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”ツンデ・レデン・刹ッ”の第5幕

第5幕   陰謀



「俺が教えることは、もはや何も無い」

――――――モグモグ……

「あとは、レデンが自分自身の力を信じるだけだ」

――――――ゴックンッ

「了解ニャッ!」

決戦当日。
午前中は本番のためのリハーサルに使ったおかげで、レデンのメイドレベルは最強に近い。隙が無いとは、まさにこの事だろう。

「昼飯を食べ終えたら、すぐに出発だぞ」
「もう食べたニャっ」
「なにっ、俺も急いで食べなければっ」
「ご主人様は何でも遅いニャ~」
「何を言っているんだ。遅い方がいいんだぞっ」
「レデンは早い方がいいニャ~」
「マジでッ!?」

今日も、レデンのおかげで楽しくなりそうだ……。

――――――――――☆

メイド喫茶“テラメイド”。その内なる世界と外とを繋いでいる扉を開ける。

――――――カランコローン

「あっ、和也様っ、お持ちしておりました」
メガネをかけたメイドさんが昨日と同じようにそこにいた。
「……まだオーナーは来ていないのか?」
店内には客は誰もいないようだ。今日は店を休みにしたのだろう。
「はいっ。でも、もうすぐで来られるようです」
メイドさんは異様にニコニコと笑っている。

「……何だか嬉しそうだな」
「えっ、そう見えますか?」
メイドさんはニヤケながら両手で自分の顔に<ペタペタ>と手を当て、自分の表情を確かめだした。だが、すぐにその動作を止めた。
「あっ、この子が私たちの代わりにメイドさんの役を引き受けてくれたんですね?」
 メイドさんがにこやかに見つめた先は俺の横……、で俺の袖を掴みながら立っているレデンだった。レデンの頭には白いネコ耳、お尻には白くて長い尻尾がいつものように生えている。だが、今日のレデンはいつもの短パンにTシャツのようなリフレッシュな姿ではなかった。その身を包む物はメイド服。しかも、俺様特性のネコの風味を優しく閉じ込めたネコバージョンのメイド服ッ。今のレデンの姿を見た者は、“これ以上のネコ耳メイドさんなんてこの世に存在しない”と必ず断言しちしまうぜ?
俺の作ったメイド服のあまりの出来の良さに感心している間、メイドさんがレデンに駆け寄っていた。
「わぁっ、とってもカワイイですっ。コレ…、良かったら食べてね」
レデンの目の前に差し出されたものは、削る前のカツオ節の塊。
「……最高級品よ」

何故、説明を付け足す?

「ご……ご主人様……」
「んっ?」
見ると、レデンの体が<ガタガタブルブル>と震えていた。しかも、手に持ったカツオ節をじ~~~~~っと見つめている。このときは、レデンの体の調子でも悪くなったのかと心配してしまったぞ。だが、そんな心配なんてする価値は無かったな。
レデンが呟く。
「……コレからはカツオ節の匂いがするけど……、でも! でも! これはレデンの知っているカツオ節じゃないニャ! コレは一体何ニャッ!? カツオ節塊伝説?」
意味の分からない言葉を発しているところを見ると、恐らくレデンはカツオ節カルチャーショックに混乱しているようだ。だから俺は、レデンに新たな知識を注入してやることにする。

「いいか、よ~く聞けよ……。レデンの知っているカツオ節は、今レデンが手に持っているものを、うす~~~くした物なんだ」
「な……なんだってニャ~ッ!?」 (レデンの後ろにガーンという文字が浮かび上がる)
 自分の知らない世界の秩序を知り、レデンはその場に手を突きうな垂れてしまった。
「じゃあ、レデンは今までうす~~~くなったカツオ節を食べさせられていたんだニャ?」
「まぁ……、そうだな……」
「レデンはずっと騙されていたんだニャ?」
「いや……、違うと思うぞ」
「ご主人様はこの事を知っていたのに、レデンには秘密にしていたんだニャ?」
「まぁ……、そうだが」
「ご主人様は無知なレデンを見て、“へっへっへっ…、このバカはうす~~~いカツオ節を嬉しそうに食べたやがるぜ、本当にバカだな”とか、思っていたんだニャッ!?」

俺の気のせいだったらいいんだが、どんどん殺気立っていってないか?
とりあえず落ち着かせよう。話はそれからだ。

「ちょっと待て、いいか良く聞け。レデンが持っているそれは、薄くしないと食べられないんだ」
「……本当かニャ?」
疑心暗鬼の目でじっと見つめられた。
「試してみればいい」
俺の言葉を聞いて、しばらく俺とカツオ節を交互に見比べていたレデンだったが、
「試してみるニャ」
そう言って口にカツオ節を咥えた。

――――――ガブリッ! ボリボリボリ……

「美味しいニャァァァ~~~ッッ!」
歓喜の叫び声が店中に響き渡った。
「何でだよっ!? 普通食えねぇだろうがッ!」
「この歯ごたえ! そしてこの香り! 全てにおいて他を超越しているニャ! ご主人様の嘘つきィィッ!」

――――――カランコロ~ン

「レデンが喜んでくれて俺は嬉しいよ。だからさ……、俺の首に突きつけられているお前のこの鋭い爪を早く離してくれないか?」
触られている感覚で分かるんだが、レデンの鋭い爪が俺の首の頚動脈を的確に捉えていた。って言うか、ちょっと刺さっている。
「ご主人様、嘘はよくないニャ。でも、今日のところは許してあげるニャ。コレも全てカツオ節のおかげなのニャ。ご主人様はカツオ節に命を救われたニャ」
レデンが言っていることは理解不能だが、とりあえず目はマジだった。

――――――「おや? お店を間違えてしまったかのぅ?」

突然、老紳士っぽい声が店に広がった。
『え…?』
店内にいたメイドたちが、一斉にその声の主に顔を向けた。俺も見ようとしたが、レデンの爪が首に食い込んでしまったので死ぬかと思った。
まぁ、だからそんな中で一番早く反応してみせたのは、メガネを掛けているあのメイドさんだった。
「オーナー! ようこそいらっしゃいましたっ!」
 元気良く声を出し、急いでその老紳士に駆け寄っていった。俺たちの行動を周りで傍観していたメイドさんたちも、自分達の職務を思い出したのか、メガネを掛けたメイドさんの後に続くように老紳士へと駆け寄って行った。
「はっはっはっ、元気のいいお嬢さんじゃのう」
これはレデンに対して向けられた言葉なのだろうか? 何故なら、俺の首を押さえているレデンの爪が<ピクッ>と動いたからだ。って、ちょっと待て。これ以上深く食い込んできたらマジでヤバイんですけど。
そんなデンジャラスな状況に陥っている俺になんて気が付いていないのか、その老紳士っぽい老人がレデンに近づくのが感覚で分かった。
「ふむ……、いいメイド服じゃのぅ」
何をいきなり言い出すんだこのジィさん?
「おっとっと……」
 突然、レデンの体が跳ね上がったかのような動きを見せた。
「なっ、なっ、なっ……」
俺には分かった。このジィさん……、レデンのお尻を撫でやがったな?
当然のようにレデンは、
「ナニするニャッ~!」

――――――ドゴォォォッ!

という行動を取った。
「はっはっはっ……、これがツンデレというやつかね?」
「いえ、ただオーナーがセクハラジジィなだけです」
「はっはっはっ……、サユリちゃんは冷たいのぉ」

――――――ガシッ!

「おや?」
気が付くと、俺はクソジジィの胸倉を掴んでいた。体が勝手に動いてしまったというのかな。そのまま敵意をむき出しにしてクソジジィを睨みつける。
「てめぇ……」
「なんじゃい若造」
クソジジィも負けじと睨み返してきた。この野郎……、俺でさえまだレデンのお尻に触ったことが無いって言うのに……、許さんッ。
瞬時にクソジジィの特徴をサーチ。服装は黒いスーツに黒いシルクハット。正に老紳士という固有名詞が良く似合う姿だ。だが、体格はヨボヨボ。とっくに定年を過ぎているんだろうな。てめぇみたいなオイボレジィさんには浴衣の方が似合っているぜ。
 情報収集終了。目標は俺より弱いッ!
「レデンの物は俺の物! レデンの体もオレのモノだぁ!!」
体が熱くなってきたッ。うぉぉぉ~っ、秘奥義、右コークスクリューフリッカーパンチッ!!!。
「ふんっ」

――――――ドカッ! ……ピシィ……!

 イヤな音が突き出した拳から聞こえてきた。
「なにっ? 俺のパンチを受け止めただとっ!? どういう体をしているんだこのジジィ! 拳にヒビが入ったぜッ」
「老いたとはいえ、貴様みたいな若造にはまだまだ負けんわい!」
血走ったクソジジィの目が俺を睨んで離さない。
「こうなったらレデン、お前の出番だ! このクソジジィを萌え死させるんだっ!」
「了解ニャ! フーッ!」
レデンもさっきのことでクソジジィに殺意を抱いていたようだ。
「あ……あの……、萌え死させたらダメですからね……?」
サユリと言う名のメガネをかけたメイドさんが何か言ってらぁ……。
「ふんっ、ワシを萌え死させるじゃと? 歯がゆいのぉ……、はっはっはっ……」
ムカツクことを平気で話すこのクソジジィは殺すしかないと思ったが、今はガマンだ。黙って、クソジジィを店の中央に位置するVIP席に案内した。
「うむ、ご苦労さん、ウェイター」
 
――――――プチッ

 あっ、コレは俺の脳内に張り巡らされている血管の内の一本が、ストレスの暴発によってブチ切れたときに発した音だ。ただ今、脳卒中になりかけ5秒前ってところだ。
「(このクソジジィ…!)」
偉そうな態度に最早限界かと思ったが、人間の理性って素晴らしいな。
「……どう致しまして……」
 何とかこらえた。だが、すぐにレデン達のもとに戻らなければ俺が俺じゃなくなりそうだったので、ダッシュで戻った。
「おいっ、サユリさんという名のメイドよ!」
「はっ、はい……」
「話に聞いていたジジィとはちょっと違うようだが、俺様の計画は変更無しだ。黙って見ていてもらおう」
「はっ、はい……、分かりました……」
その言葉を残すと、メイドさんは駆け足でお店の奥の方にあるシャレたドアを開け、そのまま姿を消した。黙って見ていてもいいって言ったのに、どうして出て行ったのかは分からないが、これで邪魔が入ることは無いな。
「おい、クソジジィッ!」
<ビシッ>と、そのまま指の先から光線でも出せそうな勢いでクソジジィを指差した。
「この俺様が育て上げたツンデレ子猫娘のメイドバージョンが、今から貴様に究極の萌えを体感させて、てめぇの人生を壮絶な萌え死で終わらせてやるぜッ!」
俺様の挑戦にクソジジィは、
「ほう、ワシはそれが楽しみで来たんじゃ。まぁ、せいぜい頑張ってみたまえ。はっはっはっはっ……」

――――――「ブチッ」、「ブチィッ」

あっ、今度のコレは俺様とレデンの脳の血管が切れた音だ。
「ご主人様……、今日のレデンは何だか燃えているニャッ」
「ほう、奇遇だな。今日の俺様も最高に萌えているぜっ!」
 初めてレデンと意見が合った様な気がした。

こうして、熾烈な戦いの火蓋が上がったのだった。



そしてここはテラメイドの奥に位置する応接間。暗い部屋でボソボソと小声で呟いているのはメガネを掛けたメイドさん。何と言っているのか聞いてみよう。耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声。
「くっくっくっ……、私の期待を裏切らない何でも屋だわ……。やっぱり彼らを雇って正解だったわ。……くっくっくっ……、ヒャァ~ッハッハッハァ~!」

――――――ガチャ、「何か変な叫び声が……?」

<ビクゥ>とアホみたいに驚くのはメガネを掛けたメイドさん。
「ど、どうかしたの?」
「いえ……、何だかとっても気持ち悪い変な雄たけびが聞こえたような気がして……」
「えっ、私には何も聞こえなかったわよ? そ、それよりもオーナーの様子をしっかりと見守っておいてね」
「はい。サユリさんはどうするんですか?」
「私は……、影から応援することにするわ」
「そうですか、じゃあ私行きますね」
「うん、お願いね」

――――――ガチャリ……

 今入ってきたメイドさんが出て行くと、すぐにまた何かが聞こえてきた。
「私は影から応援しているわ……、ふっふふっ! げほっ、けほっ、オーナー死ね! けほっ……」


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”ツンデ・レデン・刹ッ”の第4幕

第4幕   メイド化計画



「お水をお持ち致しましたニャ~」
「うむ、済まないな」
レデンが俺の前にコップを置く。まるで、メイドさんがお客さんに置くように、忠実に。
「って、言っておきますけどニャッ。べ……、別にお客さんのために持ってきたんじゃニャいんだからニャ! 仕事だからしょうがなくニャッ!」
「あぁ……、分かっているさ」
俺はコップに注がれた水を飲みながら、レデンの様子を伺う。少し赤面しながらも、言われた事を一生懸命に実践してくれるレデンを、心から誇らしく思う。

「よし! 水を持っていく時の特訓はこれで終了だ! 良くがんばったな」
「っ♪ やったニャッ…」
レデンは一瞬だけ嬉しそうにしたが、
「って、ご主人様のためじゃニャいニャ~! レデンはただあの服が着たいだけニャァ~!!」
<ビシッ>とレデンはあるところを指差した。そこには一卓のタンスがこの部屋の住人のように居座っていた。タンスの扉は空いており、その中には一着の服がハンガーで掛けられている。その服とは、俺様自らがデザイン、製作した、ネコのモコモコを忠実に表現したメイド服だ。

「ふ~……、そろそろいいだろう。着ることを許可する」
「やったニャ~ッ!」

<ぴょん>と飛び跳ねて喜びを表現したレデンは、軽い足取りでタンスまで移動し、掛けてあったメイド服を手に取った。
「よし! 早く着替えるんだっ!」
「了解ニャ!」

――――――ザシュッ!

目の前が真っ暗になった。視覚に異常を来たした次は、痛覚に異変が発生。
「うがぁぁぁ~、目がぁぁぁ~~~!」
赤ちゃんだったら確実に泣いてしまうような痛みが目から脳に伝わる。
「美鈴さんに教えてもらった通りニャ。これなら安心ニャッ!」
「おのれ美鈴めぇ~! 俺様の趣味の“覗きが”出来なくなってしまったじゃないか~! あぁっ、音しか聞こえないぜ~! だが、それが逆にイイ!」

目をやられて痛みにもだえ苦しんでいる俺様をよそに、レデンは鼻歌を歌いながら楽しそうに着替えているようだ。

「着替えたニャ、ご主人様」
「早っ。……だが、良く1人で着替えられたなレデン……」
視力が次第に回復していく。そして見えた。
「……どうニャ?」

……言葉が出ないとは、まさにこの事だろう。

ネコ耳+しっぽを付けていたレデンにさらにメイド服が付いた! これほどのものが生み出されてしまうとは……、生きていて良かった。

「よし! なかなかのメイドさんだぞっ! これほどのメイドさんは滅多にいないぜっ」
「ほ……本当かニャッ!? じゃあ早速。美鈴さんに見せに行くニャッ!」
 予期せぬイベントが発生ッ。
「待たんかい! そんなことをしたら……」

――――――ガチャリッ

「レデンちゃん。お好み焼きを作ったんだけど、食べる……」

突然の訪問者。そいつは俺の妹の美鈴。何の前触れも無くまた登場してしまったぞ。それにしてもなに勝手にドアを開けているんだよコイツは!
 俺はこの家の大黒柱。不法侵入者は排除しなければいけない。だから俺は美鈴を追い出そうと、以下のようなことを叫びながら玄関まで走っていった。
「不法侵入だぞ、美鈴! さっさと出てい……」

――――――ボシュァッ!

「ぎゃぁぁぁ~! 顔がぁ!」
カウンターでお好み焼きクラッシュを喰らっていた。
「ニャァァァ~! ご主人様の顔に大事なカツオ節がぁ!」
「レデン~、大事なご主人様に、だろうがぁ!」
「黙れニャ~!」

――――――ザシュシュッ!……ボトボトボト……

嫌な音が床に落ちた。
「あぁ! 俺様の顔……に付いていたお好み焼きが!」
「美味しいニャ~」
レデンはさっきまでお好み焼きが乗っていた皿を美鈴から受け取って、切り刻まれたお好み焼きのパーツをうまくキャッチしていた。
「美味しいか。それは良かったな」
見ると、忙しなくお好み焼きを食べているレデンの口元には、ソースがこびり付いていていた。
「まったく……、もうちょっとゆっくり食べられないのか?」
 俺は口元を拭いてやろう思い、ティッシュを探そうとリビングへと振り返ろうとしたが、
「バカ兄貴……」
「ん?」
 美鈴が俺の肩を掴んだ。

――――――「レデンちゃんに変なことをさせるなって言ったでしょうがぁぁぁ~!」

その掛け声と共に、俺は美鈴に一本背負いで<ビューンッ>と軽快な音を響かせながら外まで飛ばされて、そのまま空中へダイブしそうになったが……、俺様の生(性)への執着心を舐めるなッ!

――――――ガシッ!

空中へと身を乗り出しながらも、何とか手すりに掴まることが出来た。
「ふっ~、危なかった……」
この手すりがもし存在していなかったら、ビル4階分の高さから地上へと一直線に落下する小旅行を体験してしまうところだった。

――――――ガシッ!

「ん?」
手すりを掴んでいた手に、何故か靴が乗っていた。

――――――グリグリグリ……

 それは美鈴の足と俺の手との摩擦によって生まれた不協和音。コレやばくないか?
「殺す気か美鈴ぅッ~!!」
 だが、美鈴は鬼だった。

――――――グリグリゴリゴリゴキゴキボキボキ……

 何だかいろんなものが折れたような感じがする。あえて言うなら『身も心も折れた』。
「美鈴ぅぅぅ~~ッッ、すいませんでしたぁっ~~、許してくれぇぇッ!」
このままでは本当に落ちてしまうので、必死の命乞いに挑んだ。誰だって自分の命が大事だろ。
 だが、美鈴は鬼だった。
「バカ兄貴……、私は今日の朝、ちゃんと言ったよね……」
俺は上を覗いてみたんだ……。そして確信した。俺を見下ろしていた美鈴の目には、一切の迷いが無かった事を……。(パンツを見ようとしたんだが、見えなかったぜっ!)

この世で最後になるかもしれない声が聞こえた。
「レデンちゃんに変なことをさせたら……、殺すって……」
美鈴の足にさらに力が入った。
あっ……、俺死んだかも……。
だがそのときっ、

――――――ガバッ

「待ってニャッ、美鈴さん!」
レデンの声が聞こえたんだ。
「離しなさいレデンちゃん! この男は……、ここで殺しておかなければいけない男なのよっ」
「そんなのは分かっているニャッ! でも! こんなのでも……、レデンの命の恩人ニャ!」
 レデンの悲痛な訴えが、何でこんなにも心に染みるのだろうか。いや……、心が痛い。

「レデンちゃん……」
美鈴の足から、力が少しだけ抜けたのが分かった。 

「それにニャ! この服はレデンが着たいから着ただけニャッ。明日……、レデンはこの服を着て人を救うのニャ! こんなレデンでも……、人を救うことが出来るのニャ!」

ここからレデンの顔を見ることは出来ないが、きっと決意に満ちた表情をしているのだろうな。これまでの日々の調教の賜物だな。
「バカ兄貴……」
「ん?」

――――――グンッ

「うおっ?」
美鈴は俺の腕を掴むと一気に引き上げた。相変わらずのすげぇ力だ。
「今回はレデンちゃんの顔に免じて許してあげるけど、次も同じようなことをレデンちゃんにさせたら……、分かっているわね?」
<グググッ>と握り締めた拳が俺の額に突きつけられた。
「……了解した」
 この後に、『何でお前が俺に命令するんだよ、このクソアマッ』と付け足したかった。だが、そんなことを言った日には俺の死体が何処かの湾に浮いていること間違いないな。
だがまぁ……、これで明日は何とかなりそうだ。無駄に疲れたぞ。
溜息を付く。そのとき、<ピーンっ>と一つの名案が浮かんだ。俺って何て素晴らしい策士なんだろうかと褒めたくなるぐらいの名案だ。すぐに言わなければっ。

「おい美鈴っ。美鈴も明日、メイド服を着て一緒に……」

――――――ドゴ~ンッ!


”ツンデ・レデン・刹ッ”の第3幕

第3幕   複雑な心



ここはメイド喫茶。ここは天国。
「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ~~」
ハッハッハッハァァァッッ~! メイドさん……、ハァハァ……! ゴクリッ!
「いや、俺は客じゃないぞ」
平静を装っている俺様だが、目の前にいる生メイドさんに興奮して、全身から血が噴出さないようにこらえるので精一杯だぜッ!
「あはっ、お待ちしておりました。何でも屋の和也様ですねっ?」
メガネが良く似合うメイドさんが健やかに笑った。ぐふっ…、メガネ好きなら一発でKOだな。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
メイドさんが向こうを指さすと、そこにはちょっとシャレたドアが立っていた。
え? どんなドアだって? それはご想像にお任せする。 
「よしっ、行くぞレデン」
俺は付いていこうと一歩踏み出そうとしたが、

――――――ギュムッ

レデンに後ろから服を引っ張られて止められてしまった。
「……どうしたレデン?」
挙動不審なレデン。周りをキョロキョロギョロギョロ見ようと首を忙しなく動かしている。
「ご……ご主人様、ここは一体どこなのニャッ!?」
レデンの手は震えていたが、その目は働くメイドさん達に釘付けだ。
「ここか? ここはだなぁ……」
「ここはメイド喫茶“テラメイド”ですっ!」
俺の代わりにメガネのメイドさんが答えてくれた。
「な、何でそんな服を着ているニャッ?」
そう言いながら、レデンはメガネのメイドさんが着ている服を指差した。なるほど……、レデンはさっきからこのメイド服が気になって気になってしょうがないのか。可愛いやつめっ!
 レデンに指差されたメイドさんは、両手を自分に向けて<グッ>と胸の前で握り締めてから口を開いた。
「いいですか? 良く聞いてくださいネコさん」
「了解ニャッ」
<スー>と息を吸い込むメイドさん。そして言葉を放つ。
「この服無しでは、決してメイドさんには成れないからですっ! この服無しにメイドさんなんてありえませんよっ!」
力説どうもありがとう。
「ニャニャ~! メイドさんってすごいニャ~!」
何がだよっ?
「そろそろ案内してくれないか……」
このままメイドについて語り合うのもいいが、仕事は仕事だ。
「あっ、すいません! 私ってメイドの事になるとツイ我を忘れちゃうんですよッ。てへっ、こちらへどうぞ~」

――――――――――☆

案内された部屋には、木造の立派なテーブルと大きな黒いソファーが置いてあった。
「どうぞこちらへ座ってください」
 突然、俺の横から何かが飛び出した。
「フニョフニョするニャッ~! 気持ちいニャ~」
砂浜でフラッグ先取り競争する暑くるしい男達のように、レデンがソファーに飛び込んでいた。いつもなら叱るところだが、まぁ無視だな。
「で、仕事の内容なんだが」
「気持ちよすぎるニャッ~! これほしいニャ! ほしいニャァァ~~! 買えよ、ご主人様ぁぁぁ~!」
「はい……、今回の依頼は、この店のオーナーの“萌えレジスタンス”に関してお願いなんですっ!」
「ほう……、聞こうか……」
「買って買って買って買ってニャ~! スキありニャァ!」

――――――ブシュァァッ!

「私たちはオーナーに言ったんです。“今の激動の時代、このままのスタイルでは他のメイド喫茶に後れを取ってしまいます。正統なメイドも大切ですが、時代の流れを取り入れるのも大事なんです。ですから、ネコ耳付きメイドさんやツンデレメイドさんの正式導入を認めてください”って。そう言ったらオーナーは何て答えたと思いますかっ!?……頬から血が滴り落ちていますよッ?」
「確かに……、今の時代、正統メイドだけでは生き延びるのは厳しいかもしれねぇな。……あぁ……、これは気にしないでくれ。じゃれているだけだ」
「ニャッ!? この匂いは……、カツオ節ニャァァァ~~~! どこニャッ!? 出てくるニャッ~!」

レデンは五月蝿くそう叫びながら、キッチンらしき方へ神風の如く飛んで行った。
話は続く。

「さっきの提案に対して、オーナーはこうおっしゃいました。“時代の流れか……、そんなものは必要ない。よいか、良く聞きなさい。ワシの時代は本当に物が無くてひもじかった……。だから、メイドさんを雇っていたお金持ちの友達の家に遊びに行った時は衝撃が走ったよ。まさに、”メイドさん萌えぇ~!”じゃった……。今のメイドさんでさえワシにとって贅沢なのに、それにさらにネコ耳やツンデレじゃとっ!? ワシは萌えすぎて死んでしまうわいっ!“ と……」
話し終えたメイドさんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「……で、結局、俺は何をすればいいんだ?」
「ぐすっ、は……はい! それで私たちが、ネコ耳付きやツンデレのメイドさんを実践して、オーナーには萌えに対する抵抗力をつけてもらおうとしたのですが…」
「……ですが?」
メイドさんの表情がより一層険しくなった。
「私たちではレベルが高すぎて、オーナーが萌え死する可能性が出てきてしまったんですよっ!」
「……何だって?」
あまりの話の内容に、つい聞き返してしまった。
「ですから、オーナーが死んじゃうんですよッ。それを防ぐために、萌えのエキスパートである和也様には、オーナーに適度なツンデレ子猫娘のメイドさんを用意してもらいたいのですッ!」

言い切った。こいつは言い切った。ここまで言い切れるヤツはざらにはいねぇ。

――――――「カツオ節ゲットニャ~! メイドさんからもらったニャ~」
 
 子供がお母さんに買ってほしいお菓子を買ってもらえた時のような笑みを浮かべながら、戦利品をゲットして戻ってきたレデンの口の中は、<モッシャモッシャ>とカツオ節で埋め尽くされていた。
「タイミング良く帰ってきたな」
もうすでに、俺様の頭の中ではこの仕事に対する計画はまとまった。
「ニャッ!? ご主人様にレデンのカツオ節が狙われているニャッ! 先手必勝ニャッ」

――――――ザシュッ!

「よしっ! この仕事引き受けた! 仕事料金は成功した時のみで結構だ」
「あっ、ありがとうございます! って、大丈夫ですかッ!?」
「ツンデレ子猫娘のメイドには、このレデンになってもらう。心配することは無い。うまくやる。任せてくれ」
「いやそうじゃなくて……、頭から血がッ」
「そうだな。明日の13時、オーナーをここへ呼び寄せろ。オーナーの萌えレジスタンスを一気に上げてやるぜッ!」

よしっ! 何だか燃えてきたッ! いや、萌えてきたッ!!

「あ、あのっ、メイド服はどうされますか……?」
 メガネをかけたメイドさんは、自分の着ている服の胸元の生地を引っ張りながら答えた。一瞬というか、かなりその手元に視線を奪われたが、俺の萌えレジスタンスを舐めるなッ。
「いや結構! すでに俺の家にはある! 言っておくが、明日は俺の好きなようにさせてもらうからな。じゃあ帰るぞ、レデン! 今から特訓だ!」
「了解ニャ~! カツオ節ありがとニャ~、さいニャら~」
「はっ、はい! 明日はどうかよろしくお願いします」
そして俺達は、夢や勇気や希望を抱きながら、メイド喫茶“テラメイド”を後にした。

――――――――――☆

「カツオ節~♪ モッシャモッシャで美味しいニャ~♪ シに打点を付けたらいけないニャ~♪」

俺が教えた“カツオ節の歌”を、カツオ節を食べながら熱唱しているレデンの歌声をBGMに、俺は今日、レデンにどんなメイドテクニックを仕込むか考えていた。

ふっふっふっ……、明日が楽しみだ。
適度な萌えだと? くっくっくっ……、そんな物……、この世に存在してはいけないぜ!
やるなら……、徹底敵にだ! 俺様にこんな仕事を依頼したことを、ものすご~~~~~く後悔させてやるぜっ!

「だぁ~はっはっはっはっは~~~!」

「何だか楽しそうなのニャ~! ニャ~っはっはっはっニャ~~~!」

俺たちの笑い声は、どこまでもどこまでも響いていった……。



「(問題があるとすれば、美鈴をどうするかだな……)」









”ツンデ・レデン・刹ッ”の第2幕


第2幕   兄と妹



 朝の朝食ほど大事なものは無いな。
「いただきますニャ~」
「おう、頂け頂け!」
テーブルの上には、こんがり焼いたトーストと、芸術としか言いようがない焼加減のベーコンエッグと、俺特製のホットミルクが並べてある。
「ホットミルクは熱いから、ちゃんと冷ましてから飲むんだぞ?」
「了解ニャ~、熱ゥゥゥ~~~ッッ!」
「言っているそばからッ!?」
俺はミルクで汚れてしまったレデンの顔を拭いてあげようと、急いでタオルを持ってきた。
「ほら、ジッとしていろ」
「じ……自分でやるニャ! 貸せニャ!」
「まだタオルの使い方は教えてないからダメだ」
「そんニャ~……」
ちょっとだけ残念そうに俯いたが、すぐに顔を上げて
「拭いてニャ~」
「よしよし」
目を閉じているレデンの顔を拭こうとタオルを近づけた。この瞬間、
「(うっ……)」
レデンの無垢な表情は、ときに俺様を混沌の渦に巻き込むのだ。
「(いやいや……、何を考えているんだ俺は……)」
邪念をブラックホールに振り払い、優しく優しく、レデンの顔を拭こうとする。……しかしそこにっ、

――――――ガチャッ

玄関のドアが開いた。
「おはようバカ兄貴~、って何してるんだよっ!?」
「へっ?」

――――――ゴシュッ

「ぐはぁぁぁ~!」
説明しよう。まず、今俺は飛び膝蹴りを喰らって痛みに悶絶している状態だ。とっても痛いぜ。そして、俺が床で転げまわっている間に、俺にダメージを与えた犯人はレデンに何か話しかけているみたいだぜっ!
「レデンちゃん? このバカ兄貴に何か、いやらしい事をされなかった?」
そいつはレデンの顔をタオルで拭きながら問いかけている。
「レデン、よく分からなかったニャ~……」
おいおい……、誤解を招くような発言をするな……、と言おうとしたがすでに遅かった。
「ふっ……! 殺すッ!!」
俺に止めを刺すつもりなのか、そいつは高々に舞い上がった。

――――――ドコォッ!

「ちっ、逃げたか」
ジャンピングかかと落とし改から逃げた俺は急いで立ち上がり、さっきまで自分が倒れていた場所を見た。
「……殺す気か?」
あまりの衝撃に床板がへこんでいた。
「レデンちゃん、美味しいお魚を焼いているんだけど、家に食べに来る?」
「行くニャ~ッ!!」
レデンが誘惑に負けてそいつに抱きついた。
「こらっ、レデンは俺のモノだぞっ! それにレデン! まだトーストとベーコンエッグが残っているぞっ」
「ご主人様のモノより、美鈴さんのモノが食べたいニャ~」
レデンのノドからは、ゴロゴロとネコ特有の音が聞こえてくる。。
「こんなバカ兄貴のところで生活していたら体を壊しちゃうよ。レデンちゃんおいで~」
「了解ニャ~」

――――――バタンッ

ドアが閉まる。
「けぇっけぇっけぇっ……、美鈴ゥゥゥ~! 俺は怒ったぞっ!」
我が妹ながら、もはや許すことはできねぇッ!
俺はドアを開けて外に出て、隣の部屋に住んでいる美鈴の家のドアノブに手をかけた。っと、その時、ドアの中から楽しそうな声が聞こえてきた。

――――――「ニャはは~、このお魚とっても美味しいニャ~」
――――――「そうでしょ? レデンちゃんは育ち盛りなんだからウンと食べないとね」
――――――「レデン……、美鈴さんの家の子になろっかニャ~」
――――――「そうしなさいよ、あんなバカ兄貴なんかほっといてさ~」
――――――「ニャはは~」「あはは~」

「レデン……」
ドアノブを掴んでいた俺の手に力が入らなり、どうしようもない感情が襲い掛かってきた。それで俺は以下のように思ってしまったんだ。
そうなのか……、もう……、お前は俺を必要としていないのか。俺はもう……、お前のご主人様にはなれないのか。俺は……、このまま姿を消したほうがいいのだろうか……。それが……、レデンのためになるのなら……、ってそんなことを考える俺様ではないわぁぁッ~~!

――――――ガチャッ!

 勢い良くドアを開け、そしてそのまま叫んだ。
「おいゴラァ~! 何さらしとんじゃい美鈴~ッ!」
俺様の怒号が響く。だが、そんな中で信じられない光景を見たんだ。

「あっ、やっと来たわねバカ兄貴。さっさと座りなよ」
「ご主人様! ここっ! ここっ!」

テーブルの上にはレデンと美鈴、そして……、俺の分と思われる朝食が用意されていた。
「お前たちィッ……<ぶわぁぁぁ>」
勢い良く登場したつもりだったが、ものすごいカウンターパンチを喰らってしまった。
「お……俺を許してくれぇ……<ぶわぁぁぁ>」
涙腺が爆発するのを必死に抑えながら、俺はやっとのことで椅子に座ることが出来た。

「い……言っとくけどねっ、レデンちゃんにいっぱい食べさせようと思ったら、ちょっと余分に作りすぎちゃっただけなんだからねっ!」(美鈴)
「か……勘違いしないでよねっ!」(レデン)
久しぶりにうまい飯を食べたような気がした。

――――――――――☆

「じゃあ、私は会社に行ってくるからね」
美鈴は社会人だ。俗にいうOLだ。何故そんなつまらん職業に美鈴は就いたのだろうか……。殺し屋のほうが向いているのにな。
「おう、行ってこい」
「いってらっしゃいませニャ~!」
俺達の声を背に、美鈴はそのまま会社に向かうのかと思っていたが、
「あっ、一言、言っておくけどねバカ兄貴~」
こっちに振り返った。
「おうっ、何だ」
「レデンちゃんに変なことをさせたら殺すからね」
目がマジだった。
「お……おう……、任せろ」
そうして、破壊の権化かもしれない美鈴は階段を降りていった。

「お腹いっぱいニャ~」
レデンは顔を舐めている。食後の習慣らしい。しばらくそのままでいると、レデンが話しかけてきた。
「ご主人様……、今日は何を教えてくれるのニャ?」
見ると、俺を見つめるレデンの瞳にはキラキラとした期待の意が込められていた。
「今日は……」
そうだな、今日は何を教えようかな……。
昨日は萌え声を出させるために、“ときどきエロリアル”のヒロインのセリフを発声練習と称して言わせたからなぁ……。いやぁ……、アレはよかったぜ……。
「ご主人様……?」
はっ! イカンイカン! つい妄想の世界に飛び立とうとしてしまったぜ。
「今日はだな……」

――――――モエ~、モエ~

「むっ、電話だ」
いきなりの電話。
「仕事の依頼かニャ?」
「さあな」
適当に相槌を打ちつつ、携帯を耳に当てる。
「もしもし?」

――――――ガヤガヤガヤ……

「何だ?」
向こう側がかなり騒がしい。耳が悪くなりそうだ。そんなことを気にしていると、唐突に女性の甲高い声が聞こえてきた。
「あっ、あの! “ヲタク専門の何でも屋”の“和也”さんですかっ?」

さぁ……、仕事だ。



(設定)
新谷 和也:本編の小説の約5年後の和也。年は19歳。ヲタク専門の何でも屋。
レデン:猫に育てられた少女。年は14歳。ツンデレ子猫娘。
新谷 美鈴:和也の妹。年は18歳。超ツンデレ。社会人。

(構成)
和也はマンションに住んでいる。一ヶ月前、山にマツタケを探しに行ったときに傷ついたレデンを発見する。和也はレデンを保護し、自分の家で世話を見てやることにした。そのことを親に話したら、美鈴が急いで和也の部屋の隣に引っ越してきた。



”ツンデ・レデン・刹ッ”の第1幕

redennnn


第1幕   出会いと挨拶



「にゃぁ~、にゃぁ~……」

冷たい……水……当たる……体……痛い……お母さん……いない……どこ?
……寂しい……寂しい…1人は……嫌……嫌……嫌……。

――――――ガサッ

<ビクゥ!>
体が震えた。何か音がした。目を開けないと。逃げないと。お母さんを助けないと。動きたい。動きたい。動け動け。嫌……嫌……お母さん……逢いたい……逢いたい……。

――――――ガサガサッ、ガササッ

音……近づいている……怖い……怖い……お母さん……お母さん……お母さん……!

――――――「……えっ!?」

声……聞こえた……私と……同じ声……お母さんとは……違う……声……。

――――――「なんでこんなところに女の子が?」

私の……後ろ……いやな声……。
私の……前……良い……声……。

――――――「なんか良く分かんねぇが、困っているやつは見捨てられねぇな」

声……近づく……私の……体……動いた……浮いた……暖かい……これ……あたたかい……水……もう……冷たくない……暖かい……お母さん……逢いたい……。




「お母さん~!」
「逢いたいニャッ~!」
「カツオ節ニャッッ~~~!!!」

「うっさいわ、ボケェ~~~!」

――――――ポグッ!

「ニャピィ~~~!? グゥ~~~」
枕を投げてあげたら寝てくれました。
「この寝ぼすけは……、今良いところだったってのによっ」
俺の目に映る画面には、人気急上昇中“ツンデレアタックNO1”のオープニングが流れていた。
「ふぅ~、しかし、さすがの俺様も眠たいぜ」
現在、真夜中の3時。いつもそんな極限状態で睡魔と萌魔の対決が始まる。だが、こんな勝負は俺様に取っちゃ朝飯前だッ!
床に敷いてある布団の上には、“ツンデレアタックNO1”のエース(ツン子)のデザインが描かれた抱き枕が置いてある。俺はそんなツン子が待っている布団へと大ジャンプッ! そして無事に着床。
「ツン子……、勝負の続きは夢の中でだ……、おやすみ……」
尖った瞳を持つツン子を俺の胸に優しく引き寄せる。あぁ……、幸せってこういうことを言うんだぜ?
おっと……、一応コイツにも言っておくか。
「レデン……、おやすみ……」
「グゥ~~~」
可愛らしい寝息が聞こえた。



――――――ボグゥゥゥ!

「はぐわぁ!」
何だ!? 踏まれたのか? ぶっちゃけ痛気持ち悪い。

――――――タッタッタッ……

足跡が遠ざかって行く。 

――――――キュッキュッ

蛇口が開けられる音だ。

――――――バシャバシャバシャァァァ

顔を洗っているのだろうか?

――――――バシャバシャバシャシャシャニャニャニャニャニャァァァ~~~

「ツブハァァッ!?」
ここで俺は息を吹き出してしまった。
「げほっ、ごほっ?」
何だ!? 後半部の音がおかしいぞ。

俺は抱いていたツン子を優しくどかし、急いで洗面台まで走った。
「って、なにしとんじゃい!」
「ニャ?」
そこは洗面台がある場所。だが……、一面水浸し! 
「早く止めろ!」
「嫌ニャ~!」
「レデン! 止めなさいっ!」
「嫌ニャ~!」

俺は攻撃してくるレデンの攻撃に耐えながら、やっとのことで蛇口の封印に成功した。おかげで手がものすげぇ痛い。この痛々しい手をレデンに見せつける。
「見ろッ。俺の手が爪痕だらけじゃないかっ!」
「水~~~……」
悪いことをしたとは全然思っていないらしい。カリカリと蛇口を爪で掻いでいる。そんなレデンを見ていると、何だかマイナスエネルギーが溜まってくるぜッ!
だから、口調が激しくなってもしょうがないのさ。
「水はコップに入れて飲むものなんだよっ、この前教えただろうがっ!」
「ここに溜めたほうが飲みやすいニャッ」
そう言うと、レデンはペロペロと洗面台に溜まっている水を舐めだした。
「あぁ~もう! こっちに来いやぁ!」
「まだ飲んでないニャ~」
ズルズルとレデンを引きずって洗面台を後にした。
引きずっている間もレデンに手を引っかかれて、キレかけたことは言うまでも無い。

「ここに座りなさい」
「ニャ~」
部屋まで精神を削りながらやっとのことで引きずって連れてきたレデンを、座布団に強引に座らせた。
「って、猫座りするなっ。ちゃんと人間らしくこう座れッ!」
俺は見本として、股を広げてお尻を落として座る“女の子座り”を教えようと、男にはやりづらい女の子座りを実践して見せた。
そんな俺の様子を見たレデンは、
「こうかニャ?」
見よう見まねで同じポーズをとった。股を広げてお尻を座布団にペタンと簡単につける。だが……、どういうワケか苦しそうだ。
「むぐぐぐぐ~……」
 顔が赤くなっていっている。どこか痛いのか?
「……レデン……、何でそんなに苦しそうなんだ……」
くっ……、この座り方は俺にもキツイぜ。
「ニャっ?」
疑問系のアクセントで答えたレデンの顔色を見ると、いつのまにか元の晴れ晴れとしたものに戻っていた。
「だって、ご主人様がこんな顔をしているからレデンも一緒なことをしたんだニャ」
なるほど……、確かに今の俺は苦痛に顔を歪めているに違いない。
「顔は気にしなくていいぞ……」
「分かったニャっ」
レデンの表情が笑顔に変わる。それと同時に動くもの。それはレデンの頭に何故か付いているネコっぽい白い耳と、お尻に付いている白く長い尻尾。耳は楽しそうに<フルフル>と振るえ、尻尾は嬉しそうにと床を叩き、リズムカルに<パタパタ>と音を出している。
 そんなネコ耳子猫娘のレデンとの朝の挨拶。

「おはようございますニャ、ご主人様っ」
「あぁ……、おはよう……」
「水くれニャ、ご主人様ッ!」
レデンが家に来てから……、一体何回目の朝の挨拶だろうか。



(作者の一言)
レデン…ツンデレを逆から読むと、レデンツ。僕は3文字の名前が好きなので”ツ”は、いらない~。だから、レデンなのさ~。



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