ破壊されたらな…」
目の前に広がる景色に圧巻、と言うか驚愕してしまっている俺様がいた。
「ねぇねぇご主人様ッ、ここってどれくらいの広さニャっ?」
「ん~…」

昔、新聞を読んで知った。
破壊された萩原中学校を、ある人物が土地ごと国から買取り、そこを中心に周りの土地も買い占めたことを。
そうして、隣接していた周辺の小学校、中学校、高校を統合させた萩原学園を誕生させた。
規模、影響力、資産、これらで全て日本一の学園だ。

「広すぎて分かんねぇ…」
学園内には大きな建物が立ち並び、校門はクソジジィの屋敷の門よりも巨大だった。
「中には入れそうにないニャァ…」
「そうだな…」
ざっと見たところ、入り口は校門しかなさそうだ。他の入り口はどこにあるか見当も付かない。学園を一周するだけで1日かかるらしいしな…。

「レデン、学校って初めて見たニャ~」
レデンは校門の中を見ようと、鉄格子の間から向こうをじっと見ている。
「外灯が綺麗だニャ~」
「あぁ」
校門から校舎までは、外灯が立ち並ぶ並木道が続き、そのはるか向こうには日本一でかい時計塔がたたずんでいる。
「あの大きな時計は何ニャ?」
「あれは…」
俺の記憶の中にも、あの時計塔があった。
「頑丈な時計だ」
「もうちょっとロマンチックに言えニャ…」
ガックリと肩をうな垂れるレデン。
「本当に頑丈なんだからしょうがねぇだろ」
そう…、あの出来事の後…、あの時計塔しか残っていなかったんだからな…。

「ご主人様はここへ何しに来たんニャ?」
そのとき強い風が吹いた。
並木道に植林されている木々たちが、ザワザワと音を奏でて揺れだした。その音が俺に、「まだ迷っているのか?」、「まだ決めていないのか?」と言っているように聞こえてしまう。
「…ご主人様?」
首をかしげるレデン。

「…約束しにきたんだ」

風が止んだ。
「何をニャ?」
無風の中、俺とレデンの周りにだけ他と違う空気が流れた。

「もう…、俺は過去から逃げないということを」

俺の言葉に、さきほどよりももっと首を傾げるレデン。
「レデン、良くわかんないニャ~…」
「はははっ、レデンには感謝しているぞっ」
「全くわかんないニャ~…」
家の方へと歩きだすレデン。
「おい、もう帰るのか?」
「もう眠たいニャ~…」
確かに、足元がおぼつかなくて危なっかしいぞ。
「すまん、もうちょっとだけ待ってくれ」
「グ~」

もうすでに寝てしまっていたッ!

「すぐに終わるからな」
俺は上着をレデンにかけてあげて、再び校門の前に立った。

「…もう一度ここへ来るとは思いもしなかったよ…」
あのころの口調に戻っている俺がいた。
「ここへは…、もう二度と来ないと思っていたのに…」
…さんが、いなくなってしまった場所だから…。
「でも、もう大丈夫…」
俺は、座って寝ているレデンを見た。
「今はレデンが僕のそばにいるから…、悲しくないんだ」
すやすやと可愛い寝息が聞こえる。

「確かに昔…、ここで悲しいことが起こってしまったよ…」
もう…、俺は泣かない。
「でも…、楽しいことの方がたくさん在ったんだね…」
ほとんどイジメられていた記憶しかないけどな。
「君との思い出は…、本当に壮大で、楽しくて、きつくて、泣いて、笑って、絶叫して、そしてまた笑って…」
本当に、楽しい思い出だ…。
「だから…僕はもう泣かないよ…。でも、ケジメだけはつけようと思うんだ」
グッと握りこぶしを作った。

「立花さんとの思い出を、笑って思い出せるように、僕はここで教師としてしばらくの間過ごしてみるよ。そして、強くなって見せるよ。だから、もう僕は大丈夫だよ」

立花さんの名前を口に出してしゃべったのは、5年ぶりだ…。

「立花さんに鍛えられたからなんとかなるよっ。やっほ~い!」
…変なポーズを取ってしまった。恥ずかしい…。

「…じゃあ、もう僕は行くよ」
校門に背を向けた。
「この仕事が終わったら、もう一度報告しに来るからね」
レデンの元に歩こうとした瞬間。

――――――「バカね…」

「えっ?」
ものすごい勢いで後ろに振り返った。
でも、そこには誰もいなかった…。
「…気のせいだいだよな? はぁ~…、まだまだ俺は弱いなぁ…」
自分の妄想壁に呆れてしまった。何をやっているんだよ、俺は…。

「…帰るか」
寝ていたレデンをおぶってやった。
「フニャ~?」
背中から声が聞こえた。
「おっ、起こしたか。済まんな」
「もう、終わったのかニャ?」
「あぁ、終わったぞ」
「よかったニャ…、ご主人様に聞きたいことがあったんニャ」
「何だ?」

レデンの息が首筋に当たってくすぐったいぞ。

「学校って、何をする場所ニャ?」
「何だ…。レデンは、学校とはどういう場所か知らなかったのか…」
「だって、まだ教えてもらっていないニャ~」
すねたように言う。
「はははっ、すまんすまん。いいかレデン、学校と言うところはだな…」

俺はレデンに、学校とは楽しくて、友達ができて、遊べて、良い思い出がいっぱいできる場所だと教えてあげた。レデンは終始ずっとはしゃいでいて、そんなレデンを見て、俺も楽しくなった。

家に着いたときは、レデンはすでに寝てしまっていた。
「明日から…、忙しくなるぞ」
レデンをベットに寝かしつけると、俺も布団にもぐりこみ、

「立花さん…、俺はもう大丈夫だ…」

――――――グー…

久しぶりに、すぐに寝てしまった…。




(次回予告)

過去を乗り越えることに決めた和也は、次の日クソジジィの屋敷へと向かう。
しかしその時、クソジジィの身にっ………!

まぁ、ギャグみたいなことが起こっていますw


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第10幕

今日は、友達が横で大工道具を研いでいました。僕はその光景を眺めながら、キーボードに向かって修羅のごとくタイピングしていきました。
こんなに集中して書いたのは久しぶりです。今回の話では、とんでもない話が目白押しです! 
辛口のコメントから、甘口のコメントまで、意見があったら書き込んでくださいよっ!

では、第10幕 スタート!



第10幕  仕事依頼



「まず初めに…、和也よ。生命とは…、どのようにして進化したか知っておるか?」
「はっ?」
神妙な空気の中、クソジジィはその空気をぶち壊すような発言をした。
「突然なんだ? 変な話を始めやがって。萌え忍はどうした」
全く…、ボケが始まったのか?

「むぅ、済まない。だが、和也はこの話を聞かなければならない」
クソジジィは至って真面目だった、いや、真剣と言うほうが正しいな。
「分かった。続けてくれ」
俺は何を言われても無言でいるということに決めた。

「感謝するぞ、和也」
クソジジィの口がまた開いた。
「生命が誕生して以来、生命は止め処なく進化を繰り返している」
なんだか化学の授業みたいだな。
「しかし、何故そこまで生命は進化することができたのであろうか…。いろいろな説がある。ウィルス説、宇宙人説…。だが、どれも違うとワシは思う」
時雨も「うんうん」と頷いている。
「そしてワシが到達した答え…。それは“萌え”じゃった…」

――――――ブフゥ!

「なんじゃい、汚いぞ和也」
「す…済まない。話を続けてくれ」
つい吹き出してしまった。何だか異様に恥ずかしくなってきたぞ。

「単細胞は本能で思った。“もっと細胞がほしい、細胞萌えぇぇぇ~!” その強烈な思いのパワーで生命が息吹いた。萌えとは…、そう、息吹く力じゃ。生命が一歩上に上り詰めるために必要な凄まじいパワーじゃ」

俺の心臓の鼓動がどんどん高まってきた。…クソジジィの話は続く。

「多細胞は思った。“もっと自由がほしい、自由萌えぇぇぇ~!” 魚類は思った。“普通に歩きたい、歩行萌えぇぇぇ~!” 両生類は思った。“俺様ってカッコ良くねぇ? 俺様萌えぇぇぇ~!” 爬虫類は思った。“空飛びたい、飛行萌えぇぇぇ! 二足歩行したい。スラリと長い足萌えぇぇぇ~!” 鳥類は思った。“ふっ、今の私って萌えるキャラよね?” 人類は思った。“もっと萌えたい、進化萌えぇぇぇ~!”」

「龍之介様、お茶でも…」
息が荒くなってきたクソジジィに時雨がお茶を出した。
「おぉ、済まない時雨ちゃん」
「和也さんもどうぞ」
俺の前にもお茶が入ったお碗が置かれた。
「あぁ、済まない」

――――――ズズズゥ…

二人同時にお茶を飲む。高まった胸の鼓動も収まってきた。
「ふむ、では話の続きをするかの」
「あぁ、頼む」
俺はもう、クソジジィの話を一言一句漏らさないように、必死で聞く態度をとっていた。

「さっきまで話したとおり、生命は“萌え”によって進化してきたとワシは考えておる。萌えることにより、そこから生み出される凄まじいパワーは昨日のワシを見てみても分かったじゃろう?」
クソジジィの昨日の姿…。確かに…、俺の渾身の一撃がクソジジィの硬いボディには全く歯が立たなかった。

「まぁな。確かに萌えの力は凄まじいな」
俺はその事を、身をもって体験した。

「ふむ、じゃが。大切なことはもっと他にある」
「他?」

クソジジィはもう一口だけお茶を飲んだ。

「うむ。人類は…、もうこれ以上進化してはならんということじゃ」
「ん? 何故だ? って、時雨どうしたんだ?」
時雨の様子がおかしい。手を口に当てている。何だか、泣くのを堪えているように見える。
「あぐぅ…、ちょっと失礼します…!」

―――――タッ…

さっきの言葉に時雨は耐えられなくなったのか、涙目で部屋から出て行った。
「どうしたんだ、時雨は?」
俺は開けっ放しになっている障子を見ながら言った
「まぁ、時雨ちゃんにもいろいろとあるということじゃ…」
女性に対していろいろと追求することは、俺のプライドが許さないので、これ以上は聞かないことにした。

「…で、何で人類は進化したらいけないんだ?」
俺はクソジジィに視点を戻した。
「うむ、人類がこれ以上進化すると、地球自身が壊れてしまう恐れがある」
「地球か…」
話のスケールがでかすぎて、ちょっとピンと来ないな…。
「うむ、これ以上の進化は恐らく地球の負担になる。地球を傷つけるだけじゃ。ワシはそう思っておる。じゃが…」

クソジジィがドンッと拳を畳に叩きつけた。

「“萌え忍”という組織は、そうは思っておらん!」
「萌え忍…」
萌え忍とは一体…。
「あやつらは“萌え”によって、人類を進化させ、その進化した功績を持って、世界を意のままに操るという野望を持っておるのじゃ!」

「何の話ニャ?」
レデンがカツオ節まみれでこっちに歩いてきた。
「レデンちゃんもここに座りなさい」
レデンが俺の隣に座る。
「何だか真剣な話で眠くなりそうニャァ~」
すでにあくびがこぼれているレデン。しかもカツオ節の匂いが強烈だ。
「レデン…、家に帰ったらちゃんと俺様と一緒にお風呂に入るんだぞっ」

――――――ザシュッ

「一人で入るニャ!」
「了解…」
「ワシもレデンちゃんとお風呂に入りたいのぉ…」

――――――ザシュッ

「了解じゃ…」

俺とクソジジィの顔には、痛そうな爪痕だけが残された。
「おっほん…。それでじゃ…話を戻すかの。和也よ、今までの話で萌え忍というのはどういう組織かは理解したな?」
「あぁ」
「レデンは良く分かんなかったニャ~。難しかったニャ~」
レデンが悲しそうな顔をする。
「ふっ、あとで俺が手取り足取り教えてあげるから安心しろ」
「ふっ、その時はワシも…」

――――――ザシュッ

「それでは、早く話の続きを語り合うぞクソジジィ」
「うむ!」
傷後が増えてしまった。

「萌え忍は、まだ日本でしか活動していない。しかしじゃ、時が経てば、きっと奴らは世界に勢力を広げることは間違いないのじゃ」
話し終えると、クソジジィは懐から何かの紙を取り出した。

――――――パラッ

それを俺たちの前で広げて見せた。
「これは現在の日本の萌え分布図じゃ」
紙には日本の地図が描かれており、所々に赤色で囲まれている部分がある。
「この赤い部分が萌えの発展している地域なのじゃ」
クソジジィが指を指して示した。
「ちなみに、この赤色の地域はすべてワシの経営下にあるのじゃ」
「何だとッ!?」
俺はもう一度地図を見てみる。日本の面積の約半数が赤色に染められている。
「…マジか?」
目の前にいるクソジジィはとんでもない大金持ちだった。

「これぐらいの萌えの分布が最も理想なのじゃ…」
「何故だ?」
俺には良く分からん。
「よいか。“萌え”とは…、人の還る場所じゃ。人の安らげる場所じゃ。しかし、“萌え”ばかりでは、人というものは退化してしまうともワシは思っている」
「そうか…」
俺はちょっと感心した。
「あんたはそうやって日本を守っているんだな」
その言葉にちょっと顔を赤くしたクソジジィ。

「なんじゃい、急に変なことを言うでないぞ…」
「龍之介、何だか顔が赤いニャ?」
レデンがクソジジィの顔を嬉しそうに覗き込む。
「うわっ、気のせいじゃよ、レデンちゃん! それよりも萌え忍についてじゃ!」
クソジジィの指が地図を指した。

「奴らは、この赤い分布を日本全土に広げようとしているのじゃ。奴らは、至る所に存在している。ある病院のナース。ある学校の教師。ある飛行機内のスチュワーデス…、例を挙げたらキリが無いわい。だが、奴らは必ずそうやって存在しているのじゃ」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
そんな神出鬼没の奴らを見つけるなんて、砂浜で一個の砂粒を見つけるようなものだ。

「うむ、安心せい。ワシは独自に調査して“萌え忍”の大体のアジトを見つけたのじゃ」
「本当かっ?」
なかなかやるじゃないか。
「頭を潰せば、萌え忍の構成員達も壊滅できるというわけじゃ。じゃが…」
「ん、何か問題があるのか?」
顔をしかめるクソジジィ。

「大有りじゃ。そのアジトがかなり厄介なんじゃよ。はぁ~」
ため息をつくほど厄介なのか?
「そのアジトってどこなんだ?」
しばらく沈黙したクソジジィだったが、
「私立萩原学園じゃ」
「何だってッ!?」
俺はその場所を…知っている。

座っていた俺だったが、驚きのあまり立ち上がってしまった。

クソジジィは俺の動揺を確認し、
「そう、日本最大の学園にして…、和也…、お主の母校じゃ…」
「えっ、そうなんニャ!?」
レデンもびっくりって感じだ。
「おめでとうご主人様ッ! これ…、お祝いニャッ!」
俺に差し出されたものはカツオ節…。
「あぁ…、レデンが俺にプレゼントなんて初めてのことだな」
ありがたく頂戴した。

「えへへ~、褒められたニャ~」
レデンは上機嫌だ。

「困惑するのは無理はない。…落ち着いたか和也よ?」
「あぁ、大分ショックがあるが…もう大丈夫だ。レデンのおかげで落ち着いた」
俺はレデンの頭を撫でてあげた。
「ニャゥ~、ゴロゴロ~」
レデンには、本当に癒される。俺の心の支えなのかもしれないな…。

「和也よ。仕事の内容がもうそろそろ分かってきたかの?」
「あぁ…、大体読めてきた」
けっこう危険な仕事だな。

「あの学園だけは、国の管理下から離れているのでワシも手出しができないのじゃ。そこで、私立萩原学園の卒業生、和也よ。お主なら内部の状況にも詳しいはずじゃし、萌えに関してもエキスパートじゃ、まさにうってつけの人材という訳じゃ」
「あぁ…、そうだな」
あそこには…辛い思い出しか残っていないような気がする…。

「では、ヲタク専門の何でも屋の和也よ! 仕事を依頼するぞ!」
クソジジィが立ち上がる。
「仕事内容は…“萌え忍の首謀者を見つける”ことじゃ!」
「ニャニャ~! とっても楽しそうニャァ!」
「そうじゃろそうじゃろ~」
クソジジィとレデンは手を取り合って喜んでいるようだ。だが…、

「悪いが断る」

しばらく沈黙が続いた。
「…なんじゃと?」
俺の言ったことが信じられないって様子だな。
「よいか和也よ。お主で無ければいけないのじゃ。世界が滅んでもよいのか?」
「なんだか…気が乗らないんだよ…」
気が乗らない…。そう、俺様の気が乗らないだけだ。ただそれだけの理由だ。

「何が不満じゃ? 母校なら懐かしいじゃろう。学生もたくさんいるぞ。仕事が成功すれば、お主の望むもの何でも与えるぞ。ワシは総理大臣じゃ。嘘は言わん」
クソジジィの熱意が伝わる。だが…、

「済まないが…」

今回の仕事は引き受けられない…。俺には…耐えなれないかもしれない
俺は顔を伏せた。
「そうか…」
クソジジィはかなり悲しそうだ。
「済まんかった。急な話で困惑させてしまったの。お主の気持ちを全く聞き入れておらなんだわい。済まんかった」
そう言うとクソジジィは深々と頭を下げた。

「………」
俺は何も言えなかった。
「ご主人様?」
済まんレデン。俺には無理なんだ。だから、そんな悲しそうな顔をするな。

「和也よ。一応これは渡しておくぞ」
頭を上げたクソジジィが押入れらしき襖を開けた。
「これじゃ」
俺の手には教員免許証とスーツ。
レデンには萩原学園の学生証と女子用の制服が渡された。

「ジジィ…」
クソジジィは俺たちに背を向けた。
「それをどう使うかは…和也よ…、お主に任せる。焼いてもいい、売ってもいい、自由に使ってくれ。」
「ニャ~、カワイイ制服ニャ~!」
レデンは自分の前に制服をぶら下げて、ニャハハ~と嬉しそうに回転している。

「じゃが…、もし気が変わって仕事を引き受けてくれるのなら…、また明日のこの時間、ここに来てはくれないか?」
俺は………、何も言わなかった。いや、何も言えなかった。

「…今日は忙しい中、わざわざ来てくれて本当に感謝しておる。帰りの道中、気をつけての…」
そうして、俺たちは屋敷内から去った。

「ご主人様…?」
帰宅途中、レデンは何度も俺の様子を伺っている。
「大丈夫かニャ?」
「あぁ…、大丈夫だ」
これで、何回目のやり取りだろうか…。
「今日のご主人様はいつもよりも変ニャ~」
「あぁ…そうだな…」
「やっぱり変ニャ~」

レデンが心配してくれるのは本当に嬉しい。だが、今の俺には苦痛でしかない。

俺は考えていた…。
俺は…どうすればいいべきなのかと…。
どうすれば…、俺は俺のままでいられるのかと…。

あの場所は…、本当に悲しいことが起きてしまった場所だから…。




(次回予告)

和也~、一体過去に何があったんだぁ~!?


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第9幕

はぁ~…。
最近、小説を書くために友達から大量に借りた○○ゲーのせいで、逆に小説を書く時間が急激に減ってきているような気がします。
でも、今日はがんばって一気に第9幕を書き上げました。ぶっちゃけ、眠いです。

では、第9幕 スタート!



第9幕  相良 龍之介



――――――ボリボリボリボリ…

「レデン、食べ歩きはお行儀が悪いぞ」
「そんなのどうでもいいニャ~」

――――――ボリボリボリボリ…

何だか最近、レデンが俺の言うことを聞かなくなってきている様な気がする…。美鈴のせいだ…。

今、俺とレデンは町からちょっと離れたところを歩いている。俺たちが住んでいるところよりもずっと緑色が多い。空気も澄んでいてウマイ。レデンは家からずっとカツオ節の塊をかじりながら歩いていて、レデンの周りにはそれはすごい匂いが充満している。ちょっとしたカツオ節結界というヤツだ。

「美味しいニャ~」

隣からは幸せそうな声がずっと聞こえている。
「そんなことよりもな」
俺は地図をもう一度見てみる。
「この地図おかしくないか?」
地図には大体の模式図が描かれているのだが、クソジジィの指定した場所がちょっとありえないくらい範囲が広いのだ。
「これって、隣の山ぐらいの広さだぞ?」
まぁ、東京ドーム3個は入るな。

「ニャッ!? 大っきぃ門があるニャ!」

レデンはカツオ節のクズを「つぶはぁっ!」と吹き飛ばしながら言った。俺はレデンの攻撃を神業的にかわしながら向こうを見てみた。

「げっ、何だアレは?」

そこにそびえ立つものはまさに羅生門。神木でも使って建築したかのような神々しいオーラが解き放たれている。その両側には白い壁が向こうの方までず~~~~っと続いていた。

「ん? 誰かいるぞ」

その門の前には、昨日会った「時雨」と言う名の美人秘書が立てつくしていた。

――――――シ~ン

しかし、時雨はまったくの無反応。
「何だ? 俺たちに気づいていないのか?」
俺とレデンは何となく体制を低くしながらそいつに近づいていった。
涼やかな風、安らかな木々のざわめき。それらが俺たちの空間を埋め尽くしていた。

「この人どうしたんニャ?」
「う~む、分からん」

俺たちは、めちゃくちゃ怪しく時雨に近づいたのに、時雨は全くの無反応。

「死んでいるのかニャ?」
「よし、心臓が動いているか試してみよう」

――――――ザシュッ

「…冗談だ」
時雨の胸に手を伸ばそうとした俺の手をレデンが容赦なく切り裂いた。
「多分寝ているんだろうな。ちょっと待ってろ」
俺は道端に生えていた雑草をちぎって、それを時雨の鼻の中に突っ込んだ。

――――――こちょこちょこちょ…

「ふぇ…」
時雨の顔が歪む。
「ふぇくちっ」
可愛らしいクシャミだった。

「あ…あれ?」
ようやく時雨が目を覚ます。
「よう、目が覚めたようだな」

――――――クー…

「起きろッ」

――――――ゴンッ

「あ…あれ?」
今度こそ、ようやく時雨が目を覚ましたようだ。
「次、寝たらカンチョウするからな」
「あぐぅ…、すいません。いいお天気だったので、ついウトウトと…」

――――――クー…

「う~む」
俺はどうすればいいのだろうか? 
このまま時雨を放って置いてこの門を通るべきか。それとも、親切にカンチョウで起こしてあげて、時雨に感謝されるべきなのだろうか…。
「う~む」
まぁ、いろいろと考えるのは俺様らしくないな。頭で考えるよりも、体が先に動くのが俺様さ。って、レデンどうした? 時雨の前に立って何をしようというんだ?

――――――ムンズッ!

「はぅ!?」
「目が覚めたかニャ?」
ぐふっ! な…何ていうことだ…。レデンが時雨の胸を両手で思いっきり揉んだために、時雨が起きてしまったぞ!
「あ…あれ? なんだか私…、長い間夢を見ていたような気がします」
「そりゃあ、実際に寝ていたんだからな」
俺の声に反応する時雨。
「はっッ!?」
突然、はっとする時雨。
「そうでしたっ! 私、和也という人を待っていたのでした」
「それは俺だ」
俺は自分を指差して答えた。
「あぐぅ…、すいません寝坊してしまって…」
「今までの出来事を、寝坊という一言で済ませるあんたがすごいな。しょうがないから、いろんな意味で許してやるよ」

なんて優しい俺様なんだろう。

「あぐぅ…、感謝です…」
目をこすりながら頭を下げる時雨。その時、時雨の長い髪が風に揺れて、一瞬だけ俺が見ていた風景が茶色に染まった。

「はっ、早くご案内しなければっ」
時雨が姿勢をピンと正す。
「総理がお待ちです」
「あぁ、おいレデン行くぞ~」
俺は門を下から嬉しそうに見上げていたレデンに声をかけた。
「了解ニャ~」
こっちに駆け寄ってくるレデン。その勢いを保ったまま、

「って、総理って何だよッ!?」
「って、総理って何ニャッ!?」

――――――ビシッ!

っと、俺とレデンは全くの同じタイミングで時雨にツッコミを入れてしまった。
「な…何ですかっ?」
ただ戸惑うばかりの時雨。
「おいおい、冗談にしてはちょっと笑えないぞ」
俺様とレデンは「ワタシニホンゴワァ~ッカリマセ~ン」みたいに両手の掌を天に向けた。
「いえ、冗談ではありません」
先程の時雨とは違い、今度ははっきりと発言した。

「まさか、総理って言うのは、総帥 オブ 理科部 の略語か?」
俺様はただひたすらにオロオロし、レデンはカツオ節の塊に対して、“そうり”と爪で跡をつけている。
「いえ、総理とは、総理大臣の略語です」
何をそんなに驚いているの? みたいな感じで時雨が答えた。
「ふっ、何を言っているんだ。そんな訳がないだろう」
俺は気を落ち着かせるためにその場で片手腕立て伏せをし始めた。

「突然なんで片手腕立て伏せなんかし始めるんですかっ? 自分の国の総理大臣ぐらい知っておいてください」
俺の頭の上から時雨の声が聞こえる。
「ふっ、そんなこと信じられるかぁあぁぁ~!!」
その掛け声と共に俺様は立ち上がった。
「あのクソジジィが総理大臣な訳ねぇだろうがっ! レデン、ついて来い!」
「了解ニャ!」
「えっ、ちょっと?」

――――――ダンッ!

俺とレデンはその類まれなる身体能力を生かして、高々にジャンプした。
「着地っ」
俺とレデンは門の上に着地した。
「ほえ~、高いニャ~」
確かに、俺たちが今まで歩いてきた道が一望できる。

「………あのぉ~!」
下のほうで時雨が叫んでいる。
「………危険ですので降りてくださいぃ~!」
「大丈夫だ。そんなやわな鍛え方をしていないのでな!」
俺は5mほど下にいた時雨に向かって叫んだ。
「あぐぅ…、そうじゃなくて…」
時雨の様子がおかしい。

「ご主人様…」
「ん? どうした?」
隣にいたレデンがしゃべる。
「なんだから嫌な予感がするニャ」
「ほう、それはどんな…」

――――――ダダダッダンッ!

「うわっ」
どこからともなく銃声が響いた。
「逃げるニャッ!」
俺とレデンは急いで下にいた時雨の元へ飛び降りた。

――――――ダンッ!

「大丈夫でしたかっ!?」
時雨が俺たちの元に駆け寄る。
「おい…、何でいきなり攻撃されないといけないんだ?」
し…心臓がバクバクだぜ。
「それは…、この門を通ってこない人はたとえ総理でも射殺せよと命令されているので…」
時雨の手には、微かに火薬の匂いがする銃が握られていた。

「って、お前が撃ったのかよッ!?」
「あぐぅ…、だって…」
「だって…じゃないだろうがぁぁぁ!」

やばい…。気がどうにかしてしまいそうだ…。
「ですので、門以外から中へ入ることはあまりオススメできません」
ニコっと笑う時雨。

「前途多難だニャ…」
流石のレデンも顔色が悪い。何だか急に寒気がしてきたぜ。

「では、ご案内致します~」
時雨が門を開けると、そこにはポツリと一軒の屋敷が見えた。
「こちらです」
時雨が俺たちの前を歩く。

「…ほとんどが庭だな」
見える風景のほぼ全てが日本庭園みたいだ。松、川、赤い橋…五重の塔まであるぞ。
「綺麗な所ニャ…」
隣で歩いているレデンは、どこか遠くを見ているようにまぶたを細めている。

「靴は脱いでお入りください」
屋敷内もすごかった。まさに純和風。木の香りが心地いいぜ。
「なんだか懐かしい匂いニャ」
レデンは鼻をクンクンさせている。
「ほう、この匂いの良さが分かるなんて大人だな、レデン」
「むっ、レデンはもう立派な大人ニャッ!」
拗ねた様にプイっと顔を横に向いてしまった。
「全く…、その態度がすでに子供っぽいんだけどな」
「何か言ったかニャ?」
「別に…」
「和也さん、着きましたよ」

俺たちの真正面には、横に何枚も障子が広がっている部屋があった。

「くれぐれも、総理の前では失礼の無いようにお願いします」
「はいはい…、どこの誰かさんみたいに急に銃なんてぶっ放さないから安心してくれ」
「あぐぅ…、そういうこと言う人嫌いです」

――――――シュ…

障子が開かれた。

「おぉっ、和也ではないか。良く来たな」
俺たちが招かれた部屋。その奥には和服を着て座布団に座っているクソジジィの姿があった。
「おいクソジジィ。色々と聞きたいことがある」
俺はズカズカと部屋の奥にいるクソジジィまで歩いていった。
「ほう、何でも聞いてみぃ」
俺はクソジジィの前にドカッと座った。

「まず…、昨日言った“パラダイス”って言うのは何処にあるんだ?」
「パラダイス?」
クソジジィがとぼけた様に答えてみせた。
「あぁ、俺はそれが楽しみでわざわざ忙しい中ここまで来てやったんだからな」
ここまで来るのにちょっと死にかけたんだからなっ。

「ふむ…、まず、レデンちゃん用のパラダイスはあの“カツオ節風呂”じゃ」
クソジジィが部屋の向こうを指差した。
そこには大きなプールのような物が置いてあり、その中に大量のカツオ節が投入されていた。

――――――「ニャニャニャァァァ~~~! パラダイスニャァァァ~~~!」

すでにレデンも投入されていた。
まるで札束の風呂にでも入っているように、両手でカツオ節を持ち、それを真上に投げ、そしてまた両手でカツオ節を待ってまた真上に投げるという行為を繰り返している。

――――――ヒヒヒィ、ヒヒィッ…

レデンの気持ち悪い声が聞こえる…。

「まぁ、アレは見なかったことにしよう」
俺は視線をクソジジィに戻した。
「ふむ、レデンちゃんが楽しそうで何よりじゃ」
「で、俺のパラダイスは?」
俺は、じわりじわりとクソジジィに近づいた。
「ん? 無いぞ」
「へっ?」
その言葉の意味が分からなくて、情けない声を出してしまったぜ。
「だから、無いって言っておるのじゃ」
ニコッと微笑むクソジジィ。

――――――ブチッ

「このクソジジィがぁぁあぁ~!」

俺はクソジジィを無理やり立たせて殴りかかろうとした。
「まぁ待て和也。人の話は最後まで聞くものじゃ」
「あぁ~ん?」
全く…、人をおちょくっているのかこの野郎は…。

とりあえず、俺はクソジジィを掴んでいた手を離してやった。

「うぉっほん。和也よ…、お主に仕事を依頼したい」
「はぁ?」
開いた口が塞がらなかった。
「この仕事を見事成し遂げてくれた時、和也には本当のパラダイスを与えることを約束する」
俺を見るクソジジィの目には迷いが無かった。
「ワシは総理大臣じゃ。嘘はつかんわい」
クソジジィの口から“総理大臣”という言葉が出てくるとは…。

「って、あんた、本当に総理大臣なのか?」
「うん。ワシ、総理大臣じゃ」
「かるっ、…そんな簡単に言われてもな…」
やはり、このクソジジィに実際に会ってみても、こいつが総理大臣なんてとてもじゃないが信じられねぇ。

「ほれ、これが証拠の写真じゃ」
「うぉ! クソジジィが偉そうな連中の真ん中に写っている!」
写真の中には、スーツを着たクソジジィが威厳たっぷりで立っていた。
「これ、合成じゃないのか?」
「違うわい」
クソジジィはちょっと呆れたように座りなおした。

「これでご理解できましたか? このお方は正真正銘この国の第91代目の総理大臣であらせられる“相良 龍之介”様です」
気づいたら、時雨が俺の後ろに立っていた。

「あぁ、分かったよ。ちょっとだけ信用してやるよ」
俺は精神的に疲れたので、クソジジィと同じように畳の上に座りなおした。
「ワシ…信用無い総理大臣じゃのう」
「そんなことありませんよ。もっと自分に自信を持ってください」
時雨がクソジジィの肩に手を置いて慰めている。

「…で、仕事の内容は?」
気持ちを切り替えて、仕事の話を持ち出すなんて、やっぱり俺様は大人だぜ。

「うむ…、和也も昨日見たと思うが…」
時雨はクソジジィの後ろに移動した。
「“萌え忍”…という組織を耳にしたことがあるか?」
「いや、昨日初めて聞いたな」

萌え忍…、その言葉で昨日の記憶が甦ってきた。テラメイドで普通に働いていたメイド、サユリが突然“燃え忍”という言葉を発していたな。

「“萌え忍”って、一体何なんだ?」
俺でさえ知らないことがあるとはな。世の中広いぜ。

「ふむ、萌え忍とは…」

クソジジィの口が何かを語ろうとしている。
そして、俺たちがいる部屋には、レデンの狂気によるキモチワルイ声が、BGMとして流れていた…。




(次回予告)

誰か教えて~、誰か教えて~、萌え忍人情ぅ~☆

萌え忍とは、どんな組織か判明しますw

(5年前の和也)

和也


↑ この話の5年前の和也の写真です。大体、中学2年生のときです。

はっ、レデンも書かなければっ!


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第8幕

いや~、今日は家の掃除で一日潰れましたね~。実に有意義でしたっ!
次の話も無事に書くことが出来、小説の神様に感謝しても仕切れないほどの幸福感が僕を包み込んでいます。って、なんだこの文章・・・。あっ、今お酒飲んでいるから変な文章を書いてしまうんだ~。今回はお酒飲んで書いたので、面白く仕上がっていると思います~w

では、第8幕 スタート!




第8幕  萌え忍(もえにん)



宙に舞うメイド服。
そして、空に舞い上がった一つの影。

――――――「あ~っはっはっは~!」

空に響き渡る甲高い声。
「おのれ、何ヤツじゃっ!?」
クソジジィは上を見ていた。俺もそれを見習って上を見た。

――――――「ふっ、相良 龍之介! 貴様の命。貰い受けるっ!」

俺の目に映った光景。
それは、テラメイドの屋根に立っている一人の女性。
しかし、その女性を見ていると、何故か胸が痛くなるのは気のせいか?
いや、気のせいじゃないな。
だってヤツは、俺様の大好きな“女忍者(くのいち)”の格好をしていたのだから!

「何と言うことじゃ…、まさかサユリちゃんが“萌え忍(もえにん)”だったとは…」

ッ!? 萌え忍? 何だそれは? なんだか胸の鼓動がどんどん高騰してきたぞ!
あぁっ、しまった! そんなことよりも大事なことが・・・、ってマジかよ。カメラを忘れてしまったぞ。俺様としたことがこんな凡ミスをしてしまったぜっ! 俺の携帯のカメラ今故障中なんだよっ!

「なんで泣いているのニャ?」
悔しさに負け、地面に膝を付いて泣いていた俺を心配してか、レデンが俺を哀れみの目で見ている。
「うぅっ、レデン。お前にもきっといつか分かる時が来る」
「多分、一生来ないと思うのニャ~」

――――――「そこっ、今いいところなんだから静かにしなさいっ!」

頭上から声が聞こえる。

――――――「全く…、せっかくの登場シーンが…(ボソッ)」

何故かぼやいている女忍者。まぁ、登場シーンを邪魔して悪かったよ。すまん。

――――――「気を取り直してっと…」(ポチッ)

何だ? 胸の辺りを指で押したぞ?
刹那、

――――――トゥリュリュ~~~、トゥッリュ~リュ~リュ~リュリュリュ~…

変なBGMが流れ出した。

――――――「この世に萌える人々いる限り…」

ポーズを取り始める女忍者。

――――――「萌えの真髄、貫く心得…」

おぉ~、カッコイイ! レデンも目をキラキラさせて見ている。

――――――「萌え忍…、サユリ参上!!!」(ふっ、ポーズも完璧よっ)

「ウオォォォォォォ~~~、萌え忍、萌えぇぇぇ~~~~~~!!!」

「ニャッ?」
テラメイドの周りにいた男達(俺様も含む)が歓喜の雄たけびを上げた。

「お前たち、あやつに騙されるなっ!」
地面に倒れているクソジジィが必死に何か言っている。騙される? 
違うな。今俺は猛烈に萌えているのだ。

「ふっ、笑止っ! 最早、誰にも我々の野望を止めることは出来ぬッ。だが、我らの野望
を邪魔する輩…、貴様は目障りだ。弱っているのが運の尽きだなッ!」

――――――バッ

女忍者がクソジジィに向かって飛び降りた。
「覚悟~!」
「むっ!」

はっ、このままでは二人が激突してしまうぞ。女忍者が危ないッ!

――――――ダッ

気づくと俺は走り出していた。

「喰らえ! 萌え忍奥義:押しくら饅頭!」
「危ないッ!」(俺様)
俺はクソジジィの前に立ちふさがった。

「へっ?」(女忍者)

――――――モニュゥゥゥ~~~ッ

「はぅ!」(女忍者)
何だ? この顔全体に広がる柔らかい感触は…。
「な…なんで貴様が出てくるのッ!?」
俺の視界がひらいた。女忍者は一歩後退し、右手で自分の胸を押さえている。

「いやっはっは~…、大きな胸ですね~」
あぁ、生きていて良かったぜ…。多分、今の俺の鼻の下は伸びまくっているんだろうな~。

「助かったぞ若造」
「ん?」
後ろを見ると、クソジジィが立ち上がっていた。

「さすがのワシも、今の攻撃を喰らっていたら萌え死していたかもしれん」
冷や汗をかいているクソジジィ。そんなにやばかったのかと今気づいた。

「くっ、邪魔が入った。おのれっ!」
女忍者は再びテラメイドの屋根へと飛び上がった。

――――――「もう回復してしまったか…、相良 龍之介め…」

確かに。クソジジィは昼間に来たときと同じぐらいに回復しているようだ。一発で萌え死させることは恐らくもう不可能だな。

――――――「命拾いしたな、相良 龍之介! だが、今日萌え死していれば良かったと思う日がいつかきっと来る! そのときを楽しみにしているんだなッ!」

後ろを向く女忍者。

――――――「去らばっ」 (ヒュンッ)

「消えた…」
女忍者の姿はどこかへと消えてしまった。
「もっと見たかったぜ…」
俺の悲痛な言葉だけが場を漂った。

「ふぅ…」
唐突に背後にいたクソジジィがため息をついた。
「あやつら…、本格的に始動しはじめたか…」

――――――ブロロロロォォォ…

「ん?」
向こうから何か黒い物体が近づいてくる。

――――――キキィッ

それは、黒光りのリムジンだった。次の瞬間、リムジンの運転席のドアが勢い良く開いた。

「龍之介様!」
その掛け声と共にリムジンから現れたのは、メガネを掛けた美人秘書。
「ご無事でっ」
その美人秘書がクソジジィに駆け寄る。

――――――ギュム~

そして熱い抱擁…。
「はっはっはっ、これこれ、皆が見ておる」
「ご無事で何よりです…」
泣いているのか…。
美人秘書の体が震えている。よほど心配していたんだろうな。実に不愉快だっ!
しかしクソジジィ…。貴様の今日はうますぎるぞ。まさか毎日こういう生活を送っているのか?

「よし、ではそろそろ帰ろうか、時雨ちゃん」
「はい…」
クソジジィは後ろの席に、時雨という名の美人秘書は運転席に乗った。

「あっ、時雨ちゃんちょっと待ってくれ」
「はい?」

クソジジィが乗った席の窓ガラスが開いた。
「和也という名じゃったな…。和也よ、明日は何か用事があるか?」
「明日?」
明日はレデンの特訓という大事な仕事があるのだ。
「すまないが、明日は…」
「そうか…、残念じゃの…、とんでもないパラダイスへ招待しようと思ったのにのぉ」
「…何も用事がないのだ」
「そうかそうか、では明日の正午にここまで来てくれないか」

そういうとクソジジィは俺にメモ用紙を渡した。
「この場所に行けばいいんだな?」
メモ用紙には簡単な地図が描かれていて、住所も書かれていた。
「そうじゃ、その場所に来てくれ。今日は世話を掛けてすまんかった。では、失敬」

――――――ブロロロロォォォ…

俺はリムジンが見えなくなるまで、しばらくリムジンが走り去った方向を眺めていた。
「パラダイスねぇ…」
クソジジィからもらったメモ用紙をポケットに突っ込む。
「楽しみだな」
俺は明日起こる出来事を脳内で考えてみた。
あのクソジジィの事だから、とんでもないジャンルの女の子たちを用意しているに違いない! ナース、スチュワーデス、チャイナ、先生、メイド、バニー、水着、でへへ~。考えたらキリがないぜ~。いやっほ~い!

――――――ヒソヒソヒソ…「おい、アイツやばくね?」、「目がイッちゃってるぜ…」

「はっ!」
やばいやばい…。周りのやつらの声が聞こえなかったら、このまま萌えカオスの世界に一生迷い込んでいたところだった。

「よし、レデン帰るぞっ」
俺はレデンのところまで歩いていった。
「お~い、帰るぞ~」
俺の声が聞こえていないのか? 
レデンは下を向いたまま微動だにしない。真正面で言っているのに。

――――――「ご…ご主人様…」

「おっ、帰るぞ」
やっと俺の声に反応したぜ。

「ご主人様は…、大きい胸が好きなんだニャ?」
「へっ?」
俺を見つめるレデンの瞳には、大粒台の涙が込み上げていた。
「レデンはどうせ…、胸ないニャ…」
「いやっ、俺はレデンの胸も好きだぞっ」
「嘘ニャッ! だって、さっきのご主人様の顔…、とんでもなく鼻の下が伸びていたニャッ!」
「うっ、それは…」
「ご主人様はやっぱり胸の大きい方が好きなんニャッ! バッキャロォォォ~!」

――――――ドゴッ!

「ぐはぁッ!?」
いつもの爪攻撃ではなくパンチを繰り出したレデン。腹に綺麗に入った…グフゥ…。
「どうせレデンは胸がないニャ~!」
「まて、レデンは今から大きく…」
「今ほしいニャ~!」

――――――ドゴッ!

「無茶言うな~!」
「ご主人様のバカァアァ~~~!」

――――――ドゴォォォッ!

「死ぬぅっ」
「バカァアアァァッ~~~!」
「クッ、レデン! カツオ節の塊を買ってやるぞ!」
「ニャッ?」
俺の誘惑の言葉にレデンの攻撃が止まる。
「ほら、早く行かないとお店が閉まるぞ!」
「何しているニャッ! さっさと案内しろニャァッ!」(ビチャァァッ)
レデンの口からはすでに大量のヨダレが滴り落ちている。

「こっちだ! ついて来い!」
「了解ニャッ!」

そうして、俺たちは夕焼けにたたずむテラメイドをバックに、鮮やかなオレンジ色の夕焼けに向かって走っていった…。



(次回予告)

クソジジィの正体が判明しますw



(頂き物w)

シホさんが描いてくれたレデン


***紫枋の絵日記***のシホさんがレデンを書いてくれました~。やほ~い! 僕も今度、描こ~っとw もっとツンツンしたヤツを!
和也の絵はあるんだよなぁ~。


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第7幕

第7幕  死闘(後編)


 異変はすぐに起こった。突然レデンが倒れたのだ。
「やべッ」
 反応できたのは俺だけだった。周りにいたメイドたちが呆気に取られている間に、スライディングキャッチ気味にレデンを助けることに成功。少しでも反応が遅かったらケガじゃ済まなかったぞ。

――――――「ぜ~はぁっ、ぜ~はぁっ!」

腕の中でグッタリとしているレデンを見て辛くなった。呼吸は乱れ、頬には大量の汗が流れている。こんなとき、俺が励まさなければ誰がレデンを励ますんだ。しっかりしろよ。動揺するんじゃねぇよ。レデンに無駄な心配をさせるな。
一呼吸おいてから、俺はレデンを見つめた。
「良くやったぞ、レデン。ここまでは完璧にお前のペースだ」
「あ……当たり前ニャ……」
 呼吸を乱しながらも。強がりを言う気力は残っていたようだ。一応は一安心だな。だが、こんなにも体力を消費するとは……、やはりあのクソジジィは只者じゃなかった。レデンはとんでもないプレッシャーを感じていたんだな。

「ご……、ご主人様……」
「しゃべるな。息を整えるんだ」

俺はクソジジィにレデンが疲労していることがばれないように、レデンの姿をクソジジィから見えないように少し移動させた。あと必要なことは、汗を拭いてやることだな。
「ちょっとそこのアンタ。そのタオル取ってくれないか」
壁にタオルが掛けてあったので、そこから一番近いところにいたメイドさんに頼んでみた。すると、その人はすぐにタオルを取って渡してくれた。
「ありがとう」
「どう致しましてです」
心優しいメイドさんから貰ったタオルで、レデンの汗を綺麗に拭いてやった。だが、レデンの顔色はどんどん悪くなっていく一方だ。嫌な予感がする。
 俺が心配していることを感じ取ったのか、レデンは無理やり微笑んで見せた。
「レデン……、頑張っているニャ。何だかどんどん力が湧いてくるニャ。ご主人様……、レデン偉い?」
「あぁっ、偉いぞ。俺はこんな偉いレデンのご主人様で鼻が高いぜっ。だから……、そんな泣きそうな顔をするな」
 こんなことって……、ありかよ。
見る見るうちにレデンの顔が青ざめていく……。イヤだ……、レデン……、レデンッ!
「ご主人様……、レデン……、楽しかったニャ……、今までずっと……、ありがとうニャ……」

――――――スゥ……

「レ……」
レデンのまぶたが閉じた。
「レデンッッ~~~!!! ……ほらカツオ節だ」
「やったニャッ~~~!(ボリボリッ)」
「はははっ、こらこらっ、そんなに食べカスを撒き散らすな。行儀悪いぞ」
「えへへ~、ごめんニャ~」
まるで砕断機が岩石を砕くような勢いで、レデンの口にカツオ節の塊が消えた。その途端、
「レデン、復活ニャ~!」
 レデン……、復活ッ!
「おぉ~」と周りにいたメイドさんたちから拍手が送られた。いや~、良かった良かった。

 さて、気を取り直して次いってみよ~。
「いいかレデン、よく聞け。クソジジィもお前の攻撃で大分ダメージを受けている。ここからが本当の戦いだ。だが心配することは無いぞ。お前は……、最高のツンデレ子猫娘なんだからな」
「ご主人様……、褒めても何も出ないニャ。だけど……、嬉しいニャッ」
「そうかそうか」
俺はレデンの頭を撫でてあげた。
「ニャゥゥゥ~、ゴロゴロ~……」
レデンは目をつぶってどうしようもなく嬉しそうに笑っている。よほど気持ち良いのだろうな。

「アツアツメイドスープ出来たわよ~」

奥からメイドさんが出てきた。その手に持たれているのはスープの入った皿を乗せたお盆。
「どれどれ……」
その“アツアツメイドスープ”とは如何なる物か確かめるため、しげしげとスープを覗き込んだ。
「こ……、これはっ」
スープの中には、メイドさんの形・色をしたカマボコが何枚か浮いており、それらがハートの形を成していた。

――――――ジュルッ

「おっとぉ」
思わずヨダレが口元からこぼれてしまったぜ。遂、メイドさんの形をしたカマボコを食べると言う行為が、メイドさんを食べるという行為に俺の中で変換されてしまったぜ。
「熱いから気をつけてくださいね」
メイドさんからお盆を受け取るレデン。

――――――グラァ

「ニャッ?」
 予想していなかった重さだったのだろう。お盆を持ったレデンの腕がガクンと落ちた。するとお盆が揺れ、必然的にその上に載っているスープ入り皿も揺れた。ヤバイッ。
「おっと」
急いでお盆を支えてあげた。レデンがふらついたせいで波打っていたスープは、ギリギリのところでこぼれなかった。
「大丈夫か?」
「うっ……、平気ニャっ、レデンは自分の力で頑張るニャっ!」
拗ねた子供のように言う。まったく…、強がることにことにかけては一人前だな。

「よしっ、では行ってこい!」
「了解ニャッ!」

そうして、レデンはクソジジィというラストボスの居るダンジョンへと勇ましく向かっていった。

後半戦スタート。
「お待たせしましたニャ~」
「お~、やっと来たわい」
レデンがお盆をテーブルの上に置く。
「ほ~、コレがアツアツメイドスープか」

――――――ジュルッ

「おっといかん。遂、ヨダレが出てしまったわい。このカマボコのせいでぐっと美味しそうじゃな」
あの野郎……、俺様と同じ妄想をしやがったのか? やはり只者ではないな。
「熱いから気をつけてくださいニャ~」
レデンがスープの入った皿をクソジジィの前に丁寧に置いた。
「おお、ありがとう。どれ、熱かったであろう」

――――――スリスリ

このときは気がとち狂うかと思った。クソジジィのやつがレデンの愛くるしい手をイヤらしく触りまくったからだ。
「ニャピッ!? 何するニャ~!」

――――――ザシュシュシュシュッ!

「痛いではないか」
いろんなところが爪痕だらけになったクソジジィが訴えている。いい気味だ。そのまま逝ってくれればよかったのにな。
「自業自得ニャッ」
おぉ、怒っている怒っている。俺の中で決まっている“機嫌を損ねてはいけないランキング”2位のレデンを怒らすとどうなるか思い知ったか。まぁ……、2位程度なら爪痕が体に出来るだけだが、もし万が一にでも1位の奴を怒らせたら……、考えるだけで恐ろしいぜ。
しばらく<プンプンッ>と湯気でも出ているんじゃないかと思うほど怒っていたレデンだったが、自分の仕事を思い出したらしく、メイドさんスタイルに切り替わった。
「当店では、このようなハレンチな行為をなさったお客様は、問答無用で追い出すのでお気をつけなさいませニャッ!」
「心得たわいッ!」
 まったく懲りていないな。もう100回ぐらい切り刻んだ方がいいぞ。
「では頂くわい」
クソジジィは何処で習ったのかと思うほどの優雅な仕草でスプーンを使い、スープを口元に運んだ。
「熱っ」
でもすぐに離してしまった。
「ちょっと熱すぎるの~」
文句の多いヤツだな。黙って食えないのか。
「もうっ、貸してニャッ」
見かねたレデンがスプーンを奪い取った。

――――――フ~フ~フ~

 ここで裏メイド技が発動。その名も追極。熱い料理はメイド自らがフ~フ~してご主人様に食べさせてあげるのは当たり前だよな?
 食べやすい熱さになったのか、息を吹きかけることを止めたレデンはスプーンをクソジジィの口元まで持って行き、
「はい、あ~んニャ」
「“あ~ん”だってぇぇぇぇぇぇぇぇ~~!!?」
コレは俺の悲鳴だ。
「俺だってまだ“あ~ん”はしてもらったことが無いのにぃ~! うぉ~、離せぇ~!」
突進しようとする俺を、周りにいたメイド達が必死に押さえつけた。
「我慢してくださいぃ~」
「うぉ~~~」
さすがの俺様も、メイド5人分の力で押さえ込まれたら動けなかった。だが、コレはコレで良かった……。だってムニョムニョプニョプニョだぜっ。極楽気分を味わえたからよしとするか。

――――――パクッ、モグモグ……

「う~ん、美味しいの~」
「当たり前だ~! 不味いなんて言ったら、貴様の体の皮を剥いで、熱い湯にぶち込んでやるッ!」
「はっはっはっ、可笑しいの~、どこからか負け犬の遠吠えが聞こえるわい。レデンちゃん、もう一杯もらえるかね?」
「全く……、役に立たないご主人様を持つと苦労するニャ~。しょうがないご主人様ニャ~」

――――――フ~フ~フ~

「うぉ~~~! 俺にもフ~フ~してくれぇ~~~!」

この繰り返しが、このあと五分ほど繰り返された。

――――――――――☆

「今日は大満足だったわい」
食事を終えたクソジジィは、レデンや他のメイドたちに礼を一通りした後、会計を済ませようとレジまで移動した。
「感想はいいからさっさと金払ってニャ」
何故かレデンがレジのカウンターに立っていた。お前……、いつのまにそんなことまでできるようになったんだ?
「おぉ、すまないすまない。いくらじゃ?」
「高級カツオ節の塊を3個ほどでい」

――――――バッ

「すいませんオーナー。お金は結構ですから」
突然登場してレデンの口を塞いだのはサユリというメイドさん。今までどこにいたんだ?
「いやいや、そういうわけにもいかんわい。こんなに萌えたのにお金を払わないとは、ワシの萌え魂が許さんわい」
「そうですか……」
複雑な表情をするサユリというメイド。
「それよりもオーナー」
「ん?」
クソジジィとサユリの目が合う。
「体は……、どこも悪くありませんか?」
「体? このとおりピンピンじゃい」
確かに。今すぐ滅んでもいいような体つきなのに、顔は光り輝く光沢に包まれている。
「まぁ、ちょっと萌えすぎてオーバーヒート気味だわい」
「そうですか……」

気のせいか、一瞬サユリが何か悔しそうに顔を歪めたような……。

「まぁ、とにかくサユリちゃん。今日はツンデレ子猫娘メイド喫茶の開店の日に、無理やり貸し切りにしてくれてすまなかったわい」
「いえいえ、オーナーのお願いでしたら何なりと」

……何だって?

「これなら何とかやって行けそうじゃ。これでワシの心配も無くなったわい」
「お褒めにあつかり光栄です」
「おい、話が違……」

――――――ジッ

「うっ」
俺が話そうとしたとたん、サユリが睨んできた。
こいつ、何を隠していやがる?
「では、ワシはそろそろ失礼するわい。おっと、これはほんの御礼だわい」
そう言ってレデンに差し出したものは、3枚の福沢諭吉のペラッペラバージョン。
「何ニャ、コレは?」
「ほぇ? 何じゃい、お札を見たこと無いのか」
「無いニャ~」
「そうじゃの~、コレがあれば高級カツオ節の塊が6個は買えるの~」
「6個もッ!? そ……、それはすごいニャ!!」
レデンはその紙切れを頭上に持って、クルクルと回転して喜びを表現した。
「今日は冷たくしてすまなかったニャ~。ごめんニャ~」
「何を何を……、とっても暖かくしてもらったわい」
「嬉しいこと言ってくれるニャっ。はいっ、これレシートニャ~」
「うむ、記念に貰っておくわい」
レシートをレデンから受け取ったクソジジィは、それを大事そうに胸ポケットに入れた。
「体に悪いから、もう来るんじゃニャいニャ~」
「何の何の……、ワシはまだまだ現役じゃ、……のう若造?」
「……あ~ん?」
誰が若造だよと言い返そうと思ったが、機嫌の良いクソジジィを見たらそんな気は失せてしまった。何だかご機嫌な老人っていうのは苦手なんだよな。
「けっ、まぁ……、現役っていうことは認めてやるよっ」
「はっはっはっ……、若造。名前は何と言う?」
「新谷 和也だ」
「うむ、覚えておこう」
「クソジジィ……」
「ん?」
「あんたの名前は何と言うんだ?」
 俺が名前を聞くことなんて、ちょ~稀なことなんだから誇りに思え。ほら、早く言えッ。
「ワシの名前は、相良 龍之介(さがら りゅうのすけ)じゃ」
「相良 龍之介……?」
どこかで聞いたことがあるような……。無いような……。
思い出せない。
「では、時間が無いのでこれで失礼するわい。サユリちゃん、これからもがんばってくれたまえ」
「かしこまりました、オーナー」
サユリが会釈すると、他のメイドたちも同じように頭を下げた。それが何とも言えない迫力のある見送り方で、お屋敷で何人ものメイドを雇っている主人が、メイドたちに見送られているかのようだった。

――――――カランコローン……、バタン……

「行ってしまった……」
サユリが呟く。
「まったく……、役に立たない奴らだ……」
 俺は聞き漏らさなかった。
「おい、今なんつった?」
「ひゃうっ!?」
背後に俺がいたことに気が付かなかったのか、思っていた予想以上に驚いた。
「いっいえ! なんでもありません! そ……、それよりも今日はお疲れ様でしたっ! あなた達を雇って正解でしたっ!」
「ほう」
悪いが、怪しいにもほどがある。お前怪しいぞと言ってみたい。
「オーナーに無事に適度なツンデレ子猫娘を見せることが出来、これでこのお店も無事に開店することが出来ます」
「適度……?」
「はい! とっても適度でした!」
 こいつは気が付かなかったらしい。レデンの攻撃が……、まだ終わっていないことにッ。
「くっくっくっ……」
「何が可笑しいのですかっ?」

遂、笑いがこみ上げてしまう。

「いや、すまんすまん。適度なツンデレ子猫娘はウチのレデンには無理だったようだ」
「はっ? どういう……」

――――――「ぐわぁっ!」

外からクソジジィの悲鳴が聞こえてきた。
「今の悲鳴はッ!?」
慌てた様子でサユリが外に飛び出していった。そのうしろ姿を見送った後、俺とレデンはお互いの顔を見合わせてニヤリと微笑みあった。
どうやら上手くいったようだ。
「オーナーッ!?」
「おぉ…、サユリちゃんではないか」
俺とレデンも外に出た。見ると、店から出てすぐの場所にクソジジィがうつ伏せで倒れていた。通行人も興味を持ったのか、立ち止まって何事かと観察していた。
「どうしたのですか?」
心配そうな言葉を投げかけながら、サユリは倒れていたクソジジィを抱き起こした。
「うむ……、まんまとしてやられたわい」
「何があったのですか?」
クソジジィは無言で何かをサユリに見せる。
「これは……」
サユリはそれを乱暴に掴んで引き寄せた。それは、さっきレデンが渡したレシートだった。表は普通のレシート。サユリも何がおかしいのか分からず首をかしげた。
「コレが一体どうしたのですか?」
「裏を見てみぃ」
「裏?」
レシートの裏……、そこには、

「“元気な体でまた来てニャ”?」
「ギャフッ!」

――――――ぷるぷるぷる……

「オーナーッ!?」
クソジジィの体が小刻みに震えた。萌えダメージを受けている証拠だ。
「うむぅ……、まさかここまでワシにダメージを与えることが出来るやつがこの世におるとはのう……、信じられんわい」

レシートの裏には、お客様の心を爆発させるような言葉を書いておく。
これぞ、裏メイド極意、終極。メイド喫茶における最終奥義だ。

だが、ここまで見事に決まるとは思ってはいなかった。俺の予想を遥かに超えて、レデンは急速に成長しているようだ。あまりの成長の早さに恐ろしくもある。
「もうちょっとで萌え死してしまうところだったわい」
信じられないことにクソジジィがもう立ち上がっていた
「……嘘だろ?」
こいつはすげぇことだ。まだそんな力が隠されていたのか……、コイツも化け物だな。だが、流石にダメージを受けすぎたのだろう、フラフラと体が前後に揺れている。
 ここであと一発でも萌え技を食らったなら、このクソジジィでも確実に萌え死んでまうだろうな。だが、そんなもったいないことはしない。この野郎は終極に耐えた男だ。称えてもいい。今日という日を、俺が世界の広さを知った記念日として後世に残してもいいぐらいだぜ。
「ふっ、今度きやがったら、そのときは必ず萌え死させてやるぜっ!」
「やるぜっニャ!」
俺とレデンが同じポーズで人差し指をクソジジィに向けた。その迫力にクソジジィもちょっとたじたじだった。だが、減らず口だけは叩いてきた。
「ふっふっふっ……、楽しみにしておるぞ……」
「けっ、言ってろ……」
俺とレデンとクソジジィの三人は、しばらく顔を見合わせていたが、途中で誰かが笑うといつの間にか三人とも笑っていた。何はともあれ、これで今日の仕事は一件落着ってところだな。

――――――「今度……?」

一件落着とはいかなかった。急にサユリの様子がおかしくなったからだ。
「どうしたのじゃ、サユリちゃん……?」
クソジジィも異変に気が付いたらしい。先ほどまでのおちゃらけた空気は何処かへ消し飛んでしまった。サユリは俺達から距離を取り、不気味に構えた。

――――――「今度じゃなくて……」

何をする気だ?

――――――「……今じゃダメかしらねぇッ!?」

 何かが宙に舞った。

「うわぁぁぁ~~~!」(俺様)
「ニャピィ~~~~!」(レデン)
「こ……、これは~~~!」(クソジジィ)

その時、俺たちはとんでもない出来事に巻き込まれていたのだと、ようやく気づいたのであった……。



(次回予告)

サユリの正体はっ?

まぁ、アレですよ…。 

分かるかな~? 分っかんないかな~?


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第6幕

第6幕   死闘(前半)



――――――トクットクトク……

グラスに水が満たされていく。
「では、行ってくるニャッ!」
水が満たされたので重くなってしまったグラス。それを慎重にお盆に乗せ、レデンは意気揚々とクソジジィの所に向かおうとする。
「ちょっと待て、レデン」
「ニャっ?」
 レデンを引き止める。まるで、特攻隊に出向く父を引き止める幼い娘のように。
「どうしたニャ、ご主人様?」
俺はちょっと迷っていた。このままのレデンのメイド技では、あのクソジジィを萌え死することはできないのではないかと……、あのクソジジィは異常な萌え猛者だ、生半可なものは通用しない。そう……、俺の経験が言っている。だが……、いいのか? 封印を解除してしまっては、一体何が起こるのか俺にも予測不可能になってしまう……。やっぱり危険すぎるッ。 
「ご主人様?」
レデンが心配して、悶えている俺様の顔を覗き込んできた。その表情はあまりに無知で、無垢なもの。汚したくはない。だがッ、だがッ……、
「レデン……」
「ニャ?」
くっ……、チクショウッ!
覚悟を決めた。

――――――「……裏メイド技の使用を許可する……」

その場にいたメイドさん達の顔色が急に青くなった。まぁ、当然の反応だな。
「ご主人様……?」
レデンの持っているお盆がカタカタと震えている。何で震えているのかは分かっている。だが、今の俺にはその震えを止める手段はない。どんな言葉をかけても無意味だ。自分で自分を落ち着かせ、己の壁を越えなければいけない。そうしなければレデン……、俺達は負けてしまうんだ。
「頼んだぞ……」
俺はこの判断をした自分が許せず、この悔しさを紛らわさせるために拳を思いっきり握った。こんなにも自分は無力なのかと憤慨する。手から血が滴り出そうが、お構いなしに拳を強く握り締めた。
「ご主人様……、行ってくるニャ……」
レデンの頬には冷や汗が流れていた。だが、俺にはその汗を拭く資格すらない。済まないレデンよ。こうでもしなければ……、ヤツを倒すことはできないんだ。裏メイド技しかヤツには通用しない。お前にしか出来ないんだ。俺は……、お前を信じている。信じているぞッ! 
 戦地に向かうレデンは、国の英雄として還ってくる戦士よりも輝いて見えた。
「レデン……」
力強く一歩を踏み出したレデンは、そのまま激戦の最前線へと向かって行った……。

――――――――――☆

 戦闘開始。
「ご主人様、お水をお持ち致しましたニャッ」
元気のいいレデンの声が店内に響いた。
「ふむ、済まな……ッ?」
 ここでクソジジィに異変が発生。その視線の先を辿ると、そこには上半身を必要以上に屈めたレデンの姿。もっと詳しく言うと、レデンの胸部にクソジジィの目が釘付けになっていた。
これぞ、グラスをテーブルに置く際にお客さんに自分の胸の谷間が見えるようにする……、即ち……、裏メイドの極意、初極ッ。
「まずは初極」
レデン達の様子を遠くから見ていた俺は、初極が決まったのが嬉しくつい声が出てしまった。それにしてもクソジジィ……、レデンにはほとんど胸が無いのに反応しやがった……。ちっ……、あのクソジジィ、ロリコンの属性も持っていやがるとは……。
 おっと、まだまだレデンの攻撃は続いているようだ。俺のことはいいから早くレデンにカメラを向けなおせッ。
心に浮かんだカメラをレデンに向けると、甲高い叫びが聞こえてきた。
「って、何で御礼なんて言っているのニャッ!? べ……、別にあなたのためにお水を持って来てあげた訳じゃないんだからニャッ! し……、仕事だからっ、しょうがなくニャァァァ~!」
 突然の思いがけない反応には、どんな男も次のような行動を取るしかないのが世の定めだ。
「す……済まない……」
素直に謝る。これが一番さ。最近はちゃんと謝れないヤツもいるそうだ。そういう奴らって可哀想なんだぜ。だってさ、謝るという行為によってもたらされるM的な快感を得られないんだぜ。可哀想にもほどがあるよな。

「そ……、それじゃあ早く注文するニャッ、まだ決まらないニャッ!?」
 あっ……、レデン達のことを忘れていた。急いで頭の中から出てきた妄想を振り払い、勝負の行方を注意深く見守る。状況は……、悪くは無い。むしろペースはレデンが握っている。これならいけるぞ。
「うっ、済まない。まだ決めておらんわい……」
注文をとるのを焦らすのは中々の策略。焦ることによって心臓の鼓動も早くなり、ある意味の興奮状態を生み出すのさ。
「全く、しょうがないご主人様ニャ……、でもいいニャっ、注文が決まったら呼んでニャ。すぐに駆けつけてあげるニャ」
「うっ、うぅ……、申し訳ない……ハァハァ……」
この絶妙なタイミングでデレが来たら、誰だって堕ちる。恐ろしいまでのツンデレメイドがここにいた。
「では、失礼しますニャ」
「うむ……ぅッ!?」
クソジジィにまたもや異変が発生。その発生原因は……、言うまでもなくレデンだ。では、今クソジジィが喰らった裏メイド技を紹介してやろう。
お客さんの席から離れる際、軽くジャンプ気味にUターンし、スカートがヒラリと舞い上がるようにする。これぞ裏メイドの極意、次極。
 スキを全く与えない怒涛のような攻撃。
「ナイスだ、レデン」
鼻血が止まらない。急いでティッシュを探して鼻に突っ込んだ。
男は誰もが、パンチラという誘惑には勝てないのさ……。

――――――ガシャンッ

「ニャッ!?」
「むっ?」

おぉっとう……、予期せぬアクシデントの発生だぜっ。レデンが回転した際にレデンの尻尾がグラスにぶつかってしまい倒れてしまったじゃないかっ。しかも、こぼれた水がクソジジィの下半身の急所にかかってしまったではないかっ。これは緊急事態だぜっ。
 
「も……、申し訳ございませんニャ、ご主人様ぁ!」
レデンはこの状況をどうすればいいか分からず、ただオロオロしている。あぁ……、レデンっ、見ちゃいられないぜっ。だが……、、ドジなメイドさんというものも中々いいな。 

 クソジジィは濡れてしまったことに初めは動揺していたが、すぐに冷静になった。
「いや、この程度の濡れは何も問題ないわ。気にするでない」
「……にゃぁ~……」
肩を落として落ち込むレデン。しかし、良く考えてみると、これはもしやレデンの作戦では……?
「ご主人様……」
「うむ、どうした?」
レデンが何処からともなく取り出したのは、清潔そうな白いタオル。

「拭かせてもらいますニャっ!」
決意に満ちたレデンの声が店内に響いた後、タオルを握り締めたレデンの手がクソジジィの魔の巣窟に迫った。当然、クソジジィは驚いた。
「い……いやっ! 自分で拭くから気にしなくてよいわい!」
クソジジィは迫り来るレデンの手から自分の聖域を必死で守ろうとしている。レデンよ……、俺様の聖域はいつでも開放しているから、いつでも遊びに来ていいぞ?
しばらく『うぬぬ~』とお互いが唸っていただけだったが、レデンの反撃が始まると形勢に優劣が生じた。
「何を言っているのニャッ! ご主人様に御奉仕するのがメイドの最上の喜びニャッ! 邪魔するニャ~!」
クソジジィはこのレデンの強気の態度に一時ひるんだが、
「じゃあドライヤーで乾かしてくれい! それなら何も問題ないわい!」
「ドライヤー……、了解ニャッ! 今すぐ持ってまいりますニャッ!」

――――――ヒュンッ…………、ヒュンッ

「持ってきたニャ!」
「はやっ……、まぁよい。それで乾かしてくれい」
「了解ニャッ!」
 ドライヤーのスイッチが入れられた。

――――――ブォォォォォ……

「ふむぅぅぅ……、気持ち良いのぉ……」
暖かい熱風が濡れた場所に当たり、クソジジィは何とも言えない心地良い顔をしている。ふっ……、これぞ裏メイド技外伝、ご主人様の身も心も温めますだ。
 おや……? レデンの様子がおかしいぞ?
「は……くしゅんッニャッ」

――――――カポッ

「ノガァァァ~!?」
おぉっ、レデンがくしゃみした反動で、持っていたドライヤーがクソジジィの股間にジャストミートしたぜっ! 正に自然が起こした自然災害だな。
「あぁっ、ごめんなさいニャッ……、でもこっちの方が早く乾くニャッ! ウリャリャ~」

――――――グリグリ……

「ノォォォォ~! こんな……、こんな馬鹿なぁ……!」
両手で頭を抱え込みながら悶絶しているクソジジィの表情は、自分が叫んでいる内容とは全く違う清々しいものだった。あぁ……、俺もされたいぜ。体が入れ替わってしまうというベタなイベントが、何故いま発生しないんだッ!?
「乾いたニャ」
クソジジィの羅生門から、ドライヤーが<カポッ>と外れた。
「うむ、ご苦労だった」
心なしか、クソジジィの顔色は先ほどよりも<キラキラ>と光沢を放っているようだ。何と言うか……、『生きていて良かった』という心の叫びが伝わってくる。
「注文決まったわい。この、“アツアツメイドスープ”をもらえるかな?」
「了解ニャッ!」

注文を取り終え、俺の元に戻ってくるレデンは、まるで地球を隕石から救った宇宙飛行士の様に、何かを成し遂げたようにイキイキとした笑みを浮かべていた……。



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。